夕方前まで仮眠をとった二人は、朝食の残りの味噌汁と塩辛で早めの夕飯を済ませると、制服に着替え、自転車で内箕駅に向かう。
見た目はいつもと同じだが、いつもの巡回時とは違い、サッシェルバッグの空き部分に予備弾倉と拘束ワイヤー射出機が入れられている完全装備である。
内箕駅から私鉄に乗り、春川駅で名古屋行の電車に乗り換え一時間、スギナと風待は集合時刻より少し前に名古屋駅に到着した。
私鉄の名古屋駅から連絡通路を通りJR名古屋駅西口に出て、線路沿いに北方向へ5分ほど進むと、DA名古屋支部の本拠地であるビルが見えてくる。
新幹線の車内からでも見えるこの大きなビルは、外面は大手学習塾に偽装しており、塾名の書かれた大きな看板が目印になっている。
名古屋支部、そして県内各支部の中心拠点にもなっているこの建物は、通称16号館と呼ばれている。
名前の由来は、DAが最初から設計建築した16番目のビルとも、名前だけ借りている学習塾の16番目の校舎ともいわれているこの建物は、情報作戦室や巡回指揮室、大会議室、地下の射撃場と屋上にヘリポートも備えた、DA中部地区の一大拠点である。
規模は小さいながらも、DA本部と同じ設備を有したこのビルを見たのは、スギナは初めてだった。
「スギナは、今までここ来たことなかったの?」
曇天を突くかのようにその丈を誇る16号館。その入り口に立ち建物を見上げるスギナに、風待が問いかける。
「はい。赴任した時はここには寄らないで名古屋駅ですぐ乗り換えましたし、半年ごとのワクチンや自白剤抵抗薬の注射は異動前にDA本部で済ませていましたし、次の運動能力検査と健康診断は来月ですし…来る機会なかったですね」
すべてのリコリスは年に数回、DA本部か大支部で診察や検査を受けに行かなくてはならない。しかし、まだ赴任して2カ月半のスギナは、その予定がまだ先だったため、いままで名古屋支部に来たことはなかったのだ。
「どう?初めて見た感想は」
「DA本部棟と同じピリピリした雰囲気が外まで漂っていて、なんだか懐かしいです。けど、こんな剣呑な気配をまき散らしていて、正体隠す気あるんですかねこの支部」
ビルの看板や張り紙など、外見はきちんと学習塾の体裁を整えているのだが、スギナの言う通り、周囲の建物にはない無言の威圧感と殺気が、このビルからは放出されている。
町の人もそれを感じているのだろう。現に学習塾の看板を大きく掲げているにもかかわらず、このビルに立ち寄ろうとする一般学生は見当たらず、周辺を歩く人々は、このビルを見ようとせず足早に通り過ぎていく。
「間違えて一般の方々がこのビルに入らないように、あえてそういう空気を隠さないんでしょ。この国の人々は賢いから、気配で警告するだけできちんと私たちから目をそらしてくれるからね。さ、それじゃ中に入りましょうスギナ」
風待は周辺の道路を何度も見ながら、何かを確認すると正門の自動ドアをくぐる。
何を探していたのだろうと思いつつ、あわてて風待の後を追うスギナ。
二人が入った16号館一階は、大きなロビーになっていた。
集合時間前にもかかわらず、そのロビーの中には、すでに多くのリコリスがいた。
そのほとんど、というより全員がスギナと同じ薄黄色の制服、サードリコリスの制服を身にまとっていた。
入り口から背を向け、ロビー内に設置されているソファーや椅子に思い思いに座ってくつろいでいる彼女たちの視線が、一斉に風待とスギナに注がれる。
次はどこの支部のリコリスが来たのだろう、とその程度の好奇心で向けられた彼女たちの眼が、風待の姿を見た途端に大きく見開かれる。
地方各地、それも任務が少ない田舎支部から招集されたであろう彼女たち全員の顔が驚きで変わるのを、スギナは見た。
その多くの視線と感情に耐えられず、思わずスギナは風待の後ろに隠れてしまう。
隣の風待に向けられているものとはいえ、これほど多くの視線に晒されることには慣れていない。最近は少し改善してきているとはいえ、スギナは基本的には内気で、人前に立つのが苦手な性格なのだ。
