「矮小な遺伝子の最後の一匹。己が天涯孤独であると理解もせぬ無様な【ヒト】よ。我が軍勢の前に圧死するがよい!」
天空を覆うほどの巨体を持つ龍の腹から、角質が剥がれ落ちるようにそいつらは生み出されていく。
赤、青、緑、黄、黒、白、それに氷や岩を纏った……通常サイズの【ドラゴン】が、十を、百を超え、大量に産まれ落ちていく。
白いのには心当たりがあった。
白龍アザブランシュ、その姿と酷似している。
そうか、アレはお前が産み出した眷属だったか。
「繁殖できなかったんじゃねぇのかよ?」
「これは我が生命を斬り分けているに過ぎない。が、この黒雪のお陰でその性能も強化はされておる」
単為生殖……ってよりは、もっと主従関係がハッキリした眷属を生み出す力か。
分体に増殖能力がないなら、繁殖機能とは言えないってことなんだろ。
「我は知っているぞ。貴様が我が眷属一体を滅ぼすのに己が命を捧げたことを。努力をしたのだろう……研鑽を積んだのだろう……技を会得したのだろう……」
巨龍は俺に語りかけてくる。
己が優位を確信した絶対的な声色で。
「だからなんなのだ? その矮小な身体で何ができる? 才能が違うのだ。生まれ持った格が違うのだ」
魔力量……生まれながらに備えるそれは、身体能力であり、種の基準だ。
俺が人である限り、その量は微量に増減することはあっても、龍やエルフには到達しない。
俺が最初の迷宮を突破するのに最も困った要素だ。
ソウガから会得した【
「たしかにな。じゃあまずはそれから解決するか」
このホムンクルスの肉体は優秀ではあるが、やはりその性能は『人間』の範疇を超えない。
だが、俺は知っている。人にとって真に重視されるべきは器ではない。
俺の魂がここにあるなら、器の形などさして重要なものではない。
行くぞ、ヨスナ……
この星に最初に生まれ、最も多くの進化を繰り返した。
最適種。史上最強種。魔力の王。
「
その名を
そしてヨスナが産み出したこの世界に類を見ない新種は、人の身体性能と龍の魔力量を併せ持つ。
+【人化の法】。
「第三段階――【
背の黒い翼。額の蒼い角。身体の所々に現れる黒い鱗。
ちょっと邪魔くせぇが、戦闘に支障はない。
ヨスナの動きを思い出せば、この特徴の使い方もイメージできる。
「ソレは……あの女の……」
少し震えたその声に、俺は笑いを堪えられない。
「なんだ? 殺されかけた時の記憶でも蘇ったのかァ?」
ラスボスがビビってんじゃねぇよ。
まさか、あいつらより弱いなんてことねぇだろうな?
「臆すなよアザトゥルム、それでもあの人間たちも余とお前には勝らなかった。それにこの人間の力があの女共と同じ領域にあるとは限らない」
「あぁ、そうだなディストヴィア」
「――ゴチャゴチャとくっ
剣を呼び、脳を回す。
「神剣召喚【龍魔断概】。【
そして――
ヤミ、俺はお前の声を憶えている。
「我が胸に宿るは
「術式の完全詠唱だって……?」
まだだ――
ネオン、お前の光ならこの曇天も晴らせるだろ?
