縁の下の力持ちになりたくて   作:影の紋章

6 / 10
前話から2年が経ちました。


ミドガル魔剣士学園

~ 興王歴151年3月22日 AM11:20 王都行の蒸気機関車の客席 ~

            (シド・アウディトーレside)

 

 

 アルファ達と別れてから2年・・・現在俺はミドガル王国の首都ミドガルドオルムへと向かっている。

 

 昨日アウディトーレ子爵領の自宅から馬車で12時間に揺られて蒸気機関車が出る駅の近くの宿で一泊し、前の世界では写真でしか見たことない1868年ものの蒸気機関車(見た時は感動して泣いた)に乗って今に至る。

 

 俺はそこでアルファ達と別れた事や姉の事を思い出して女神エリニュスから与えられた使命(約束とも言えるが)を考えていた。

 

 

 二年前の3月・・・あの誘拐事件の後アルファ達から暫しの別れを告げられた時は驚いた。

 といっても今生の別れという訳ではない。父から言われて独自の訓練と任務のためだ。

 

 アルファ、ベータ、ガンマ、イプシロン、イータはエルフ族。デルタとゼータは獣人だ。

 これらの種族が人間と違うのは決して耳だけではない。筋肉の付き方や骨格、成長速度も人間とは異なる。

 その上、デルタを筆頭に、ベータとイータは剣術は不得手だがだからといって戦闘能力が低い訳ではない。身体能力においては同い年の人間とは比べるべくもなく大きく超えている。

 その為、使用する獲物を始め種族に合った戦闘訓練をして、その後裏社会の番犬シャドウガーデンとして父の仕事を手伝う予定だ。

 

 

 

 

 

 姉のクレア・アウディトーレは上手くやってるらしい。手紙や電報を頻繫にやり取りしている。

 

 

 姉は現在3年生。剣術、学業共に中間の上辺り。この分なら一応就職先は大丈夫らしい。

 実は姉の実力なら学年主席も夢じゃないがアウディトーレ子爵家はこの国の影を司る特殊な貴族だ。余り目立つ行為は避けなくてはならない。

 

 報告では1年の時にこの国の第一王女である2年生のアイリス・ミドガルと、同級生のダクアイカン侯爵家の令嬢。2年の時にベガルタ帝国の第1皇女ローズ・ベガルタと接触し、友人関係となる事に成功。特にダクアイカン侯爵家の令嬢エライザとはプライベートなことも話せる間柄になったらしい。

 

 これは父も大喜びしていた。

 ダクアイカン侯爵家と言えばこの国を牛耳る裏社会組織【13の夜剣】の筆頭だ。

 そんな相手の娘(当主本人でなくとも)と交友関係を作れることは裏社会の番犬として大金星だ。

 

 

 だが弟である俺としては複雑な心境だ。

 この手柄でアウディトーレ子爵家の次期当主は姉のクレアに決定した。

 つまり俺はミドガル魔剣士学園を卒業したら別の就職先を探さなければならない。

 最も姉のクレアは俺自身気に入っているので絶対に蹴落としたりはしないが。

 

 

 

 

 

 

    ~ 興王歴151年3月22日 AM11:45  ミドガルズオルム駅 ~

            (シド・アウディトーレside)

 

 

 駅に着いた俺は指定された住所へ向かう。

 やがて荘厳な石造りの建物が見えた。サイズは東京ドームの倍位だと思う。ここが試験会場だ。

 受付の人に王都からの紹介状と家紋の入った剣を見せて受付を済ませると宿までの地図を受け取った。

 

 

 30分程歩くと目的地に到着した。

 石造りの3階建てアパート(この世界にはまだコンクリートは無い)だ。俺があてがわれたのは2Fの203号室。

 鍵を開けて入って驚いた。

 靴を置く玄関を過ぎると左手に1畳の台所、右手にトイレとシャワールームがある。

 それを過ぎてドアを開けると6畳一間の洋室だ。座学用の簡易机と羽毛布団が敷かれたベットがある。

 

 

 まさに驚きの連続だった。何故かと言うとそのアパートは元の世界…前世の日本のアパートそのものだった。(流石に浴槽は無かったが)

