~ 興王歴151年5月17日 PM00:00 第3騎士団駐屯地尋問室~
(シド・アウディトーレside)
「おらあ‼サッサと白状しろ!」
8畳程の部屋に人が人を殴る音が響く。
現在俺は登校がてらゼノン・グリフィー氏に駐屯地に連行され拷問を受けている。
この世界では平民に関しては拷問は禁止されていないが下級とはいえ貴族である俺にも拷問が加えられている。しかも連中は犯人が俺だと確信しているわけではなく、無理やり吐かせることを目的としているようだ。
元の世界での私も重要参考人に対して確信がある場合に限り拷問をしていたのだ。連中が冤罪をでっち上げようとしていることは雰囲気で分かる。
午前9時から30分程尋問を受け、2時間ほど拷問された後、簡易的に手当てをされて釈放された。
駐屯地を出るとジェノスが馬車を連れて待っていた。
「傷に響くからゆっくりと駅に向かってくれ。ああ、出来れば駅近くの出店で降ろしてくれ」
御者にそう言うと窓を閉めて小声で話しを始める。馬車の壁は声が外に漏れにくい素材で出来ている。内緒話をするには最適の為、興王が馬車を作る際の材質を音が伝わりにくい木材と金属に統一したのだ。
「動けるか?」
「ええ、辛うじて…ですが戦闘は今日一日は無理かと」
「魔力で傷を治すのも慣れてきたな。早速で悪いが報告だ。ファントム伯爵家からの報告ではゼノン・グリフィーはアレクシア王女との婚約を餌に【ナイツ・オブ・ラウンズ】の一員となり第一騎士団団長の地位を得るつもりらしい」
「ナイツ・オブ・ラウンズ?」
「ああ、お前はまだ聞いてないか…【ナイツ・オブ・ラウンズ】はテンプラーの最高意思決定機関の事だ。全員で12人いる。この地位は表社会でもかなりの影響力を持っており、ナイツ・オブ・ラウンズの一員に選ばれれば聖教における地位と名誉は約束される。」
「なるほど。聖教は大陸の一大宗教。そこでの地位が約束されればミドガル王国での地位も約束されると・・・」
ジェノスが頷く。しかし、俺はここで疑問をぶつける。
「しかし、そんなにうまくいくとは思えません。アレクシア王女はグリフィー卿に対しかなりの不信感を持っております」
「それがな…グリフィー家は先代の頃からラワガスにいる催眠術の研究者に投資しているという情報が有る」
「催眠術ですって‼・・・あのそれって人を操る…もしくは何らかの思い込みを持たせる技術でよろしかったでしょうか!?」
かつて冷酷非情なエージェントだった俺もこの世界にも催眠術があるのかという驚きを隠しきれずに質問する。
「良く知っていたな。その男の研究が完成して、先日ミドガル王国に入国したという情報が入ってきた。その男の迎えに行ったのはグリフィー家の執事だったそうだ」
「確かですか?」
「大貴族の金の流れはミドガル銀行の頭取であるジェット侯爵家の者が責任を持って行っている。間違いない」
「となると急がねばなりませんね。直ぐアルファ達に連絡を…」
「その点は一昨日不審な動きを掴んだお前の父が手配してくれた。恐らく今頃はアウディトーレ子爵家で作戦会議だ」
想像以上の有能さを見せた父に感謝しつつ、情報収集はアルファとゼータ。そしてファントム伯爵家に任せ、とりあえず今日と明日は回復に専念するように言われた。
~ 興王歴151年5月17日 PM08:00 ???~
(アレクシア・ミドガルside)
「やあ、アレクシア王女。気分はどうだい?」
「最悪よ。…というか私を襲ったのはやっぱりあなたの仲間だったのねゼノン・グリフィー!」
現在私は地下牢らしき一室にいる。
目を覚ましたのは数時間前…恐らく17日の午前中(腹具合での予想)。ポチ(シドの事)と駅で別れて寮に行く電車に乗ると、珍しく生徒が一人もおらず、数人の黒服の男たちがいた。しかもサングラスと縁の長い帽子を目深く被り、真夏でもないのに日差し避けを掛けて顔が分かりずらくしている。
如何にも怪しい風体だったが貴族の護衛には有りがちなので最初は気にしなかったが…電車が出るとやはり気になって注視しているとやはり不自然だった。
