剣と魔法を極めるのに必要な命の数は?   作:水色の山葵

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91「欲求と救済」

 

 星一つない闇夜。草木の全く生えない荒野。

 大地からはいくつもの墓石が飛び出していて、墓石の上に灯った蒼い炎はときおり人影のような形にゆらめいていた。

 

「これは、あのエルフの女が使っていた術式と同じものかな?」

「あぁ、これは【断絶空創】……己が世界を創り出す魔法だ」

「魔法……アポルから女神ですら解析不能な再現性のない技術だと聞いている。なのにお前はそれを模倣したというのか?」

「そうだな」

「……どうやって、とは聞かないよ。ただ、余はお前を殺すだけだ」

 

 そう言った瞬間、ディストヴィアの姿が掻き消える。

 光属性の身体強化による高速移動。

 断絶空創の発動のために一時的に全部の術式を解除したから、攻撃を知覚する術がない。

 

 視界が飛び跳ね、落下する。

 

 俺の首が、一瞬で斬り落とされた。

 

「所詮はこの程度か……さっきまでの方が強かった」

 

 俺を見下したディストヴィアの瞳と目が会う。

 数秒もしない内に俺の生命活動は停止した。

 

「できることなら最後まで英傑のままでいて欲しかったよ、ネル」

 

 そう言ったディストヴィアは、光の剣を腰に差すような仕草と共に消した。

 

 

「いきなり殺すなよ、ビックリするだろ?」

「なっ……」

 

 

 墓標にゆらめく蒼い炎の一つへ、俺の魂は巡る。

 

 俺の転生術式【ネクストゲーム】は〝この世界〟に存在する『ネル』という個体に俺の記憶や魂の情報を自動的に移行させる術式だ。そして断絶空創は世界を創る術式。

 この内部で死亡した場合、断絶空創が解除されない限り俺の転生術式は断絶空創内部で次の転生先を検索する。

 

 そして、この世界に存在する蒼い炎の人型は『炎霊陌兵(えんれいひゃくへい)』の魔術で造った分身、精霊のようなものだ。

 俺はそのすべてに『ネル』という名を付けた。

 

 よって、この身体は俺の転生先としての条件を満たしている。

 

 さらにこの身体はホムンクルスと同じように肉体年齢という概念がない。

 だから、成長を待つための十年というタイムラグを無視した転生が可能だ。

 

「どういうことだ? 余は確実にお前を殺した」

 

 炎の身体を整形する。思い描くのは最初の身体の全盛期。

 ちょうどエンヴィと戦った時くらいの姿だ。

 

「この墓に灯るすべての炎が消えるまで俺は転生を繰り返す」

「転生、その特性はアポルから聞いている。なるほど、この空間はその力を強化するものか」

「その理解で間違ってはねぇな」

「だが、無限ではない。そうだろう?」

「……ま、流石にバレるか」

 

 無限の命、なんて都合のいい術式は流石に造れない。

 即座に転生術式を発動させるためには膨大な魔力が必要になる。

 

 そして今の状態は俺の魔術で造った身体に俺を宿すということで、新たな肉体に憑依するわけではないからこの断絶空創に込めた魔力を消費する。

 龍化した状態で発動していても、この魔法は俺の魔力補完を超えて魔力を消費する。

 

「何度持つかは知らないが、魔力が切れるまで殺し続ければいいだけの話。余には簡単なことだ」

 

 俺も何度持つかは知らねぇよ。

 この術式を使うのは初めてなんでな。

 

「テメェの言う通りだ。けど外からの助けは期待すんな、この結界内は時間が加速されている」

 

 その倍率は三百倍。【神格思考(マスター・プロセス)】によって俺の体内時間が引き延ばされた影響がこの世界の構築に影響したのだろう。

 外でエルドたちが全滅してこの結界が崩されるまで数年はかかるはず。

 

