縁の下の力持ちになりたくて   作:影の紋章

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今回は魔力量の設定まで書いてます。才能が無く訓練を全く受けずに成人した人を1とした場合。

・騎士団に所属する魔剣士が3~8倍。
・クレア・アウディトーレ、アレクシア・ミドガルは7倍。
・アイリス・ミドガルは14倍。
・テンプラーの最高幹部は8~20倍。
・シド・アウディトーレ(主人公)は今は25倍。15歳で約45倍。


アウディトーレ子爵家の裏の顔

   ~ 興王歴148年3月1日 AM1:00 アウディトーレ子爵領 館 ~

            (シド・アウディトーレside)

 

 

 

「シド、今日と明日は今までで一番忙しくなるでしょう」

 

 夢の中でエリニュス様から開口一番に言われた。

 今ではすっかり本名(伊賀崎(いがさき) 宗建(そうけん))で呼ばれなくなった。

 

「…何があるのですか?」

「間もなくクレアさんが誘拐されます」

 

 俺は夢の中で何度目かのズッコケをした。

 

「って、それなら早く起きて助けなきゃ!」

「いいえ、私が予知した所この誘拐事件は起こした方が良いのです」

「エリニュス様は予知能力もあったんで…いや、神様なら当然か」

 

 俺は前世で読んだ漫画の中に似たような内容があったのを思い出した。もう死者復活以外は何でもありと考えよう。

 

 

「それでなぜクレア…姉さんを誘拐を黙認するのですか?」

「それは誘拐犯がアウディトーレ家によって国から切られた(・・・・)貴族だからです」

 

 

 

 

 

   ~ 興王歴148年3月1日 AM5:05 アウディトーレ子爵領 館 ~

            (シド・アウディトーレside)

 

 

 俺は現在クレアの部屋にいた。

 ベッドのシーツは乱雑にめくれ散らばり、割れた窓ガラスが散乱していた。窓ガラスの破片が散らばっていることから外から侵入した何者かにクレアが拉致されたのは明白だった。

 

「父上、犯人に心当たりは?」

「一番可能性があるのはベガルタ帝国の貴族かオルバ元子爵かな」

「犯人の逃走ルートに心当たりは?」

「それはもう当たりはつけてある。それに今回はゼータが夜勤で気付いて見つからないよう追っている」

 

 その言葉に俺は小さく安堵した。

 2年前に悪魔憑きを直して仲間にした猫の獣人で金髪碧眼金耳が特徴の少女だ。

 訓練させたところ戦闘力もさることながら諜報活動に秀でていた。

 とにかく技術の習得速度が尋常じゃない。まだ12歳だというのに気配の消し方を覚え、忍び足もシャドウガーデンの中で一番上手い。勿論俺は除くが、数年後には俺を超える可能性もある。

 

 

 

「シド、私の部屋に来なさい。大事な話がある」

 

 神妙な面持ちで父は告げた。

 

 

 

 

 

 

「遂にお前にも我が家の秘密を明かすときが来た。いいか、これから父が言うことを良く聞きなさい。そしてこれから口にすることは誰にも言ってはいけない。いいな?」

 

 俺は黙って頷いた。

 

 この世界の父…ハスガード・アウディトーレは静かに語った。

 

 

1.このアウディトーレ家は代々ミドガル王国の裏社会を監視してきた家柄だという事。

2.ミドガル王国の為に様々な汚れ仕事をしてきた事。

3.現在ミドガル王国の中枢は【十三の夜剣】と呼ばれる13人の貴族たちが仕切っており、彼らからも依頼が来る。実はジェット侯爵もこの一員であり、表向きの付き合いは殆ど無い。(社交界で会えば挨拶位するが)のでジェット侯爵への連絡はファントム伯爵又は王家を通じてのみ行う。

4.この世界最大の宗教【聖教】の派生派閥【テンプラー】とは祖父の代から対立している。祖父の代でかなりの痛手を与えたが現在は外国で暗躍しているらしい。

 

 以上だ。

 

