「それよりも先輩、なんでゼリーさんセミの鳴き声マネして来たんですか?」
「いや、もう少し私の昔話の方に興味を示してよ…」
少し不服そうな顔をした風待だったが、それでも過去の記憶をさかのぼり、ゼリィ先輩の珍奇な行動の理由を思い出そうとする。
「そういえば…男の人って、セミの鳴き声がすると、どこにセミがいるのか探そうとする習性があるから、それを利用したとか言っていたわね」
「そんな習性あるんですか?」
「さあ…まあ実際に相手の注意は削がれたわけだし…」
風待は、未だに訳が分からないといった表情をしながら話す。
スギナも、なんだかよくわからないといった表情をしながら聞いている。
自称天才のやることなのだ、凡人には理解できないのだろう、二人はそう思った。
「あと、ふつうセミの鳴きマネってミーンミーンですよね。なんでじょわじょわじょわじょわあぁだったんですか?」
どうでもいいところにこだわるスギナ。すでにただの雑談モードである。
「名古屋って、ミンミンゼミはほとんどいないのよ。スギナ、知らなかったの?」
「そうなんですか?」
「任務地の生態分布や植生を知っておくのは、スナイパーハイドや隠蔽擬態するときに一番大事なことよ。ちなみに、私たちが住んでいる諸咲支部にはミンミンゼミいるんだけど、本部の山に比べると数は少ないわ。十与浜や諸咲港あたりはまだよく聞こえてくる方なんだけど、少し北に行くとぐっと減るわね。私の今までの経験だけど、ミンミンゼミの鳴き声は億陀地区あたりからレアになって、神之馬地区では聞いたことはなかったわ。今後任務で必要となることもあるかもしれないから、スギナも覚えておくといいわよ」
「必要になることないと思います」
「それもそうね」
自分で振った話を、簡単に却下する風待。おそらく風待も、セミの鳴きマネを必要とする任務を想像できなかったのだろう。
「それはともかく、こんな絶体絶命の時に飛び込んでくれたゼリィ先輩には、すごく感謝したわ。あの時は初めて人を殺したショックよりも、先輩が助けに来てくれた嬉しさの方が勝ってね、ターゲットを処分した後、思わず先輩のもとに駆け寄ったわ」
サドルの高さが合わない大きな自転車を漕いで股間を痛めたのだろう。倒れた自転車の横で、両手で股を押さえてうずくまる冠典ゼリィ先輩に、風待は駆け寄った。
羞恥と恐怖と筋肉痛によって、生まれたての寒天のようにプルプル震えているゼリィ先輩の裸体を、風待は思いっきり抱きしめ、心からの感謝の言葉を伝える。
慣れない運動をしながらセミの鳴きマネを続けたため、酸欠で死にかけている貧弱なゼリィ先輩は、肺活量の少ない呼吸で必死に酸素を取り込みながら、抱擁を続ける風待に必死に何かを訴える。しかし、様々な感情が荒波のように押し寄せている最中の風待には、最初その声は届かなかった。
「ゼリーさん。何言っていたんですか?」
「導火線って言っていたのよ。ちっちゃな声で」
「導火線?あ、そうか」
全裸という状況に気を取られ、すっかり忘れていたが、たしかゼリィ先輩は、導火線に火の付いたダイナマイトを片手にして激走してきたのだ。
「私もダイナマイトの事、しっかり忘れていてね。慌てて周りを見たら、自転車ごと倒れた時に手を離したらしく、遠くに転がっていたわ。もう導火線も短くなって爆発寸前だったから、消火は諦めて、急いでゼリィ先輩を抱えて地に伏せたのよ。それがね…」
何か面白いことを思い出したのだろう。風待の唇が、わずかに笑みの形になる。
「ゼリィ先輩、ダイナマイトが爆発するってことに、珍しくパニックになっていてね。押し倒した私の腕の下から抜け出て、私に覆いかぶさろうとしてきたのよ。で、私もあわててゼリィ先輩を下にするんだけど、それでもまた抜け出して私の上に被さってきてね…」