セカンドリコリスが来るのを予期していなかったのだろう、他支部のサードたちの驚嘆の吐息と羨望の眼差しを気にもせず、風待は背筋を伸ばし無言でロビーを横切る。
「へへっ皆さんご免なすって…べっぴんさんでしょこの人、この人ね実はあっしのツレなんすよ…おっと見るだけはロハですが、お触りは無しですぜ…へへへへ」
そんなことをブツブツとつぶやき、背を丸めて揉み手をしながら、周囲に愛想笑いをふりまいてこそこそと風待の後に続くスギナ。
スギナは多くの視線に囲まれると、行動が卑屈になるようだ。大観衆が集まる大舞台に立つ女優のような職業には生涯就けないだろう。
そんな三下スギナを背後に従え、風待は左手奥にあるカウンターの前に立ち止まり、中のDA職員に一礼する。
「諸咲支部リコリス。23TMZ001風待、23TMZ002筑詩スギナ。計2名、ただいま到着しました!」
風待の良く響く澄んだ声がロビーに響く。
というか、こういう場所でも絶対に下の名前言わないですね…と、スギナは風待ウメ先輩の頑固さに感心する。
「諸咲支部2名の到着を確認しました。今作戦の任務内容と配置場所については、来ていただいた支部ごとに異なりますので、これより到着順に個別説明していきます。それまで、このロビー内でお待ちください」
カウンター横にある小型カメラが本人照合をしたのだろう。手元のノートパソコン操作しながら、カウンターの女性職員が事務的に説明する。
了解しました。と二人は一礼しカウンターから離れると、ロビー奥まで行き、壁を背にして正面玄関が見える位置に立つ。
先に着いていたリコリスたちの視線は、まだ二人から離れていない。ソファーに深く腰掛けながら、彼女たちは風待とスギナに目を向けている。
先ほどの風待の声が聞こえたのだろう。諸咲から来たんだってとか、セカンド初めて見たとか、下の名前なんだろうねとか、近くに座っている者同士でこそこそと話す声が聞こえてくる。
そのような他支部のリコリスの緊張感のない姿を見ているうちに、スギナの顔に、だんだんと困惑の表情が浮かび上がる。
「レベルからして、ここにいる彼女たちは、全員分校の出ね…スギナは確か、分校のリコリスを見たことなかったんだよね」
「はい」
「どう、はじめて分校リコリスたちを見た感想は?」
彼女たちに悟られないよう、風待が唇を動かさず小声でスギナに話しかける。
「正直…この程度なのかと…いえ、そんなこと言っては失礼なんだけど、少し油断が過ぎるというか、隙が多いというか何というか…」
同じく唇を動かさずスギナが答える。顔は正面を向いたまま、スギナは眼球を動かさず視界に入るサードリコリスたちの動きを一人一人見つめる。
本部で底辺サードとして育った自分が言えた口ではないのだが、同じ薄黄色の制服を着ている彼女たちは、いったい分校で何を習ってきたのだろうか。
あまりにも危機感がなさすぎる。
あまりにも無防備すぎる、緩みすぎている。
「んー、まあこの程度ね。それじゃあ彼女たちが油断していると思った理由を、これまで見た中から三つあげてみて」
表情も唇も動かさず、スギナにクイズを出す風待。
「えーと…ひとつめ、入口に背中を向けていた。ふたつめ、すぐ動けない体勢でソファーに座っていた。みっつめ、ガラスの自動ドアなのに、ドアが開いてから私たちの存在に気が付いた」
「正解、たとえ支部本館の中とはいえ、今敵が襲ってきたら全滅確定よね」
目線を悟られずに周囲を見ながら、風待が答える。
人混みが多い場所や、敵と会う可能性がある建物の中では、出入り口が視界に入る位置を確保しつつ、常に襲撃に備える体勢を取っておくことは、本部で育ったリコリスにとっては基本中の基本である。
周辺警戒を基盤とした行動は、スギナも風待も幼少時から厳しく教え込まれている。