貴族の子女の護衛なら何故護衛対象がいないのかと。
「ちょっとあなた達・・・‼」
立ち上がって話を聞こうとしたらそいつらが間合いを詰めて私を取り囲んだ。
叫ぶ間もなく腹にパンチを一閃。次の瞬間両腕を拘束し、ハンカチを口に当てた。恐らく睡眠薬入りの。2回も嗅いだら直ぐに眠くなり、体の力が抜けて気を失った。
気が付くと今の場所にいた。
横たわっていたベッドから身を起こしまず体が動くかを確認する。問題は無かったが手と足には封緘(魔力の出力を大幅に弱める魔道具)がはめられている。
ジメジメした感じと窓が無いことからすぐに地下室だと分かったが掃除は行き届いており床には安物とはいえ絨毯が敷かれていた。部屋の隅にカーテンで仕切られたトイレと手洗い用の水が張られた桶、部屋の中央に簡素な机とポットとカップがある。そして何より騎士団駐屯地にある地下牢より倍以上は広い。
見たことは無いが話は聞いたことがある。これが大貴族用の地下牢だろう。
ふと隣から小さな呻き声に気付く。微かなので壁際まで近づかないと分からない位だ。
隣部屋を覗こうとしたが格子から顔は出せない。諦めようとしたら壁の一部から微かな声が聞こえる。
見ると壁に僅かな穴が開いている。俗にいう覗き穴か。それで隣の部屋を見て…絶句した。
継ぎはぎだらけの肉塊がそこにあった。あちこちにメスを入れたような切り口を糸で縫い合わせた後がある。顔の半分は白髪に覆われており性別の判断すら難しい。辛うじて人の形を保っている肉塊。化け物という台詞がピッタリだ。
「起きたか」
女性の声がした方を見ると扉の前に30代位の女性が立っていた。
女性でありながら服の上からでも分かるガッチリとした体格。騎士団の制服ではないがよく似た動きやすい服装をしていた。恐らく騎士団所属の者と区別する為だろう。大貴族の護衛によく見られる。
「あなたは誰!?ここはどこ!?隣の化け物は!?」
私の声をその女騎士?は無視し、立ち去る。
私は歯ぎしりしながら見送ると取り敢えず部屋の探索に戻る。
特に仕掛けらしき物は無かった。ポットの中は水だった。何が入っているか分からなかったので手を付けなかった。
やがて女騎士?が戻ってきた。同業者らしき女性を連れて来ていた。随分若い。同い年位だろうか。両手には食事が載ったトレーが載っている。
ガチャリと音がしてドアが開く。
「食事だ」
そう言って机の上にトレーが置かれた。
トマトとレタスとハムのサンドイッチ、ベーコンエッグ、ホットコーヒーと小皿に乗せた角砂糖2つ。領地持ちの下級貴族(男爵と子爵家)の家庭によく見られる食事だ。
「ねえ、ここはどこ?あなた達は何者?」
「死にたくなかったら食え。貴様を飢えさせるなと言われている。食わないなら拘束して無理やり食わせる。話はそれからだ」
有無を言わせぬ答えが返ってきた。そして両手にある鎖を見せてきた。
諦めて食事を始める。
「毒が入ってないならいただくわ」と言おうとして止めた。殺すつもりなら誘拐などしないだろう。
食事が終わると一人がトレーを下げ、残った30代女騎士?と話を始めた。
「まずあなた達が何者か教えてくれない?」
「私達は裏社会の殺し屋だ。【雷刃】と言えば裏社会では結構名が知れているが」
「悪いけど聞いたことないわね。でも信じるわ。歩き方と目と体つきを見れば大体の強さが分かるから」
「話が早くて助かる」
「次の質問よ。ここはどこ?地下にあるのは分かるけど」
「下水道に作られた秘密施設だ。ある大貴族様が秘密裏に作ったらしい」
「それってグリフィー侯爵家?」
「依頼人の名は明かせない。仮にも王女なら裏社会の事情はある程度分かっているはずだ」
疑いを感じさせない口調だわ。こいつこういうことに慣れてるわね。
私は姉と同じく第2王女としての教育を受けてきた。その一つに嘘の見抜き方や相手の人格の測り方と言うモノがある。
それを駆使しても犯人がグリフィー侯爵家かどうかの確信は得られなかった。