爆発前に、どちらが相手をかばって上に覆い被さるか、もめたらしい。
「自分は裸なのにもかかわらず、本部特注の制服着た私を守ろうとしていたのよ。普段の冷静な冠典ゼリィ先輩なら、理性的に私を上にするはずなのにね」
本部卒リコリスの制服に織り込まれた防弾防刃繊維は、爆発に対しても防御力を発揮する。
冠典ゼリィは分校卒ではあるが、本部卒の風待が身にまとう制服の対爆能力は、知識として理解しているはずである。
しかし、慣れない運動と慣れない修羅場のため、咄嗟にその自慢の学識が出てこなかったのだろう。裸体という、完全無防備な状態であるということすら忘れ、冠典先輩は自分を盾に後輩を守ろうとしたのだ。
人間は、極限の状況下に陥ると本性が現れるという。
普段は見勝手で我儘な先輩が、つい見せてしまった優しい本性。
身も心も子供のような先輩という評ではあるが、その実は、支部長に相応しい、本部リコリスを率いるに相応しい、指揮官として相応しい、立派な先輩だったのだ。
だからこそ、風待も、臥観手ルミナも、代々の諸咲リコリスも、皆この万年サードの支部長に付いていったのだろう。
とはいえ、ダイナマイトが爆発する直前のこの状況下では、何度捕まえてもすぐ上に乗ろうとするゼリィ先輩のこの行動は、風待にとっては迷惑千万以外の何物でもなかった。
「どれだけ押さえつけても、ウナギのようにぬるっと逃げ出すのよあの先輩。普段は体固いのに、なぜかこの時だけは生きたトコロテンみたいな動きをしていたわ」
本人たちだけが必死のコメディを繰り広げているうちに、導火線の火がダイナマイトに到達する。
銃撃戦に自信のないゼリィ先輩が、ひそかに作っていた自作武器。台所で調合した謎の爆薬を、台所にあったラップの芯に充填して作ったというダイナマイトもどき。不真面目な人間が作ったにしては生真面目に爆発したダイナマイトは、周囲の空間のすべてを、甲高いが重く響く爆音を従者として、押し潰すかのような強い爆圧で吹き飛ばす。
「筒が厚紙だったから爆片がなかったのが救いだったけど、それでも先輩手製の爆薬の威力はすごくてね。どちらが上になるかゴロゴロ転がっていた最中に爆発したから、二人とも吹き飛ばされてしまったわ」
「爆発オチってやつですね」
「付近のビルの窓が割れたりと、周辺の被害は大きかったけど、私は対爆仕様の制服のおかげで無事だったわ。ゼリィ先輩は軽かったから吹き飛ばされてしまったけど、天才だったからひどいケガはしなかったのよ」
「天才って、便利な言葉ですね」
その後、周辺地域はパニック状態に陥ったが、二人はこの状況を逆に利用し、現場から撤収したという。
全裸の少女を担いで走って逃げる制服少女という、本来ならあまりに目立つ二人のはずだが、爆煙によって煤色に汚れたその姿は、爆発事故の被害者のように見えたのだろう。名古屋支部のセーフハウスに逃げ込むまで、二人を奇異な目で見る市民は一人もいなかった。
「その後に、ダイナマイトはターゲットが持っていたってことにして、名古屋支部へ結果を報告したんだけど、その時にゼリィ先輩が、私のミスも上手に取り繕ってくれたのよ。助けに来てくれたことも相まって、しばらくはゼリィ先輩に頭が上がらなかったわ」
「全裸になって突入してくれたんですからね、確かに頭上がらないですね」
「けど、ゼリィ先輩は特に気にしていなかったのよ。さすがに当日は恥ずかしかったのか、その日の夜は部屋の柱で爪を研いだり、畳の目を数えたりしていたけど、翌朝にはぴたりと収まっていたわね。よく考えてみたら、部下を助けるために全裸でブッコミいれるのはこれで三回目だから、さすがに慣れたわな。って勝手に納得しながら、笑顔でどんぶり飯を食べていたわよ」
