~ 興王歴151年6月14日 PM17:30 ミツボシデパート~
(シド・アウディトーレside)
「うわー!並んでるなー!」
「あのルーナ商会が満を持して開いたお店ですからねー。デパートって言うんでしたっけ!?」
「ええ、食品を始めとし、服飾や化粧品まで扱う総合商店らしいですね。友人の話では品揃えが凄いとか」
「そうなんだよ。3日前の開店日に招待された先輩の話じゃ女の子に受ける商品が凄いとか。先輩が彼女に送ったら絶賛されたんだってよ!だからこりゃー行かなきゃなーって思うだろ普通!」
「確かにそう言う店は今後の為に是非ともチェックしとかなきゃな」
ヒョロとジャガが店の前でまくしたてる。刺激しないように相槌を打つ俺とナナシー。
俺とナナシー・レイブンクローは同級生のヒョロ・ガリとジャガ・イモに連れられて大きな建物の前に来ている。
その建物の名はミツボシデパート。驚いた事に前世より200年以上文明レベルが遅れたこの世界に明らかに前世で住んでいた日本の店の名をパクった商店が3日前オープンしたのだ。(前世で知っている名は三越デパートだったか)
しかも広さ迄俺の知ってるデパートとほぼ同じ。内情を知っているとはいえ、ここまで再現できたとは驚嘆の他ない。
最も俺は何故明らかに日本人が関わっているような店が出来たのかを知っている。
とはいえ、俺が建てたからじゃない。アウディトーレ子爵家の裏の顔、シャドウガーデンのメンバーが資金調達と情報収集と王都での拠点確保のために建てられたものだからだ。
この店の名前を聞いた時はもっと別の名前にするように強く言い聞かせておくべきだと思ったが既にその名前で宣伝されていた為無理だった。
そのことが今でも悔やまれる。俺の他に転生者がいたら「それレストランの格付けに使われる称号だろう!」と突っ込まれそうだ。
「お客様、少々よろしいでしょうか?」
そんなことを考えている時ふと声を掛けられた。
見ると店員らしき人がいた。
年齢は二十歳前後。身長165cm位。この世界の女性ではやや高い方だ。髪はややウェーブの掛かった黒の長髪で端が跳ねている。
しかし、一番目を引くのは整った顔立ちだ。紛れもなく美少女の部類に入る。
「あなたとそちらのおさげのお嬢様。お手数ですがアンケートにお答え頂けますか?粗品もご用意しておりますが」
そう言って俺の手を取ると突如手首をひねって右手を上にして指輪を見せる。アウディトーレ子爵家の家紋だ。
「「ええ、いいですよ」」
指輪を見て察した俺とナナシーは即座に頷いた。
「お、俺もやりますよ!アンケート!」
「ぼ、僕も!」
「いえ、そちらのお二人だけで結構です」
ヒョロとジャガの意見を笑顔で断ると先導された通りに俺とナナシーはついていった。
そのデパートは四角形で3階建ての建物だ。更に中央にこれまた四角形にくり抜かれたような空間があり、中庭と教会のような建物がある。
東西南北の建物は独立しているように分かれ、各フロアに衣料や食料品売り場が分かれて販売されていた。勿論会計もそのフロア内でするので前世と同じ複数の店が集まってできた建物の様相だ。
俺とナナシーはその中庭にある教会に似た建物の中に案内された。
中一階はやはり礼拝堂だったが異変に気付いた。
外見と比べてやや狭い感じがする。壁に厚みを作っているようだ。恐らく窓も。表の商業施設と比べても明らかに頑丈に出来ているようだ。
「二階でクレア様とレオナ氏が待っております。シド様、そしてナナシーさん」
「確認したいのですが父の部下ですか?私はあなたを知りませんが」
「ハイ、シド様が家にいたとき私は修行中でしたので。申し遅れましたが私はニューと申します。お見知りおきを」
二階の部屋に入ると12畳程度の空間の中央に円形と長方形二種類のテーブルがあり、姉クレアとファントム伯爵家の工作員レオナがいた。
これは偶然ではない。元々昨日の夜ゼータが来て明日の放課後ここに来るように言われていたのだ。ヒョロ・ガリとジャガ・イモが一緒だったのは偶然に過ぎない。
「遅いわよシド。相変わらずドジね」
「一年と三ヶ月ぶりですね姉さん。活躍は聞いております」
「ナナシーちゃんもごめんね、こんな奴につき合わせて」
「いえ、お久しぶりですクレアさん」
「さて、早速だけど席についてくれない。お茶を容れたら始めましょう」
レオナさんは俺とナナシーと姉さんの会話を遮るといそいそとお茶の支度を始めた。
今日の議題…もとい国王陛下からの依頼は夏休み明け(9月8日)に行われる
武神祭とは大陸一の武力を持つミドガル王国が主催する2年に一度の武道大会だ。ミドガル王国だけでなく世界各国の猛者が最強の座を求めて参加してくる。
とはいえ、中には国の命令でいやいや参加している者もいる。なぜなら今大会は国威を示すのに絶好の機会だからだ。
その上知名度は世界規模なので例え優勝できなくとも本戦に出場できれば各国の軍や警察組織から誘いが来る。その為学生枠もあり、世界各国の魔剣士学園生徒が学園内で選抜大会を開き、4人の出場者を決めて送り込んでくる。
学校側は知名度アップの為、学生は就職活動の為に覚悟を決めて出場してくるのだ。
俺は不安を感じて質問した。
「まさか武神祭に出場しろと?」
「ええ」
・・・不安な事程よく当たるな・・・。
俺は顔を若干青ざめながら続ける。