 ミドガル王国の文明レベルは正に前世で読んだイギリスの発展を描いた漫画に描かれていた19~20世紀前半の英国に間違い無い!にもかかわらず目の前の部屋は1975年ごろから流行りだした日本のアパートの内装だ。

 

 暫し悩んだがまあ異世界とはそう言うモノなのだろう。現に前世では無かった『魔力』ってモノが存在してるから。

 無理やり納得してその日は近くにある商店街で夕食と明日の朝食を買って帰り、シャワーを浴びた後は日課である魔力を練る訓練と明日の準備をして寝た。

 

 

 

 

 

  ~ 興王歴151年3月23日 AM11:15  魔剣士学園試験会場 ~

            (シド・アウディトーレside)

 

 

 

「合格おめでとうございます!始業式の日は4月1日の午前8時半からですので遅れないようにして下さい。それまでの間は実家に帰るなり王都で過ごすなり自由にして下さい。その間の住まいなのですが特待生であれば(入試成績が3位以内、あるいは王家の推薦状があれば特待生として伯爵家以上の子弟しか入れない寄宿舎への入居、各種施設の使用許可、授業料免除などの優遇措置が受けられる)若獅子寮へ移っていただくのですが、シド君の入試成績は41位なので昨日あてがわれたアパートで暮らしてもらいます。それは定期テストで上位3名に入らない限り卒業まで変わりません。生活費が苦しいのであれば学校の事務室に行って決められた書類を提出し、実家に手紙を送ってください。そうすれば指定された口座に最大20万ゼニーが振り込まれます。そのお金は後ほど実家に請求させて頂きますので悪しからず。説明は以上ですが何か質問は?」

「いえ、大丈夫です」

「では入学おめでとうございます。こちらが入学許可証と実印受理証明書と授業料振込口座になります。特に実印受理証明書と授業料振込口座の書類は必ず実家に送ってください。楽しい学園生活が送れるよう願っております」

 

 

 

 

 

 説明が終わったので早速帰ることにした。

 入学まで王都に残りたかったが家の都合でそれが出来なかった。

 

 さあ、明日から忙しくなるぞ。まずはジェット侯爵とファントム伯爵に合格したことを連絡しないと。後王都(こっち)の銀行に専用口座を作らなきゃな。

 

 

 

 

 

  ~ 興王歴151年5月12日 AM05:00  ヒルデガルド寮203号室~

            (シド・アウディトーレside)

 

 

 この世界の人間の朝は早い。

 大都市では街灯が設置されているが前世と比べて数が足りないし夜に営業している店が極端に少ない。電気や電線は存在しているが経費が膨大らしく余り流通していない為(時代的には18~19世紀位だからか)労働者の皆さんは大体9時までには寝てしまうのだ。

 

 

 ベットから起き上がり、顔を洗い、朝食を食べた後制服に着替える。

 

 青を基調とし、黒のネクタイ、革のベルト、革靴。明らかに前世で見かけた高校の制服に酷似していることには驚いた。もしかしてスーツとネクタイというスタイルは19世紀ごろに確立したのだろうか。

 カバンの中の教科書と筆記用具を確認すると剣を持って玄関に向かう。木刀ではなく鉄製の剣の帯剣が許されている辺りが前世と違う所であり自分が貴族社会の一員だと実感する。

 

 

 

 

 

   ~ 興王歴151年5月12日 AM07:00  ヒルデガルド寮~

            (シド・アウディトーレside)

「おーっすシド」

「おはようございますシド君」

「おはようシド君」

「おはよう」

 

 玄関で魔剣士学園の制服に身を包んだ三人の寮の同級生に朝の挨拶を交わす。

 

 現在俺は下級貴族専用の安アパート『ヒルデガルド寮』の203号室に住んでいる。名前の由来は俺と同じ下級貴族出身でありながら首席で卒業し、エリート揃いの第一騎士団の団長になったヒルデガルド子爵が出資して作られたかららしい。

 

 

 俺が友人に選んだのは4人。

 同じ寮に住んでいるヒョロ・ガリとジャガ・イモ、そしてナナシー・レイブンクロー。

 

