原作との相違点
①『悪魔憑き』は女性のみ➡『悪魔憑き患者』は男女両方だが女性の方が魔力が高い傾向があるので女性患者の方が多い。
~ 興王歴147年11月11日 アウディトーレ子爵領 廃村 ~
(シド・アウディトーレside)
「新しい本拠地を作りましょう!」
ある日俺はアルファから提案された。
「…あの廃村じゃ不満なのは分かるがきちんと整備するだけの予算が・・・」
「アウディトーレ子爵家の財政では贅沢は言えないのは分かってる。でもこれ以上組織をデカくするつもりならあの廃村じゃ囲いきれない。資金調達係はあの廃村にいる必要はないけど訓練を施すにはあの廃村では余りにも手狭だし、もし襲撃を受けたらひとたまりもない。アウディトーレ子爵家は敵がたくさんいるんでしょ。だったら組織の拡張を急ぐ必要があるし、ここもいずれ見つかる」
アルファの言い分は最もだ。
しかし、賛同するには問題がある。
「新しい本拠地の候補はあるか?王家直轄領なら話を付けられるかもしれないが・・・」
アウディトーレ子爵家とジェット侯爵家は王国の裏社会を監視する役割を持つ。もし新しい本拠地候補が王家直轄領のどこかにあるなら交渉次第で確保できる。ジェット侯爵家も同盟関係にあるが侯爵領の土地を利用させた場合、ばれたら他の貴族に対して角が立つ。ぶっちゃけ俺たちにも融通しろと言って来る。
断る事は容易でも面子的に問題だ。貴族社会とは複雑なのだ。
「大丈夫、子爵領内にある山よ」
「…お前まさか『魔竜の森』のことを言っているのか?」
「ええ、私とゼータで他国迄足を運んだけどあそこ以上に世間から本拠地を隠すのに適した場所は無かった。ゼータも同意見よ」
アルファの意見は理解できる。
魔竜の森とはアウディトーレ子爵領と隣国のベガルタ帝国領の間にある山森だ。
森の中央から北西寄りにかけて常に霧に覆われており、その現象は未だに解明されていない。
山森の北西にやや大きめ――― 1.5以上の視力があれば向こう岸が見える程度の ―――大河があり、それが国境線となっている。
何より特筆すべきはミドガル王国でも3か所しかない危険地帯の一つだ。
俺の曾祖父はその謎を解明しようと国王に人材派遣を願い出て3チームの調査団を派遣した。
しかし、戻ってきたのは僅か2名。一人は大きな竜に襲われたと言い、もう一人は恐ろしい咆哮を聞き、モンスター達の群れを掻き分けながら戻ってきた。
派遣した調査団の実力を理解していた国王と曾祖父はその森を『魔竜の森』と名付け、一般人は無論、実力が国の基準を満たしていない魔剣士の立ち入りを禁じた。
「ミドガル王国でも有数の危険地帯だぞ。分かってるのか?」
「ええ、霧の一番濃い場所に行って戻って来た者は殆どいない。けど、イータがそれを解明したの!」
「あの寝坊助の魔法研究バカが・・・?」
アルファを仲間にしてから2年3ヶ月が経った。彼女は訓練の傍ら親父たちと共に悪魔憑き患者の保護をしていた(訓練から僅か数ヶ月で実戦も経験した)。イータと調査を担当したゼータとはその時助け、そしてアウディトーレ子爵家で働くことを選んだ子供の一人だ。
あの後10人(男2人、女8人)程助けたが、どういうわけか「家族の元に帰る」ことを選択したのは一人もいなかった。理由は「戻ったら家族全員聖教会に殺されそう」か「元家族の軽蔑と罵倒が忘れられない」の2つだった。
話を戻す。
「デルタとゼータの嗅覚とイプシロンの方向感覚と魔力制御法があれば大丈夫よ。さらに貴方と私が同行すれば大抵の問題はクリアできるとベータも結論を出したわ!」
チーム内随一の頭脳明晰な二人が断言したのなら大丈夫だろう。
そう結論付けて父に報告しに行った。
~ 興王歴147年11月13日 アウディトーレ子爵領 魔竜の森 ~
(シド・アウディトーレside)
「ふう…片付きましたね」
「ムー、『魔竜の森』っていう位だから骨のある獣が出てくると思っていたら弱っちい奴ばっかなのです!」
俺たちアウディトーレ子爵家工作部隊(父が命名した。本格的な戦略を駆使できるようになったら親衛隊にするらしい)は現在魔竜の森の中心地点へ向かっている。人から聞いた話が本当なら後3分程で行方不明者が立ち入った地点に到着するだろう。