「助け? そんなの期待するわけないだろ。余の方が強い、それは証明された事実なんだから」

「老人ってのは過去に縋るからいけねぇぜ」

「余は今現在の話をしている。生まれ持った才も、培った時間も、ここで何年過ごそうがお前は余に追いつけない」

「俺は未来の話をしてんだよ」

「お前に未来なんて存在しない」

 

 再び、ディストヴィアの手に黄金の剣が現れる。

 

 俺たちは剣と魔を交えた。

 

 交えるたびに理解させられる……

 

 

 

 

 才能、時間か……

 そりゃそうだ。

 女神の動乱がいつ起こったのか知らねぇが、軽く万年を超えた話だろう。

 

 俺は所詮ただの人間。龍に生まれても、骸に生まれても、窮王種という究極の肉体には勝らない。

 

 俺の生きた時間は精々千年程度。アマツの年齢を含めても二千年くらいだ。

 

 勝てるわけがないのだ。

 

 あらゆる面で俺はこいつに負けている。

 

 

 負けたことがないお前と、負け続けた俺とじゃ釣り合わなくて当然だ。

 

 

 ――だから、それがテメェの弱点なんだよ。

 

 

 ◆

 

 

 余は殺した。

 世界を創り出すエルフは死んだ。

 自己の遺伝子を造り変え、龍へと至った人間は死んだ。

 

 そして、六つの聖武具を所持した獣人を殺す。

 

 死の間際、リンカと名乗ったその女は血塗れになり右腕と左足を失った状態であるにもかかわらず、どうしてか笑みを浮かべていた。。

 

「お前、何を笑っている? 余の勝利だ。アポルの勝利だ。お前たち人類はこれより絶滅する。いくらお前たちが三体の窮王種(どうほう)を倒したとしても、無意味なことだ」

「えぇ、そうですね。努力を続けた窮王種、やはり勝てませんでしたか」

「やはり? まるでこうなることを知っていたような口ぶりだな」

「女神や伝承や伝説から貴方たちのことは調べていましたから。だから貴方は最後にしたんです」

「この戦術を考えたのはお前というわけか……」

 

 余らは五方向より最後の人類の都市へ向けて進行した。

 ナイアセラムの交戦記録からネルを除けば、窮王種に対抗しうる戦力がリア、ヨスナ、リンカと呼ばれていたこの三人しか残っていないことは分かっていた。

 

「まぁ、ダジルさんの【影分身】をシャルロットさんの【売買】で借り受け、すべての窮王種に同時に充てることで本命を悟らせないようにはしましたが、リアさんとヨスナさんの戦闘力がなければ三体の討伐は不可能でした」

 

 戦闘能力、確かにそれだけを視ればこのリンカという女は他二人より二段劣る。

 しかし、この者たちが最初に来ていたのが余の場所だったなら窮王種の被害はゼロだったはずだ。

 

「天晴だ。余がお前の知略を認めてやる」

「私はただ戦う順番を整えただけですよ。ですが貴方も含め、強大な力を持つとそれを比べることに固執してしまうものなのでしょう。借り受けた力しか持たない私には分からない感覚です」

「そうかもしれないな、やはり最後に重要なのは純然たる力であると余は思う」

「えぇ、そうですね……」

 

 そう言ってリンカという名の獣人は、腕を伸ばし天へ向けた。

 

「ネル様、面倒な相手は連れて行きます。でも最後の一口、一番美味しいところは貴方にあげます。だから――」

 

 瞳からハイライトが消え、伸ばした腕が大地へ落ちる。

 

 

 

 余には分からなかった。その女が最後に言った言葉の意味が。

 余の強さを目にしたにも関わらず、まるでそれを喜ばしいことのように語るその表情に込められた意志を読み取れなかった。

 

 されど、今なら分かる――

 

 何度斬り飛ばそうと、何度消し炭にしようと……

 痛みなど、恐怖など、知らぬとばかりに、何度でも立ち上がってくる。

 

「あぁ、楽しいなぁ! もっと俺に教えてくれよ!」

「ッチ!」

 

 そしてほんの僅かな変化ではあるが着実に、この男は立ち上がるたびに強くなっている……!