「聖剣完了――」
俺は一度でも戦ったことのある相手となら、頭の中で何度でも再戦できる。
そして、俺は冥奥【
龍の莫大な魔力。完全詠唱による術式の効率化。何よりも最初の迷宮で過ごした長い時。
これだけオプションを重ねれば、あの一撃ですら再現できる。
「
あの時ネオンが放った最大の一撃に負けずとも劣らない白い光の奔流は、空を裂く。
雲を掻き分け、青空を覗かせ、黒い雪は雨露へ変わる。
巻き込まれたザコ龍共はその一片を残すこともなく消失し、回避を試みた巨龍はその巨体故に避ける暇もなく、二つへ分かれた。
「愚かな、この星の支配権はアポルの物よ。刹那の快晴に意味などなく、我が身体にこの程度の一撃は無意味」
巻き戻るように曇天が空を覆う。
システム・RE・ユニバースによる環境操作。
気象すらも女神の思うがままか。
「我はその一撃を知っている。その一撃を撃てば魔力が尽きることもな。開幕からの全力、その一撃にすべてを懸けたというわけだ。人間にしては上出来な戦術なのではないか?」
二つに裂けた巨龍の身体が、スライムのように再生し、くっついていく。
「我が肉体は無傷。これで貴様の魔力はゼロ。終わりだ」
「おいおいこんなの挨拶代わりの一発だぜ。これで終わるわけねぇだろ」
龍の身体の優位性は魔力総量だけじゃない。
その回復速度に関しても人間とは雲泥の差がある。
そして、
「魔力を寄越せ、悪魔共」
ヤミがやっていた使役していた悪魔との魔力共有技術も俺は体得している。
魔界では魔力は無限に湧いてくる。
この技術は悪魔という鍵を使い、魔界の魔力を取り込む力だ。
「もう俺に魔力切れはねぇ。魔力補完は完全だ」
まぁそれはお前らも同じだろ、窮王種。
龍すら軽く超越する圧倒的な魔力の塊。
それに真向から挑めば、物量差で圧し負けるのは明白。
武術も知らず、魔術も遊び程度。
そんな努力も知らない才能だけの【ナイアセラム】にすら、俺は引き分けで終わったんだ。
こいつらはナメてかかれる相手じゃねぇ。
紫熱連環を解除。
身体強化最大【蒼炎燃身】――起動。
俺の身体の内で蒼い炎が燃え上がり、細胞機能を加速させると同時に黒い雪を身体に触れる前に蒸発させる。
「さぁ、挨拶は終わりだ。本番を始めようぜ」
「調子に乗るなよ、人間風情が!」
「おい、化けの皮が剥がれてるぞ?」
「神威解放――」
あれは、ナイアセラムも使っていた窮王種の本気。
ナイアセラムの場合は大きく肉体の構造が変化したが……こいつは違う。
この島を飲み込むことすら可能と思わせるような大きな口が開かれる。
龍ってかクジラだな。
その巨大な口の中に大量の魔力が集約していく。
それは天地開闢の光。それは龍が龍たる証明。
この世界の何にも勝る、エネルギーの放出。
「ブレスか……」
この世に存在するどんな絶景よりも幻想的なその光景を前に、俺の口角は自然と上がる。
この一撃に込められた魔力量はナイアセラムの最後の一撃を凌ぐ。大地を穿てば島ごと消え去るような、そんな一撃だ。
「我が最強の一撃に逃げ場はないぞ」
「逃げる? 俺の辞書にそんな言葉は必要ねぇな」
いつも通り、俺は俺より強い何かに挑む。
それが俺にとっての普通だ。
エルフ、獣人、龍、勇者、魔女、王族、魔王、剣聖、邪神……善悪も美醜も敵味方も関係ない。
問題はただ〝お前が俺より強いかどうか〟。
「龍突+龍拳+心羅+龍艇指電+蒼炎龍咆+」
貫通性の魔力の流れに蒼炎と雷を混ぜ、混ぜ、混ぜ、混ぜ、混ぜ……そして……
「【
回す。
「貴様、それは我が同胞の!」
「最低ランクの魔術に誰のもクソもあるか。つーか、人類滅ぼしたクセに同胞なんざをキレる理由にしてんじゃねぇよ」
基礎術式だからこそ、その出力は使用者の技量によって大きく左右する。
ナイアセラムとの戦いは俺に多くを学ばせてくれた。
「逝ね!」
「行くぜ」
炎を、雷を、俺の魔力を、指先程度の球体状へと押し込める。
