平塚先生好きです、でもさいちゃんのが好きですごめんなさい。
社会とは一般的に集団の塊だ。
あるいは周りを盛り上げるお調子者だったり、あるいは集団を纏めるリーダーシップを持った者だったり、あるいはどこへも属さず己の空気を大事にする者ーーー多種多様な人種の人間がより固まってできている。
人の数だけ個性は存在する。
ごもっともな意見だがその個性故に暴走を引き起こす馬鹿がいないとも限らない。
そうあるいは彼、
「囀二色、何故君がここに呼ばれたかは分かっているか?」
総武高校の国語教師であり生徒指導担当の平塚静その人がそこにいた。
囀二色は先日校内にて無断で許可なく授業をボイコットした上、廊下を激走しそのまま授業には出ず帰ってこないという事件を引き起こしたばかりだった。
「はぁ。ま、身に覚えはありますし認めますよ」
「なら問おう。何故そんな馬鹿なことを仕出かしたんだ?確かに君は学校内で噂になる程の不良だと言われているがそこまでのことをしたことはなかっただろう」
言っておくが不良になった覚えはないし教室では比較的おとなしい方だ。だがあの時は後先よりも彩加を喜ばせてやるということしか頭になかったわけで、謂わば物事を多彩な面で見切れる状態ではなかった。
よってこうなるのは仕方なかったわけだ、だからさっさと答えて見逃してもらおう。
「あの時は止むに止まれぬ事情がありましてああなったわけですんでこれ以上は勘弁願いたいんですが……」
「駄目だ。あるべき理由を述べないとここから出すことは許可できない」
さっさとこんな場所からはおさらばしたいのに案外平塚先生は形式的なものにこだわるタイプなのか?だとしたら面倒だ、この後彩加とケーキを食べる約束をしているというのに。
遅れたら彩加に心配をかけてしまう!それだけはどうにか阻止しなくては、こんなこと延々続けてたら日が暮れちまう。
それこそ愛想尽かされたらどうしてくれるんだ。
俺立ち直れなくなる自信が半端なくあるんですが、平塚先生あんた生徒の人格を捻じ曲げてまで拘束なんて手段に出るような人間だったんですか。
これは忌々しき事態だぞ。
「人格改変なんて遠慮します先生」
「いったい君は私をなんだと思っているんだ?はぁ……君はもっと普通の生徒だと思っていたんだがね最近の若者は捻くれた思考の奴が多いのか?」
「いやそれはみんな人間ですから八割の人間が正しい思考を持っていても残り二割の人間が捻くれていても仕方ないかと」
しかもそう言われて二割側の人間であろう俺に反論されるとは思わなかったんだろうか。
ああ、それとも平塚先生は本当に俺が不良だとは思っていなかったということか?じゃなければ先生は俺のことを普通というカテゴリーに入れてなかったはずだ。
教室じゃ彩加としか話はしてないしそれ以上に目立つ行動を起こした覚えもない。アレ?つーことは俺普通に席ついて真面目に授業受けてるだけじゃね?なのに不良って勘違いされてんの?
「この世の摂理は間違ってやがる友達がいない奴ってのはみんながみんな不平等制度に当て嵌められなきゃなんねーのかよ」
「………ますます君を野放しにしておくのが不安になってきたよ私は」
なんでですか!?