 まあ、【テンプラー】が現在は外国でお盛んらしいってこと以外は女神エリニュス様から色々聞いているので取り敢えず驚くことにした。最近は演技が上手くなった。

 

 

 そうこうしているうちに来客があった。

 

「旦那様、ファントム伯爵家から来客です」

「そうか!お通ししろ!」

「クソッ、こんな時に…」

「シド、父の話を聞いてなかったのか?ファントム伯爵家とジェット侯爵家は蜜月関係。そしてファントム家は王室の耳だ。きっと今回の事件の情報だろう」

 

 父の意見には納得するしかなかった。幼い姉?を誘拐され少し焦っていたようだ。

 

 

 入ってきたのはごく普通の町娘…に見えるスパイだった。

 俺には分かる。気配の殺し方が上手く、まるで槍に射抜かれるような視線。修羅場をくぐってきた者の目と気配だ。ただの町娘ではあり得ない。

 

 

 

「すいません。お話があるのですが…」

「ここでお願いする。お前は下がれ」

 

 連れてきた使用人を見て指示する。

 

「お子さんも退室願えませんか?」

「いえ、このこにも聞かせてください。もう息子も裏の話がどういう話なのかは理解できますので」

 

 ファントム伯爵家の使いは数秒こっちを眺めてため息を一つ。そしてこう言った。

 

「今回の騒動の首謀者はオルバ男爵です」

 

 

 

「男爵…?言い間違いではなさそうですね」

 

 男爵と言う言葉を強調されたことで言い間違いではないと理解した。

 

「良く気付いたなシド。現当主のコモーノ・オルバ(35)は元子爵だった。それが2年前の武神祭(ぶしんさい)本戦で一回戦負けしたのとテンプラーと通じて違法行為に手を貸したのが原因で騎士団を首になり、家格も一つ下げられた。もっとも不正行為の原因は妻子の病気を治すためだったことを私が陛下に奏上したため厳しい処分は避けられた」

「だとしたらおかしいですね。それなら犯人は父上に借りを作ったことになる。姉さんが誘拐される理由にはなりません」

 

 貴族社会で借りを作るとは弱みを握られたという事。それを踏み倒すことがどれほど信用失墜につながるか貴族なら誰だって理解しているはずだと私は首をかしげる。

 

「借りを作ったと思ってないのか…もしくは娘を人質に取られたかだな」

「恐らく後者でしょう。それよりも敵のアジトを襲撃する人員を決めて頂けますか?場所はもう調べてありますので。この辺りの地図をお借りできますか?」

 

 話を途中で遮ったファントム伯爵家のスパイはそう言って壁に掛けてある地図を指さした。

 父が机にそれを広げると4年程前に廃坑になった鉱山を指さした。ゼータの努力が無駄になってしまったな。すまんゼータ。

 

 

 

 

 

~ 興王歴148年3月1日 PM0:10 アウディトーレ子爵領 銀山の廃坑 ~

               (第3者side)

 

 

 薄暗い地下道を一人の男が歩いていた。彼の足は二人の兵士がいる扉の前で止まった。

 

「アウディトーレ子爵家の娘はここか?」

「はっ!ここにおりますが…お気をつけくださいオルバ様。拘束しておりますがかなり反抗的な奴です」

「ふっ私を誰だと思っている!」

「っ!…しっ失礼しました!」

 

 そこは石造りの地下牢だった。ただの銀山に牢などあるはずがない。恐らく今回の事件は半年以上前から準備されていたのだろう。

 オルバは扉を開け、中に入った。

 そこには魔封じの鎖で壁に固定された一人の少女が居た。

 

「クレア・アウディトーレだな」

 

 尋ねた男は30代半ば位だろう。

 鍛えられた体躯に狼を想起させる鋭い眼差し。銀色の髪をオールバックで纏めている。

 

 オルバの呼びかけにクレアは顔を上げた。

 