右腕を伸ばし、親指を立て、術式を挟んで人差し指をアザトゥルムの口へ向ける。
あの時、俺を殺したナイアセラムと同じように。
「――
引き金を引く――
「――
極彩色の極大ブレスと相対するは、糸のように細い俺の蒼い一条。
エネルギーの総量で言えばヤツの方が遥かに上。
だが、そのエネルギーの多くは拡散している。
密度を一条に凝縮させた俺の一撃は、そのブレスを容易く貫く。
その一撃は
空まで連ねるその特性故に、この一撃は〝蒼羅〟を冠す。
「何……」
俺の一撃に貫かれたブレスは魔力の指向性やバランスを崩し、下ではなく周囲の大気へと拡散していく。
いくつもの竜巻とプラズマを発生させながらブレスの威力は死んでいく。
俺の一撃はヤツの口から侵入し、頭蓋を抜ける。そのまま真っ直ぐ線を描いて雲の上まで昇っていった。
余剰魔力の拡散はほとんどない。故に雲を晴らすことも、アザトゥルムの多くを傷つけることもない。
もしもあの一撃に意志があったならば、その願いは誰よりも高い場所へ行くことだったのだろう。
「理屈に合わぬ。我らは神の力を有しているのだ。その最強を、その最大を、なにゆえにただの人が破れようか。考えてみればあの女共もおかしかった、ただの一個体が神の力に勝るなどあるはずがないというのに……」
「おいおいどうした? まさか戦意喪失したってんじゃねぇだろうな? うじうじしてんじゃねぇよ、最強なんだろ?」
図体がデカいだけでイキってる馬鹿が、暴力が通じなくて縮こまる。
人間ならよくある話だが、こいつは窮王種なんつー大層な存在だ。
まさか臆病風に吹かれたなんてわけ……
「もういいよ。アザトゥルム、やっぱりこの人間は強敵だ。余が相手をする」
「ディストヴィア……」
巨龍の背に乗っていた人間大のもう一体が、地上へと落下してくる。
相当な高さから落ちて来たそれは、土煙を上げクレーターを造ったが、その身体は全くの無傷だった。
「淘汰しに来たよ人間、余は英雄だからね」
黄金の髪に赤い瞳。アルビノのように白い肌。エルフのような少し尖った耳。
しかし全体的に見れば、やはり人間という種に近い姿をしている。
「自称最強の次は自称英雄か、語ってねぇでさっさと証明してくれよ」
「証明するためにお前たちを滅ぼしたんだけどな」
「滅ぼしそこなってるから俺がここにいるんだろうが」
「そうだな、じゃああの三人の女と同じようにお前も挽肉にするとしよう。エルフ、獣人、龍と成った者、あれらを殺したのは余だ」
「そうかい、じゃあ俺がテメェを糧にしてやるよ」
「余とお前は似ている。窮王種は生まれながらにして〝最強〟故に努力を知らず、鍛錬も学びも不要。しかし、余は人が思い描いた英雄に憧れた」
ナイアセラムも、アザトゥルムも、おそらくは他の窮王種も……その強さは身体機能によるものだ。
生まれ持った才能の時点で最強。だからそれ以上強くなる必要がない。
けど、こいつは……こいつの魔力は澄んでいる……
「修練を重ね、友情を育み、種の勝利のために高潔なる意志を宿す。そんな英雄譚が好きだった。だから余は努力をしてみたんだ。技を磨き、魔術を知った」
「なるほどね……」
「生まれ持った才能も、培った時間も、お前じゃ余に遠く及ばない。勝てる道理はないんだ。あの三人も弱くはなかった。それでも余を超えることはできなかったからこの世界から消えた。お前も同じだ」
「ハッ……ウケる」
努力した窮王種。
その圧倒的な魔力を魔術へ変換し、圧倒的な身体機能をもって武術を振るう。
たしかにカタログスペックじゃお前は世界最強かもな。
けど、そんなことは俺の夢とは関係ねぇんだよ。
それにな……
「あいつらがこの世界から消えた? 馬鹿かテメェ、あいつらが殺した程度で消えるかよ」
その記憶も、その魔術も、その技も、その声も、その顔も、そのすべてが――
「あいつらは俺の中にある。それで充分だ」
何度も戦った。
最初の迷宮でも……頭の中でも……
