ちなみに苗字はイギリス風の世界でカゲノーというのは私的に嫌なので『アサシンクリード』から引っ張ってきました。
~ 興王歴135年7月25日 アウディトーレ子爵邸 ~
(伊賀崎宗建side)
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
五月蠅い声でほんの少しずつ意識が覚醒してきた。まだぼんやりしているせいか、状況が分からない。
「何だ…何が起き…ってそう言えば!」
俺は自称神という存在?と夢の中で取引して任務を成功させて・・・それから数年後に無くなって世話になった対価として異世界で働け・・・って言われたような・・・。
そう考えた俺は周囲を見渡す。視界がぼやけている。意識も少し霧がかったような感じだ。
にしてはやけに五月蠅いな・・・いったい誰が泣いて・・・って俺か!?
意識が少しずつ戻ってきて何か話そうとして歯の無い口が勝手に動いていることに気付いた。
何故歯の無い口が勝手に動いているのか…その理由は翌日に
疲れて意識が飛んで眠ってしまい、また起きて腹が空いたと思ったら…突如泣いてしまった。
そして誰かに抱き留められると口を何かに塞がれた。
それを自分の意志とは無関係に口が吸いこむ動作をする。すると何か苦みのある液体が喉に流れ込んでくる。
時間にしてほんの1~2分で腹は満たされた。
それにより涙が止まり、目を見開くと視界に映ったのは大きな乳房と美しい女性の顔。
そう、私は生後数日、あるいは数週間程度の赤ん坊になっていたのだ。
自分の状態を理解した夜・・・昏睡状態の俺の夢の中に件の女性(自称神)がいた。
「お久しぶりです。エリニュス様」
「フフッ久しぶりと言っても数日しか空いてませんけどね」
歯が無いため上手く話せないが話そうと強く念じると通じるようだ。
「それでは早速ご説明頂けますか?」
「ええ、この昏睡状態が覚める前に終わらせなければいけませんので早速始めましょう。まず貴方の現在の名前はシド。『シド・アウディトーレ』です」
女神エリニュス様の説明で以下の事が分かった。
1.新しい身体の持ち主の名前はシド・アウディトーレ。ミドガル王国に所属するアウディトーレ子爵家の長男。
2.新しい祖国の名はミドガル王国。国王を頂点とし、上級貴族(子爵家以上)が議会を開き政策を決めていく立憲君主制。
3.アウディトーレ子爵家は代々ミドガル王国の裏社会を監視してきた存在。
4.ミドガル王国王家を守護してきたファントム伯爵家と経済を握ってきたジェット侯爵家とは蜜月関係にある。
5.文明は18世紀~19世紀前半のイギリスに酷似している。
以上。
「最後の質問ですが・・・私はこの世界で何をすればよいのですか?」
「以前話した通り‟忍び”です。それ以外は時期が来たら話します。まずはこの世界の生活と家族に慣れてください。貴方の生まれた家は裕福ではありますがこの世界ではかなり特殊ですから」
俺の最後の質問ははぐらかされてしまったが(恐らくショックの大きな話はこの体に負担をかけすぎるため)、エリニュス様の言う通りにした方が最善と判断し…意識を手放した。
~ 興王歴139年7月24日 PM8:00 アウディトーレ子爵邸 ~
(伊賀崎宗建➡シド・アウディトーレside)
俺がこの世界に来て3年と11ヶ月が経ち、明日4歳になる。
その日にちょっと変わった出来事があった。寝る1時間くらい前姉のクレアと本を読んでいる時話題を変えてきた。
「ねえ、シド。ちょっとおだいじなはなしがあるけどいいよね」
「なあに、おねえちゃん?」
「あなたはあしたたんじょうびだって分かる?」
「うん!うまれたひだよね」
「ええ、そしてあなたにとってもだいじなひよ」
姉もまだ6歳だがやけに神妙な目つきで語る。
「あなたもあすからしゅぎょーがはじまるわ。つらいこともたくさんある。でもぜったいまけちゃダメ!くじけないかぎりおねえちゃんはあなたのみかただから!」
