モブリコ辺境暦   作:杖雪

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7月 モブリコ寿司本日開店 ③

「…すごく、モブです」

 

 思わず率直な感想が口に出てしまうスギナ。

 

「まて、だれがモブだ!」「さいしょのセリフがそれか!」

 

 風待の背後にいる、歌島リコリスの二人が騒ぎ出す。

 

 それもそうだろう。出会い頭に突然モブ認定されて、怒らない人間はいない。

 

「ごめんなさい。お二人があまりにモブだったので、つい…」

「いや、最高のご挨拶だったわよ」

   

 あわてて謝ろうとするスギナを、風待が戸の外から止める。

 

「さっき私が言った意味、わかったでしょ。彼女たちはモブの中のモブ、簡単作画の背景モブだって」

「はい」

 

 本人たちを目の前にして、素直にうなずくスギナ。悪意はない、たぶん。

 

「風待おまえ新人にどんなしょうかいしていたんだ!」「どうせわるくちいっていたんだろう風待!」

 

 さらに大きな声で騒ぎ出す歌島リコリス。

 

「まあ口が悪いのは諸咲リコリスの伝統だから、二人ともあんまり気にしちゃダメよ」

「くちがわるかったのおまえだけだったぞ風待!」「おまえとかんてんゼリーだけだったぞ!」

 

 店内に入ろうとせず、扉の前でうだうだ話し続ける歌島リコリスと風待。

 

「あの…少しいいですか」

 

 戸を開けたまま騒いでいると、エアコンの冷気が逃げてしまいます。このまま外で話し続けていただいてもかまいませんので、とりあえず戸を閉めますねと三人に断りを入れて、引き戸を閉めるスギナ。ぴしゃりと小気味よい音がして、戸が閉められる。

 

「ちょっと待ちなさいスギナ!なんで私まで追い出すのよ!」

 

 あわてて風待が引き戸を開ける。

 

「はははいいぞ新人!」「おまえもおいだされてしまったな風待!」

 

 スギナの行動がツボに入ったのか、歌島の二人は笑いながら店内に上がり込み、スギナの顔をまじまじと見つめる。

 

「たしかにすごくかわいいこだな!」「風待がまいばんれんらくしていたとおりだな!」

 

 二人の両手が、スギナの顔に伸びる。

 

「かわいいタヌキがおだな!」「しょうらいはびじんさんになるぞこれは!」

「あ…ありがとうございま、うじゃぐじゃ」

 

 二人の歌島リコリスの両手が、スギナの頬を挟み込むように触れる。突然顔面を強く撫でられ、固まるスギナの頬を、4本の手のひらが、つきたての餅を捏ねるかのように揉みはじめる。

 

「セノカにもにているかな!」「あいつもかわいいこだったな!」

「わたし…セノカさんの代わりじゃ、ぷしゅううぅ」

 

 去年風待の隣にいた少女、セノカ。彼女と比較対象にされたくないスギナは、頬を膨らませ怒りを表そうとするのだが、顔を強く捻くり捏ねくりされているため、思うような表情ができない。

 怒りで頬を膨らませるたびに手の平で揉まれるため、空気口の開いた風船のように唇から空気が漏れてしまうのだ。

 

 言いたいことがあっても、顔面のデザインが変わるほどいじられ、捏ねくり回されていては、何も言えない。

 

 友人宅に遊びに来た学生たちが、部屋にいた飼い猫を撫で回すかのように、スギナの顔を触りまくる歌島の二人。

 自宅に上がり込んできた飼い主の友人たちによって、無遠慮に撫で回される飼い猫のような扱いを受けるスギナ。

 

 悪気のない無邪気な玩弄は、果てしなく続く。

 

「はいはいそこまで。二人ともやめなさい」

 

 スギナの顔面の輪郭が崩れそうになる寸前、ようやく風待のストップが入る。

 

「かわいい子だから撫でたくなるのもわかるけど、まずは自己紹介からね」

「それもそうだな風待」「じゅんばんはだいじだな風待」

 

 よくわからない翻弄からようやく解放されたスギナは、改めて二人の顔を見る。

 