俺なんもやってねーよ。ちょっと授業中にイラスト描いてただけだぞ。
あと他にも料理のレシピ書いたり、他にも色々やったな……いやいや!確かに授業には集中すべきなんだけどね、あるだろ誰でも授業中に携帯弄ってるより遥かにマシだろ、うん。
「とにかく!大丈夫ですって俺やれば出来る子なんで!!」
「だが君の発言にはもう一人の問題児の片鱗があるからな」
「先生。俺をそんな問題児野郎と一緒にしないでくれ」
「囀分かっていると思うが問題児という枠に片足を突っ込みかけていることを忘れないでくれよ?」
頭をかかえる平塚静に囀二色は大丈夫ですかお茶でもいります?なんて本気で言うものだから頼む、と言いかけそうになる。
本当に彼はなんなのだろう。
外見は赤髪というのと服装が乱れているのもあって不良と錯覚しなくもないが話してみればなんてことはない普通の生徒だ。だが最近目につきすぎるもう一人の問題児をなんとなく彷彿とさせる危うさも見え隠れする。
「時に囀、聞きたいことがあるのだが君に友達はいるか?」
「は?いますよなに言ってるんですか」
「そうか、それは安心した。私はてっきり友達がいないものだと思っていたからね」
「安心してくださいよ俺には彩加がいますから!!」
聞こえてきた名前にホッとする。
彼には名前で呼び合える友達がいたのだと、安心しきっていた。
そう途端に饒舌になった二色が胸を張り自信に満ち足りた表情で語り始めたからだ。
「俺には彩加がいれば十分です!ってか彩加がいないと生きていけません、あいつがいるのといないのじゃ世界が一八○度違って見えますしね!彩加がいなくなったらこの世は破滅っすよ、つかむしろ世界の終わりだと思います。つーわけであいつは濁りきった俺の日常においての最大の希望なんです!!」
「…………そ、そうか」
平塚静は再度頭をかかえる。
友人のことを誇らしげに話している姿は見ていて悪い気はしない、が囀二色は友達を絶賛するにしてもその許容の範疇を超えている。この少年の気に入りようは異常と思わずにはいられずむしろ惚れ込んでいるように思えるのは彼女だけだろうか?
これは思った以上に長丁場になりそうだ。
このままでは囀二色という少年はその彩加がいないと生きていけなくなる、それは駄目だ。そして何よりお互いのためにならない上、彼の人生が駄目になる恐れがある。
なにより彼が彼自身の異常さーーー執着心にまったく気付いていない、というか仮に自覚したとして悪びれもせずなにが悪いんですか?と真顔で発言してきそうだ。
「囀考え直せ?」
両肩に手を置いて二色をじっと見つめる。
突然の教師らしい言動に意味が分からずついていけない二色は模範回答のような返事をする。
「ちょっと平塚先生大丈夫ですか?ホントなんかあるなら話し聞きますよ俺」
話を聞かなくちゃならないのはお前にだよ、と言われてもおかしくない状況においても囀二色はやはり囀二色のままだった。
数少ない自分を認めてくれた?人に対しては情が湧いたようで相手を気遣う素振りを見せる。
再確認できたことに関しては喜ぶべきなのだが問題はそこじゃない、そこじゃないんだ。
目的が徐々に変わりつつある中、囀二色は思いついたように頭を閃かせる。
「先生ってなんか好きなものとかあります?」
二色の思いついた作戦はこうだ。
思い悩む平塚静若干アラサーに自分にできることはないだろうかと考えた結果自身のスキルを考えて料理を振舞おうと考えたのだ。
「俺学校でまともに話せる相手とかいないですけど平塚先生は話しやすいっていうか、なんていうか初めてまともに俺のこと見てくれた先生だから恩返ししたいというか……」
恥ずかしいのか頬を掻きながら答える二色に平塚静は目を見張った。
まさか教え子でがそのような言葉をかけてくれるとは思っていなかったようで目を輝かせる。
「といっても料理くらいでしかお返しできないんすけどね」
わりと作るのは得意なんでなんか要望とかあったら言ってくださいね!と料理魂を燃やす二色に、
「…………酒のつまみ的なもの」
「分かりました任せてくださいっ」
全力でやらせてもらいます!!と言ったのを皮切りに囀二色は動き出す。
先日幼馴染の戸塚彩加にケーキ作りを宣言した時と同じように、眠れる獅子はその行動力を発現していく。しかも脅威の速度で準備を始めるあたり思いつきと閃きについて彼の右に出る者はいないかもしれない。
「それじゃ先生俺はそろそろお暇しますね」
「ああ、期待している」
「失礼しましたー」
間延びした返事をすると颯爽とその場を退却する。
これぞ囀二色の第二プラン。
第一プランが戸塚彩加とお茶することなのであればこの場合第二プランというのは平塚静にお礼を名目に料理を作るになるわけだ。だが第一プランを行うには平塚先生の目を掻い潜らなければならない、だから先生には悪いが物で釣らせてもらった。
「悪く思わないでくれ先生あくまで俺は彩加とのティータイムが優先なんだ」
平塚先生に感謝しているのも間違いではないのだし悪いことをしているのとは少し違う。
ただ優先順位が前後しただけの話、それでも俺の中では彩加との時間が他のなによりも変え難いのだ。
さてと、そんじゃ急ぎますかね。
追伸ーーー校内某所にて楽しみで仕方ないのか幼馴染の元へスキップしながら向かう囀二色の姿が見られたらしい。
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