「裸になって後輩助けに行ったの、何回もあったんですね」
支部長って大変なんですね、とスギナは素直な感想をつぶやく。
「私以外にも、同じような失敗をやらかしちゃった諸咲リコリスが何人かいたんでしょうね。まあそれに比べれば、今回のスギナのフォローなんて簡単な方だったから、今夜のことはあまり気にしなくていいわよ」
けど次からは、同じ失敗をしないよう気を引き締めていきましょうね、という風待の言葉に、スギナはうなずく。
「私も、初めての失敗の後は、同じ過ちを繰り返さないよう心に誓ったものよ。痩せ愛知リコリスの七ヶ条の一つ、凍った天白川よりも冷静になれ。この言葉を常に忘れず、その後は平常心を心掛けて任務に当たっていたわ」
「さっきは庄内川って言っていましたよね、それ」
「おかげで次からは同じ間違いを犯さず、いかなる仕事でも冷静になることができたわ。ゼリィ先輩の冷たい演算戦に従って動く、冷たい牙になることができたの。いつしか私とゼリィ先輩とのバディのことを、皆はこういう異称で呼ぶようになったわ。冷たい梅ゼリーってね」
「ぶっふおおおぉ!」
こらえきれず、スギナが噴き出す。
「ちょっとスギナ!そこ笑うところじゃないわよ!」
「だって…だって、そんなあだ名いきなり聞かされたら、誰だって…ぶふふふっ!」
長い待機任務で凝り固まったスギナの腹筋が、いきなり直撃した笑いのツボによって激しく動き出す。
笑えば笑う程、腹部が痙攣しそうになるほど痛くなるのだが、それでも一度入ってしまった笑壺を止めることはできない。
「ふふふ…ごめんなさい先輩。ふふっ、冠典先輩と風待先輩の下の名前を、そのままつなげただけってのはわかるんですけど…ぶふふふっ、梅ゼリーって…梅ゼリーって…ふひひっ」
ふひひとか言いながら、両手でお腹を押さえ、苦しそうに笑うスギナ。
「それも…冷たい梅ゼリーって、ふふふっ、すごく美味しそうで…。そういえば諸咲のスーパーに売っていましたよ梅ゼリー!明日お買い物の時に、ついでに買っていいですか?」
最近暑いですから、デザートにちょうどいいですよとか、この時期に食べると美味しいと思いますなどと力説するスギナ。今まで空腹に気が付かないほど精神が張り詰めていたスギナだったが、笑って気が緩んできたのだろう、食欲が出てきたようだ。
話の想定外のところで笑いが起きたことには少し不満げな風待だったが、スギナの気が晴れたことには安心したようだ。自然と風待の表情も笑みの色に変化していく。
「そうね、帰ったら一緒に食べましょうか、梅ゼリー。私も久しぶりに食べたくなったわ。梅とゼリーって、意外と合うのよね」
「最高の組み合わせですよ!他のどの組み合わせにも負けない、絶妙の味ですよ!」
梅とゼリーの相性の良さを、なぜか強く力説するスギナ。風待は少しいぶかし気な顔でその言葉を聞いていたが、やがて言外に込められた意味に気が付くと、そっとスギナの手に指を絡め、ありがとねと小さな声で言う。
しばらく、二人は無言で歩く。雨の中、手をつなぎながら。無言で、心を通わせながら。お互いの体温を感じるほど肩を近づけ、仲良く歩く。
能積駅に続く道の途中から左に折れ、しばらく西方向へ歩く。やがて近城西橋から延びる大きな道に出ると、再び二人は北へ進む。
この近辺は、右手側はサッカー場や球技場公園などの運動施設が並び、左手側は自然保護で有名になった富士前干潟が続いている。
二人が目指す場所は、右手側にある野球場公園。グラウンドというより、野球もできる空き地と言った方がふさわしい、素朴な公園。
