モブリコ辺境暦   作:杖雪

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7月 モブリコ寿司本日開店 ⑩

 午後の日差しが射し込む古いアパートの一室に、クーラーの音と扇風機の音が微かに響く。

 クーラーが送り出す単調な風の音と、首を振りながら周囲に風を送る扇風機の規則的な音の上に、細かい氷が砕ける音が伴奏のように重なる。

 

 冷蔵庫から出したばかりで、まだ硬いのだろう。メカブ子は真剣な目で、手に持ったかき氷風カップアイスにスプーンを何度もつきたてる。

 

「ルミナのこえも、ひさしぶりにきいたぞ。げんきそうだったな」

 

 やっとスプーン一杯分のかき氷をすくうことができたメカブ子が、幸せそうな顔で冷たい塊を口にする。

 炎天下の中思う存分運動し、シャワーを浴びた後のかき氷だ。さぞ美味しいのだろうなと、横目で見ていたスギナは思った。

 

 再びスプーンでかき氷を削る硬質な音。その奥に聞こえるのは、モズク子がシャワーを浴びる水の柔らかい音。小さな音が重なり聞こえる、穏やかな午後の音。

 

「やっぱり怒ると怖いわね、ルミナ先輩って」

 

 着ていた制服を畳の上に広げ、内側を濡れタオルで拭きながら風待が答える。

 

 スギナと風待は、歌島の二人がシャワーを浴びている間、制服の手入れをしていた。

 

 通気性の悪い本部卒用の制服は、普段でも汗や体の匂いが籠りやすい。本部内にある制服専門のクリーニング設備で定期的に洗浄してもらっていたDA訓練生時代でさえ、誰の制服かは見た目でなく匂いで判断していた程、体臭が残ってしまうのだ。  

 普通の洗濯機では洗えない特殊素材の制服。近所のクリーニング店に出すことができない国家機密レベルの素材でできた制服。外出のたびに大量の汗をかくこの時期の制服を清潔に保ち、体の匂いの付着を少しでも抑えるためには、着用後のこまめな清掃は欠かせない。

 

 スギナと風待は、下着姿のまま制服の内側をアイロンがけするかのような動作で拭いている。客人の目の前では失礼な姿であるが、メカブ子は特に気にしていないようだ。

 畳の上で胡坐をかき、美味しそうな顔でイチゴ味のかき氷を食べるメカブ子。先に冷たいシャワーを浴び、持参したシャツとショートパンツに着替えたその姿は、つい先ほどまでコートの上で争っていた人物とは思えないほどくつろいでいた。

 

「そういえば、歌島の下宿ってどんな感じなんですか?」

 

 自分たちの居住空間に妙になじんでいるメカブ子に、スギナが語りかける。

 

「アパートじゃなくていっけんやだけど、こことまったくおなじかんじだぞ」

「あ、やっぱり」

 

 畳部屋に慣れている感じだな、と思っていたが、やはり自分たちの部屋と同じ和室のようだ。

 

「みなとからおかのうえのじんじゃにつづくながいかいだんがあってな、そこにわたしたちのいえがあるぞ」

「あの辺って歌島でも民家が密集している場所だから、一軒家って言ってもすごく小さいのよね」

 

 ひらがなばかりで読み辛いメカブ子の説明に、風待が補足する。

 

 風待は、支部長就任時に一度だけ、分支部の地理状況確認のため歌島を訪れたことがあるという。

 

「私たちが住んでいるこの下宿の一室を、山迫る斜面に重なるようにして立つ家々の隙間に、無理やり平屋造りにして押し込んだって感じの住まいだったわね。もう築何十年とたっているらしいから、かなりの骨董物件よ」

「うわさではせんごすぐたてられたいえらしいな。たんすとかのかぐはせんぜんからつかわれているらしいぞ」

「すごく歴史があるんですね…」

 

 素直に驚くスギナ。自分たちの住んでいるこのアパートも、一端の年代物だと思っていたが、上には上がいる。

 

「りとうしぶはたいていこんなかんじだそうだ。DAもじゅうようししていないからな」

「けど島民の皆さまが修繕とかしてくれていたから、年季の割には住みやすそうだったわよ。タンスの上には可愛いこけしさんもいたし」

 