 

 空虚なる魂王ヨルグレイスの、魂に干渉する力が残っていれば……

 

 豊穣の母王アシュグラスの、他者を強化する力が余に宿れば……

 

 万腕の支配者クラケトルフの、海を操り炎を鎮火する力があれば……

 

 五体で挑むことができたのならば、外の雑兵など即座に蹴散らせる。

 そうすれば、こんな最終決戦にしか用いることができないような魔法が発動されることはなかったはずなのだ……

 

 もっと、もっと簡単に、この男を終わらせることができたはずだ。

 

 

 ◆

 

 

 少しずつ、本当に牛歩のような進行ではあるが、それでも確実に俺の力は強くなっている。

 

 魔力が増えているわけじゃない。

 新たな術式を閃いているわけでもない。

 ただ、剣の腕が、魔術の精度が、少しずつディストヴィアという強者に引き上げられるように向上していく。

 

「死を受け入れろ! 負けを認めろ! 何故立ち上がる!? お前の勝利などどれほど先にも存在しない! 余は窮王種、その上に鍛錬を成した、つまりはこの星の頂点だ!」

 

 声を荒げながらディストヴィアは何度も俺を殺す。

 蒼い炎が揺らめく墓標は、どんどん数を減らして行く。

 この炎がすべて消えれば俺の魔法は解除されるだろう。

 

 時間はもう無限じゃない。

 

 それでも俺は走ることをやめない。転んでも、腕を、足を、命を失っても……立ち上がる。

 今までのどんな敵よりも強く欲しているのだ。

 

 勝ちたい! 俺はこいつに勝ちたい!

 

「努力ってのは勝ちてぇからやるんだろうが……今の自分じゃ足りないと分かるからやるんだろうが! 最初から最強だったテメェが他人の強さを羨めるのか!?」

 

 俺は知っている。

 

「この身を、この魂を、焦がすほどの〝憧れ〟を! テメェは抱いたことがあるのかよ!?」

 

 負けた。死んだ。殺された。

 その度に「いいな」って思うんだ。

 俺もそうなりたいって思うんだ。それを超えたいという願いが湧くんだ。

 

 剣を、魔術を、魔法を、欲しくて、欲しくて、欲しくて……

 

 最初から最強だったお前に俺が勝る唯一の項目。

 それは最強へ憧れるこの気持ちだ。

 

「神剣召喚【龍魔断概】」

 

 何本目になるかも分からない剣を握り、俺は新たな肉体に身体強化や感知系の魔術を再発動する。

 

「余は英雄に憧れそうなった。種を背負う最後の希望。何も守れなかったお前に負ける道理なんかないんだよ! お前の炎なんて全部消し去ってやる!」

 

 蒼い炎の消えた墓標の数が、炎が残る墓標の数を上回っている。

 

 もう長くは持たない。

 

 だからもっと早く、より先へ手を伸ばせ。

 飛び道具は必要ない。もっと近くでお前を視たい。

 踏み込め、怖れなんざとうの昔に克服しただろ。

 

 

 ガキィィィィィィィィンンンンン!

 

 

 光の剣と白い太刀が、刀身を滑らせる。

 火花を散らし、魔力を激突させ、相殺を繰り返す。

 

 その度に敵の動きを知覚し、自分の動きを適応させる。

 

 それはつまり〝理解〟だ。

 

 俺よりもずっと上の領域の剣術。

 その術理を解析し、一手一手の意味を知る。

 そうすることで俺の剣は洗練されていく。

 

 学びに一番必要なのは、それを知りたいと願う感情だ。

 その起爆こそが人を努力へ向かわせる。

 

 お前は俺に抱けるのか?