 モブだ。

 それ以外に言いようのない、素朴で素直な二人の顔。どこにでもいそうな顔だ。

 

 簡単作画だ。

 それ以外に語りようのない、簡易で簡便な二人の顔。誰にでも描けそうな顔だ。

 

 基本的には、可愛い二人だ。よく見れば、普通の二人だ。

 けど何だろう。この人畜無害な感じは、この緊張感のない感じは。

 

 リコリスの癖で、スギナは二人の人着を観察する。

 

 観察といっても、本部卒リコリスが学んでいる公安式の人相記憶術ならば、数秒見つめるだけで特徴を分類し記憶整理できる。

 顔と体の輪郭、目鼻口耳、皮膚の状態、服装髪型、話し方。記憶を終えたスギナは眼前の二人ではなく、心の中で分類された二人のパーツに注目する。

 

 ああなるほど、と脳内の分類データを読み解いたスギナが一人納得する。

 

 違和感の正体。リコリスっぽくない彼女たちの雰囲気は、顔の純朴さだけではなく、髪型と服装から来ていたことに気が付いたのだ。

 

 ショートともボブともつかない、微妙なヘアスタイル。どちらも同じノンパーマのナチュラルスタイルなので、おそらく二人で交互にカットしあったのだろう。

 

 DA本部では、髪形は常に整えておくように注意されていた。本部リコリス候補生のころは、スギナのような底辺サードでも、施設内の美容師が毎月フェイスタイプに合ったカットやヘアダイ、セットをしてくれていた。

 今でも名古屋支部に行く用事があるときは、帰りに必ずDA指定のヘアサロンに行くよう指示されているほどだ。

 

 服装も違和感がある。

 

 歌島の二人が着ているのは、スギナと同じサードリコリスの制服。薄黄色の生地でできた制服のデザインは同じなのだが、彼女たちが着ている制服は、スギナの制服と違い、ボディラインに合っていないのだ。

 

 おそらく普通の学生の制服の様に、サイズごとに分けられただけの量産品があてがわれているのだろう。もしかしたら、成長を見通して一回り大きなサイズが支給されていたのかもしれない。

 

 スギナや風待が着ている本部卒リコリスの制服は、全員が一見同じ既製品に見えるが、その実は各自採寸されたアルタモーダである。本部卒リコリスのそれぞれのスタイルや印象に合わせた制服は、一目ではわからない細かな場所で個人差がある。特にショルダーラインやステッチ、トリミングのデザイン、エボーレットやカフストラップ、ストームフラップのサイズなどは、全員が異なっており、隠れた個性となっている。

 

 個別のパーツとディテールを、DA専属クチュリエが綿密に設計し、ディオール直系のHラインデザインを精密に構築した本部卒のシルエット。これこそが、リコリスが持つ制服美の正体なのだ。

 

 噂では、東京のどこかにいるという伝説のリコリスとそのバディの制服デザインは、レングスすら異なるという。

 

 脚部への防弾性を考慮した結果、リコリスのレングスにバリエーションはなく、全員が膝丈であるニーレングスと定められている。しかし、この噂のリコリス二人組だけは、太腿丈であるサイハイレングスだという。

 

 なぜこの二人だけが、これほど個性のある制服を与えられているのかは謎である。それだけ実力があるのかもしれない、司令がこの二人に甘いだけかもしれない、いろいろ推察はされているが、元が単なる噂である以上、明確な答えはない。ただ、二人ともすごくその制服が似合っているらしいよという言葉で、いつもこの噂話は締めくくられている。

 

 スギナと風待の制服は、その噂のリコリスほど個性的ではないが、それでも自分の特徴に合った特注仕立てである。

 

 しかし、歌島リコリスたちの制服には、それがない。

 

 それなりに可愛いが、よくある顔、適当に切った髪、量産品のような制服。

 思い返せば、先月にスギナが名古屋支部で見た分校リコリスたちも、同じような感じだった。

 

 100名の分校リコリスで埋め尽くされていた名古屋支部本館ロビー。あの時は人数の多さで圧迫されていたが、彼女たちもこのように個別で見ると、目の前の歌島の二人のような素朴なリコリスだった。