 制服の内側をよく拭った後、ハンガーにかけながらメカブ子の言葉に付け足しの言を添える風待。

 

「こけしさん?」

「そ、こけし人形さん」

 

 風待はベランダに出ると、制服をかけたハンガーを物干し竿に吊るす。

 

「30センチくらいの大きなこけし人形でね。双関杯の優勝盾の押絵羽子板と同じくらい年季が入っていて、塗装とかだいぶ色褪せてはいたけど、それでもかわいらしいお顔だったわ」

「歌島しぶせつりつのときに、しまのざいほうをほりあてたしょだいの歌島リコリスが烏羽でこうにゅうしたそうだぞ。歌島しぶのまもりがみだぞ」

 

 誇らしげに語るメカブ子。

 

 歌島分支部の設立はいつごろなのかは分からないが、歌島と諸咲の支部対抗戦である双関杯が約160年前からあったことから考えると、明治初期の頃だろう。それから現在までの長きにわたり歌島支部に置かれていたこけし人形、メカブ子の言う通り歌島支部の守り神といっても、確かに過言ではない。

 

「歌島に配属された歴代の分校リコリスたちは、皆このこけし人形さんを大事にしていたそうよ。ただ飾っているだけではなくて、寂しい時とか悲しい時には話相手になっていただいたり、暇な時には一緒におままごとをしたりしていたそうよ」

「こけしさん相手に、ですか…」

「メカブ子もモズク子も、今もたまにやっているそうよ、おままごと」

「え? それって…」

 

 スギナの言葉が詰まる。スギナは無言のまま、カップに入ったかき氷を食べているメカブ子を見る。4歳年上の、メカブ子の顔を見る。

 

「いや…いいだろ…おままごとくらい…」

 

 羞恥で顔を赤くしたメカブ子が、カップを持つ手を下ろしうなだれる。

 

「メカブ子さん…それって」

 

 下着姿のスギナが、メカブ子のもとににじり寄る。

 

「メカブ子さん…それって…」

「うん…」

「それって…すごくうらやましいです!」

 

 心の底から純粋に、スギナがうらやましがる。羨望の目で、メカブ子を見る。

 

 驚いた表情で顔を上げるメカブ子の前に、スギナの顔が迫る。

 

「歌島支部って、おままごとOKなんですか!お人形遊びしていいんですか!うらやましいです!私も、すごくやりたいです!」

「お…おう」

 

 軽蔑されるかと思っていたら、逆に興味津々で喰らいついてきたスギナの態度に、逆に引き気味になるメカブ子。

 

「そうなのよスギナ、この二人って、離島支部なのをいいことに、二人でおままごと楽しんでいるのよ、ほんとにうらやましい話よね」

 

 ついでにスギナの制服もベランダに吊るしながら、風待が言う。

 

「下宿にお人形さんがあるのって、いいですよね。今の私たちでは、お人形さんは買えないですから、本当に憧れます!」

「規律が緩かった時代に購入して、代々受け継ぎながらこっそり遊ぶ。抜き打ちの住居点検がない離島支部ならではの裏技よね」

 

 DAは、リコリスたちの娯楽を徹底的に規制している。

 

 特にDA本部での訓練生時代は、遊びや趣味にふける行為は完全に禁止されていた。

 与えられた娯楽は、運動競技と閲覧許可の下りた書物の読書のみ。幼い少女たちが欲する遊び、おままごとやお人形遊びなどは、日常生活から排除されていた。

 理由は不明である。殺人を業務とする彼女たちに、穏やかな情緒を育む遊戯は不要と考えたのかもしれない。教えることが多い本部リコリス用カリキュラムをすべて詰め込むためには、無駄な時間を削る必要があったのかもしれない。

 

 スギナも風待も他の本部生も、DA本部内の生活区画で、少女らしい遊びを一切せずに育った。子供らしい趣味、女の子らしいコレクションなど、一切関係のない無味乾燥な生活を送り、無味乾燥なリコリスとなった。

 

 一人前のリコリスとなった今でも、遊興娯楽は規制されている。彼女たちにゆるされた遊びは、運動能力向上を目指したスポーツや、学力向上を目指した読書など、健全で前向きなものばかりである。