 俺から何かを学ぼうと、そんな風に本気で思えるのか?

 

 俺がお前の立場ならそんなことは絶対にできない。

 自分よりもすべてで劣る人間から何かを学ぼうなんて、思えるはずがない。

 

 だから勝つのは俺なんだよ。

 

「なッ!?」

 

 俺の振り抜いた一閃が、ディストヴィアの顔に傷を付ける。

 人間となんら変わらない赤い血が、その頬よりスッと流れた。

 

「はっ」

「死ねぇ!」

 

 俺の笑みを見て激怒したディストヴィアの突きが、俺の喉を貫いた。

 

 

 転生する。

 

 

 繰り返す。

 剣を呼び出し、強化術式を重ね、踏み込む――

 

「死ね、消えろ、この世界にもうお前の居場所なんか残ってないんだよ!」

 

 尾を踏まれた虎のように激昂するディストヴィアの剣戟が、俺の身体を何度も斬り裂く。

 

 そのすべてが見たこともないような高みにある剣技だ。

 機微のすべてが俺には理解不能な超次元にある。

 だからこそ、理解したい。それを知って、俺のものにしたい。

 

「ネル、これで終わりだ。百度は軽く超えた、千度に至っているかもしれない。それでも、お前は余を超えられなかった。この墓標の群れに灯る炎はもう一つたりとも残っていない。最後の炎、お前を消し去れば――」

 

 だから、俺は何度でも立ち上がる。

 

「魔力逆流」

 

 黄金の魔力の輝きは俺の炎を再熱させる。

 蒼い炎が墓標の上に灯っていく。

 

「終わらせてたまるかよ。こっからだ」

 

 目を細め、悔やむように眉間に皺を寄せるディストヴィア。

 

「なんでそんな顔してんだよ? 俺の後には誰も続かない。正真正銘最後の人類だ。俺を殺せばお前は確実な英雄になれる。喜べよ、喜んで挑んで来い!」

「挑むのはお前の方だ、人間! 神威解放――皇流剣術零式【時雲(じうん)】!」

 

 その瞬間、時が止まった。

 瞬き一つのゆとりもなく、ディストヴィアの魔力反応は俺の後ろにあった。

 同時に、俺の四肢と首が断ち切られていた。

 

 そうか……それがテメェの〝底〟か……!

 

天罰(サテライトキャノン)!」

 

 転生した俺に向かって、ディストヴィアは即座に光の術式を落とす。

 

 だが、その一撃は一度観測した。

 

 怨魔冥天黒龍砲+白炎龍砲=

 

「――虚無の龍塵(ゼロ・ブレイズ)

 

 空へ向けた掌から放たれる白と黒が混ざったその一撃(ブレス)は、天より落ちる黄金と激突する。

 

 そして――

 

「あぁ、やっとだ」

 

 その二つの術式は互いの威力を殺し合って、同時に消滅した。

 

「追い付けた」

「思い上がりも甚だしい! 皇流剣術零式【時雲】」

 

 なんだこの技……やっぱりわけが分からねぇ。

 わけが分からねぇうちに身体が切り刻まれる。

 

 まだだ。転生(たち)あがれ。

 

 巨大だから、強大だから、そんなのは諦める理由にならない。膝を折る理由にならない。

 

 観測すれば、分析すれば、超常もいずれは既知となる。

 

 

 神格思考(マスター・プロセス)Lv3――【集眼】。

 

 

 要らないものを切り捨てて、必要な情報だけを頭に入れ思考を回す。

 すべてを見通すのではなく一つだけに集中して観測することによって、思考をさらに加速させる。

 

「死ね、何億の命があろうがお前じゃ余には勝れない。この技には見抜くべき論理など存在しないのだから」

 

 心臓が刃に貫かれ、その黄金は肋骨を砕いて外へ出て行く。

 やっぱり視えねぇ……

 本当に時を止めてる? そんなモンどうやって対処すれば……

 