「はあ、分かったわ。じゃあ次ね。・・・隣の化け物は何?人間を無理やり膨らませたように見えるけど?」
「依頼人が抱えている実験体だ。確か生物兵器?とか言うモノらしい。名前は確か…実験体番号227ミリア…だったかな。良く分からんが」
どうやらこれ以上の詮索は無駄ね。
「じゃあ最後の質問よ。今日の新聞と今話題の小説を一つ持ってきて。じゃなきゃ暇で発狂するわ」
そして現在。
暇つぶしに渡された新聞や本を読んでいたらゼノン・グリフィーがやってきた。
私はすぐ食ってかかった。
「何のために私を誘拐したの?まさかグリフィー侯爵家には婚約者を監禁する伝統でもあるのかしら」
「変わらずで安心したよ。今日はもう休みたまえ。明日には準備が整うからね」
「準備?何の準備かしら」
「君を口説くための準備さ」
笑顔でそう言うと立ち去った。
正直嫌な予感がした。
私を口説くためって事は私は愚かお父様を丸め込めるほどの手札を持っているって事よね。王族の誘拐は例え貴族位を持つ者でも死刑は免れないのにそれを覆せるほどの何かを。
翌朝は慌ただしかった。
朝食を終えるとすぐベッドが片づけられ、替わりに椅子型の寝台が設置された。
その椅子の寝台はリラックスできる角度で作られており、先端に魔封じの鎖が取り付けられていた。
その他、様々な器具を持ってきては置いていた。どれもこれも意味が分からない。
トイレを済ませたらここに寝ろと言われた。
扉の前にはゼノンと数人の屈強な騎士たち。どうやらゼノンの部下も加担しているらしい。
天下の第3騎士団も落ちたものだ。
寝台への拘束が終わるとまた何者かが地下牢に入ってきた。
背丈は成人男子の平均値位か。ぼさぼさした茶色の長髪、瘦せぎすの顔、白衣を着ているが体系も瘦せぎすで年齢は40~45歳位に見える。
「は、初めましてアレクシア王女。わ、私はラワガスからき、来ましたオーリ・ワルダーロンとも、申します。み、短い間ですので覚えてもらわなくてい、いいですけど」
やけに濁点が多い喋り方だ。これではまともな就職先が無いだろう。
「今後の事は彼に任せてある。じゃあ私は仕事があるからこれで失礼するよ。ああ、明日は午後から休暇を取っているから安心したまえ」
そう言ってゼノンは去っていった。後には彼の部下が二人残されている。
瘦せぎすの男は空の注射器を取り出すと私の血を抜き始めた。3本ほどで大体180ml位か。
それが終わると今度は別の注射器を取り出した。中に緑色の液体が入っている。
私はため息をつくと騎士たちの方を見て言い放つ。
「ねえ、あなた達が言う口説くって人体実験の事?」
「さあな。俺たちも明日になれば分かるって事しか聞かされてねえんで」
そう言うと彼らはクスクスと笑った。
王族に対して不敬罪ともとれる喋り方とその笑顔で確信した。彼らは私を洗脳する気だ。相手の返事にただ頷くだけの人形に・・・。
~ 興王歴151年5月18日 PM00:40 ヒルデガルド寮203号室~
(シド・アウディトーレside)
現在俺は学生寮の一室にいる。横たわっている間も治療に専念したので傷は大体治っている。完治はしていないが万全の準備がいるほどの強敵でなければ戦闘にも耐えられる。
正午になり、起きて昼食を作り、食べた。その直後、空けた窓からアルファが来た。10時頃目を覚ましたのでアルファ達の為に窓を開けておいたのだ。真冬じゃなくてよかった。
「お疲れ様アルファ」
「久しぶり…でもないわねシド。ファントム伯爵家から知らせが届いたわ」
「アレクシア王女の居場所が?」
「正解。この王都の下水道に怪しい連中が入り込んでるらしいわ。デルタとレオナ、そしてファントム伯爵家の者が尾行したら下水道の一角に隠し扉を見つけたってわけ。デルタが臭いを覚えたから彼女がいれば迷わないわ」
「そうか。じゃあいつ襲撃する。明日か?」
「それが…」
「どうした?」
「襲撃は今夜なのよ」
「今夜!?」
「ええ…連中が契約した催眠術の研究者…そいつの研究ってのがかなりヤバいらしくて」