 

 DAが許可していない娯楽は、一律に禁止。本部附のエリートリコリスからから地方支部の分校リコリスまで、平等に禁止である。遊びのための玩具や、趣味のコレクションを所持することは、完全に禁止である。

 

 たとえ監視の目が届きにくい田舎支部や離島支部でも、娯楽のための玩具や遊具を買うことはできない。リコリスたちの日常の購入履歴は、すべてDA本部のコンピューターが管理しているからだ。

 

 地元のスーパーやコンビニで、食品や日用品と一緒にコレクションシールやおまけ付き菓子を買うと、その日のうちにDAから警告の通知が来る。

 たとえ民芸品や美術品であろうと、人形やぬいぐるみを購入すると、その日のうちにDAから再教育の連絡が来る。

 ぬいぐるみなどは、器用なリコリスならば自作するという手もあるが、それでも所持が発覚した場合、厳罰は免れない。

 

 一般学生として偽装するという名目で、身を飾るアクセサリーや鞄を飾る小物などはある程度許可されているが、リコリスたちの生活や余暇に潤いを与えるような愛玩用の品は、どこの支部の部屋であろうと置かれてはいない。常にDAの目を背中から感じる以上、どれほど欲しようと置くことはできない。

 

 子どもの遊びを知らずに育った、幼年時代。

 子どもの遊びを出来ずに育った、少女時代。

 子どもの遊びに目を背けて暮す、彼女たち。

 

 彼女たちは、飢えていた。

 

 かつてできなかった、子供の遊びに、飢えていた。

 

 たとえ十代半ばを過ぎようと、幼い子供のような遊びをしたい。

 たとえDAが禁止していようと、子供のようにお遊びをしたい。

 たとえこの手が血に染まっていようと、お人形に触りたい、ぬいぐるみを抱きしめたい。

 

 リコリスたちは、皆が幼いころから満たされなかった願望を持っている。満たされなかった思いを抱えている。

 どれだけ体が大きくなろうと、どれだけ人を殺していようと、リコリスたちの心には、消えていない幼女時代の自分が存在している。

 

 その幼いころの自分、幼いころの願望を、こけしさん相手のおままごとという方法で浄化させている歌島リコリスに、スギナと風待が羨望の思いを抱くのも、むべなるかなである。

 

「メカブよ、スギナとなにをはなしているんだ?」

 

 風呂場から、シャワーを浴び着替えを終えたモズク子が顔を出す。

 

「おおモズクよ、いまわたしたちのこけしさんのおはなしをしていたところだぞ」

「そうかメカブよ、わたしたちのこけしさんのおはなしをしていたところなのか」

 

 いつもこのような話し方なのだろうか、モズク子はメカブ子と緩い流れの会話をしながら、冷蔵庫からカップのかき氷を取る。緑色のかき氷、メロン味だ。

 

「メカブ子さんとモズク子さんが、歌島の下宿にあるこけし人形さんで、おままごとをしているってお話を聞いていました」

「おお、あれはいがいとたのしいぞ。そとでひまをつぶせないあめのひとかに、よくやっているぞ」

 

 少し恥ずかしがっていたメカブ子とは違い、モズク子はあっさりと答える。一見同じように見えるモブ顔でも、性格にはそれぞれ違いがあるようだ。

 

「こけしさんあいてにやっているのは、おままごとだけではないぞ。たとえば…」

 

 冷蔵庫から出したばかりで、まだ硬いかき氷風カップアイスに、モズク子はスプーンを何度もつきたてる。メカブ子と同じ動作でつきたてる。

 

「ふだんのせいかつのはなしあいてにもしているし、ねがいごとをいのったりもしているな。あとはケンカしたときのちゅうさいとか」

「喧嘩の仲裁ですか?」

「うん、ケンカしたときはあやまるのもきまずいからな」「そんなときはこけしさんにあやまるんだ」

 

 モズク子の言葉を、メカブ子が継いで説明する。

 

 二人だけの生活、日々変わらぬ島の生活の中では、些細なことから口喧嘩になることもある。

 