ちなみに2日前の夜女神さまが夢に出て来てGOサインをくれた。
と、言っても「今のあなたとアルファ達なら魔竜を倒せるわ」とだけ言って消えてしまったのだが。
そして今は遭遇した肉食の獣をベータとデルタが片づけたところだ。敵が弱い事にデルタは不満らしい。
最もアルファと1、2を争う戦闘能力を持つデルタが苦戦するほどの敵が出てきたら困るのはこっちだが。
やがて霧の立ち込める地点にたどり着くと不意にベータとデルタが疑問を呈した。
「やはりこの霧はおかしいですね」
「んんっ?ベータもそう思うのですか?」
ベータの意見に以外にも脳筋で有名なデルタが同意の声を上げる。
「獣の声がめっきり減ってます。というか今偶然見えたのですが目の前の霧を見て…獣が逃げ出したんです」
ベータの発言に全員が戦慄する。
獣は濃霧が立ち込めていようと聴覚と嗅覚が凄いので狩りなどにはほとんど支障はないはずだ。
その獣が目の前の霧を見て逃げ出した。何もないとは到底思えない。
「この霧には毒性があります。魔力で感覚を強化しないと分からないレベルですが。魔力で膜を作るか内臓を強化しながら進みましょう」
俺たちは言われた通りにしながら慎重に霧の中を進んだ。
「・・・やはりおかしいですね」
進んでから2分程で再びベータが疑問を呈した。
「どうしたベータ」
「さっきから獣が一匹も見当たりません」
「それはこの霧が獣にとっても有毒だからじゃないか?」
「もしこの霧がこの地方に古代から存在したのならこの霧の毒に適応した生物が出てくるはずです」
ベータの指摘に俺はハッとした。(アルファ以外の連中は気づいてないようだが)
人間とて厳しい環境下に居ればそれに適応できるように体が慣れてくる。千年以上いればその部族は細胞レベルで進化する可能性もある。
にもかかわらずこの森の生物はこの毒霧に適応した生物が存在していない。それが意味することは一つしかない。
「この霧は自然発生したモノじゃない・・・!」
「そうです。それにこの森の環境は霧が発生する条件を満たしていません」
それは俺も気付いていた。
霧には一定以上の雨が降り、その後の急激な気温の変化で発生するのが普通だ。
しかし、この森に雨が降ったのは2週間以上前で、急激な気温の変化もない。その上、霧の範囲が余りにも限定的すぎる。まるでその場所に近づくなと言わんばかりだ。
「やはりここには何かある」
「その通りだ」
俺の呟きに対する返答が霧の奥から聞こえた。明らかにアルファ達の声ではない。
霧が晴れていく。まるで声を発した相手が舞台を整える様に周囲30m程限定的に。
その晴れた霧の中心には竜がいた。全身が真っ白で唯一目だけが黄緑色だった。
「我はミストドラゴンと呼ばれているこの森の主だ。低命の者よ、何しに来た」
白い竜はまるで紳士のような口調で自己紹介した。
まさか竜にそんなことができるとは思わず、3秒ほど思考停止していたが俺とアルファがすぐ自我を取り戻し、少し考えてから話を始めた。
まずはアルファからだ。
「初めましてミストドラゴンさん。私はアルファ。この先にある廃墟に用があるの」
「既に滅んだ都に行ってどうする」
「そこを私達の拠点にすることを許可してほしいの」
「何ゆえに?」
「ちょっと待ってください!」
俺は話を遮った。
「何だ!?」
「すまないアルファ、変わってくれ」
ミストドラゴンは怒りを灯した目で俺を睨んだが俺はアルファに断りを入れて話を進めた。
アルファは理解してくれたらしく頷いて一歩下がった。
「初めましてミストドラゴン殿。私はこの森の先にある平地の一帯を治めるアウディトーレ子爵家の者でシド・アウディトーレと申します」
俺はなるべく刺激しないように
ちなみにこの森もアウディトーレ子爵家の領土だがそのことは敢えてぼかした。情報を手に入れる前に争いたくないからだ。
「先程既に滅んだ都とおっしゃいましたがやはりこの先に沢山の人が住める場所があったのですね」
「そうだ。白竜王国と言う名の国がな」
やはり文献は正しかった。
自宅の書庫に古都アレクサンドリアという名の本があった。
そこにはかつてこの辺り一帯は白竜王国という国が支配していたらしい。アレクサンドリアとは当時の最高指導者の名だ。しかし、300年以上前に滅んでしまい、その後建国されたのがミドガル王国という訳だ。