「…うん、わかった」
その話の意味は明日すぐに分かったのだが、中身60手前のおっさんである俺はその日の夜も孫をあやすように姉に優しく接し、床に着いた。
その夜、再びエリニュス様と夢の中で出会った。
「3年と350日ぶりです。エリニュス様」
「数えてくれてたんですね。嬉しいです。この世界の生活には・・・慣れたようですね」
心が読まれるというのは頭に来るが相手が味方だと便利だなと思えるようになってしまった。・・・これが悪い兆候でないことを祈ろう。
「今日は大事な話があります。内容は…分かっているようですね」
「明日、アウディトーレ子爵家の秘密が明かされるのですね?」
「いいえ、それは13歳の時です。正確には明後日から魔剣士としての修行が始まります」
「今日クレアちゃんが言ってた事ですね。申し訳ありません」
「考えてみてください。貴方の精神年齢は50代ですが現実のあなたはまだ4歳。4歳の子供に一族の使命など理解できると思いますか?」
「・・・重ねて申し訳ありません」
そりゃそうか。
「後、姉の事をちゃんづけで呼ぶのもいけません。勿論貴方が転生者と明かすのも」
「より一層気を付けます」
そりゃそうだ。もし転生者等口にすれば間違いなく頭がおかしいと思われる。貴族社会がどういうものか分からんが前世で読んだ漫画や小説で学んだ知識が正しければ、恐らく実家を追放される。
「ちなみにアウディトーレ子爵家で15歳以上の男子が『俺は別の世界からやってきた』なんて口にしたら良くて追放、悪ければ地下牢で処刑です。裏社会の監視役だから罰則も厳しいんですよ。たとえ相手が肉親でもね」
自称神様の言葉に俺は夢の中で卒倒しそうになった。
「話がそれましたね。では改めて‟魔剣士”について説明しますね。魔剣士とはこの世界の軍事力そのものと言ってよい職業です。軍人は勿論憲兵と呼ばれるこの世界の警察組織の構成員もほぼ全員が魔剣士です。この世界に存在する‟魔力″を使って肉体を強化したり手にした武器に魔力を込める事で切れ味を強くしたり、爆破したりできます。ちなみにこの世界では殆どの国に徴兵制がありません。魔剣士の前では盾にすらならないからです」
魔力を武器に込めたり、威力を挙げる為に強固に練るコツを教わってその日は分かれた。
ちなみにこの後、彼女は週に1度必ず来て色々教えてくれた。
その結果1年ほどで姉を超え、7歳の頃には父に匹敵する魔剣士となった。
~ 興王歴142年9月20日 アウディトーレ子爵領の山林 ~
(シド・アウディトーレside)
アウディトーレ子爵領内には小高い山がある。
5歳の頃から体を鍛える為に父に連れられて何度か登っている。山林の一部を切り開いてアスレチックの場所を作っていたので裏家業に着くための訓練もそこでするのだろう。暇な時は忍術の稽古にも使わせてもらおう。
そんな山林地帯に2日前盗賊団が住み着いたという情報を昨日聞いた。盗み聞きしたら数は中規模――― 8~20人程度 ―――とのこと。
「シド!盗賊退治に行くわよ‼」
今日の朝突然姉にそう言われて素早く荷物の準備をして山林に向かう。両親から事件が片付くまで近づくなと言われていたのにだ。
山に入って10分程で盗賊団を見つけてしまった。
人数は8名。思ったよりも少ない。火を囲んで腰を下ろし、奪った食料を食べている。
すぐそばに荷馬車がある。所々に血が飛び散っていることから交易商人から奪ったのだろう。
観察していると後ろから気配がする。同じ盗賊団の可能性が高い。
が、その気配に俺は恐怖した。一人だけ気配も足音も
小さな気配は少し腕が立つ程度の魔剣士であれば『誰か来る…が、弱いから問題ないな』と思うだろう。
だが、前世で21世紀の科学や政略が発展した国で43年間忍びをしていた俺には解る。この気配は一流の使い手が気配を隠している為に感じ取りにくいのだ。
