縁の下の力持ちになりたくて   作:影の紋章

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七陰登場の回です。時間軸は原作と同じ10歳です。
ちなみにこの作品の『悪魔憑き』はコミックの3巻に出てくるミリアのような魔力暴走という事になっております。


初めての部下

     ~ 興王歴145年7月10日 アウディトーレ子爵領の山林 ~

            (シド・アウディトーレside)

 

 

 

「呑め呑め!今日の襲撃は大成功だったからな!」

「全くこんな夜中に護衛もつけず小さな山林で過ごすとか不用心な商隊もいたもんだぜ!」

 

 かつて俺と姉が盗賊団と戦った場所に別の強盗集団がたむろしていた。

 そこに別の盗賊団が奪った麦酒(ビール)葡萄酒(ワイン)で酒盛りをしていた。

 

「特にあの婆は笑えましたね!「お願いします!息子だけは…」とか」

「だから言ってやったんだ。命が惜しくば~」

 

 下司な会話をしている連中の傍にはいくつかの荷馬車がある。

 そしてその近くには無数の死体が散乱していた。荷馬車の持ち主だろう。

 そして最後尾の荷馬車から「ゥゥゥ…」といううなり声が聞こえる。

 

 

 

「しっかし旦那、あの3台目の荷物は何なんすかね?時々唸り声が聞こえてきて気味が悪いんすけど」

「知らんのか?あれは『悪魔憑き』と言って魔力暴走と体の変化で理性が暴力衝動に駆られる病気だ。発症者が少ない上に戦闘能力が凄いから高く売れるんだ」

「俺知ってるっすよ。闇オークションで一千万ゼニー位で売れるんすよね」

「そいつぁ楽しみっすねぇ」

「ん…?妙な気配が…」

 

 盗賊団のリーダーらしき30代前半の男が後ろを向き・・・「ドスッ!」という不気味な音がして固まった。

 

「ん…?どうしたんですかい、旦那?」

 

 突如何人かの会話が止まる。不思議に思った盗賊の一人が声を掛けたが無反応。

 

「て・・・敵しゅ・・・」

 

 そう言ってリーダーらしき男は血を吐いて倒れた。

 

「ハハハ!旦那、そんなところで寝たら…」

 

 盗賊の一人がそう言いかけて・・・地面に広がった血だまりを見て叫んだ。

 

「敵襲だ‼全員武器を取れ!」

 

 そう言うが事態を察した人数は2名。他の者たちは無反応。

 

「おい、何をやって・・・」

 

 そう言いかけたが目の前の仲間の首が静かに落ちたのを見て止まった。

 

「へぇ…勘が良いねあんたら」

「生き残っているのはあなた達だけよ」

 

 僕と姉は位置を知らせてやる。

 

 

 生き残った盗賊の男二人は仲間を殺した相手が目の前にいても距離を置いて斬りかかることはなかった。

 こんな仕事をしている以上襲うのも襲われるのも慣れている為、気配には(一般人基準では)敏感な方だ。

 にもかかわらず目の前の襲撃者の存在に気づけなかった。例え表情が怒りを露わにしても目の前の敵に最大級の警戒心を抱いている為仕掛けられないのだ。

 

 そんな彼らに俺は背に背負っていた袋の中身を二人に向かってぶちまける。中身は木の葉だ。

 

「なっ…これは…葉っぱ!?」

「へっこれ目くらましのつもりか?俺らはこれでも元魔剣士で実戦慣れしてんだ」

「おまけに少ない。こんなもんじゃ目くらましにもなってねえぞ」

 

 確かに撒いた木の葉は100枚もない。敵の視界を塞ぐにはこの10倍は必要だ。・・・ただの目くらましならばな。

 

 

 言い終わった次の瞬間姉クレアが二人に襲い掛かる。

 二人とも警戒していたので冷静に対処し、剣で受け止めた。

 

 盗賊は剣を上手く巻き上げてクレアの剣を弾く。

 クレアは信じられないと言った顔で立ちすくんでしまう。実戦慣れしている者は決してその隙を逃さない。

 横なぎ一閃!クレアの首が落ちる。

 

「ハハハ‼なんだ(よえ)えじゃねえか!」

「・・・どうなってんだ?」

 

 盗賊団の一人が高笑いし、もう一人は怪訝な顔をしながら少年が立っている方を見るとその少年は土下座していた。

 

「ゆ、許してください!」

 

 

 その光景に二人は呆気に取られていた。

 

「へっ!強いのは女の方だけか!ふざけんな!こんな奴らに仲間はぶっ殺・・・」

「・・・信じられんな。あの旦那がこんな奴に・・・」

 

 そう言ってる最中二人の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

「信じられないわね。あの程度の目くらましであっさり倒せた」

 