ロビーに入った二人が、ソファーや椅子に座らず、正面入口が見える奥の壁側に立ったのも、事前に申し合わせた行動ではなく、彼女たちの精神に強固に植付けられた本部での教育が、無意識のうちに同じ行動をさせていたのだ。
それが当たり前の事、リコリスなら当たり前の行動と思っていたスギナにとって、姿勢一つとっても緩い分校リコリスたちの不用心さは、彼女の眼には異質に見えた。
「あと、私たちをこっそり見ているつもりだろうけど、視線のごまかしがまったくできていないのも気になるし、唇の動きを隠さないどころか顔近づけあって噂話しているのも気になるわね。だいたいコソコソ話しているにしては会話まる聞こえだし…」
聴音訓練、さらには多数の会話を聞き分ける訓練を積んだ本部卒リコリスには、十数メートル先の内緒話など隠しているうちにすら入らない。イヤでも耳に入ってくるというレベルだ。
風待があきれたようなため息をつく。表情も唇も動かしていないのに、ため息の音だけで感情を表現しているのは、もはやちょっとした職人芸だ。
二人が壁際で話しているうちに、各支部全員が集合したのを確認したのだろう。カウンターにいた女性職員たちが動き始める。
普段は塾のチラシやパンフレットを置くのに使われるのであろう、カウンター横に置いてある長机を数人がかりで正面入口前に移動させると、ロビー裏の事務室から、スーパーなどで使われるショッピングバスケットを二つ持ってくる。
何が入っているのかな、とスギナは職員たちが目の前を通り過ぎる時、そっとバスケットの中を確認する。
一つ目は、中身を見る前から匂いでわかった。駄菓子だ。
飴やラムネ菓子が中心だが、丸羊羹や一口ういろう、小饅頭にミニ落雁、金平糖や寒天飴といった和菓子系も入っている。和菓子の中では一口ういろうが一番多いのはお国柄といったところか。それらのお菓子が、バスケットからこぼれそうなほど盛られている。
特徴的なのは、一つ一つ個包装されている、小さな駄菓子ばかりだということだ。
初夏の陽気を思わせる今日の気温を考慮したのか、チョコレートやクリーム系といった、溶けるのが気になる菓子は入っていないようだ。
見たことがある商品もあるので、おそらくDA名古屋支部の職員が、近所の駄菓子問屋で購入したのだろう。
もう一つの買い物用バスケットには、トランプケース大の、四角く白いものが大量に入っている。
透明な袋に密封されたそれは、何かを圧縮して四角形にしたものらしく、重さは見た目よりありそうだ。白い塊を堅固に覆うビニール独特の光沢が、ロビーの照明に反射して滑らかに輝いている。
その二つのバスケットが、入口に置いた長机の上に置かれる。どうやらここから出て行く際に取っていってもよいもののようだ。それもタダで。
あの四角いの何ですか、とスギナが風待に聞こうとしたとき、受付職員の声がロビーに響いた。
「これより作戦説明をはじめます。23MОZ003、カウンターへどうぞ」
職員の声に、入口近くのソファーでうたた寝をしていたサードリコリスがあわてて飛び起きる。どうやら彼女が該当する番号、23MОZ003のリコリスらしい。
説明のための呼び出しは到着順。ということは、彼女は一番早く、おそらくは数時間前にこの建物に到着したのだろう。待機中に待ちくたびれて寝てしまったのはリコリスとしては失態だが、気持ちはわかるため、スギナは責める気にはなれなかった。
「23MОZは岡碕支部の店番よ。構成は本部卒1名と分校卒2名の合計3名、全員サードリコリス。本部育ちのサードが001番の支部長だから、003番は分校出、それも今年配属されたばかりの新人の方ね」
経験を積ませるために、あえて新人に出張させたのかもね、となりでそっと風待が説明する。
支部長や隊長になることが多いファーストリコリスやセカンドリコリスは、通称店番と呼ばれる各支部の番号を全て暗記している。
しかし、風待のように支部の構成人数まで把握しているリコリスは少ないだろう。