ところが俺は生まれつき気配を察知したり操ったりする力が強く上手く、それが忍びとしての訓練と実戦で研ぎ澄まされ、たとえ相手が気配を消していても強者特有の気配は敏感に感じ取れるようになった。肝心の実力までは不明だが。
「姉さん逃げよう!後ろからも・・・!」
「行くわよシド!」
俺の制止を無視して飛び込む姉。
そこでさらに予想外の事が起こる。食事中だった8人の内3人の盗賊団が姉が登場した瞬間剣を持って立ち上がったのだ。
「おい、ユーダン‼後ろ…!」
「うおおおっ‼」
咄嗟に一人が声を上げるが最初の一人は後ろを振り向く前に姉に斬られた。
姉のクレアの魔剣士としての素質は父以上と言われており――― 親ばかではなく9歳の時点で12、3歳の父に匹敵していたから ―――、 渾身の魔力を込めた姉の斬撃は直径60cmの石や薄い鉄板で補強した厚さ十数cmの扉を切断する。
ユーダンと言われた男は魔力を防御に回す前だったのかあっさり両断された。
「くそっ!やるしかない!」
そう思って俺も持ってた木刀に魔力を込めて姉に気を取られていた一人の脇腹を思いっきり強打した。
何故俺だけ木刀なのかと言うと女神エリニュス様の提案で家族の前では実力を隠して修行していたのと、まだ7歳だった為、練習用の木刀しか持たせてもらえなかったのだ。それでも2kg弱あるから子供にはやや重い。
ミドガル王国はこの世界ではかなりの強国だ。貴族の子弟は子供のころから木刀を持たされ、訓練させられる。
一人を吹き飛ばした後、盗賊の一人が自分に気付き斬りかかってきたが、そいつの攻撃をかわして足を木刀で払い、魔力を込めた――― 全力ではないが ―――木刀で思いっきり殴ってやると、頭から血を噴き出し倒れた。
3人目に襲い掛かろうとした時、2人の盗賊が袋のようなモノを投げた。
俺は前世の記憶から煙幕、もしくは痺れ薬を予感し、後方に飛んで躱した。
その袋は地面に落ちた。
シューッという音と共に袋の口から白い煙が漏れていた。やはり煙幕だったのだ。
「きゃあ‼」
その時姉の悲鳴が聞こえたので見ると姉が尻餅をついていた。咄嗟に駆け寄る俺。
姉の前には2人の男が血まみれで倒れていた。一人は袈裟懸けに両断され、もう一人は脇腹を抑えた状態で倒れていた。恐らく切り傷が臓腑に達していたのだろう。起きる様子はない。
4人は倒したが、残りの4人は魔力を全身から解放して俺と姉を囲み、4対2で対峙したが、後方に回っていた3人が現れた。
「何だガキじゃねえか。お前ら油断しすぎだ。妙な気配がしたから念のため分かれていて正解だったな。・・・ちっ!倒れてる奴は俺の忠告無視しやがったな」
そう言っている男を見て俺はゾッとした。
他の盗賊達とは明らかに雰囲気が違う。
年齢は30代。身長180~183cm。体重95~100kg。(装備を含めれば108~110)
茶髪碧眼(この国ではこれが一般的。金髪の方が少ない)。髪は耳を隠す程度に切り揃えられ、顎から左目にかけて切り傷があるが、魔法で治さなかったのか?隻眼で目つきは細めだが非常に鋭く、修羅場をくぐっていることが伺える。
体格は普通に見えるが筋肉が引き締まっているのが麻製の長袖と革鎧を着ていても分かる。前世で身に着いた足音と体幹から体重を算出する方法で、体重は見た目より重い事が伺える。
「女は高く売れそうだな。男はいらねえから殺せ」
「へへっ、了解隊長」
リーダー格の男を除く7人が俺たちを取り囲む。
「弟に何かしたら許さない‼」
全身の魔力を開放して疾走する姉。
斬りかかった男は何とか剣で受け止めたが剣を弾かれた。素早く後方に飛んで短剣を取り出した。どうやら部下も実戦経験が豊富らしい。
「どけっ、俺がやる」
リーダー格の男が後方に飛んだ盗賊の前に割り込んできた。
「はああっ‼」
姉は剣と体に魔力を纏わせ一気に踏み込んだ。父が現役の騎士でも躱すのが難しいと言っていた全力の一撃だ。
しかし、その一撃をリーダー格の男は剣の柄で受け止めた。