「あなたの顔、王都で見たことがあるわ。…確かコモーノ・オルバ子爵だったかしら?」

「ほう…武神祭(ぶしんさい)の大会でか」

「ええ、アイリス王女に無様に切られていたわ」

「ふん、試合と言う枠内ならばあれは別格だ。最も実戦で負けるつもりは無いがね」

「実戦でも変わらないわ。武神祭本戦一回戦負けのオルバ子爵」

「ほざけ!武神祭本戦の場に立つことがどれほどの偉業か分からぬ小娘が」

「私なら後一年で立てる」

「残念だが貴様に後一年後は無い」

「一年後に生きてるのが私かあなたか、試してみる!」

「試すまでも無く生き残るのは私だ!クレア・アウディトーレ!」

 

 クレアは獲物を前にした犬のように笑った。

 次の瞬間、オルバがクレアの顔面を狙って蹴った。・・・が当たらなかった。

 

「ハエでもいたかしら?」

「ほう、魔封じの鎖につながれていながら、これを避けるか。ふっ高い魔力に振り回されるだけではないらしいな」

 

 常人が魔封じの鎖で拘束されればほとんど動けない。が、クレア・アウディトーレの魔力は生まれつき常人の約7倍。平均的な魔剣士を拘束するための魔封じの鎖では完全には抑え込めない。

 

 

 

 

 

 余談だがシド・アウディトーレの生まれた当時の魔力は常人の約10倍。普段は鍛錬不足なので常人の約3,5倍(平均的な魔剣士レベル)。父親にはクレアと同じ位と説明しているが実際は常人の約25倍はある。これは間違いなく王国最強だ。

 

 

 

 

 

 話はクレアとオルバに戻る。

 

「魔力は量ではなく使い方が命だ。才能に溺れる者は永遠に勝者になれない。極限まで練った魔力は10倍の魔力量の壁を穿つ。・・・アウディトーレ家の家訓よ」

「いい父を持ったな。さて、無駄話はここまでにしよう。クレア・アウディトーレ、貴様には私の出世と逃亡を手助けしてもらう」

「出世と逃亡ね…アウディトーレ家の人間の首を持ち帰れば確かに裏社会では出世できるかもしれないけど貴方、父と面識があるくせにまだアウディトーレ家がどういう家か分かってないのね。確かに父は子供には優しいかもしれない。けど仕事となれば話は別よ。代々貴族は愚かこの国の闇に深くかかわってきたアウディトーレ家の人間はいざとなったら身内でも見捨てる。この国と陛下のためにね」

「ふん、それをこれから確かめるのさ。後数時間でここに・・・」

「た、大変です。オルバ様!」

 

 牢屋の中に兵士が駆け込んできた。

 

「どうした!アウディトーレ家の刺客でも潜り込んだか?」

「わ、分かりませんが侵入者です‼人数は恐らく7人!既に多数の被害が出ております‼」

「ええい、何をやっている‼もういい!私が行く!ジャック、ジャンヌ!」

「「ここに」」

 

 後ろにいた側近の二人が答える。オルバ子爵家が男爵家に没落しても残った忠臣だ。

 

「クレア・アウディトーレを例の場所へ。フェンリル様によろしくな」

「「はっ!」」

 

 そう言って戦闘の気配がする方へ走っていった。

 

 

 

「さあ、我々と来てもらうぞ、クレア・アウディトーレ」

 

 オルバ男爵の側近らしき男女が手に持った鎖をまず壁に固定された右手首の鎖を外してからはめた。

 次は左手首。鎖を外した瞬間反撃されないように慎重に行っている。実戦経験はクレアよりは多そうだ。

 

 鎖は手錠のようになっていて輪っかを繋ぐ25cmの鎖の真ん中あたりにもう一本の鎖があり、その2m程度の長い鎖をジャックという男が持っている。

 

 

 そして1~2分歩いてもうすぐ出口と言う時に轟音が響く。その時偶然にも天井の岩肌から砂が漏れて後ろを歩いていたジャンヌの目に入った。

 

Auchi(アウチッ)!」

「どうした!」

「ごめんなさい。目にゴミが」

 

 なんだそうかとジャックが安堵した瞬間、クレアの蹴りがジャックの股間に入った。

 

 思わず股間を抑えてうずくまるジャック。その後頭部を左足で思いっきり踏み抜いた。

 