 ヒョロ・ガリとジャガ・イモは北西に位置し、人口が2000~3000人程度の領土を持つ男爵家の次男(両方とも)だ。

 初めて会って名前を聞いた時には思わず吹き出して笑ってしまった。二人とも名前の通りの外見だったのだ。性格も前世の高校生にありがちな生意気盛りだ。

 友人に選んだ理由も典型的なモブ学生で、傍にいれば目立たずに情報収集できるというだけである。

 

 

 ナナシー・レイブンクローはアウディトーレ家と違い、王都に近いレイブンクロー子爵家の令嬢だ。

 外見は身長160cm、体重57kg。胸辺りまで伸びた綺麗な茶髪を三つ編みにしたどこにでもいる平均的な女子高生と言う感じだ。

 

 だがこの娘はヒョロやジャガとは一線を画す。

 それは彼女が俺と同じ王室のエージェントという事だ。立場も俺の実家の下…部下と言う関係だ。どんな契約がなされたかは不明だがアウディトーレ子爵家で数年訓練を受けていた。親父も戦闘と隠密の才能はクレア以上だと絶賛していた。

 身長は平均であるにもかかわらず体重がやや重いのは同年代の女子より筋肉がついているためだ。

 しかし、彼女はそれを悟られずにモブらしくしている。俺はプロで年上だが正直見習うべき所がある。

 

 

 4人目は別の寮に住んでいるのでここでは割愛する。

 

 

 

 

 

 いつも通りこの4人で電動路面バス(これも前世では写真でしか見たことが無いから感動した!)に乗り込み、ミドガル魔剣士学園に向かう。

 

 

 入学してから既に1ヶ月。座席に座れない満員電車にも慣れた。今日も3人の友人と社内で話す。

 

「シド、定期テスト何位だ?隠すなよ」

「32位かな」

「チッ!俺は55位だ。ナナシーは!?」

「31位…です」

「ナナシーさんが1位でシド君が2位ですか。僕なんか54位ですよ」

「クッソ、期末テストじゃ負けねーぞ!」

 

 こんな他愛のない会話ができるのさえ嬉しいと感じるのはやはり長い事裏社会で生きてるせいだろうか。こっちの世界でも12歳の時から裏社会に入ったしな。

 

 

 

 

 

   ~ 興王歴151年5月12日 AM08:01  ミドガル魔剣士学園~

            (シド・アウディトーレside)

 

 正門に近づくにつれ登校する生徒がちらほら見えてくる。殆どの生徒が7:50~8:10の間に登校してくる。路面電車の到着時間がどの寮もほぼ同じだからだ。

 

 正門を潜ると10人程度が固まって野次馬を形成していた。

 覗いてみると男子生徒が女子生徒に告白していた。

 

 俺は珍しいなと思った。

 この学園は貴族専用だ。王族の推薦状がなければ例え金持ちであっても平民は入れない。

 貴族は領内の特産品による経済的な協力関係、又は政略結婚によって派閥を形成する。その為、上級貴族(伯爵、辺境伯、侯爵、公爵)と王族はこの学園を卒業するまでに結婚相手を決めてしまう。

 

 そして告白しているのは確かこの国に3家しかない公爵家の次男。そして告白されているのはアレクシア・ミドガル。俺たちの同級生であり、この国の第2王女だ。

 

「アレクシア王女!どうか僕の愛を受け取ってください」

「ごめんなさい。実はもうお付き合いをしている方がいるんです」

「そっそれはいったい誰なんですか!?僕と同じ公爵家の男子はこの学園にはいないはずです!?」

「同級生のシド・アウディトーレ君です」

 

 ・・・あれ、今俺の名前言わなかった?

 

 アレクシア王女の言葉を聞いた途端数秒思考が停止した。後年、あの時刺客に襲われたら死んでたかもしれんと俺は仲間に一度だけ語った。

 

 

 

 

 

   ~ 興王歴151年5月12日 PM04:40  ミドガル魔剣士学園~

            (シド・アウディトーレside)

 

 

 その日は散々だった。

 

 休憩時間になると皆俺とアレクシア・ミドガルの話でもちきりになった。一国の王女と下級貴族(子爵、男爵、準男爵、騎士爵)が付き合っていると聞けば当然だが。

 

 

 昼休みになるとヒョロ・ガリとジャガ・イモから

 