「なっ…!柄でっ」
「ほう…筋はいいな」
剣を大きく振って姉の体制を崩すと鳩尾を蹴り上げる。
「がはっ‼」
クレアはもんどりうって倒れた。地面に吐しゃ物がまかれる。
「残念だったな。後10年も修行すれば俺を超えられたかもしれんが…運が悪かったな」
「ぐああっ!」
「?」
リーダー格の男が俺の方を見た。
そう、俺は奴が姉に気を取られている隙に3人ほど倒していた。2人をナイフの投擲で、一人を剣で。
俺は前世でこういう光景には何度か遭遇している。取り囲まれている現状で、取り囲んだ敵が他に気を取られている隙を見逃したりしない。と言ってもこの手の修羅場は本当に久しぶりなので思い出すのに時間がかかったが。
「こんの…ガキがあっ‼」
「大人に勝てると思ってんのかあ‼」
残った盗賊3人の内2人が俺に襲い掛かる。
そんな2人の攻撃をかわしざまに斬って行く。ついでに最後の2人に魔力を纏わせたナイフを投擲。
結果一人は左目を貫き即死。リーダー格の男は辛うじて躱した。頬に血が流れている。
「ほう…姉よりも強そうだな」
「来いよ」
俺はリーダー格の男を手招きした。
相手が上段斬り➡逆袈裟斬り➡横なぎの三連撃を繰り出す。俺は辛うじて躱す。
敵は「なっ‼」と言う呟きと驚愕の表情を漏らす。当然だ。今の三連撃は初見で躱すのはほぼ不可能だ。勿論使い手が達人、もしくはそれに近い実力者という前提がいるが。
もっともこれも前世で身体にしみ込ませた型の斬撃を使う相手と闘う術(観の目と言う)や型を重視する剣術を使うやくざと対峙した経験があるおかげだが。
しかし、今の俺はまだ7歳の子供。女神エリニュス様の力で前世の世界でもこの世界でも人一倍頑丈な体と反射神経、そして魔力を与えられたらしいが徐々に疲労の色が濃くなってくる。
肉体自体は優れていても使いこなせていないのだ。情けない。
数合打ち合った後、敵は一度間合いを取って呼吸を整えながら語りかける。
「小僧…今いくつだ?」
「7つ」
「大したものだ・・・。俺もかつて剣の頂を目指して修行した身だから分かる。貴様は後10ね…いや6~7年もすれば世界でも有数の魔剣士となるだろう」
突如出た賞賛の言葉に一瞬意図を測りかねたが2秒後にフィニッシュを決める為の準備であると悟り俺は魔力を練り直す。
「だからこそ余りにも惜しい。それ程の才能をここで摘んでしまうことが‼」
そう言って彼は魔力を練り始めた。よどみない魔力の流れからやはり彼は達人の域に達しつつあることを悟る。
10秒程で終わると敵は全身の魔力を一気に開放し襲い掛かってきた。
踏み込んだ地面はまるで小型爆弾でも仕掛けていたのかと思う程の約10cm程のクレーターが出来ていた。
しかし、魔力を練っていたのはこちらも同じ。俺もタイミングを合わせて魔力を開放し、剣を振るう。
「オーバードライヴ‼」
技名を叫ぶ俺。
いざという時の為に女神さまに教えてもらった一時的に限界を突破して全身を20~30cm程の魔力の膜で覆い――― 体を魔力の膜で覆う戦い方は殆どの魔剣士が使っているが膜の厚みは通常1~5cm。ちなみに俺は最大10cm程展開できる。家族には内緒 ―――全力の一撃をぶつける。
爆発に似た音が山に響き・・・リーダー格の男は体を鳩尾から上下にやや袈裟懸けに分かれて倒れた。
「ガハッ‼」
決着はついたが俺は血を吐いて膝をつく。
この技は俺の技の威力、腕力や防御力などを数倍に高めてくれるが反動が半端じゃない。実際1年前、初めてこの技を繰り出した時、血を吐いて意識を失ってしまい、アウディトーレ家は大騒ぎになった。
さらにこの体では2分以上使ったら体が持たないと女神さまに言われてしまった。
「まだまだ修行が足りないな」
俺はそう思いながら体を治癒するために魔力を練り始めた。
やがてその途中で姉が目を覚まし、傷を応急処置程度に癒し、山を下りて家族に知らせ…小一時間程説教された。