「それはまずいですよ。我々は王家の影。目立たぬようこの国を守護することが仕事。勿論顔が売れる事で出来る仕事もございますがデメリットの方がデカい。なので伝手が必要な時はファントム伯爵家のお力を借りる事にしているのです」
「でもそれを考慮してもあなた達に頼る必要があると王家は判断された。勿論ファントム伯爵家とジェット侯爵家も了承済みよ」
レオナ氏の目を見て本気だと判断し(最もこの話が嘘だったら王家がアウディトーレ子爵家を切り捨てる腹だと疑わざるを得ない)、一応ナナシーを見ると視線に気づいたのか向こうも俺を見た。
やはり顔が若干青ざめている。だが彼女もレオナ氏の言葉を真実と捕らえたのだろう。彼女は俺を見ながら分かるように大きく頷く。
それを見て俺も覚悟を決めて聞…く前に姉さんが発言した。
「…そうなった原因をお聞かせください。でなければ納得できません!」
姉もアウディトーレ子爵家の人間である以上面が割れる事がどれほど仕事に影響するかを理解している。俺は出遅れたいら立ちを瞬時に抑えレオナ氏の話に耳を傾ける。
「…了解したわ。事の発端は2ヶ月前にベガルタ帝国からもたらされた情報だった」
「ベガルタ帝国?」
「ええ。スリザリン伯爵家の間者から最近皇帝の様子がおかしいと報告してきたの。具体的には以前のように議会での積極的な発言が鳴りを潜めたんですって」
「それって単にストレスで精神的な疲れが出ただけでは?実際現陛下もストレスが原因でどう発言したらよいか分からず積極的に話せなくなったことがおありでしたし」
姉さんの言っていることは正しい。しかし、それだけなら我々が動く必要はない。アウディトーレ子爵家をわざわざ他国の政治に首を突っ込ませる必要はない。現在の王は事なかれ主義が若干心配されているが決して愚かではない。
そんな奴が王に即位することは我々(アウディトーレ子爵家、ファントム伯爵家、ジェット侯爵家)が許さない。
「最もな意見よ。でもスリザリン家が実際に皇帝を注意深く観察した結果、非常におかしな点が浮き彫りになったの」
「おかしな点?…具体的には?」
「何をするにもケツバット卿を通すようになり、それ以外の発言は受け付けなくなったの」
「ケツバット卿?」
馬鹿げた名前に笑ってしまう事を自前のメンタルテクニックで抑え、今紹介された人物の情報を求めた。
「ドエム・ケツバット公爵。傍流だけど帝室の血を継ぐ国の重鎮の一人よ」
「その男を信頼しすぎているのが不自然だと?」
「単に政治や経済、或いは芸術に深い造形があるからだけではないと?」
・・・時々姉と意見が重なるのは血のつながりだろうか…?中身は60過ぎのおっさんなんだが・・・。
「ええ、それどころか自分が第一皇女ローズ・ベガルタの婚約者になる為に色々と裏工作しているという報告もあるわ」
「あの生徒会長の婚約者!?」
「…それは確かに妙ですね」
姉さんの疑問に俺も同様の感想を抱いた。
ベガルタ帝国はミドガル王国とアルカナ帝国以外に脅威となる国は無い。聖教も脅威だがあれは宗教団体の為除外するとしてもミドガル王国、アルカナ帝国という仮想敵国が居る以上今のベガルタ帝国に国内結婚をして国の結束を高めるメリットは低い。むしろ小国でありながら独立を維持している隣国のどこかに嫁がせて同盟関係を強化するのではと今世の父が言っていたからだ。
そして何より・・・。
「それにローズ皇女には兄がいます。公爵家の地位と第一皇女との結婚という事実があれば次期皇帝として選ばれる可能性が非常に高い。しかし、そんな事を第一皇子が許すはずがありません。婚約は絶対に認められ…待ってくださいレオナ氏。婚約者になるために裏工作をしているならば第一皇子を追い落とす策も巡らせていると」
「スリザリン家からそれらしい動きがあるのは間違いないと聞いている」
暫しの沈黙の後、俺は重く口を開いた。
「・・・ファントム伯の策を聞かせて下さい。特に来月の学内選抜について」
「フフッシド君は本当に話が早くて助かります」
その後の話は耳を疑う内容だった。
アウディトーレ子爵家に下された命令は学内選抜大会ではローズ・ベガルタ(2年生)、テオドール・ヒルデガルド(3年生)、ナナシー・レイブンクロー(1年生)、そして姉のクレア・アウディトーレ(3年生)が必ず勝ち残るよう裏工作すること。
そしてこんな裏工作を現国王クラウス・ミドガルが承認したことにも驚いた。
その後、武神祭当日の事はスリザリン家からの報告が来てから考えるとしてその日はお開きになった。
「お疲れ様です。後これを忘れずに持って行ってください。お連れ様に渡さないと怪しまれます」
そう言ってシャドウガーデン新メンバー、ニューがラッピングされた直径25cm程の箱をナナシーに一つ、俺に3つ差し出した。中身はチョコレートだそうだ。
王女誘拐事件からひと月と経ってないのにまたややこしいことになりそうだ。
その上テオドール先輩はともかく、ナナシーが表に出るのはまずいが生徒ですらないアルファ達には任せられない。王命である以上止む負えない。
姉と別れてから友人たちと一緒に帰宅してから寝るまで俺は学内選抜と裏工作、そして1~4位を指定された4人の内誰にするか考えていた。
余談だがナナシー・レイブンクローが一番頭を悩ませたのは自分の実力が表に出てしまった後の身の振り方だったらしい。
お互い期末テストに影響が出ないようにするのが大変だった。
今回は話の都合上短めにしました。
次は学内選抜でシドとローズ・ベガルタが戦います。