「おかしい、何で俺じゃない!」

「おかしいですね、何でシド君なんですかね」

「そうだ!恋愛のプロである俺の目から見てシドは到底イケメンとは言えねえし、真面目以外何の取り柄も()え。俺でさえ無理だと思ってんだ。絶対裏がある!・・・けどそれが思い当たらねえ・・・」

 

 ヒョロ・ガリがイケメン、又は恋愛のプロかはともかく俺の評価は間違っていない。事実俺とナナシー・レイブンクローはシャドウガーデンの仲間以外の人の前では真面目以外取り柄が無いと思われるように振舞っている。

 

 

 

 

 

 そして現在、俺は夕日に照らされた体育館の裏で二人の女性を待っていた。

 程なくしてアレクシア・ミドガルがナナシー・レイブンクローに連れられてやってきた。

 

 

 俺は彼女たちが3歩手前まで来て、ナナシーがアレクシア王女の背後を守るように立つのを確認すると膝をついて臣下の礼を取った。

 

「お初にお目にかかります。アレクシア殿下。手前はアウディトーレ子爵家の長男、シド・アウディトーレと申します。本日はお時間を取っていただきありがとうございます」

「初めましてシド君。私も貴方に聞きたいことがあるから問題ないわ。まずそちらの要件を言ってくれる?」

「はっ!今回はどうしても伺いたいことがございます。実は本日の朝、登校している時偶然アレクシア殿下が求婚されているところを目撃いたしました。その時アレクシア殿下が私と付き合っていると耳にいたしました。あの場にいた全員が私と同じことを聞いております。言い間違いでなければなぜそのようなことを言ったのかご説明願えませんか?」

「そうねえ…一番の理由は貴方に興味があったから」

「興味…ですか?」

「お父様に言われたのよ。同じ時期に入学したシド・アウディトーレとナナシー・レイブンクロー、そして体育教師のマリアベル・グリフィンドールとは出来るだけ仲良くするようにって。でも理由は教えてくれなかったのよねえ。その時が来たら分かるって。その時って何よもう…」

 

 一通り話すと「はあ・・・」と盛大なため息をついた。

 

「陛下のご命令であることは分かりましたが、それなら普通に友人として接すれば宜しいのでは?恋人と公言する理由が分かりません」

「悪いけどその質問には答えられないわ。王家の極秘事項…と言えば分かるわよね。あなた達が下級貴族でも」

 

 

 例え大貴族の質問であっても王家の極秘事項…つまり高度に政治的な問題では余程の事か深い関係者でなければ聞くことは許されない。俺も貴族の生まれである以上当然両親から聞かされている。

 

 よってそう言われた以上俺は黙って頭を下げる事しかできない。

 

「では今後そのように接すれば宜しいのでしょうか」

「そういう事。でも今ここであなた達が何者か、そしてお父様からどんな命令を受けているかを教えてくれればこっちもこっちの事情を話せるけどどうする?」

「お戯れを・・・下級貴族の我々が陛下の意志を曲げるなど」

「そっ。じゃあ今後は私の恋人として振舞ってね。ついでに帰る時は護衛よろしく」

 

 そう言ってにっこり笑うアレクシア王女。俺とナナシーはため息をつくと若獅子寮行の電車まで見送った。

 

 

 

 

 

   ~ 興王歴151年5月15日 PM03:00  ミドガル魔剣士学園~

            (シド・アウディトーレside)

 

 

 アレクシア王女と恋人関係になってから3日目。早くも変化が見え始めた。魔剣士としての訓練だ。

 

 

 ミドガル魔剣士学園の授業も前世と同じ座学と体育がある。前世と大きく違うのは座学は前世の小学生レベル。そして体育の授業は実戦を想定した剣と弓の訓練だ。

 

 今期の生徒数は丁度60名(姉のクレアの時は54名)。その為、まず成績で30名ずつに分ける。座学は男女共通だが、魔剣士の訓練では男女に分かれて訓練する。

 

 アレクシア王女の総合成績は4位だが、ナナシーと俺は31と32位なので(勿論わざと)本来下位30名の授業を受けるのだがアレクシア王女の要請で俺だけ上位の授業を受けることになった。

 

 

