やはり俺と周囲の人間関係はまちがっている。   作:黒河桔梗

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ヒッキー登場!でももっと絡ませたかった。次回こそはヒッキーと……どうなる?


意外にも比企谷八幡は彼を見ている。

忘れもしない。

というか忘れることはできない、あの日あの瞬間比企谷八幡はその存在を認識せざる負えなかった。

 

 

いつものようにぼっちの習性に則って人間観察をしていた比企谷八幡は教室で尚且つ授業中という状況の中それを発見してしまった。

つまらない時間と言ってしまっては先生方には大変申し訳ないがそんな黒板もしくは教科書とにらめっこしている時間にもかかわらず二年F組には現在約一名全く異なった作業を行っている者がいる。

 

そいつの名前は囀二色。

この総武高校においての有名人であり、このクラスにおいても変わらない。むしろこのクラスにいるからこそ余計に悪目立ちしてしまっていると断言しよう。

 

容姿は赤髪というだけあって非常に目を引く上目付きはそれこそ八幡と勝負出来るほどに悪い。といっても八幡とは違い彼の目は死んだ魚の目ではなく、眼力一つで人を殺められそうなそんなハンターの目をしていた。

追加すると顔はどちらかといえば整っている方だが全てその鋭い目付きが台無しにしているのを二色が自覚しているかは不明であるが。

 

比企谷八幡が囀二色という人間について知っているのは彼が不良だということと、校内で生徒を脅して金をふんだくったとか喧嘩で他校の生徒を一人で数十人ボコボコにしたとか、曖昧かつ信憑性に欠けたことばかり。

だからかもしれない今目の前にある現実を見ることを躊躇われたのは。

 

現時点で着目すべきはそこだ。

教師の目を掻い潜りその男、囀二色は授業中にもかかわらず堂々と一人一枚の半紙に向かって筆を振るっていた。

しかもどこからつっこめばいいのか、この大馬鹿野郎は一心になにを思ったのかこう書いたのだ。

 

 

 

ーーーーダメ人間と。

 

(ダメ人間だと!?それは案に自分のことを思って書いているのか?いや、まさかこいつ俺の視線に気付いてあえて書きやがったのか?クソッどっちにしろ気になってというか不安で目が放せねぇ……わざとかわざとなのかこの野郎!!)

 

二色は八幡の気を知ってか知らずかさらに作業を進める。その手に迷いはない、が八幡は内心焦りまくっていた。別段しゃべったこともないクラスメイトではあるがこのまま黙認していれば十中八九、いいや間違いなく被害を被ると。

理由は言うまでもない比企谷八幡は只今絶賛囀二色に釘付けにされているからだ。

彼だけに被害がいけば問題は解決されるが教科書で顔を隠してるといっても視線は二色に一直線であるからして先生に見つかれば即お陀仏だ。

ぶっちゃけ言うと囀二色はこういった遊戯を注意された試しがない。ある時はイラストに熱中し、ある時は木彫りの彫刻を一心不乱に掘り続け、ある時は粘土で精巧な作品を作り上げる。

 

どこの職人だと言いたくなるほどの出来の作品の数々を生み出すその様を見て唸らずにはいられなかった。

二色本人はただ一連の作業を行っているだけなのかもしれないが多分、きっと見る人が見れば彼の素晴らしい能力に気付く人もいるだろう。

だがしかしこのクラスで彼が他人に声をかけているのなんて見たことがない。

いいや、いた一人だけ。そして後に八幡にとっても重要な人物になってくる戸塚彩加その人だった。

 

八幡と同じく二色は他人との線引きがはっきりしているのかもしれない。

教室ではあまりしゃべっている姿は見ないがおそらくあの美少女とよろしくやっているんだろう。別に自分が勝ち組とは思わないがあの囀二色に負けていると思うと無性に腹が立ってくる。

 

そんな無意識においしい思いをしている囀二色に向かって不幸になれと念を送ってみる。

特に奴に悪意はないが目の届く範囲で尚且つ似た境遇の人間が幸せそうな顔をしているのは気に入らない。ただでさえ葉山達で見慣れすぎてるっつーのに、つまりリア充は滅べ。

 

 

(にしてもこいつなにを理由に書道なんぞに勤しんでるんだ?まさか精神統一とかそんなんか?もしかしなくとも意外と家庭内で自由な時間がないから授業中にこんなことやってるんじゃ………いや待て授業中ならもっと駄目だろリスクを犯してまで作業を行う意味が、)

 

 