 姉クレアもまた呆気に取られていた。

 そりゃそうだろう。俺が大きな袋を空中で開くと大量の落ち葉が出てきた。

 しかし、100枚程度の落ち葉では大した目くらましにはならない。にもかかわらず一人は剣を構えたまま動かず、もう一人は何もない所に剣を繰り出し、横なぎした直後、何故か高笑い。

 

 その隙に俺と姉は敵の後ろへ回り込み、剣の柄でこめかみを殴って気絶させた。ついでに腕の関節を外し、右足の膝の健も切ってやった。

 

「ねえシド。あんた一体何をしたの?実戦慣れしてなくてもあの程度の目くらましが効くとは思えないわ」

 

 姉がジト目で俺を見る。

 

 そりゃそうだ。俺がやったのは幻葉(げんよう)の術―――素人にも分かりやすく言えば木の葉の揺れと香水を使った催眠術だ。特殊な撒き方で舞い方に一定の法則を持たせ、幻覚作用がある香水と一緒に撒く事で相手の願望を叶えるような幻覚を見せる。

 人にはこうしたいという理想的な勝利の仕方を誰もが願っている。その心のスキを突いて術を施す。

 彼らがどんな幻を見たかは不明だが姉さんを一撃で倒したと思っていたのだろう。姉さんの首辺りに一閃して高笑いしてたから。

 

 

 しかし、この世界には忍術も催眠術も無い。女神さまにも余計なことを言うと混乱を招くだけだって言われているので、俺は「木の葉の中に大量のアルコールを混ぜておいた。奴らがおかしかったのはそれで酔ったからだ」と言い訳しておいた。

 

 

 

 

 

 犠牲者の死体を何とかしてやりたかったがそれにはまず衛兵駐屯地に連絡してそこから派遣される捜査官に事件の概要の調査、犯人の逮捕と連行、及び遺族に連絡をして要望を聞いてからだ。この国にも前世の日本のような警察組織があるのだ。

 

 しかし、それをする前に俺はある問題を解決しなければならなかった。

 

 

「さて、衛兵駐屯地に連絡する前にこれを調べなきゃね」

「ありがとう姉さん。僕のわがままに付き合ってくれて」

「良いのよ。貴方の話を聞いて私も見てみたいから」

 

 荷馬車に詰まれた悪魔憑き間者を見て姉はそう言った。

 

 

 俺がやりたいこととは身に着けた魔力制御法でこの悪魔憑きを直せないかという事だ。

 

 

 

 

 

 実は女神さまからまたお告げがあった。

 今日狩った盗賊団の荷物の中に悪魔憑きのエルフがいる。そいつは義理堅いので助けてやれば力を貸してくれるかもしれないというのだ。

 最も神と言えど未来は見えない。あくまで観察して得た情報から予測しただけだ。

 ちなみに断られた場合は解放してよいらしい。アウディトーレ子爵家の稼業を詳しくは話す必要はない。アウディトーレ家から誘いがあったという情報だけならいくらでも誤魔化しが効く。

 勿論姉には内緒だ。

 

 

 

 

 

 檻の中の悪魔憑き患者はまさに異形の生物と言う名が相応しい。

 無事なのは左腕だけで顔や体は赤黒くボコボコと膨れ上がり、むしろ豚人間(オーク)に近い。

 

 幸い、麻酔を打ったばかりらしく、「ゥゥゥ…」と泣くだけでおとなしかった。

 

 

 俺は早速悪魔憑き間者に触れて患者の体内の魔力の流れを確認する。

 人間とは思えない程乱れていた。何をどうすればこんなになるんだか。

 

 相手に魔力を流すのは通常の人間だと魔力の質が違う為抵抗力があり、不可能ではないが熟練の魔剣士や医者でも困難だ。だが悪魔憑き間者は抵抗力が極端に少ないため上手くできた。

 

 自分の魔力を流し、少しずつ相手の魔力の流れを是正していく。すると赤黒い晴れが徐々に引いていった。

 

「凄い・・・!あんたどこでこんな技術を!?」

「悪魔憑きの原因が魔力暴走だから魔力を流して患者の魔力の流れを本来のモノに戻してやれば治るんじゃないかと思っただけだよ。言ったでしょ実験だって。確かめたかっただけだよ。成功したことは僕も驚いてる」

 

 女神さまの言葉を今更疑うつもりは無いがそれでも少し驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっそでしょ・・・?美少女じゃない・・・!」

 

 姉が思わず呟く。

 