「今日から皆と共に第一クラスの授業を受けることになったシド・アウディトーレ君だ。仲良くするように」

「よ、よろしくお願いします」

 

 訓練教官であるゼノン・グリフィーの紹介に俺は少し大きめに、そして如何にも緊張しているように挨拶した。

 

 

 訓練内容は一部のメニューを除き殆ど変わらなかったが流石上位クラス。一人ひとりの技量が下位クラスとは段違いだ。

 

 

 

 

 

 

 授業が終わる30分前、自手練の授業になる直前ゼノン先生が話しかけてきた。

 

「シド君だったね。上位クラスの授業はどうだった?」

「皆さん凄いレベルですね。ついていくのがやっとって感じです」

「でも筋が良いね。王都武神流を学んだことは?」

「いえ、実家で教わったのは武神流です」

 

 この世界でも剣の流派はこまごまとしたものがあるが最も広く学ばれているのは武神流だ。王都武神流とは10年ほど前、ミドガルで派生した流派だ。アレクシア王女の姉であるアイリス王女も王都武神流の使い手だ。

 

 

 俺はこの授業中どうも彼が気になっていた。

 彼は確かに強い。普段は魔剣士学園の非常勤講師を務めており、非常時には第3騎士団の副団長を務めているのだから当然だが気になっているのはそんなことじゃない。目だ。

 

 

 あの目は裏社会で生きてきた奴の目だ。巧妙に隠しているが俺には分かる。前世でもこの手のタイプとは何度も闘ってきた。

 

 

 終了のチャイムが鳴るとアレクシア王女が突然腕を絡めて来た。

 

「先生、今日の自主練はシド君と行いますので、先生は他の生徒の所に」

 

 やけに棘のある言葉だった。

 

「…こう言っては何だが彼との練習が殿下の実になるとは思えませんが」

「先生…私達ラブラブなんです。邪魔しないでくれません」

「…殿下がどう思われようと結果は変わりませんよ」

 

 そう言って如何にも女性受けするような笑顔を向けて彼は他の生徒の元へ行った。女生徒が顔を赤らめながら声を掛けているのが見える。

 

「さ、組手しましょ。シド君」

 

 

 ・・・なるほどね。

 前世の経験か、現世の父から学んだことが活きたのか今のやり取りで彼女の事情を察してしまった。

 

 

 

 

 

   ~ 興王歴151年5月15日 PM05:07  ミドガル魔剣士学園~

            (シド・アウディトーレside)

 

 

 放課後になると俺は早速上位クラスのアレクシア王女を一緒に下校するために誘った。ナナシーは学級委員の手伝いがあるため来れなかった。

 

 

 生徒が待ち合わせ場所に使う噴水の前で話し始める。

 

「この度はお付き合いいただきありがとうございます。今回は答え合わせをするためにご同行願いました」

「答え合わせ?」

「上位クラスの非常勤講師のゼノン・グリフィー氏の事です」

 

 彼の名前を出すとアレクシア王女は目を細める。これを見て確信して話す。

 

「私の推測ではゼノン先生は殿下の婚約者ですね。しかし、殿下は乗り気ではないように見えます。そこで私を婚約破棄の為の当て馬に選んだ・・・違いますか?」

「そうよ」

 

 意外なことにすんなり認めた。俺は前世でCIAやFBIで採用されている交渉術を会得してる。要は大抵の噓は見破れるのだがだからこそ分かる。今の台詞が真実であることも、王家の人間(・・・・・)として間違った行動をしていることも。

 

 俺は慎重に言葉を選んで質問した。

 

「どうしてでしょうか?個人的に気に入らないという事でしょうか・・・?」

「そうよ。あなたも見たでしょう?あの胡散臭い笑顔」

 

 その答えには俺も僅かに動揺した。噓を見抜く心理テクニックはこの世界にも存在してはいるが前世程発展してはいないはずだ。

 

「イケメンで将来有望で実家は大金持ちの超優良物件。彼の婚約者と言う立場は誰が見ても羨むわ。でもね、何もかもが完璧な人間っていないのよ。もしいたらそれはとんでもない噓つき」

