昼休み。お腹空いた。僕はお弁当を持って教室を出て屋上へと向かう。晴れている日は大体そこに行くことが多い。僕が選ぶお気に入りスポットの1つだ。
「赤新さん、どこ行ったんだろう……」
ふと気になった。赤新さんは授業が終わるや否やお友達? グループと一緒に出かけていった。無論それはいい。購買なり学食なり行く場所は色々あるだろう。ただ気になるのが……
「あのルーズリーフだよなあ……」
女心と秋の空なんて言うけど、ホントに乙女心というのは複雑みたいだ。
てっきり僕はお昼を誘われているものだと勘違いしてしまった。
僕のようなぼっちは色々と勘違いしやすいのだ。だから変に期待をしない方がいいとあれほど思っていたのに……まあ、それくらい赤新千歳という女の子が魅力的なのだろう……。なんというか魔性の魅力というか……。
いかん。顔が熱くなってきた。誰にも見られてなくてよかった。誰かに見られてたら文字通り顔から火が出るかもしれない。ボッ!!!!!! みたいな。
僕は苦笑いしながら、階段を上り、屋上へと続くドアを開けた。
屋上の中ほどにベンチがいくつか等間隔に並んでいる。さて、と空いているベンチは……っと。あれ?
赤新さんだ。ベンチにポツンと1人で座っている。お友達? たちはどうしたのだろうか。
まあ、お邪魔するわけにもいかないから他の空いているところを探す。僕はそそそと赤新さんの前を通りすぎようとすると――
「あっ」
赤新さんがこちらを向いて微笑しながら、手を胸の前で小さく振っている。僕は後ろを向く。誰もいない。え? 僕?
僕は自分で自分のことを指差すと、コクコクと赤新さんがしきりに頷いている。僕だったようだ。
ゆっくりと赤新さんの方へと近づいていく。赤新さんはスカートの上にハートのマークと水玉があしらわれた風呂敷を乗せていた。きっと中身はお弁当箱が包まれているのであろう。
「ど、どうしたの? 赤新さん」
僕が呼びかけると、赤新さんはポーッと遠い目をしながら僕に語りかける。
「ん。一緒にお昼どうかなって」
「え、あ、ああ!」
あれ? 僕の勘違いじゃなかったの?
「えと、お友達は……?」
「ん。逃げてきた」
んん? どういうことだ?
「私が勝手に逃げてきちゃったのです。そういうこと、よくあるよね?」
ないと思います。あ、いや、僕友達いないからよく分からないけど。
「だからね。……今すっごく気まずいの」
でしょうね。僕は冷や汗を垂らす。
「神様って……意地悪だね」
いや、完全に自業自得では?
「だから、吉川君。一緒にお昼食べよう」
脈絡どうなっているんだろう……?
でも僕には断る理由はない。むしろ嬉しい。
僕は内心ドキマギしながら赤新さんと一緒にお昼を食べることになった。
「「いただきます」」
僕と赤新さんは一緒になって手を合わせて食前の挨拶をする。食材への感謝を込めて。
僕はかぱっと弁当箱の蓋を開ける。ちなみに手作りだ。僕のお弁当を赤新さんがほえ~~とした顔で見つめている。なんかドギマギして落ち着かないな。
「それって手作り?」
「あ、うん……」
「へえ~~凄いね」
「そ、そうかな?」
「うん」
「あ、ありがとう」
僕が、ドギマギしながら箸を彷徨わせていると、赤新さんは弁当箱に手をつける。
「おーぷんざぼっくす」
いやそんなテレビ番組みたいな。
赤新さんの弁当箱の中身は、僕と似たようなものだった。おかずは大体同じだし、ご飯が小っちゃいおにぎりになってて、彩りもカラフルだ。デコりも入っているのだろうか? 余談だけど味と見た目って結構比例しているところがあるかもしれない。必ずしもそうとは限らないけれども。
赤新さんはお弁当に手をつけないまま固まっている。僕は首を傾げた。
「? どうしたの?」
「いや、やってくれたなと思って」
ええ!? 僕なんかした? お弁当食べようとしてるだけだけど……。
「吉川君」
「あ、うん」
赤新さんが僕をチラリと横目で見る。
「おかずの交換を要求します」
はい、ルーズリーフと繋がりました。一部改良を施して。
なるほど。おそらくはお弁当の中に嫌いなものがあって、でもただでやるってのもな~~。自分にもなんか欲しいって。その方が隠蔽工作つまり私はちゃんと食べましたよアピールできますやん。……というところだろうか。
僕が赤新さんの考えを推察していると、赤新さんがちょっと不安そうな顔で僕を見つめる。
「だ、駄目かな……?」
僕は首を振った。
「全然いいよ。何が欲しい?」
「美味しいやつ」
アバウト~~! 僕が頭を抱えていると、赤新さんが僕の顔を覗き込んで訊いてきた。
「吉川君の自信作はどれ?」
「えっ、あっ、えーーっと……卵焼きかな」
僕は卵焼きを箸でつまみ、はい、と赤新さんのお弁当の上に乗せる。
「ありがとう。では私はこれを」
赤新さんがフォークに乗せて、僕のお弁当に乗せてきたのは……プチトマト。プチトマト苦手なのかな? 美味しいのに。
「野菜が苦手なの」
うげっと眉間に皺を寄せ、舌をべっと出す。仕草が実に子供っぽい。
「そうなんだ」
野菜って食べると体にいいから、僕はよく食べる。赤新さんはそうではないようだ。
「うまうま」
赤新さんは僕の作った卵焼きを美味しそうに頬張っている。なんだか嬉しい。
「料理上手なんだね吉川君」
「別にそんなことは……」
僕は、おだててくる赤新さんの思惑をなんとなく察した。
「……他のも食べる?」
「ええのん?」
こてっと首を小さく傾げる姿は非常に可愛らしかった。それで結構僕はお腹が満たされるような気がしてくる。こんな気持ちになった昼休みは初めてだった。
赤新さんとおっ昼~。心躍ります。いいですね~。