「さて、そろそろ魔力逆流も効果を失う頃合いじゃないのか?」

「そうだな」

 

 この状態は長続きするものじゃない。

 だが、俺はこんなところで終われない。

 魔力が尽きようが、逆流が終わろうが、命を使い果たそうが……

 

 俺は――

 

「闇属性治癒術式【暗寧縫合・逆理】」

 

 それは、肉体の状態を一日前まで戻す術式。

 一日一度までしか使えない、最後の治癒術式。

 この術式はその特性上魔力までをも全快させ、魔力逆流の後遺症すら完治させる。

 

「だからもう一回、最初からだ」

 

 墓標の炎が再点火する。

 俺はまだ、戦える。

 

「不可能を悟ったはずだ、超えられないと理解したはずだ、差を、開きを、間を、知ったはずだ……どうして、どうしてそこまでする? お前が何をしても余には勝らないと何度言えば理解できる!?」

「転生術式のせいか知らねぇが、俺はずっとガキのまんまなんだ」

 

 大人になれない。

 なることを逃げのように感じてしまう。

 

「皇流剣術零式【時雲】!」

 

 だから、超えられないなんて現実には納得できない。

 

「蒼炎!」

 

 俺の全身から蒼い炎が噴き出す。

 五感は要らない。魔力感知もいらない。

 外を見るそれらでは、あの術式の速度には追い付けない。

 

 炎だ。俺の炎。俺が灯した炎の揺らぎを知覚して、その斬撃の通り道を観測する。

 

「あぁ……そういうことか……」

 

 上半身と下半身を真っ二つにされながら、俺はその技を理解した。

 たしかにそこには複雑な論理など存在しない。

 

 その技は、人知を超越した速度をもたらす。

 一定時間己が肉体を〝光速〟へ至らせる術式だ。

 

 つまり、こいつはただ〝途轍もなく速く動いている〟だけってことだ。

 

「はっ、アホかよ……そんなモン勝てるわけねぇだろ……」

「余の術式が視えたのか? まぁいい、そういうことだ、いい加減諦め……」

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」

 

 楽しい。

 

「何を……」

「もう一回だ。来いよ、蹴散らしてやる」

 

 俺の最速の斬撃【蒼羅(ソーラ)】でもあいつの行動速度には絶対に追いつけない。

 

 だが、その魔術は必勝故の弱点がある。

 

「いいだろう、お前が満足いくまで切り刻んでやる。皇流剣術零式【時雲】」

風逸流転(ふういつるてん)の法」

 

 リアの風属性の受け流し。

 龍のブレスも、剣聖の斬撃も関係なく凌ぐ絶対防御。

 しかし、纏った風よりも光へ至るディストヴィアの方が速度が上。

 流石に防ぎ切れねぇか。

 

 首を掻き切ったその斬撃は間違いなく致命傷だ。

 

 けど、身体の形は保ってる。脳も無事。

 

「ゴボッ……」

 

 血を拭きながら、俺は剣を構える。

 

 放てば必ず相手を死へ至らしめる。

 だからこそ、その一撃は放った後のことを全く考えていない。

 

 あの光速移動術式は術式終了後0.02秒間、術者の動きを完全に停止させる。

 

 必勝、だから、お前は負けるんだ。

 

「終奥【龍太刀】」

 

 俺がその技を選択した理由は、自分でも上手く言葉にできない。

 ただ、この技こそがこいつを終わらせるのに最適であると思った。

 

 いくつもの術式を重ね、進化を重ねた。

 そんな経験が、俺の龍太刀の威力を底上げしていた。

 

 龍太刀は、振り返ったディストヴィアの右腕を斬り飛ばす。

 龍太刀は『切断性能』と『発射速度』に特化した剣技だ。

 その二つの性能だけを比べるなら、混ぜ合わせて生み出した他の剣技の上をいく。

 