「…つまり、完璧すぎるのが気に入らないと」

「そういう事。この事お父様に言ったら「気は進まぬが一応調べてみよう」と言ってくれたから結果が来るまで今の関係を続けてよね」

 

 そう言ってウインクする。

 俺はため息をついて駅まで彼女に付き添った。

 

 

 

 

 

   ~ 興王歴151年5月17日 AM06:40  ヒルデガルド寮~

            (シド・アウディトーレside)

 

 

 アレクシア王女の真意を聞いてから2日後・・・俺は登校する前に憂鬱な朝を迎えていた。

 

 

 昨日の夜、父(ハスガード・アウディトーレ)から手紙が届いた。

 内容はゼノン・グリフィーの事だった。

 

 

 やはり彼は悪党…もとい裏社会の人間だった。

 彼の急激な出世の裏には聖教の裏組織【テンプラー】の協力があった。端的に言えば出世に邪魔な連中を陰で殺すか、左遷させるかして出世。どうやらトップエリートの第一騎士団団長の地位を狙っているらしい。

 おまけに目を疑うような情報が書かれていた。『この国の表と裏のトップに立つためにアレクシア王女との結婚が必要らしい』

 

 俺が今憂鬱なのはこのせいだ。

 

 

 この国のトップに立つ条件は3つ。

 

 一つ目は王族との婚姻。

 二つ目は大貴族の子弟であること。そもそも大貴族(伯爵~公爵)の出身でなければ王族との婚姻はできない。

 そして3つ目は魔剣士としての実力。別にミドガル王国最強である必要は無いがいざという時戦場にも出れない腰抜けでは誰もついてこない。王族が戦場に立っているのといないのとでは士気が大違いだからだ。

 

 

 でも裏のトップになる条件はこれと大きく異なる。

 裏社会のトップに立つ条件は2つ。しかしそれは血縁や実家の地位は関係ない。金と組織的な暴力だけだ。

 

 

 その上裏社会のトップに立った場合、それは表の足かせとなる。表と裏の権力の両立は決して容易ではない。

 だから150年以上前、興王は裏社会の管理をジェット侯爵家とアウディトーレ子爵家に任せたのだ。ゼノン・グリフィーも侯爵家の出身かつ裏の人間なら知らないはずがない。

 

 

 頭を悩ませながら学校へ行くと校門前に5人の騎士団が待ち構えて登校する生徒一人一人を捕まえて尋問していた。しかも指揮しているのはゼノン・グリフィーだ。

 

 

 見るからに異様な雰囲気だった。こう言う時は決まって何か事件が起きているのだ。

 

 

 ゼノン氏は俺を見つけると部下に命じて5人で俺とナナシーを取り囲んだ。絶対に逃がさないという緊迫した気配が伝わってくる。

 

「・・・あの…何かあったんですか?」

 

 俺は恐る恐る聞いた。正直こういう雰囲気は前世で慣れているが他の生徒の目がある以上モブに徹するべきだ。ナナシーも僕の背中で怯えた演技をしている。

 

「君を探していたんだ。シド・アウディトーレ君、そしてナナシー・レイブンクロー君」

「僕をですか?」

「ああ、君は昨日、アレクシア殿下と一緒に帰ったよね。アレクシア王女は最近は君かナナシー・レイブンクローという女生徒とのどちらかと一緒に帰っていると複数の生徒が証言している」

「ハイ・・・」

「昨日は誰が一緒に帰ったんだね?」

「僕ですけど…」

「そうか・・・悪いけど君を拘束させてもらうよ」

 

 そう言って騎士二人が俺の両腕を脇に抑える。

 

「ちょ、どういうことですか?アレクシア王女の身に何かあったんですか?」

「昨日の夜門限(19時45分)になっても寮に帰ってこないので寮の管理人から捜索願が出された。夜勤の騎士の捜査の結果誘拐された可能性が高いという事だ。そこで君に話を聞きたい」

 

 

 どうやら事態は思わぬ方向へ動いているようだ。




ナナシー・レイブンクローの容姿は『ひげを剃る、○○○○を拾う』の荻原○○に眼鏡をかけた感じを想像して下さい。
主人公以外の仲間の名は『ホグワーツレガシー』の寮名から取りました。スリザリンは他国にいる貴族の仲間と言う設定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。