 

 スギナは先月記憶した100名の分校リコリスの顔を、その中にいた岡碕支部の瑞碧生(みずあおい)コナギの顔を思い浮かべる。

 コナギの雰囲気、そして彼女たちの雰囲気は、普通の少女のようだった、普通のモブのようだった。

 

 考えてみれば、本部リコリスと分校リコリスは、主な役割が異なっている。

 

 武装した敵の正面に立ち、毅然とした姿ですべてを制圧する本部卒リコリスと違い、分校卒リコリスは巡回と暗殺がメインである。

 目立たず、威圧せず、市内の風景に溶け込み黙々と巡回監視を続け、誰にも気づかれず暗殺をこなす分校リコリスにとって、衆目を集める制服美など邪魔なだけである。

 

 普通の学生のように制服を着こなし、一般の少女のような顔でいること、これが分校リコリスの理想的な外見なのかもしれない。

 

 そう思えば、目の前の二人の印象は変わってくる。

 

 よく見ると、彼女たちは風待先輩より少し年上のようだ。

 ずっと離島勤務だったとはいえ、リコリスとしての経験は積んでいるはずだ。

 それならば、今の二人の無個性さは、分校リコリスとしての彼女たちなりの答えなのかもしれない。

 

 モブだからといって、軽く見てはいけないなと、スギナは歌島の二人の顔を見て考える。

 

 スギナがぼんやりと二人を見ている間、彼女たちもスギナの顔を見ていた。じっと見ていた。

 

「あっ、ごめんなさい、ついお顔ばかり見ていました」

 

 意外と長い間二人を見つめていたことと、その間自分の顔を見られていたことに気が付いたスギナが、慌てて二人に謝る。

 

「諸咲リコリスが歌島リコリスをのぞくとき」「歌島リコリスもまた諸咲リコリスをのぞいているのだ」

 

 歌島の二人はよくわからないことをつぶやきながら、スギナの制服に触れる。

 

「やはりさいぶがさいこうちくされているな」「ブラウスのデザインもちがうぞ」

 

 彼女たちも、スギナと同じく相手の制服が気になっていたようだ。

 

「ブラウスのえりのぶぶんでもこせいをだしているな」「風待とはちがうえりばねだな」

 

 二人の観察眼は確かなようだ。

 

 スギナの着ているブラウスのカラーは、彼女の顔に合わせたラウンドカラー。襟の剣先が丸く、柔らかな雰囲気のラウンドチップデザインである。対して風待のブラウスは、バリモアに近いアーチドカラー。スギナとは違う固い雰囲気のカラーは、セカンドリコリスである風待の、落ち着いた雰囲気によく調和している。

 

「ほんぶそつはせいふくのシームもちがうな」「セノカもルミナもこんなかんじだったな」

 

 モブのような姿とはいえ、二人ともやはり女の子である。鋭敏なデザインで再構築された制服の仕立てに、かなり興味があるようだ。

 

「しかし新人ってことはまだせいちょうきなんだよな」「このせいふく、せがのびるたびにしたてなおすのか?」

「はい、背が伸びきるまでは、三カ月に一回、名古屋支部に行って立体採寸と服の交換をするように言われています。それ以外にも、いろいろな部分がきつくなってきたら、臨時で作り直すからすぐ報告するようにと…」

「もったいないはなしだな」「DAはかねのつかいかたがおかしいとおもわないか、なあ…えっと」

「あっ、私、スギナです。筑詩スギナっていいます。よろしくお願いします」

 

 やっと自己紹介ができたスギナ。

 

「スギナか、いいなまえだな」「わたしたちのなまえもかっこいいぞ。よくきけよ、わたしは…」

「よく聞かなくてもいいわよスギナ。こいつら大した名前じゃないから。えーと、右がメカブ子、左がモズク子よ」

 

 風待が会話の横から割り入って、スギナの耳に適当なウソを吹き込む。

 

「メカブ子さんに…モズク子さんですか。変わったお名前ですね」

「よこからなにいいやがる風待!」「スギナがウソをしんじてしまっただろうが!」

 

 再び騒ぎ出す歌島の二人。本当に騒がしい人たちだ。

 

