アイに天才の兄がいたら、上手く行くんじゃね? 作:にゃん໒꒱
俺が前に歩いている二人に叫ぶ。
「きゃっ!?どうしたのアク……え?」
「アクア?」
どまどっているアイに飛びついて、後ろに下がらせる。
その直後、先ほどまでアイがいた場所を鋭い刃物が通過した。
「え!?なにが」
「逃げろ、救急車を呼んでくれ!早く!」
「マジか」
逃げる3人を横目で眺めてから男はアクアとアイの方へと向き直った。
今、ここにいるのは自分と真とアイだけ。
横目で二人を見る。
先ほどアクアが押した時に、うまく着地できなかったのか、怖さで腰が抜けたのか動けなさそ。
真は睨んでいる。
まともに、戦えるとしたら真の一人だろう。
「アイを支えて少しでも後退しろ」
真が俺たちと犯人の間に入る。
「アイ、歩けそう?」
今ほどにこの体を恨んだことはないだろう。
この体のせいで、アイを支えられない。
「はぁ……はぁ……アイ。この嘘つきが!こんなガキこさえやがって……騙したな!」
あの時崖に落ちる前の声と同じだと分かった。
ネットで調べる限り、俺の遺体は発見されていない。なら、犯人も見つかっていないのも当たり前だろう。
「君はどこで子供の情報を知ったんだ?
あの病院での出来事もそう。誰かに教えてもらわないとあんな情報表に出ない」
「は!?何を言ってんだクソガキ」
少しでも時間を稼ごうと話しかければ。
「産婦人科医の件だよ。宮崎の産婦人科医だ。覚えはあるんじゃないか?」
アクアは雨宮吾郎という存在を意識して表に出す。
そして今の自分ができる限り冷たい声を出した。
彼とその被害者である俺しか知らない情報だ。これで少しでも動揺すれば。
「なっなんで……違う!あれは……アレはアイツが俺を追いかけてなんて来るから。どうにか撒こうと……背後から押したら崖から落ちて……。俺はただ病院にいるアイにあの話が本当か確認しに行っただけなんだ」
その効果は犯人に的面だった。先ほどまでの狂気はなくなり、弱々しく話す。
認めたくないというように首を横に振っていた。
ただ、既に戻れないと思った男は開き直りを見せる。
「っ!どうせ医者の事を知られてるなら!全員まとめて死ね!
短い時間は稼げたものの、結局それだけで終わってしまった。
煽ったのが俺だったせいか、真を無視して走ってくる。
「「アクア!」」
「ッ!」
真が犯人を相手に思いっきりぶつかり、二人して転がって距離をとる。
その衝撃に耐えられなかったのか刺そうとした勢いのまま凶器を手放す。
でも、勢いが乗った狂気は飛んでくる。
その時、何かに包み込まれた。
アイがどうにか動いて自分を抱きしめたらしい。
そして、俺に飛んできた凶器はアイの腕に刺さった。
「……リョースケ君だよね?どうしてこんなことするのかな」
アクアを守ろうと抱き抱えたまま、アイが喋り出す。
「なっ俺の名前……。なんで?お前が……お前が裏切ったんだろうが!
ファンに隠れて子供なんて作ってよ!
どうせ裏では俺たちのことなんか馬鹿にしてたんだろ!
散々好き好き言っといて全部嘘じゃねーか!」
目を血走らせながら良介はそう返す。
「私にとって嘘は愛だから。
ファンのみんなのこともいつか本当に愛せることを願って歌っていたよ。
君が本当に私のことを好きなら、私は君の事だって愛したいって思ってる」
「ふざけ」
「私なんて元々無責任でどうしようもない人間だし、人を愛するってよくわからない。
でも私は私なりのやり方で愛を伝えてきたつもりだよ?
今でもこれが絶対愛ていうのは分からない。
でも、この怒りはきっと愛と一緒だと思う」
「はっはは……はははっ俺は……はははははは」
突然足を折り地面に座り込む。
そして、自分を見失ったような声を上げる。
終わったんだろう。
「つぅ……。は、刃物って思ったより刺さったら痛いんだね」
アイは気丈にしていたが、空気が落ち着きを取り戻したところであまりの痛みに小さく呻いて座り込む。
「アイ!!ごめん俺のせいで……っ時間がない、横になって!」
アイの腕から流れ続ける血を見て、必死に押す。
幸い腕の骨に当たって反対まで貫通はしておらず、どうにか直接圧迫止血法でどうにかなりそであった。
「アクア、どけ。ここを押せば良いんだろ?」
「あ。ああ」
真に変わってもらって、真に支持を出す。
怪我をしていない方の手を握って声をかける。
意識を失うのを防ぎたい。
「アイ。アイ。大丈夫だから、もう少し起きててくれ」
「ア。クア?」
「ああ。そうだ」
でも、反応が遅くなってきた。
早く救急車来てくれ。
「アイ、アイ!しっかりしてくれ」
「あはは……。ごめんね多分これ無理だ」
止血は成功した。
本当に生存がギリギリのラインだが、アクアはアイの気力を保つため大袈裟に説明する。
「大丈夫だ!位置としても悪くないし止血もできている!絶対に助かる!」
「あっはっアクアってお医者さんみたいなこと言うんだ。役者さんかなーって思ったけど。何でも合うんだろうなー」
「はぁ……はぁ……アク……ママ!?」
「おい!アイ!」
社長たちを連れて走ってきた。電話を頼みに行ったのだろう。
息が切れているルビーが戻ってきて血を浴びたアクアとアイを見て目を見開く。
今回取り繕う暇すらないのは仕方がないことだろう。
「……大丈夫?アクアは怪我とかしてない?」
「してない!アイのおかげだ。だから大人しくしてくれアイ」
意識が朦朧としているからか思いがつらつらと口から漏れ出す。
「ドームはなんとか実現できてよかったけど監督には申し訳ないことになっちゃったな。映画のスケジュールも本決まりしてたのに」
「……映画?」
「そう、本当のわたしを撮る映画。……監督に謝っといて」
「自分で謝れ!お願いだから大人しく」
「あ……これだけは言わなきゃ。アクア、ルビー……愛してる。
それと、真。ありがとう」
「アイ!?」
「ママ!ママ!?」
「ああやっと言えた。ごめんね……言うのが遅くなって」
痛みが限界を超え、脳がアイの意識を落とそうとする。
「あー良かった。……この言葉は絶対嘘じゃない」
掠れるような声でなんとか言葉を出すアイを見て、アクアも取り繕う事は辞める。
少しでもアイの気力が持つように願いを込めて。
「俺も愛してる!アイ……母さん!だから諦めるな!頑張ってくれ!」
「ママ!わたしも私も愛してる。だから!」
「俺たちが一番、親がいない苦しみ知ってるくせにくたばるなよ」
必死に呼びかけるが。
それも虚しく、アイの目は閉じた。
そして、すぐ救急車が来た。