諸咲支部のような観光支部は、他支部とは違い多くのリコリスたちが訪れる。
モブリコ寿司で彼女たちを接待し、会話しているうちに少しずつ溜まっていく各支部の情報を、風待はすべて記憶しているのだ。
もっとも、各支部の情報を集めたのは、風待ではない。
風待の前の支部長である冠典ゼリィ先輩が、その長い諸咲在任中に得た情報を、この支部から去るときに、餞別代りに後輩の風待に口頭で伝えたらしい。
知識は大事だ、って別れの前夜に全部暗記させられたのよ。この知識を私の形見だと思って、いつまでも覚えていてくれ。そして新しい情報が入ったら適宜修正を加えて、また次の支部長に覚えさせてくれ。そう冠典先輩は言っていたわ。だからスギナ、いつかあなたが支部長になったら、この情報を全て伝えるから必死になって覚えてね。と、以前風待は笑ってスギナに言ったことがある。
無理です。とスギナは即座に答えたのだが、風待は「支部長命令」と笑顔の口から出たとは思えない冷たい言葉で返してきた。
おのれゼリーとスギナは天を仰いで、今は所在不明の元支部長に呪詛の言葉を吐いた憶えがある。
そんなことを思い出しながら、スギナはDA職員から説明を受けている岡碕支部のサードリコリスを見つめる。
カウンターの前に立つ女性職員は、手持ちのタブレットを見せながら、自分によく似た背格好の岡碕リコリスに、任務の内容を話している。
漏れ聞こえてくる話からすると、彼女の任務は、単なる名古屋市内の代理巡回と、市内にある敵拠点の見張りのようだ。
これまでも名古屋支部のエリートリコリス相手に、色々な作戦任務の説明をしてきたのだろう、DAの女性職員の話す内容は明確で、遠くで聞いているスギナにもわかりやすい。
しかし、説明を受けている岡碕のサードリコリスは、その説明がいまひとつ理解できていないようだ。
自分が何をすればいいのかというところから把握できていないのだろう、くりかえし同じ質問をし、その度に説明が途切れている。
タブレットに映る地図や拠点画像も記憶できていないようだ、眉間にしわを寄せ必死に覚えようとはしているが、要点が曖昧な状態では、どこまで覚えられるか怪しい。
しまいには、自分の記憶力に自信がなくなってきたのか、サッシェルバッグからメモ帳を取り出し、作戦内容を記入しようとする。
任務内容の記録はさすがに厳禁だ。女子職員からメモ帳を取り上げられたサードリコリスは、涙目になりながら再び説明を受ける。
さすがにそこまでではないが、自分も本部リコリスの中では覚えが悪かった方だったスギナには、作戦を覚えるのに悪戦苦闘する彼女の姿は、あまりに共感しすぎて、これ以上見続けると心が苦しくなる。
周辺にいる他の分校サードリコリスたちも、今話を聞いているリコリスと同じレベルなのだろう、自分はきちんと覚えることができるのだろうか、きちんと理解できるのだろうかと、皆不安げな表情だ。
「…この様子じゃ、私たちの番が来るまで相当時間かかりそうね」
腕組みをして、風待がスギナに語りかける。
周囲の視線が、説明を受けている岡碕リコリスに集まったからだろう。声の量も唇の動きも、普段通りに戻している。
「そのようですね先輩。私たち、一番最後に来てしまったようですし…」
待つのは嫌いだからゆっくり行きましょう、と風待は集合時間直前に16号館に入ったのだが、それが裏目に出てしまったようだ。
最初に呼び出されたリコリスへの説明はまだ続いている。どうやら話は振出しに戻ったらしい。噛んで含めるような言い方で、女性職員が同じ説明を繰り返す。
風待が小さくため息をつくと、スギナの前を横切りロビー右奥のエレベーターに向かう。
「先輩!どこ行くんですか!」
トイレなら反対側ですよ!と大声で呼びかけようとしたスギナに、風待が振り返りもせず手を振る。
「こんなとこで待っているのも時間の無駄だから、ルミナ先輩に直接聞いてくるわ!すぐ戻るから、スギナはそこで待っていなさい!」