授業態度の真面目な比企谷八幡は一人机の前で唸りながら考えに耽る。

謎の生物、囀二色の生態に頭をかかえる様は見ていて実に怪しい。ちらちらと二色を教科書を読むふりをしながら観察する姿は好きな女の子が気になって見つめてしまう男子と似通っていた。がしかし八幡は二色に恋愛意識を持っているわけではない、決してこのクラスにいる眼鏡少女が喜ぶようなそんな感情は抱いてない。というかあってたまるか。

 

 

「よし」

 

一方二色はいつの間にか取り出した一枚の半紙を前ににっと満足そうに微笑む。

何を書くか決まったのかすらすらと手を進めるそれこそ流れるように、迷いなく一筆一筆丁寧に。

 

 

そこに掲げられた文字は。

 

 

「ふっ」

 

全力投球。

囀二色にとっての代名詞であり格言と言っても間違いではない。

どんなことをやるにしても全力でぶつかる例えそれが悪ふざけだろうと心志に向き合う。

時には誰かのために突撃する、それが周りから反対されることだろうとその気持ち一つで動けるなら過ちなんかじゃない。

 

 

 

「じゃあ、囀この問題解けるか?」

 

「うぇ?えっと………」

 

突然先生に名前を呼ばれ驚いた様子で、しかし習字道具一式はいつの間にか姿を消していた。

いきなりの事態に対応するあたりは関心する他ない。しかも授業の教科書とノートが広げられていることには最早びっくりを通り越して奴が仕事人か達人のなんかじゃないかと思う。

 

 

(自業自得だな、御愁傷様)

 

そんな嫌味を込めてみたんだが。

なんと席を立ち黒板の前に行くとこれまた先程の書道と同じく書かれた問題をすらすらと解いていく。

意外にも頭の出来は良いらしくどうすかね?と聞く二色に先生は正解だと答えるなり席に戻るように伝える。

 

囀二色は自身の席に向かう途中たまたま、本当にたまたま比企谷八幡と目が合った。

 

 

 

 

「(にっ)」

 

(な、なんだ挑発のつもりかこの野郎?!ステルスヒッキーとやろうってのか!?)

 

臨戦態勢をとる八幡に対し二色はなにか面白いものを見つけたように楽しげに笑うと自分の席に戻る。

八幡の横をすり抜けるように通ったかと思われた瞬間、一枚のメモ用紙が机の上に置かれた。

 

授業が再開される中、威嚇した相手からのメモを確認するのは憚られたが渋々その二つ折りにされたそれを開いてみる。

 

そこには『熱烈な視線を向けるなら可愛い子にすることをオススメする』とこれまた腹立つくらい綺麗な字で書かれていた。

 

 

「どうした比企谷」

 

「いえ、なんでもないです………」

 

今すぐ奴の席へ向かってこのメモ用紙を叩きつけてやりたいが今は授業中、流石にそんな暴挙に出る勇気は比企谷八幡にはない。

よって今は今は我慢だ我慢。

八幡の周囲から禍々しいオーラが発せられたことで後ろの方からなにやってんのヒッキー?なんて声が聞こえてきたがしょうがないだろ敵から塩ならぬ可愛い子をオススメするなんて返事を貰って平然としていられる方がおかしい。

 

二色はその八幡の様子を見て腹を抱えて悶絶していた。

まぁ笑いを堪えるのに必死だったんだろうが、それに気付いた八幡がギロッ睨み付けたが二色は笑い転げるだけだった。

 

 

 

授業はこれで終わるとチャイムと共に先生が言うとクラスが一斉に動き出す。

それと同時に八幡は目的の囀二色の席へ向かうはずだった。

 

「二色また授業中になにかしてたでしょ」

 

「ちょい書と向き合ってたんだよ」

 

「駄目だよ授業真面目に受けないと」

 

「分かったって!ごめん悪かった」

 

 

両手を顔の前で合わせて謝る二色に彼の幼馴染である戸塚彩加はもう!と頬を膨らませて怒るが全くといって怖くない、というか可愛いだけだ。

そんな彼に癒されながら二色は埋め合わせするから機嫌直してくれよ、な?と苦笑いする。

 

「反省しなきゃ意味ないんだからね?」

 

「分かった!お詫びに明日は彩加に一日付き合ってやる」

 

「もう二色ってば……」

 

そんなやり取りをしながら教室を出て行く姿は比企谷八幡にとって精神的にダメージを与えた。

やっぱり囀二色は敵だと明確に認識した瞬間だった。

 

「ヒッキー怖いよその顔?」

 

「黙れ由比ヶ浜。あとリア充爆発しろ」

 

 

実に恐ろしい死んだ魚のような目付きをした比企谷八幡が憎しみを込めてぐしゃりとメモ用紙を握りつぶした。




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