俺の属性はその記録を正確に保管している。
何に怒るのか、何を見て笑うのか、何を思って泣くのか、俺はあいつらのことを知っている。
デートっつうか、ほぼ同棲だったしな。
「滅んだにも関わらず種を背負うか、お前はまるで亡霊だ」
いつの間にかディストヴィアの右手に黄金の剣が握られていた。
俺の魔剣召喚と似た術式だ。
けど、俺の龍魔断概よりずっと強い魔力を感じる。
つっても、だからって負けを認めるわけにはいかねぇ。
こいつらを倒せばあいつらにまた会える。
俺の生涯に意味はないと思っていた。
どれだけ強さを磨いてもそれは所詮自己満足の産物だと、そう思っていた。
「テメェの言う通り、たしかに昨日までの俺は亡霊だったのかもしれねぇ」
輪廻の円環から逸脱した、ありうべからざるバグ。
たしかに俺はそうだった。
「けどな、今の俺には戦う理由がある。この強さには意味がある。テメェを倒して、俺は俺の大事なモンを救いとる」
「……いいよお前、すごくいい。それでこそ英雄だ」
ディストヴィアは笑う。高貴さと優雅さを合わせて持っていた雰囲気は一変し、それは少し下品なにちゃりとした笑みだった。
「ともがらを信じ、努力を重ね、種の存続を願うたしかな意志。お前は英雄だ。余と対等になるかもしれない唯一の個体だ。だから決めよう。どちらが本物の英雄か」
対等ね……
「そりゃ全然違うな」
たしかに俺には〝夢〟がある。
だけど、俺の本能に植え付けられた〝欲求〟は守りたいなんてお上品なものじゃない。
「テメェは俺より下だ。俺はそれを証明するためにここにいる」
夢も欲も、両方満たす。それが俺の生き方だ。
「それは無理だね」
ディストヴィアが雑に剣を薙ぐ。
黄金の剣は一振りを拡張し、光属性の魔力が射出される。
「ッチ、龍魔断概!」
渾身の力を込めて神剣を振るえば、その一撃は対消滅した。
対消滅……つまり俺の斬撃も消えた。
俺の渾身は、あいつの軽い薙ぎと同程度かよ……
「打ち合おうか」
身体強化がディストヴィアの身体を覆う。
基礎術式だ。なんの工夫もない。俺のように属性を込めてるわけでもない。
なのに、こいつが使うと……それだけで……
刹那の加速で俺の懐に潜ったディストヴィアは、そのまま突きを放つ。
最初の迷宮のオーガより、始まりの剣聖アマツより、もっとずっとキレのある一撃。
だが見える。
俺は隕石すら斬ったんだから。
「ナメんな!」
ギリギリのところで突きを弾く。
だがディストヴィアの笑みは崩れない。
弾かれた力を利用し、一回転しながら剣を右手から左へ持ち換えて、今度は回転切りが俺を襲う。
受け止める!
「龍の膂力を人の大きさまで凝縮する、大した術式だね」
黙れ。腕が痺れまくってるわ。馬鹿力なんてもんじゃねぇぞ。
連撃が止まらない。
受けても受けても、最適な行動で次の一撃が来る。
俺も
なのに、だからこそ、
押される……
「溶岩球」
高速の近接戦闘中に放たれたゼロ距離術式。
炎属性と土属性の混合……マグマのような球体を放つ術式……
「魔力障壁!」
「はは、その程度で防げると思ってるのか?」
パリンと音を立て、結界が砕ける。
クソ、シールドを張り直せ。
リンカ、力を貸せ。
「
聖属性を込めた障壁は、それが魔術であるのなら絶対的な防御となる。
ヤツの魔術は消失する。
「たしかにそれは厄介な属性だ。でも
魔術のインパクトと重ねるように上段から光の剣撃が振り下ろされる。
「いいんだよ、元から三百倍だ」
龍魔断概を横に構え、その一撃を防ぐ。
「へぇ……」
金属が擦れる音が鳴り摩擦による火花が散る二本の剣を間に挟み、俺とディストヴィアは睨み合う。
「けど、時間は稼げたね」
「囲んだぞ、人間!」
空より俺を見下ろす巨大な龍は、その腹から大量の龍を生み出し、それを島を囲うように配置していた。
「これらはすべて我が眷属、アザブランシュと同等の性能を持つ」