ところがこの文献には不思議な事に滅んだ理由が妙に嘘くさいのだ。
災害だの疫病などと書かれていたがミドガル王国の歴史書にそんな記述は一切ない。というか意図的に隠している節がある。
そのことを聞きたいと言ったらミストドラゴンが薄ら笑い?――― ドラゴンの表情は分かりにくいが恐らく ―――を浮かべながら語り始めた。
「白竜王国は・・・我が滅ぼした!」
「ええっ‼」「そんなことって…‼」と言った声が背後から聞こえる。皆も俺と同じく驚愕しているようだ。
「彼らは我との盟約を破った」
短く理由を告げた。
「…理由は…支配階級の腐敗…ですか?」
俺の質問にミストドラゴンは黙って頷く。
かつてこの辺り一帯には僅か数万人の国…というより集落があったそうだ。今から600年以上前、ここに多くの難民がやってきた。その難民たちはかつてこの辺り一帯を侵略しに来た兵士たちとその家族だった。彼らは故郷を追われたのでここに住まわせてほしいと願い出たらしい。
ミストドラゴンはこの地に古くから住む諸部族と「我(ミストドラゴン)を神と崇め、半年に一度貢物をする代わりに彼らを守る」と言う盟約を結んでいた。
現に目の前の難民たちは数年前、この地に攻め入ってきた軍の兵士たちとその家族、並びに親族たちだった。そしてその数は20万人を超えた。
ミストドラゴンはこの地に住む諸部族連合と同じ条件+仲良く(親族たちと同じ扱い)することを条件に数百万人が住める場所とそれを可能にする農耕地を魔力を練り交ぜた霧で覆い、守った。
その日から約半年後、その地に『白竜王国』という国が誕生した。
しかし、彼らは堕落した。
建国から約180年程の間は彼らはミストドラゴンを崇め、荒れた地を開拓し、発展していった。
しかし、人口が約300万人――― 建国当初の10倍以上 ―――を超えた時から政治が乱れ始めた。
危険が少ない土地で、適度に人口が増え、飽食の時代が2世代も続くと堕落するのは人として必然だった。それは俺の前世の国々もそうだった。
さらに霧で覆われた土地で生産できる食料が限界近くなったこともあり、建国から200年程して彼らは『故郷を追われた先祖の土地を取り返す』というスローガンを掲げて外の世界への侵略を訴え始めた。
しかし、結果は惨敗。
それでも負けるたびにミストドラゴンの森の霧の中に逃げ込むことで大敗でも4割以上の兵数を失わずに済んでいた。
外の世界の侵略を始めて数十年後、小規模の戦では勝っていたが2度目の大戦での大敗が決定打となり当時の国王は遂に神である魔竜に助力を求めてきた。
しかし、これが下策だった。
ミストドラゴンに助力を求めて来た王子が余りにも不遜な態度を取っていた挙句、「おぬしも白竜王国に住む以上王家の所有物。だから従え」と言い放った。
その言葉が契約違反となり、引き金となった。
最初にその王子と部下数名を八つ裂きにし、首だけ持って王城に出向いた。
そして、門番に王子の首を渡して告げた。
「国王を呼べ!契約を破った件について今の最高指導者に話を聞きたい!」
やがて国王が来た。
王は今まで竜の社と呼んでいる場所から一歩も動いたことのないミストドラゴンと息子の生首を見て驚愕した。
王は息子の生首を抱えて兵たちに命じた。
「殺せ‼今すぐこの化け物を殺せ‼」
「良く聞け、その者は古の約定を破ったから殺した。だがこの国の指導者である貴様が謝罪の意を示し、供物をささげ、我を崇めるなら…」
「黙れ化け物!時代は変わったのだ!誰が貴様なぞ崇めるか!」
その一言で白竜王国の運命は決まった。
縦横無尽に暴れ回るミストドラゴンを止められるものなどいない。アレクサンドリアは瞬く間に炎に包まれた。
住民の多くは虐殺され、辛うじて脱出できた何人かは外の村までこの事を知らせに行った。
結果、約200万人以上が皆殺し、数十万人が僅かな手荷物を持って白竜王国を後にした。
こうして建国から二百数十年後、白竜王国は滅亡した。
話を終えてから十数秒の沈黙が流れた。
俺も思うところはあっても過去は過去。今は未来を見るべきだと気持ちを切り替えて話す。
「話は分かりました。私も白竜王国が滅んだのは自業自得だと思います。ですが私達はその国とは無関係です」
そう言って俺は一泊置いて