 

 ――ディストヴィアに付けた頬の傷が、再生していなかった。

 

 

 そうだ。窮王種に限らず空の種族には規格外の『再生能力』が備わっているはずだ。

 なのに、ディストヴィアの頬の傷は修復されていない。

 

「くっ……」

「良く避けたな。けど再生できないんだろ?」

「……」

「物理限界に及ぶお前の速度、それは窮王種だからって簡単に到達できるものじゃない。再生能力を身体強化に回してるみたいだな」

 

 俺の【燃身】が自分の筋肉の熱量を増して分子運動を加速させることで成立しているように、こいつの光速へ至る身体強化も肉体に負担をかけるものなんだろう。

 

 それを補っているのが再生能力であり、そっちにキャパを使ってるから傷の修復が間に合わねぇわけだ。

 

「だとしても、お前は余より弱い!」

「じゃあさっきから、何をそんなに焦ってるんだよ?」

「ッ!! 【時雲】! 【時雲】! 【時雲】! 【時雲】!」

 

 左腕一本でもその術式は使えるんだな……

 

 切り刻まれる。重点的に頭を狙ってる。

 頭蓋を砕き、脳髄を飛び散らして、俺を殺す。

 俺がお前の立場でもそうする。

 結局の俺の一発は〝反撃〟の一発だ。即死すれば使えない。

 

 墓標に灯る炎が次々と消えていく。

 光速の一撃だ。間合いの概念もないに等しい。

 

 一発耐えれば勝てる。

 

 

 考えろ。どうすれば即死せずにあの一撃を受け切れる?

 

 

 何度死んでも構わない。

 その死を経験に変え、創出しろ。

 

白熱連環(はくねつれんかん)!」

 

 パリン、と音が聞こえたのはすでに転生した後だった。

 転生の十年のタイムラグはこの世界には存在しないが、それでもゼロになったわけじゃない。

 数秒、そのラグじゃ術式終了後の隙を突くのは無理だ。

 

「瞬て……」

 

 マシロ・リョウカが使っていた転移術式【瞬転】。

 刹那的ではあるが、あの光速を超えられる唯一の移動法。

 だが、詠唱前に狩られるし、先に発動できたとしても、ディストヴィアからしてみれば切り返しで斬ればいいだけ。

 

 俺はまた死ぬ。

 

膨風衝撃(エアバースト)白魔障壁(はくましょうへき)、黒龍装【神薙】、聖光発化、五神盾(アランテス)、疾風迅雷……」

 

 ダメだ。

 殺されるたびに何かの術式で対応しようとするが、すべてが打ち砕かれる。

 魔力の差。身体能力の差。速度の差。技量の差。

 

 力の差は、まだまだあるってことだ。

 

「けど、勝つ方法は思いついたぜ」

「はは、ハッタリだ」

 

 だがそれは、こいつより強くなったと示せるものなのだろうか。

 力を付けたというよりも、戦略を思いついたという話だ。

 

 剣技も魔術も、俺は未だこいつに勝っていない。

 

 だが、魔力逆流も逆理も使った。

 早急に勝負をつけなければ、俺は本当の死を迎えることになる。

 そうなれば過去へは戻れない。

 あいつらを取り戻すことはできなくなる。

 

 強さへの欲求。そのために俺は戦っていた。

 意味はないと知っていた。理由などないと分かっていた。

 だけど、過去に戻る方法を見つけたことで俺は俺の力に意味があったことを知った。

 

 最強への欲求と、大切なものの救済。

 

 俺は結局どっちが大切なんだ?

 どちらか一つしか叶えられない。

 

 だったら……

 

「俺は……」

 

 

 ネクストゲーム+夢幻漂牢(むげんひょうろう)……

 

 

「――魄渡(はくと)

「――時雲(じうん)!」

 

 

 俺の声とディストヴィアの声が重なった。

 

 

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