「余と剣を交わしながら、無数の龍のブレスを耐え切れるか?」
「簡単だっつの、
俺の背後に現れるは魔獣と悪魔の軍勢。
この黒雪は迷宮の中まで及んでいないらしい。
二千近い俺の軍勢が、その姿を現す。
挨拶を交わしている余裕もないことを、魔獣共も理解したのだろう。
早々に龍へ向かって飛び立って行き、戦闘行動を開始する。
「あの程度の魔獣の群れで龍がなんとかなるか? 一番強そうな五匹でも、龍一匹と同程度のレベルって感じだけど」
「炎魔軍陣」
それは召喚した魔獣を強化する術式。
だが……
「それでも足りないと思うけど」
「いちいちうるせぇヤツだな。分かってんだよ」
思い描くのは
影属性の分身。術式の売買。
流石に固有属性は模倣できないが、再現はできる。
ヤミの『
「
蒼い炎によって形造られた俺が百体、
「行け」
炎霊は俺の指示に従ってエルドたちへ合流する。
「自己複製か……聖属性に、完全詠唱、遺伝子の変質、お前色々と器用だね」
複製体は聖属性術式は使えない。だが、それ以外の俺の術式は全部使える。最初の迷宮で覚えたあいつらの術式も全部だ。
「でも、お前は今魔術を同時に使い過ぎている。その状態で余の剣を躱し続けられるのか?」
「心配するな、まだまだ俺のギアは上がる」
ミラエル、カエデ……お前らの力を使う。
「疾風迅雷」
「ならば余も出力を上げよう。身体強化【
青緑の雷と風を纏った俺と、黄金の煌めきを身体に宿すディストヴィア。
戦闘速度が加速する――
限界を超え、臨界を超え、超速と化した俺とディストヴィアは何度もぶつかる。
剣戟一つ一つが雷を呼び、突風を巻き起こす。
そして、打ち合う度に理解する。
俺の方が押されてる……
「我が胸に宿るは――」
「詠唱? この速度の戦闘中にそんなことできると思うのか?」
ディストヴィアの速度が一段上がる。
俺よりあいつの方が速い。
剣が詠唱を止めるように振り下ろされる。
詠唱中は他の魔術の精度が落ちる。
それじゃあこいつとの戦いに対応しきれない。
「
「それも同じだ。タメが長すぎる」
詰められる、詠唱時の魔力の起こりが読まれ、潰される。
身体強化の弱体化を的確に突いてくる。
剣士は魔術師の殺し方を知っている。
俺の魔術はこいつの前じゃ本領を発揮しない……
「剣の腕も魔術の力量も、余には敵わないと分かっただろう?」
「うるせぇ……」
聖属性が込められた龍魔断概を使って打ち合ってるのに、身体強化が全く劣化しない。
それほどに膨大な魔力の塊なんだ。
山を小石で叩いて壊しているような果てしなさを感じる。
「二刀流【龍魔断概】」
「
刀身をワープさせる術式。
斬撃を複製させて配置する術式。
一撃は二撃となり、そのすべてが龍魔断概の効果を保有する。
「無駄だよ。お前の魔力出力じゃ聖属性でも余の魔術を貫通できない」
俺の斬撃が破壊されていく。
笑みを浮かべ、剣を薙ぎ、的確に俺の放った一撃が消されていく。
「バルドルの宝剣。余が生み出したこの剣は光の魔力を射出する。お前のその剣と似た特性だが、斬撃性能は加減して互角、速度はこちらが勝る。聖属性の無効化もキャパが足りていない。つまり、剣の領域では余が上だ」
俺の剣がディストヴィアまで届かない……
「だから、次は魔術の領域の話をしよう」
「あ?」
ディストヴィアが浮遊する。
剣の切っ先を天へと向ける。
「これは余のオリジナル。余はアポルの願いを叶えるために今まで何度もこの術式を使ってきた」
雲を貫通するほどの光を放つ何かが、雲の上で……いやもっと上だ。この星の軌道上の宇宙空間に創られている。
太陽のごとき光の凝縮体。それが単一の魔術であるということを一瞬信じ切れなかった。
「最初の迷宮があるからこの島は必要だったけど、攻略されたならこの陸はもう必要ない」
振り上げられた剣が落ろされ、その切っ先は俺を向く。
「光属性対国術式【
光が落ちる――
何が起きた? ここはどこだ? 俺は今どうなってる?