ロビーに響く風待の声に、リコリスや職員たちの声が一瞬止まる。
屋内全員の視線を意に介さず、風待はエレベーター6階のボタンを押し、さっさと乗り込んでしまった。
いきなり置いていかれたスギナ。風待を追っていた皆の視線が、残されたスギナに集まる。
突然のことに、スギナは固まっていた。
それって直接聞けることなんですか、とか、上階は名古屋支部ですよ部外者は立入禁止ですよ、とか、ルミナ先輩って誰でしたっけ?新キャラ?とか、去っていく風待の背中にいろいろ問いかけたかったのだが、周囲がいきなり静かになったため、何も言いだすことができなかった。
「えーと…」
広いロビーが静まり返っている。
あっけにとられた表情で、皆がスギナを見ている。
気まずい。
そして恥ずかしい。
この状況をどうにかしなければいけない。
この場をもとの雰囲気に戻さなくてはならない。
こちらを見ている職員さんに、中断させてしまっている作戦説明を再開させなければならない。
私を見つめる分校リコリスの皆さんに、とりあえず私を見つめるのはやめて、とお願いしなければならない。
しかし、どういえばいいのかわからない。言葉が見つからない。
あまりの羞恥に頭の中が真っ白になる。
あまりの緊張に表情が硬くなる。
本部の訓練生時代、こういうことはよくあった。
訓練の後、代表として皆の前で教導員の本部附リコリスに結果を報告するとき、緊張して言葉が出てこない、そういうことがよくあった。
そのたびに叱られた。
毎回のように叱られた。
特に、教導員役であったあるファーストリコリスにはよく叱られた。
しかし、本部附の精鋭ファーストリコリスであるその人は、厳しく叱る人だったが、同時に優しい人だった。
毎回叱るだけでは終わらず、その後にきちんと改善方法も教えてくれるのだ。
たしか、今のように言葉が出ないくらい気が動転しているときは、どうすればいいかも教えてくれたはずだ。
スギナは必死に思い出す。
険しい顔をして、周囲を見渡しながら、必死に考える。
思い出した。
報告したいけど声が出なかったとき、その教導員であるファーストリコリスは、確かこう言っていた。
正しい会話にしようと思うから声が出ねえんだ。そういう時は報告に使う定型文だの敬語だのは捨てろ、最悪単語だけでいいから簡潔に言え。文章考えて正確に話すってことは悪くはねぇんだが、戦闘現場で頭が混乱しているときにもそうしようとすると、今みたいに話せなくなるからな。
確かそう言っていた。
そして、その横にいたバディのセカンドリコリスが、こう付け加えていた。
どれくらい簡潔に言えばいいかわからなかったら、この人の話し方を真似したらいいっすよ。ほんと普段は最低限なことしか言わない先輩っすから。もっとも、そのせいでいつも人柄を誤解されてしまうし、本音を伝えたい人には、なぜかその簡単な一言が言えな…
そのセカンドリコリスのひと、直後にファーストリコリスチョップを食らって倒れていたな。
セカンドリコリスがあっさりと崩れ落ちるの、あの時初めて見たな。
ファーストリコリスのチョップって、たしか空中元彌チョップの1.5倍の威力なんだよね。
まあそんなことはどうでもいいや。ともかく、解決の糸口は見つかった。あとはそれを実行に移せるかだよね。
うん、簡潔に言おう。
あのファーストの人の口調をまねてみよう。
用件だけ…簡潔に…そう、例えばその人なら…
「なにぼんやりしている!さっさと話を続けろ!おい!てめえらもじろじろ見てんじゃねえ!」
こんな感じかな。ふふっ、かなり似ていたな。
その人はいつもこんな感じだった。これでいこうかな。
いや、これはあまりにも簡潔すぎるな…みんなにケンカ売ってるみたいだし、もっと私らしく、静かで優しく…あれっ?
スギナの背筋が凍り付いた。
ロビーの皆が動きを止めて、私を見ている。
さっきまでとは違う、驚いた顔で私を見ている。
しまった!声に出ていた!