「ジャック!どうし…ぶおっ!?」

 

 言いかけて倒れるジャンヌ。ジャックの手から離れた鎖を繋がれた両手で掴み、思いっきりスイングし、ジャンヌの顎に命中。

 

 そしてクレアは立ち上がりかけたジャンヌの後ろへ回り込み鎖で首を絞めた。

 

 

 ジャンヌはクレアの手をひっかきながらもがいていたが一分ほどして倒れた。

 ちなみに殺したのではなく堕としたのだが。

 

 

 

 

 

 ジャックが持っていた鍵で鎖を外し、剣を奪い、ジャックが進んていた先へ行く。もう少しで出口だと言っていたからだ。

 

 

 所々ごつごつして歩きにくい道を2分程歩くと確かに出口に着いた。外に出ると声がかかる。

 

 

 

「君一人かい。クレア・アウディトーレさん?」

 

 声がした方を見ると胴当てと手甲と脚甲を付けた男が立っていた。

 身長180cm前後、体重は90kg弱程度。年齢は20代前半辺りか。

 

「ここにいるって事はアイツらの仲間かしら」

 

 剣を抜いて魔力を充填して構える。

 

「違う。私は君の父上の部下だ。君を助けに来た」

「信じられると思う?」

「本当ですクレア様!」

 

 男の後ろにある林から声がした。見ると12歳位の碧髪茶眼のツインテール美少女エルフと茶髪茶眼でストレートロングヘアーでどちらかと言えば可愛いと言えるがなんか眠たそうで無気力感がにじみ出ているエルフの少女が出てきた。クレアにとっても見知った顔だ。

 

「イプシロン!イータ!」

 

 二人の元へ駆け寄るクレア。

 

「あなた達が来てくれたの?それじゃあこの男はホントにお父様の部下?私は見たことないんだけど」

「仕事の都合上、当主以外の命令は聞けないのです。例え御家族であっても。だからクレア様やシド様にも知らせていない部下が数名います」

「そう…疑ってごめんなさい。私を拘束していた奴が外にいる仲間に引き渡すって…」

「それならもう始末した」

 

 男が指さした方向を見ると3人分の死体があった。

 

「ちなみにあっちは捕らえた奴だ」

 

 再び男が指さした方向を見ると魔封じの鎖で両腕を縛られた男が2人いた。

 

「へぇ…中々強いじゃない。名前を聞いていいかしら?」

「ジェノスだ。詳しくは来年あたりお館様から話されるだろう」

 

 

 そう言ってクレアは彼らに保護され館に戻った。

 

 

 

 

 

 

「・・・何者だ、貴様ら!」

 

 オルバ男爵が現場にたどり着いた時には既に戦いは終わっていた。床には無数の死体で所々血の池が出来ていた。恐らく、入り口付近からここまで配置された8名は全員やられたと見ていいだろう。

 

「…初めましてオルバ子爵様。あら、今は男爵様でしたっけ?」

 

 挑発するアルファ。

 

「ミドガル王国の目と言う噂は本当だったか!」

「半分正解って所かしら。テンプラーから何を聞いているのか知らないけど私達はミドガル王国の裏社会の番犬って呼ばれてるわ」

「クッ…そんなことまで!」

 

 オルバ男爵は剣を抜いて正眼の構えでアルファに斬りかかる。

 目を狙った突きを前のめりで躱し、右ひざを切る。

 

 

 怒りが痛覚を凌駕しているのかひるまず横なぎ一閃するオルバ男爵。それも後方ステップで華麗に躱す。

 

 

 オルバ男爵が構えなおす。アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、レオナ(シドの父ハスガード・アウディトーレの部下)が包囲網を少しずつ狭めながら語る。

 

「ねえ、一つ聞いていいかしら?」

「…何だ」

「あなたが恩人であるアウディトーレ子爵家を裏切ったのは娘をテンプラーに人質に取られたから?」

 

 それを聞いたオルバ男爵が明らかに動揺した。

 