 原因が些細なことだけに、すぐに怒りの火は消えるのだが、仲直りしたいという気持ちや、謝りたいという気持ちを打ち明けるのは、すぐに言えることではない。

 そのようなとき、喧嘩を始めてしまった歌島リコリスは、こけしさんに謝罪する。相手に聞こえるように謝罪する。

 それを聞いた相手も、こけしさんに謝罪する。売り言葉に買い言葉を重ねてしまった事、自分も感情的になっていたことを、相手に聞こえるように謝罪する。

 

 こうして、喧嘩の仲裁は完了する。

 

 仲直りをして、笑顔と怠惰に満ちた生活を再開し始める二人。その静かな暮らしを、何も語らずに、ただいつも通りの微笑みで見守るこけし人形。

 

 明治の初めから、百数十年。

 明治の初めから、百数十人。

 

 長い年月にわたり、タンスの上から少女たちを見守ってきたこけしさん。

 

 どのようなお話にも、静かに付き合ってくれる、おかあさんのようなこけしさん。

 どのような遊びでも、優しく付き合ってくれる、おかあさんのようなこけしさん。

 

 いつも箪笥の上から見守っていたこけしさんは、歌島で暮らすリコリスたちにとって、まさに母親のような存在なのだろう。

 

 均一化された都市支部での生活環境とは違い、地方では、支部によって生活の色が異なっているという。

 歌島の生活は、こけしさんを中心とした、家族のような暮らしなのだろうなと、スギナは想像した。

 

 そういう目で見ると、歌島リコリスの二人は、双子の姉妹のように感じられる。

 雰囲気や話し方が似ているのも、歌島支部の家庭的な環境が影響しているのだろうかと、同じ所作でカップのかき氷を食べる二人をみながら、スギナは考えた。

 

「じゃ、私たちもシャワー浴びよっか。スギナ、どちらから先に入る?」

「先輩、先に入って下さい」

 

 まだ筋肉の奥に熱が残る汗まみれの体を、冷たい水で清めたかったスギナだったが、ここは風待に先を譲る。

 

 先ほどの羽根つきのマッチポイントの時、風待はスギナが取り出したフナムシを見てパニックになり、諸咲の果てまで逃走している。その分スギナより汗をかいているはずだ。

 

 反省の意も込めて風待に先にシャワーを浴びるよう勧めるスギナ。その意を知ってか知らずか、風待は素直に着替えを持って浴室に立つ。

 

 やがて聞こえるシャワーの音。シャワーノズルから出る水紐の弦による曲目のない演奏が始まるのを聞いたメカブ子とモズク子が、かき氷を食べる手を止める。

 

「なあスギナ、ちょっといいか」「すこしまえにきてくれ、はなしたいことがある」

「はい?」 

 

 改まった口調で言われ、ほんの少しだけ身を固くするスギナ。

 

 スプーンを持ったままの手で招き寄せるメカブ子とモズク子に、スギナはおずおずと近づく。

 何を言われるのだろうか、風待のいない部屋で、少し心細くなったスギナが、二人の前に正座する。

 

「いや、たいしたはなしじゃないんだ」「かしこまらなくていい、くつろいでくれスギナ」

「いえ、この方が聞きやすいので、お気遣いなく」

 

 疲れの残る体で正座をするのは少し辛いが、あえて脚を崩さずに答えるスギナ。

 

 制服もブラウスも靴下も脱いだ、下着姿のスギナ。くつろいでくれと言われても、股を開く胡坐座などできない。ましてや蒸れる制服に身を包みながら、激しい運動をした後なのだ。脇や股間は、なるべく閉じておきたい。

 

「そうか、それならいい」「まあ、ながいはなしじゃない」

 

 何の話だろうかと、背中に不安がよぎるスギナ。しかし、前に座る二人の目の光は優しい。どうやらフナムシを投げつけた件ではなさそうだ。

 

「せんげつのにんむは、たいへんだったな」「あれからおちこんだりはしていないか?」

 

 心配そうに話し出す二人。不安と緊張で閉じていたスギナの口が、小さく開く。

 

「あ…はい。任務中は色々ありましたが、今は大丈夫です。むしろ、私の失敗に先輩を巻き込んでしまったころが心残りで…」

 

 6月の雨の日の出張任務、新近城作戦。 

 