昼間も人気が少ないだろうその公園の隅にある、小さな屋根付きベンチに、二人はお菓子が入った袋を置いてきたのだ。
干潟に落ちる雨の音が意外と近くに聞こえる夜の道を歩きながら、風待が右手側を見て、少しだけ足を止める。
風待の目線の先には、明々と夜を照らす自動販売機があった。
どのような時間帯でも変わらずに、明るく輝く販売機。スポーツを楽しむ人々や、近くの工場で働く方たちの需要を当て込んだ、絶好の立地条件の場に設置された自動販売機は、今は無人の周囲を照らすだけの置物と化し、一人寂しく雨の中に佇んでいる。
「スギナ。そろそろ飲み物も買っていかない?」
雨宿りの場所が決まるまでは荷物になるかもしれないけど、この辺りって自販機少ないからね、との風待の言葉に、スギナは首を縦に振る。
「いいんじゃないですか。あの自販機ってDAのスマホ決済できるタイプですし、種類も多いから、ここで買っちゃいましょう」
意見が合った二人は、手をつないだまま自販機に足を向ける。
「先輩は何買います?」
「とりあえず、ペットボトルの飲み物ね。無くなったらまた買えばいいんだけど、朝まで雨やまないから、何回かに分けて飲めるペットボトルタイプは基本よ。あとは、甘い飲み物は候補から外しましょう。甘いお菓子はいっぱいあるからね」
ただ飲み物を選ぶだけなのに、大作戦の要点を説明する参謀のような生真面目な顔で風待は語る。
「となると、候補としては緑茶か麦茶、あるいは烏龍茶ですね」
「カフェイン含有量も考えたほうがいいわね。これから朝まで、私たちは徹夜で籠城するのだから」
真剣な表情で語り合う二人。遠足のおやつを買う時のようなテンションである。
いや、今の二人にとっては、遠足のおやつのようなものなのだろう。作戦も終わり、後は朝までお菓子を食べながら、始発の時間を待っていればいいのだ。天気は悪いが、誰の監視も束縛もなく、外で夜更かししながら自由に過ごしていいのだ。気分が高揚しだすのも、むべなるかなである。
長々と悩んだ結果、二人はそれぞれ異なる種類の緑茶系飲料を購入する。
「そういえば、本部で私を毎回指導してくれたファーストリコリスの教官、墨田区に入ると自販機の使い方忘れてしまうんですよ」
自動販売機からペットボトル飲料を取り出しながら、スギナが思い出したかのように言う。
「なにそれ?」
「他の場所では普通に自販機で飲み物買うのに、なぜか墨田区のある地域の中だけは使い方を忘れるというか、リコリスは自動販売機使えないんだよ、とか言い出すらしいんです」
そのファーストリコリスのバディのセカンドリコリスが教えてくれた、少し不思議なお話。風待もその話に興味を持ったようだ。
「じゃあ、そのファーストって、墨田区で喉乾いたらどうするのよ」
「そうなんですよね。そのファーストの教官、自販機使えない地区にはいるたびに何故か激しい喉の渇きに襲われるみたいで、仕方なく近くの喫茶店に入るそうです。ノド乾いたから仕方ねえなとか、自販機使えないから仕方ねえなとか、聞こえるように呟きながら、いつも同じ喫茶店に入るそうですよ」
「なにそれ怖い」
深夜に語るスギナの思い出話が、怪談風に聞こえたのだろう。本気で怯える風待。
「それだけじゃなくて、墨田区で任務があった時は、まだ宵の口で電車も動いているのに、今日はこの近辺で泊まるっていいだすそうなんです。そして、また同じ喫茶店に行って、無理やり宿泊するそうなんですよ」
「…本当になによそれ。喫茶店の人も迷惑じゃない」
「不思議ですよね…」
怪談に見せかけた雑談を楽しみながら、ペットボトルを手に持ち歩き出す二人。そろそろ雨も本降りの兆しを見せ始めたため、自然と早足になる。