「その上でお願いします。どうか古都アレクサンドリアを我々の新しい本拠地にすることを許して下さい」
そう言って頭を下げた。続いてアルファ、ベータ、ガンマ、イプシロンが頭を下げる。デルタとゼータとイータは首をかしげる。空気の読めない連中だ。
「条件がある。貴様らの力を示せ。長いこと退屈しておってな。お前たちは中々の使い手と見た。我に傷をつけてみよ。さすれば考えよう」
なんとミストドラゴンは戦いを提案した。俺は勝てるかどうかは不安だったが承諾した。俺達にはどうしても新しい拠点が必要だったからだ。
「ボスー!戦っていいのですか!?」
「ああ!」
「それじゃあ行くのです!」
うずうずしてたのかすぐにデルタが突進した。
黒鋼で作った爪の斬撃を首筋に放った。が、それはあっさりと弾かれた。さらに驚いたのが硬い金属を叩いた時と同じ音がしたことだ。
これはミストドラゴンの鱗が生物でありながら金属に近い性質を持つことを意味する。
デルタが驚きの表情をした。それによる硬直をミストドラゴンは見逃さなかった。
右手(右足?)を横なぎ一閃。デルタの身体がサッカーボールのように吹き飛ぶ。
追撃を行おうとしたところにベータと(以外にも)イータが矢を目に放った。
流石に目に金属の性質を持たせることは出来ないのだろう。両手(両前足?)を頭に上げて防ぐ。
ミストドラゴンの動きが止まった隙に遊撃隊の中で1、2の魔力量を持つガンマが大刀に魔力を込めて斬りつけ…ようとしてこけて大刀をミストドラゴンに向かって放る。刃は「ガキィィン‼」という音とともに鱗に傷をつけたが内側の筋肉まで切断することは叶わなかった。
「ほう…中々の威力だ。だが我を満足させるには足りんな」
「じゃあこれはどうだ?」
敵の背中に乗った俺とアルファが剣身に魔力を込めて最大級の技を放つ。
「三光閃・改‼」
俺がこの世界で学んだ剣術の技だ。本来は地面に足を付け、剣と足首に魔力を込めて体に染み込ませた三連撃を放つ技だが、これはその三連撃を剣と腰に魔力を集中させた状態で放った斬撃を一か所に集中させた俺とアルファと姉さんだけが使えるアウディトーレ子爵家の秘技だ。
「グアアアァッ‼」
ミストドラゴンの咆哮と共に青色の血液が飛び散る。ミストドラゴンは体を回転させて俺とアルファを振りほどく。
俺とアルファは素早く態勢を治して構えた。
しばし緊張が走ったが
「ここまでだ」
ミストドラゴンの一声がその緊張を解いた。
「見事だ。かつて私にここまでの傷を負わせた者はいなかった。満足だ」
そう言ってミストドラゴンは笑った。
「えっ…それじゃあ」
「ああ、白竜王国の領土は今後貴様らが自由に使え。貴様の組織とやらは今後我が霧で外界から遮断されるが我が許可した者、又はその者と一緒ならば出入りは自由だ。」
「それだと敵に捕まった味方が敵に引きずられてきた場合、あっさり侵入されてしまうわ。その辺りの対策を協議したいのだけれど」
アルファの提案に際してミストドラゴンは
「ならばお前たちの中で特に戦闘に優れたものを数人交渉役に選んでくれ。その者らが連れてきた者だけ通行できるようにしよう」
その後、交渉役には俺、クレア姉さん、アルファ、ゼータ、ラムダの5人が――― ベータ、イプシロン、イータは現時点では戦闘力に不安があった。デルタは馬鹿すぎるから選べなかった ―――選ばれた。
立ち去る時、ミストドラゴンに尋ねられた。
「そういえばお前たちの組織の名は何という?」
そう言われて戸惑ってしまった。そう言えば父から現在はアウディトーレ遊撃隊って名前だが本格的に活動するようになればアウディトーレ親衛隊にするって言われたっけ。
「確かアウディトーレ親衛隊です。父が名付けたのですが」
「フム・・・それは組織名としてどうなのだ?別の名前を考えた方がいいのでは」
「うーん、そうだな・・・シャドウガーデンというのはどうだろうか?」
「良い名前だわ。後で御当主様に相談してみましょう」
「デルタもその名前気に入ったのです!」
こうして俺たちは新しい本拠地を手に入れた。
ちなみに組織名の変更は父と姉にあっさり受け入れられた。二人はカッコイイと大層喜んでいた。適当に付けたんだが。(自分の領地の庭で蠢く影と言う意味で)
次こそオルバ子爵の話です。