「どんな研究だ?」
「詳しい事は分からないけど・・・彼の催眠術は滅多なことじゃ解けないらしいの。でも強力な分時間がかかるんですって。大体4~5日くらい」
「彼女が誘拐されたのは一昨日の17時頃…その催眠術師がミドガル王国に入ってゼノン・グリフィーと接触したのが昨日の夕方…猶予は最短で2日と7時間ってとこか・・・」
俺の予測に黙って頷くアルファ。
そのアルファが言葉を紡ぐ。
「そこで当主からの緊急指令よ。シド・アウディトーレは戦闘可能になり次第、直ちにデルタ、ベータ、ジェノス、そしてファントム伯爵家のグリムと合流しアレクシア王女を救出、及びゼノン・グリフィーの捕縛。難しいようであれば殺害。それが今回の任務よ」
「了解!ってかしかしグリムか…アレクシア王女がらみとはいえファントム伯爵家も【双肩】を派遣するとはこの事件、それほど厄介なのか」
「ええ、何しろテンプラー絡みだからね。ああそう。念のため確認するけど戦闘は可能かしら?」
「ゼノン・グリフィーの倍以上強いやつがいなければ大丈夫だ」
「じゃあ、御当主にはそう伝えるわね。ああ、これも念のために伝えとくわね。私はこれから昼食後、安宿で睡眠をとるわ。その後裏方に回るつもりよ。あなたは5時までに待ち合わせ場所に向かってね」
「了解!ちなみにナナシーは参加しないのか?」
「彼女にも監視が付いているから襲撃に参加したらすぐばれちゃうわ。だから情報収集と監視の攪乱をさっき彼女に知らせた」
俺はアルファを見送った後、サッサと着替えてアルファから教わったデルタたちが待つ場所へ向かった。
~ 興王歴151年5月18日 PM04:48 王都はずれの裏路地~
(シド・アウディトーレside)
「ボス-ッ‼」
午後3時まで昼寝と治療をしてから移動した。
寮から軽いジョギングで25分程の待ち合わせの裏路地に着いたらデルタが飛び出して抱き着いてきた。
いつものこととは言え隠密行動が出来ないやつで扱いに困る。戦闘員兼ムードメーカーとしては重用してるが正体を隠しての任務には連れていけない。彼女の嗅覚は貴重な技能なので非常に残念だ。
「久しぶりだねデルタ。一緒に仕事ができてうれしいよ」
「えへへ。デルタはこの群れの中でもボスとアルファ様の次に狩りが得意なのです」
デルタは笑顔でいつもの自慢をする。
慢心は弱点に成り得るが治すのは諦めている。今まで治そうと試みたが性格そのものが崩壊しそうになるし、むしろそれによって起こるムラが戦闘時にバネになるからだ。
話を戻して今夜の襲撃場所を教えてもらう。今いる場所のマンホールから歩いて10分程度。しかも明らかに王家直轄領だ。
王家直轄領内に一貴族が王家の許可なく地下に秘密の部屋を作る事はミドガル王国の法に抵触する。これで堂々とゼノン・グリフィーを拘束できる。殺害したとしても言い訳が立つ。
一時間ほど作戦会議をして、午後6時になったのを確認するとデルタとジェノスはガートランド侯爵家が所有する買収された騎士が居る施設へ。俺とベータとグリムは下水道を通って敵の隠れ家に向かう。
~ 興王歴151年5月18日 PM06:30 王都下水道の地下施設~
(シド・アウディトーレside)
「ど…どこにっぐっ‼」
「・・・あの部屋かな?」
俺たち3人(俺とベータとグリム)は番兵を始末し、監禁部屋と思しきドアを見つけた。
予想道理ゼノンはここが見つかるとは思ってなかったようで番兵も4人しか配置してなかった。
まあ、可能性は低いが地上のグリフィー侯爵家所有施設にいることも考えてデルタとジェノスを割り振ったのだが・・・。
最初の2名の始末をファントム伯爵家の『双肩』グリムに任せてみたが流石の腕前だった。恐らく2年前の俺では見切れない動きだった。
扉を開けてみると8畳くらいの密室に30代の瘦せぎすの男と射角45度のベッド型の椅子に魔封じの鎖で四肢を拘束されたアレクシア王女だった。
「な、なんだ貴様らぐへっ‼」
男が話す前に前蹴りを叩きこむグリム。早ええっ!