ほんのしばらく歩くと、左側の風景が緑地公園に変わる。富士前干潟を隠すかのように続く木々が、光のない夜の世界に黒色のシルエットとなりそびえ連なる。
その緑地帯の向かいに、スギナたちが目指す野球場公園がある。
野球もできる広さの、何もない公園。野球もできるというアピールをするために作られたかのような、小さなベンチ。鉄パイプと防水シートでできた小さな屋根の下に、長イスが2脚置かれているだけの、簡素なベンチ。
近くにある大きな球技施設とは比べ物にならない、地味な公園。しかし、地味だからこそ、二人はここを、名古屋支部本館で奪い取ったお菓子を入れた袋の隠し場所に選んだのだ。
夜間は施錠されている、背丈以上のフェンスで囲まれている公園。しかし、一区画だけ、フェンスの高さが胸元程度しかない場所がある。
二人は周囲に人がいないか確かめながらその場所まで行くと、一息でフェンスを飛び越え公園の中に入り、足跡を残さないよう気を配りながらベンチまで移動する。
ベンチの天井部分、雨除けのシートを支える鉄パイプの内側に吊るした菓子袋が、置いてきたときそのままの姿で佇んでいるのを見た二人が、軽く安堵の息をつく。
吊るした袋の持ち手と鉄パイプの間に一本だけ挟んだスギナの髪の毛も、地面に落ちずそのままの位置にある。放置してから数時間の間、誰もこの袋を触ることがなかった証拠だ。
「ちょっと遠かったですけど、ここに隠して正解でしたね」
「そうね。あとは雨が本降りになる前に、このお菓子をのんびりと食べることができる場所を探すだけね」
どこにしようかしらね、と呟きながら、風待は雨空を見上げる。
風待は、脳内に書き込まれた精密な地図を瞼の裏に広げ、周辺の地理を検索しているようだ。
「ただ、この近辺って、意外とゆっくりできそうな場所はなさそうなのよね。最初は駅の切符売り場か、駅近くの屋内駐車場かなと思っていたけど、どちらも狭いし、人が来るのよね…」
二人が落ち着いて夜を明かす場所は、ただ雨をしのげさえすればよいというわけではない。座って体を休め、ぼんやりとお菓子を食べながら朝を待つことができる場所。周囲が騒がしくなく、人が来ることがない場所を選ばなければならないのだ。
スギナも風待も、数時間の任務で精神は疲弊状態にある。できることなら、駅や駐輪場といった、人の動線内での休憩は避けたかった。
「マンションのエントランスも人通りはあるだろうし、工場裏は警備の人が巡回していたら面倒だし…困ったわね」
「じゃあ近城橋下の歩道にします?あそこなら人少なさそうですし…」
スギナも、少し精度の怪しい脳内地図を頼りに、雨宿り場所の候補地を探す。
「できれば歩道も避けたいわね。それに、またあの場所まで戻るほどの時間もなさそうよ」
空を見て話す風待の言葉につられ、スギナも上を見る。
雨空が二人の視線を感じたのだろうか。スギナが上を見るのと同時に、雨が急激に勢いを増す。
田舎の電車なら、雨量規制で運行停止を検討するかもしれないほどの本降りの雨。今夜の雨雲は、心底意地が悪いらしい。
「あー、ついに本格的に降ってきましたね。どうします先輩」
「こうなったら、この近辺で、最良な場所を選ぶしかないわね。朝まで人が近寄らなくて、雨がしのげて、ゆっくりできて、椅子があって、少しぐらい話をしても誰にも聞こえなくて、できれば近くに公園のトイレがあって…あっ」
風待の口から出る要求は多かったが、聞いていたスギナは、ふとあることに気が付く。
風待も、話している最中に気が付いたのだろう、述べる言葉を途中で止める。
灯台下暗し。
二人が夜を明かすのにふさわしい理想の地は、意外な場所にあった。
「ここじゃん」
「ここですね」