 無理もない。治療?した悪魔憑き間者は確かにエルフだった。

 日の光が無くとも分かるナチュラルな金髪蒼眼。朝日の下ではさぞ輝く事だろう。

 顔立ちも瞳が若干細い感じだが良く整っている。

 体はまだ未発達だ。俺と同じ7~10歳と言ったところか。だが日本の松明の明かりだけでも分かるほど透き通った肌をしていた。

 

 麻酔が効いているのかまだ寝ている。

 俺と姉は檻にかかっていた布を半分に切って体に巻いてから担いで山を下りた。

 

 

 

 

 

  ~ 興王歴145年7月11日AM0:50 アウディトーレ子爵領の廃村 ~

                (???side)

 

 

 

「そんな…この子を捨てるっていうのか!?」

「仕方がない。悪魔憑きに侵された者は理性を失い、周囲に破壊をまき散らす。彼らに任せるしかない」

「そんな恐ろしいモノを無償で引き取るっていうのもおかしいわよ‼きっと治療法があるんだわ!」

「そうだ!連中からそれを聞き出して…」

「悪魔憑き間者は××××に引き渡す。これは○○○で決まったことだ。エルフ王国の方針に逆らうのか!?」

「何で○○○は××××と取引しているんだ!そんな殊勝な国家が長続きするはずが・・・」

「これ以上の問答は無用!あくまで妨害するなら反逆罪に・・・」

「ベア姉さんに相談するわ!?姉さんの意見なら国も無視できない‼」

「そうだ。あの方なら連中から何か・・・」

 

 その後大きな破裂音がして、私の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さん、お母さん、私を一人にしないで・・・」

 

 私はうっすらと意識を取り戻した。いつも道りの悪夢を見て、いつも通りの台詞を呟いて。

 

「気が付いたかい?」

 

 どこからか声が聞こえる。その声で私は意識を取り戻した。視覚も聴覚もはっきりしてくる。

 

 

 私は上体を起こして本能的に声がした方向を見る。

 男の子がいた。背格好からして大体私と同じ位の。

 

「あの…ここは…」

「ここはアウディトーレ子爵領にある廃村の家だよ」

「アウディトーレ・・・?」

「見たところ君はエルフだね。ミドガル王国で育ったのかい?」

 

 目の前の男の子の質問に私は首を横に振る。

 

「なら知らなくて当然だ。まあそんなことはどうでもいい。単刀直入に言うよ。君の病気は治った。もう君は自由だ。これからどうする?」

「病気…ってええ!?」

 

 そうだ!私は悪魔憑きと言う病気だった‼意識が曖昧だったとはいえ指摘されるまで気付かないなんて‼

 

「治ってる…あんなに醜く腫れあがっていた手足が…何故!?」

「俺…いや、僕が治した。正直半信半疑だったが」

 

 彼は悪魔憑きが魔力の暴走――― どのような事が原因かは不明だが ―――がきっかけで起こる病気だと知り、もしかしたら魔力の流れを正常に戻せば治るのではないかと言う仮説を立てて、私の身体で実験したと伝えた。

 

「君の意識が無かったとはいえ、君の許可を得なかったことは詫びる。だがあのまま死ぬよりはずっとましだろう」

「ハイ・・・」

 

 彼の言う正論に素直にうなずく。そもそも悪魔憑きを治す方法を知っていたら私がエルフ王国を追われることも無かったのだ。

 

 

 

 

 

 その後の話で、私は彼の家で家業を手伝うことになった。

 理由は帰り道と実家の連絡先が分からないというのもあったが一番の理由は帰ったらひどい目にあうと思っていたからだ。

 その時には理由は分からなかったが彼が施してくれた記憶を呼び覚ます忍術(というより催眠)により何故本能的に帰る事を忌避していたのかが分かった。

 

 

 私は捨てられた時に聞いたのだ。エルフ王国では悪魔憑きは呪われた存在、国に災いをもたらす存在と言われていたのを思い出したのだ。そして幼き日に暴走した悪魔憑き患者が殺されたのを偶然目撃してしまった事を。

 だから分かる。帰ったら災いとして殺されかねない事も。

 

 

 そしてその予感は数日後、彼の父親である、オヤージュ・アウディトーレから以前エルフ王国で人としての意識があった軽度の悪魔憑き患者がいたが、両親のとりなしも空しく殺されたと聞いた時、自分の判断が間違ってなかったことを知った。

 

 

 その後の調べで、私はアウディトーレ子爵家の稼業をこなせる才能が有ると言われ、助けてくれた男の子…シド・アウディトーレ…様と姉君であるクレア様と一緒に魔剣士兼アサシンとしての訓練を受ける事が決まった。

 

 

 この選択が正解かどうかはまだ分からない。分かっているのはここを追い出されたら生きていけないという事だけだ。




次はクレア誘拐事件です。オルバ子爵などは原作通りです。
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