 作戦自体は成功の内に終了してはいるが、スギナと風待にとっては、この夜の任務は完全な失敗であった。

 

 大雨の中での待機中、降りしきる雨の音と通り過ぎるトラックの音に、スギナはパニックを起こしてしまったのだ。

 

 パニックの原因はスギナの過去、電波塔事件によって強く刻まれた深い心の傷。自分では制御できない侵入症状に襲われ、任務を放棄して現場から立ち去ろうとしたスギナを、風待は任務放棄とみなし射殺しようとする。

 逃亡する部下の射殺。上官として、支部長として理性的に果たさなければならない任務を、風待は遂行できなかった。愛するものを失う怖さが、上位リコリスとしての任務を阻害させたのだ。

 

 激情の波によって理性の堤を崩壊させた風待の泣き声は、今もスギナの耳に残っている。海岸に打ち上げられた貝殻の奥に揺蕩う波音の残響のように、スギナの耳に留まり続けている。 

 

 任務後に互いに語り合い、互いの過去を背負った後でも、あの時先輩を泣かせてしまったという後悔は、今だスギナの心に貼りついたままである。

 

「きにしすぎはよくないぞスギナ」「風待はきにしていないと、ていじれんらくでいっていたぞ」

「はい、先輩もそういってくれています。けど、あまりに大きな迷惑をかけてしまって…」

 

 正座した太腿に目を落としながら話すスギナ。

 

「こうはいはな、せんぱいにめいわくをかけるのがしごとだぞ」「わたしたちも、さいしょのにんむで、冠典ゼリィにすごくめいわくをかけたぞ」

「そうなんですか?」

「そうなんだぞスギナ」「きいてくれスギナ」

 

 おもむろにうなずきながら、重々しい顔で話し始める二人。

 

「あれはふにんしてすぐのことだ」「ゼリィとルミナが諸咲にいたころだ」

 

 メカブ子とモズク子が新人リコリスとして歌島に赴任した年の夏、名古屋で大規模なコスプレイベントがあったらしい。

 

 県内外から多くの人々が観光に訪れたこのイベントには、同じく県内外から多くの分校リコリスも監視のため訪れていた。

 

 イベントとしては大規模だとはいえ、各都市の夏祭りよりは小さな催し物ではあったが、数か月前から主催者宛に何回も届いた爆破予告の手紙、そしてイベント前日に、脅迫状と共に黒色火薬の入った小袋が入れられた封筒が届いたという情報を重く見た名古屋支部が、急遽中部地区のリコリスをかき集めたのだ。

 

 急な招集だったため、集めることができたのは、暇な地区の暇な分校リコリスばかりであった。せめてもの救いは、非常時用の切り札でもある諸咲リコリスが召喚できたことくらいである。

 

 そして、暇な地区の暇なリコリスとして、暇を持て余していた歌島支部の二人も、作戦任務の一員として呼び出され、名古屋の地に立つことになった。

 

「あれはすごいだいさくせんだったな」「なごやのまちをばくだんまからまもる、だいさくせんだったな」

 

 かき氷を食べながら話す二人。エアコンが効いているとはいえ、まだ体がほてっている時に食べるかき氷は、さぞ美味しいだろう。私も早く食べたいなと、スギナの意識は話よりかき氷の方に向かっていく。

 

「わたしたちはイベントのそとがわでみはっていたんだ」「そうしたら、とんでもないだいじけんにそうぐうしてしまったんだ」

 

 巡回と監視が主な任務である分校リコリスたちは、イベント会場となる商店街大通りやその周辺で見回り。戦闘能力の高い臥観手ルミナと実戦経験のある名古屋支部リコリス2名は、荒事に備え商店街近くにあるDAのセーフハウスで待機。状況の全体把握と各リコリスへの指示は、自称天才少女の冠典ゼリィと名古屋支部常駐の情報部職員が、セーフハウス近くに駐車した情報指揮車両から行う布陣。急遽作り上げた体制にしては、まずまずのところだろう。

 

 事件は、イベントの最中に起こった。

  

「わたしたちのめのまえに、きちくどもがあらわれたんだ」「げどうどもが、かよわいわたしたちをとりかこんだんだ」

「鬼畜? 外道?」

 

 

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