「…わかりますよ。メカブ子さん、モズク子さん」

 

 うるさい二人に静かな笑みを向けて、スギナが答える。

 

「自分の名前に納得いかないお二人の気持ち、私にはわかります。私だってこんな…雑草の名前つけられていますし」

「いや、ちがうのですよスギナさん」「わたしたちのほんとうのなまえはですね…」

「メカブにモズク、美味しくていいじゃないですか。私はそのお名前、全然変には思いません。逆に一周回ってカッコいいと思います。お二人は名前に負けていない、メカブとモズクにふさわしい、立派なサードリコリスです!」

 

 メカブとかモズクは、三個パックになったのをスーパーでたまに買っています。三陸産とか沖縄産とか、いろいろ売っていますよねなどと、相手に寄り添い気遣おうとする真摯な心で、二人に語りかけるスギナ。おそらく本気である。

 

「うわ、ダメだ。ぜんぜんひとのはなしきいてねえ!」「どうにかしてくれ風待!」

「はい、お名前のご紹介も無事に済んだことだし、お食事にしましょう。席はこちらですよメカブ子さんモズク子さん」

 

 風待はこの状況を適当に終わらせると、歌島の二人をテーブル席に案内する。

 

「今日のお寿司は、あなたたちを御招待するために全部スギナが握ったのよ。美味しく食べて、優しく評価してあげてね」

「おおそれはうれしいな」「さっそくいただくとしようか」

 

 今までしていた話をあっさりと切り上げ、喜びながら席に着くメカブ子とモズク子。名前はもうそれでいいのだろうか。

 

 スギナと風待は、食事の準備にとりかかる。

 

 寿司桶とアナゴの白焼きの皿は、すでにテーブルに並べている。風待がお茶と箸を用意している間、スギナは蒸し器から茶碗蒸しを取り出す。

 味噌汁と茶碗蒸しは、お客様が到着してから配膳しようと最初から決めていた。暑い夏の最中ではあるが、この二つだけは熱い状態で食してもらいたい。

 火は消していたとはいえ、料理用手袋をつけなくてはまだ熱くて触れない茶碗蒸しを慎重にお盆に並べ、椀によそった味噌汁と一緒にテーブルまで持っていく。

 

「お茶どうぞ」

「おちゃどうもだぞ風待」「どうもだぞ風待」

 

 スギナの横で、風待も茶と割り箸を並べる。

 割り箸の包み紙には、司寿こりぶもと、大きな肉筆の字が印刷されている。躍動感のあるこの墨跡は、外の暖簾と寸分たがわぬ筆致である。

 

 テーブルに並べられる、本日の寿司会席。

 

 メインの寿司桶には、アナゴが2カン。シマアジ、クルマエビ、マグロ、イカ、タコ、玉子が各1カン、計8カンの握り寿司を中心に、鉄火巻きとカッパ巻きが3つずつと、ウニと塩辛の軍艦巻きが各1つ。

 

 焼き物はアナゴの白焼。脇には飾り切りにした玉子焼きと、アナゴの肝の醤油焼きが添えられている。

 

 続いて並べられたのは、茶碗蒸し。中には具材として、アジとイカの切れ端が入っている。

 

 最後に置かれたのは、赤味噌のお味噌汁。具は豆腐とワカメだけだが、クルマエビの頭で出汁を取っている。汁に溶け込んだ海老味噌の濃厚な甘みと香りが、飲む前から椀前に漂っている。

 

 配膳を終えたスギナと風待が、二人が座るテーブルの向かい側に座る。

 

「どう、スギナの努力の結晶は。今日の開店日のために、4月からずっと練習を重ねてきたのよ」

「みためはすばらしいぞ」「よくさんかげつでここまでせいちょうしたなスギナ」

 

 歌島の二人の感想を聞くスギナの背筋に、緊張からくる冷気がわずかに走る。

 

 これから始まるのは、歓談会であると同時に、私の料理の批評会。

 朝から準備したこれらの料理が、一口食べられるごとに、素直なレビューとなって口から出てくるのだ。

 