倒れた男を尻目に周りを見ると注射器とお香を焚くための調度品。周りに甘ったるい匂いがプンプンする。
この香りは前世でも嗅いだことがある。よかった。これなら対処できそうだ。
視線をアレクシア王女に向けると虚ろな目をしていた。
「アレクシア様!アレクシア様!」
「…あれ…あなたは…確か…ファントム伯爵家の…誰…?」
「グリムです。主の命により助けに参りました!」
「主…!?…ああ…シエルの…」
「そうです。・・・良かった。まだ洗脳は完全ではないですね!」
「グリム!鍵!」
アレクシア王女の状態を確認すると俺は瘦せぎすの男から鍵を奪いグリムに放り渡す。
グリムは安堵の息を吐いた後、四肢を封じる鎖を外した。
「待て、万が一に備えてここで前段階の催眠を解いておく」
アレクシア王女を背負おうとするグリムを俺は手で制した。
「貴方、催眠術を知っているのですか?」
「もしかしたら俺が知ってる術かもしれない。だったらここで解いておいた方がいざとなった時王女は自力で逃げられる」
前世の知識にある解毒香(清涼香と言う)の材料がアウディトーレ家にあったのでそれを拝借してきてよかった。
催眠術に使うお香をごみ箱に捨てて全員部屋を出る。
次にベータに入り口の監視を命じた後、解毒作用がある清涼香を焚き王女に嗅がせる。
次に捕らえた催眠術師に意識が混濁する薬を嗅がせた。
虚ろになった催眠術師に俺は問いかける。
「私だ。ゼノンだ。合言葉を言え!」
「あ・・・ゼノン様ですか…合言葉とは?」
「アレクシア王女の催眠を解く合言葉だ。万が一失敗した時の為に暗示に組み込んでいるはずだ」
「ハイ・・・「ミドガル王国に滅亡を」です・・・」
そのセリフをアレクシア王女に語ると即座に目が覚めた。
「ここは・・・あら?あなたは確かグリムさんでしたっけ?」
「はい!ファントム伯爵家のグリムです。ご無事で何よりです殿下」
アレクシア王女の意識がはっきりしたのを確認し、全員が安堵の息を漏らす。
「あら?なんでポチがここに…って思い出した!ゼノンは!ゼノンはどこ!?私はアイツにさらわれてここに…」
「落ち着いて下さいアレクシア王女。ご存じの通りここは王家の所有する地下施設の一つです。ゼノンが見つけてあなたを秘密裏に拉致したんです。それを我々が助けに来たんですよ」
俺が説明するとアレクシア王女はようやく安堵した表情になった。
「さあ、急いで脱出しましょう」
下水道を出口に向けて走っている時カツカツと足音が聞こえてくる。
「困るなー人のフィアンセを勝手に連れ出されちゃあ」
地下施設と出口の中間あたりでゼノン氏に出くわした。
「やれやれ、愛人との食事を断ってきてよかったよ。胸騒ぎって当たるんだね」
口元は笑っているが明らかに殺気を俺たちに向けている。
元凶が来てくれるとはついてるね。