「ミドガルを始め周辺諸国に唯一信仰されている宗教である聖教・・・現在聖地リンドブルムで革新派のテンプラーが20年ほど前から『悪魔憑き患者』を集めて良からぬことを企んでいることは知っているわ。そのことについて詳しく聞かせてくれるかしら。もしあなたの娘が囚われている場所を知っているなら救出に協力してあげてもいいわよ。勿論救出後もアウディトーレ子爵家に協力してくれるならだけど」

 

 『協力』と言っても下部組織として奴隷同然に扱われる。まあ彼はアウディトーレ子爵家にそれだけの貸しを作ってしまったのだから仕方がない。

 

 彼は数瞬考えたが苦悶の表情で首を横に振る。

 

「悪いがそれは出来ない。ミドガル王国の裏社会の番犬がどれだけ情報を掴んでいるか知らんが貴様らが思っている以上に奴らはデカイ(・・・)!」

 

 

 そう言って懐から小さな瓶を取り出すとその蓋を口で開けて中にある赤い薬のようなものを飲みこむ。

 

 次の瞬間彼の内包する魔力が増大してくる。赤い電気のような魔力が顕現し、オルバ男爵の体を覆う。

 やがて筋肉が膨れ上がり、上着を破る。

 

 

 膨張が終わると彼は手に持った剣を逆さに持ち替えて膨大な魔力を込めて地面を突く。

 すると地面に大きなひびが幾つも入り・・・砕けて大きな穴が出来た。その穴に落ちていくオルバ男爵。

 

 

 

 シャドウガーデン(旧アウディトーレ親衛隊)はそれを驚きの表情で傍観していた。

 

「追いますか!?」

「いいえ、必要ないわ」

 

 皆は焦りだしたがその中でアルファだけが落ち着いていた。

 レオナとデルタが焦りながら「何故!」と食ってかかるがアルファは冷静に答える。

 

「あの男が逃げた先には彼がいるから」

 

 

 

 

 

 

~ 興王歴148年3月1日 PM0:25 アウディトーレ子爵領 銀山の廃坑 ~

            (シド・アウディトーレside)

 

 

 

「うーん、ここであっているか不安になって来たな・・・」

 

 俺は現在銀山の廃坑の地下通路を歩きながら一人不安になっていた。

 

 

 廃坑に侵入した俺、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロン、イータ、そして父の部下であるジェノス、レオナの9人は事前に打ち合わせした通り二手に分かれた。

 

 アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、レオナの5人は陽動として表から。

 イプシロン、イータ、ジェノスの3人は裏口に回って見張り+クレアを引き取りに来るであろう連中の確保。生け捕りは2人でいいし、イプシロンとイータのコンボは捕獲が得意だし3人で十分だろう。ジェノスとレオナ(この世界では一応年上なのでさん付けで呼んでる)の実力は父のお墨付きだし。

 

 

 そして肝心の俺は整備された地下通路を偶然発見して、前世の経験から逃げ道だと直感し、前世の記憶を頼りに迎え撃つならこの辺りだという所で待機している。

 

 

 そしたら近くで轟音が鳴って天井が崩れ人が下りてきた。

 190cm近くある(薬の作用で筋肉と骨が膨張し、数cmデカくなっている。元の身長は180cm位)体躯と隆起した筋肉。眼が赤くなってヤバい顔になってる。多分彼がオルバ子爵…いや、元子爵か。

 

 

 しゃがんでいた彼が立ち上がり、こっちを向いて…顔が強張る。

 

「貴様…奴らの仲間か?」

ヤツラ(・・・)なんて名前の知り合いはいない」

「ふざけるな‼全身黒服の女5人組だ!」

「10代前半の女の子4人と20代前半の女1人だったら確かに僕の仲間だな」

 

 そう言った瞬間彼は膝を曲げて魔力を開放し、「うおおおっ‼」と叫びながらこっちに突進してきた。

 

 俺は少し左に避けて敵の攻撃をかわし、右手の甲を敵に向けながら敵の右ひじに手を当てて反時計回りに回転させながら右に押した。

 

 オルバ男爵はそのまま斜め後ろの壁に激突した。

 

「(やれやれ…猪武者と言う奴か…技術の乏しい相手はつまらん)」

 