音がしない……
「ゴボッ!」
違う、これは水中だ!
早く上がんねぇと!
「プハッ!」
顔を海上へ上げると、そこには何もなく、海だけが広がっていた。
目の前には海中から伸びる塔、最初の迷宮だけが無傷で残っている。
あの光に包まれて、俺が立っていた島が――消滅したってのか?
白熱連環がギリギリ間に合ったから死ななかっただけで、そうじゃなきゃ俺は確実に死んでいた……
あの一撃を俺は知っている。
いや、実際に見るのは初めてだが、このすべてが消滅した光景を俺は見たことがある。
龍化の法を使った際に生えた背の翼で空へ浮かぶ。
この翼にはデフォルトで飛行術式が付加されている。
「お前だったんだな……」
笑みを浮かべて空に立ち、俺を見降ろすそいつに吐き捨てる
「何が?」
「俺の国を滅ぼした張本人……」
「さぁ、いちいちそんなの憶えてないな。けど、そうなんじゃない?」
魔剣召喚【龍太刀】――その斬撃は空を裂き、その刃の間合いを超えて跳躍する。
「なんだよ今更、その程度の術式で余が殺せると思うのか?」
だが、その一撃は容易く光の剣で弾かれる。
蒼炎龍咆――それは龍の息吹を模倣した魔術。渦を巻く蒼炎はあらゆるものを焦がす。
「何がしたい?」
だが、その一撃は「魔力障壁」の一声で掻き消される。
神剣召喚【龍魔断概】――龍太刀の力を備えた聖属性の一撃。拡張された斬撃はあらゆる魔力と対消滅する特性を持つ。
「なぁ、余の話聞いてる?」
だが、その白い一閃は黄金の刃に受け止められ、ヤツの身体を少し押すに留まる。
だが――
「皇流剣術二式【光軌】」
俺の最強は、複製した斬撃よりもずっと早く振るわれる光の連撃にすべからず叩き落された。
「だから無駄なんだって、お前の剣も魔術も余には遠く及ばない。それとももう頭が壊れちゃったか?」
俺の全力はあいつに届かない。
相手は一つの魔術で国を消し去るほどの文字通りの天災だ。
生まれながらにして最強でありながら、俺なんて比べ物にならないほどの時間をたゆまぬ鍛錬に捧げた本物の〝英雄〟なのだろう。
俺に勝てる道理はない。
「認めるよ。テメェは俺より強い」
「あぁ、その通りだ。でも誰もお前を責めることはない。そんなヤツはもうこの世に残っていない。余はお前を称賛する。ヒトという矮小な身の上でありながら、余にこれほどまで食らいついたその
「……」
「余が認めよう〝剣も魔術〟も余の次にお前が最強だった」
「……いや、お前何言ってんだ?」
…………
「え?」
「俺は
「いや、え? は?」
「だから、場所を変えるぜ」
これを完成させるためには、きっと俺の人生の何が欠けてもダメだったんだ。
リンカ、ヨスナ、ヤミ、ネオン、アマツ、ミラエル、リョウマ、ベルナ、ビステリア、エンヴィ……それだけじゃない、いくつもの人生で俺と出会ってくれたすべての人間に――感謝しよう。
その出会いがあったからこそ、俺はここまで到達できた。
「リア、俺を愛してくれてありがとう」
それは魔術ではない。
これは魔法だ。
天才ではない俺は、天才だったお前たちの軌跡をなぞることで力を磨く。
「断絶空創【
俺は〝剣と魔法〟を極めるためにここにいる。