「けどわたしたちあじにはうるさいぞ、ひょうかはからくちだぞ」「まいにち歌島でまかないりょうりたべているから、したはこえているぞ」

「賄い料理?」

 

 スギナが思わず聞き返す。

 

「そうよ、彼女たちは歌島の小さな一軒家で暮らしているんだけど、離島支部って日々の食糧調達が大変だから、毎食近くの旅館で賄いをいただいているの。その代わり旅館の掃除や調理、布団出しとか手伝って、持ちつ持たれつ暮らしているそうよ」

「いいんですか。リコリスがそこまで一般人に近づいて」

「DAの許可は下りているみたいね。離島の分校リコリス相手に、わざわざ敵対者はやってこないって判断らしいわ」

「たいていのりとうしぶはこんなかんじだぞスギナよ」「それではいただくぞスギナよ」

 

 おもむろに頷いてから、おもむろに箸を取る二人。

 

「ち、ちょっと待ってください!」

 

 思わず叫ぶスギナ。かなり必死さが見えた声色に、二人の箸が止まる。

 きょとんをした顔でスギナを見る二人。モブ顔がますますモブになる。

 

 しまった。どうしよう。スギナの心に焦りが走る。

 

 歌島支部の二人が、料理に詳しい人物だとは思ってもいなかった。完全に想定外だった。

 

 島では、大した食事はしていないだろうと、甘く考えていた。

 道に落ちている変な木の実とか、浜辺に落ちている乾いた海藻とかを食べて暮らしているとばかり思っていた。

 

 まさか、旅館での調理経験があるなんて、まったくの予想外だった。

 

 旅館の賄い料理を毎日食べていると言っていた。二人が言うように、舌は肥えているのだろう、味にはうるさいのだろう。

 

 どうしよう。

 今の自分の腕には、正直自信はない。

 

 とりあえず、二人が箸をつける前に、料理の未熟さを謝っておこう。

 

「あの…」

 

 スギナは、言い訳をするために口を開ける。

 

 しかし、ふと風待の語ったある言葉を思い出し、開けた口をすぐに閉じる。

 スギナは無言のまま、目線を下に落とし、自分の作った寿司を見る。

 

 頑張って作った寿司。

 努力して握った寿司。

 

 形は不揃いだが、精魂込めて作った作品が、目の前にある。

 

―胸を張ってお寿司を出しなさい。クリエイターならば、たとえハッタリでもこれが最高傑作ですと言って作品を提供するのは大事なことよ。卑屈な態度で作品を出すのは、受け取る側にとっても、作品にとっても失礼なことだということを、よく覚えておいてね―

 

 かつて風待が語った言葉が、スギナの脳裏に響く。

 

 そうだ、言い訳は、してはいけない。

 

 堂々と作品を見せなければ、歌島の二人に失礼だ。

 胸を張って提供しなくては、私の作品達に失礼だ。

 

 この作品は、先輩と二人で、必死になって築き上げた成果だ。

 この料理は、先輩と二人、不断の努力で頑張ってきた結果だ。

 

 言い訳は、しない。

 

 目の前のお料理は、今の私の最高傑作だ。

 

「なんだスギナ?」「どうしたスギナ?」

 

 動きが止まった二人の頭に、小さなクエスチョンマークが点滅している。

 

「いえ、その…そ、そうですね、最初に食べるお寿司を決めかねているのなら、アナゴから食べてみて下さい!」

 

 迷いの出た心を誤魔化すため、大きな声を張り上げるスギナ。

 

「いやべつにまよってはいないぞ」「けどアナゴだな、わかったぞスギナ」

 

 停止から解除された二人は、笑顔でアナゴ寿司をつまみ、口に入れる。

 

 スギナが煮たアナゴ、スギナが握ったアナゴ寿司を、おいしそうに頬張る二人。

 二人は同じ動作でアナゴの握りを食べ終えると、同じ動作で箸をおく。

 

 テーブル下で、スギナが両の拳を握りしめる。これから二人が語る感想を受け止めるべく、全身に力を込める。

 

 しばらくの沈黙の後、二人の口が開く。

 

「とてもおいしいぞスギナ!」「すごくおいしいぞスギナ!」

 

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