(伊賀崎宗建side)
「遂に理想の忍びにはなれなかったな・・・」
病院で外の景色を見ながら独り言ちる。
私の名は『
15歳まで祖父の元で忍びとしての訓練と外国語の勉強に明け暮れていた。
私はその頃から自分は他の学生たちとは考え方が異なる事に気付いていた。
そういう家庭で育った子供は友人と遊べないことに不満を抱くものだが私は何故か友人と遊ぶよりも忍術や外国語の訓練の方が好きだった。そういう家系に生まれた、あるいは外国語の成績が優秀だったせいだろうと当時はそう思っていた。
中学3年の丁度誕生日の時、外国で仕事をしていた父が帰国して告げた。
「宗建、済まないが私と一緒に
「…ついに来たのですね。僕が忍びとして働く時が」
「そうだ。本当にスマナイ…」
中学生に働けといえば普通嫌がるものだが私は何故かすんなりと受け止められた。
やがてその同級生の一人が殺され、次のターゲットになった同級生を守ったことで、さる政治家とマフィアの黒い野望を阻止し、初任務は大成功を収めた。その時の高揚感と両親の笑顔は今でも忘れられない。
その後助けた同級生からこう言われた。
「君のような人間を‟縁の下の力持ち”と言うのだろうね」
「‟縁の下の力持ち”?」
「ああ、人間は何か偉業を成した時その人物を称える者だが、そう言う人物には大抵陰から支える立役者がいるモノなんだ。その陰から支える人物がいなければ偉業は成し遂げられなかった。君はそう言う人間だ。正直可哀想だと思う。でも誰も知らなくても僕と僕の両親は君の活躍を決して忘れない。本当にありがとう」
そう言ってその同級生は頭を下げた。
その時はじめてわかったのだ。何故私が他の子供と異なる思考を持っていたのかを。
「私は・・・父や祖父のような主君を陰から支える忍びという存在に・・・ずっと憧れていたんだ‼」
それから45年・・・18歳の時に祖父を、32歳の時に父を失い、それでもなお遠く離れた日本政府の命令で様々な任務に当たってきた。
しかし、そのほとんどが暗殺と情報操作であり、私の理想とする忍びとはかけ離れた…とまでは言わないが少々違う存在だった。まあ、理想と現実がかけ離れているから戦争や悪政が起こるのだが。
忍びだった父と祖父、そしてその生活を支えてくれた母と祖母。家族の名誉のためにもと43年間頑張ってきたが寄る年波と長年の過労がたたってついに倒れた。
こういうことはこれまで何度かあったが2年近く前の検査で余命1~3年と告げられた。
軽い昼寝の後、私は再びノートパソコンを開く。
入退院を繰り返して1年10ヶ月。二日前に発作と血尿で入院したが今日の体調はだいぶ良い。来週には退院できるだろう。記念すべき60歳の誕生日(7月25日)を病院で迎える事が残念だ。もっとも結婚せず、家族もいない。祝ってくれる人間など10年ほど付き合っている部下位しかいないので関係ないが
私が現在はまっているのは1年程前から流行っている異世界転生に関するネット投降小説だ。
「異世界転生か・・・もし適ったとしても私のやる事はきっと変わらないだろうな。いや、そうであってほしい」
ネット小説を読みながら独り言ちる。
私は今年で60を迎え、余命は後1年も無いが自分の人生にはそれなりに満足していた。だから転生など願わない。
でももし第2の人生があるのなら理想的な主君に仕えたいものだ。などとくだらない事を考え・・・ふと数年前見た夢を思い出した。
ミッションの最中些細なミスで命を落としかけた時の事だ。
私は白い空間にいた。
私はその場所が死後の世界ではないかと直感した。
ああ私は死んだのだと思いがっくりとうなだれた時声がした。
「私の願いを聞いてくれますか?伊賀崎宗建さん」
声がした方向を見ると20代後半あたりの美しい女性がいた。漫画でよく見る女神のような格好で。
「君は・・・死神か?」
「いえ、ですがあなた方が神と呼ぶ存在に近いので全く違うという訳ではないのですが」
「時間を無駄にするのは好まないので簡潔に聞く。私は死んだのか?」
「正確には死にかけています。ですのでお願いに来たのです」
「死にかけている男にお願いとはおかしな話だな」
「そう言う状態でなければ接触できないので。話を元に戻しても?」
「おお、これは失礼した。それでお願いとは?」
「簡潔に申し上げます。別の世界に行って頂きたいのです」
「別の世界?」
「ええ、貴方が現在いる地球と言う世界とは全く別の世界です」
「何故私が?」
「あなたの生き方と考え方を見た結果、適切であると判断しました」
「私に何をしろと?」
「別の世界で忍びをやっていただきたいのです」
「断ったら?」
「死んで記憶を失い人間以外の生命体に転生します」
「それは困る。今の任務が失敗に終わったら英国は勿論、祖国日本も国際上不利な立場に立たされる」
「ですが引き受けて下さるなら傷を治し、任務達成にも協力します。どうしますか?」
「正直胡散臭いが引き受けよう。勿論今回の任務を成功させてくれたなら」
「取引成立ですね。では貴方が眠っている時に接触できるように
その後、不思議な光に包まれ気が付いたら銃弾を腹に受けた場所に戻っていた。いや、正確には腹を撃たれる数秒前に。
私は素早く銃撃を躱して敵の脳天に銃弾を見舞ってやった。
その後無事任務を成功させて、その後数回の任務も自称神のアドバイスで無事達成できた。
そして1年10ヶ月前に発作で倒れ病院での診断の結果引退。現在に至る。
「思えばあの人は私の願望が作り出した幸運の女神だったのだな」
そう思った瞬間心臓に電流にも似た衝撃が走った。痛みはそれほどないが呼吸ができなくなり、そしてベッドの上に倒れた。
気が付くと真っ白い空間にいた。そして目の前にはあの時の自称神がいる。数年前のあの時と同じだ。
「私はあなたの願望が作り出した存在ではありませんよ」
「お久しぶりです」
あの任務の後、私はすっかり彼女に頭が上がらなくなった。
「私が会いに来た理由は分かりますね?」
「…私は死んだのですね」
「ハイ、貴方が使っていた忍術の一つに心臓に負担がかかる技がありましたよね。それの多用と悪性ウイルスの感染による心疾患が原因です」
「だろうと思ってました」
「話を戻しますが、私が会いに来た理由は分かりますね?」
「ハイ、異世界に転生して忍びをやれ、ですね。ですが今の私ではお役に立てるとは思えないのですが」
「それは問題ありません。私が異世界に送るのはあなたの魂のみです。つまり、赤ん坊からスタートします」
「確かにそれなら何とか。どのような仕事か説明していただいても?」
「それは転生してからお伝えします。では行きますね」
そして私は何度目かの淡い光に包まれ…意識が途絶えた。