 ガラガラと壁が崩れる音を立てながら立ち上がるオルバ男爵を哀れむ目で見る。

 

「クソクソクソーッ‼お前らはいったい何なんだ!アウディトーレ家やファントム家は化け物を何匹飼っている!」

「さあね。僕も知らない。家の事も今日知ったばかりだ」

「ふざけるな!」

 

 再度突進してくる相手をギリギリで躱し・・・魔力を込めたミスリルソードで横なぎ一閃。

 オルバ男爵は真っ二つにはならなかったが脇腹から脊髄迄切った。そのままもんどりうって倒れた。

 

 

 オルバ男爵は苦悶の表情でうめきながら立ち上がろうとする。

 

「貴様ら・・・本気で…アレに…抗う気か…!?聖教の力と闇は…貴様らが…思っているより…」

「遥かに深い…か?それでもやらなきゃいけない。それが俺がこの世界に来た理由だから」

 

 そう言って俺は魔力の斬撃を飛ばして首を跳ねた。俺も2年前より強くなったとはいえ手負いの獣は侮れない。前世で闘っていた敵も何人かはそうだった。

 

「ミリア…すまない」

 

 オルバ男爵は死の間際、かすれるような声で確かにそう言った。

「チャリン」という音がしたので地面を見るとロケットペンダントが落ちていた。首を跳ねた時に紐が斬れたのだろう。

 蓋を開けるとオルバ男爵と一人の少女が並んで写っていた。少女の年齢は7歳位。一般的な貴族が魔剣士としての修行を始める年齢だ。

 十中八九この()がオルバ男爵の一人娘ミリアだろう。彼がアウディトーレ家を裏切ったのはテンプラーの連中に彼女が攫われたせいだと父が言っていた。

 

 

 

「もし君の娘に会う機会があったら…これを渡そう」

 

 そう思って俺は拾ったロケットをポケットにしまった。

 

 

 

 

 

 

~ 興王歴149年3月22日 PM4:35 アウディトーレ子爵領 館 ~

            (シド・アウディトーレside)

 

 

 事件が終わってから数日は本当に忙しかった。

 

 ベータたちは無事姉を連れて帰還し、姉からも礼を言われた。しかし、何故か「今度はお姉ちゃんがあなた達を守るわ!」と息巻いていた。責任を感じるのは結構だが姉よ、貴方はまだ14歳だ。大の大人数人に不意を突かれたら仕方あるまい。父も私達にまだそこまでは求めていない。

 

 姉が療養中の間父から家の事で説明を受けた。

 父にはジェノスとレオナの他にも数人部下が居るが正確な数と残りの人員は俺が家を継ぐに相応しい人材になった時でないと明かせないと言われた。まあこの世界では優秀な魔剣士であれば女性が家を継ぐことは出来るしね。

 

 ちなみに俺が家を継げなかった場合、ファントム伯爵家の家で騎士として働かされるらしい。もし拒めば殺されることも聞かされた。最も俺は現時点で父も姉も父自慢の親衛隊も超えているし、家の事も外に漏らすつもりもない。女神さまに怒られそうだしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は姉やアルファたちと一緒に父やジェノスから特訓を受けたり、一族の情報網、身元や敵組織の背後関係の調査法(盗聴盗撮対策、尾行の仕方、人間関係の見分け方、現在の各国首脳部の思惑etc・・・)を学んでいるうちに一年があっという間に過ぎた。

 

 

 明日はいよいよ姉のクレアが王都に向かう日だ。ミドガル王国の貴族は上級、下級貴族にかかわらず15歳になったら魔剣士学園に入学する決まりだ。任期は3年だが10科目中3科目でE判定(A~Eの5段階)を3回連続で採った場合1年で退学処分となる。

 アウディトーレ家ではこれも死刑の対象なので気を付けるようにと女神さまからも念を押された。

 

 

 沈む夕日を眺めながら感傷に浸っている時にアルファ達元悪魔憑き患者がやってきてこう言った。

 

「シド・・・今日はお別れを言いに来たの」

「・・・え!?」

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