ヒソカ vs 悪魔の実編   作:マネ

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四行詩 × と × 観光都市

 上空数千メートルを静かに滑空する、大富豪バッテラ専用のプライベート飛行船。

 

 革張りの一人掛けソファに深く腰掛けたバッテラは、窓の外を流れる雲海を眺めながら、手元にある一枚の羊皮紙を愛おしそうに見つめていた。

 

 そこに記されているのは、とある高名な占い師から授かった四行詩の予言。

 

 

 

 無言の寝室 起きることのない光

 嘆きの平穏は動かず おまえの闇は明けない

 闇に火を灯そう 蒼き大洋へ船を出すのがいいだろう

 水に住まう異形の怪異が お前の歪んだ因果を書き換えるだろう

 

 

 

 不幸な占いをすることで有名な占い師が書いた四行詩の予言。そこには不幸を回避するための行動が記載されているという。

 

 予言に従い、微かな希望を抱いて、バッテラはわざわざ豪華客船を出し、海を巡らせていたのだ。そして事実、予言の通りに、国際法を無視して海を直接泳いできたという規格外の少年『リーノ』と出会うことになった。

 

 すべてのピースが、来年というひとつの結節点に向かって急速に集まりつつある。

 

 バッテラは傍らに直立するプロハンター、ツェズゲラに静かに視線を向けた。

 

「ツェズゲラ。信頼できる情報筋から流れてきたあの噂……やはり事実かね」

 

「はい、間違いないでしょう。来年、世界最大のオークションに、あの伝説のゲーム『グリードアイランド(G.I)』のソフトが、かつてない規模で多数出品されるという噂はほぼ確実です」

 

 ツェズゲラの厳格な声が、防音の行き届いた高級感のあるキャビンに響く。だが、バッテラが本当に確信を得たかったのは、ソフトの流通量だけではなかった。

 

「そして……もう一つの情報だ。あのブループラネットが、ゲームの中に存在するという噂も……」

 

「それについても、私がこの目で確認を取っています。ブループラネットは、間違いなくグリードアイランドの内部にあります」

 

 ツェズゲラが明確に肯定すると、バッテラの目が老いた商人のそれとは思えないほど鋭くギラついた。

 

 ブループラネット。

 

 唯一無二の青で輝く大いなる宝石。

 

 なぜそんな伝説級の至宝がゲームの中にあるという情報が、このタイミングで外の世界に流れてきたのか?

 

 それには厳格な意味があるはずだ。

 

「ツェズゲラ、ブループラネットの情報が外に流れる。どういう状況が考えられる?」

 

「考えられません。意味がありませんから。もっと重要な情報はたくさんあります。あえて、ブループラネットの情報を流す。意味がわかりません。プレーヤーならゲーム内の情報は少しでも隠したいと考えるはずです。ブループラネットの情報を知っている者たちも限られています。ゲーム内の情報を流すとしたら、開発者側しかありえません」

 

「だろうな。そして、流す目的は販売促進。しかし、もうすでに完売している。グリードアイランドのプレイ情報そのものが漏洩したというよりは、まるで――その宝石に惹きつけられる一線級のプロハンターを、ゲームの内部へと手招きし、誘い込もうとしているかのようだ」

 

 ツェズゲラの表情がこわばる。ごくりと生唾を飲み込んだ。

 

 

 

 

 誰を!? 何のために!? グリードアイランドに誘い込もうとしている!?

 

 いや、そうじゃない!!

 

 誰のために!?

 

 

 

 

 このゲームの製作総指揮はジン=フリークスという謎の天才ハンターだということは調べてある。ゲームをさせたいなら、ゲームをしてほしいと直接本人に言えばいいだけだ。ソフトをプレゼントをしてもいいだろう。

 

 ハンターの考えることは理解しがたいな。それはあのリーノというこどももそうだ。

 

 

 いずれにしても、来年という年がグリードアイランドにとって、そしてバッテラ自身にとって、過去最大の転機(チャンス)となることは疑いようのない事実だった。

 

 ソフトが市場に出回り、多くの熟練ハンターがゲームへ流れ込む。それはつまり、資金力に物を言わせてソフトを買い占め、優秀な念能力者を金で雇い続けてきたバッテラにとって、最愛の恋人を救い出すための「最大の勝負の年」が来ることを意味していた。

 

 

「……フフ、来年は面白いことになりそうだ」

 

 

 バッテラは満足げに深くソファに背を預けた。

 

 天空闘技場へ送り込んだあの奇妙な少年、リーノ。彼が200階クラスで3勝を挙げ、こちらの契約の条件をクリアしたとき、最高の駒がまた一つ手に入る。

 

 飛行船の機首は、病床で眠る最愛の恋人の元へと向かって進んでいる。窓に映る自らの老顔を見つめながら、バッテラは来るべき激動の来年を見据え、静かに、だが熱く闘志を燃え上がらせるのだった。

 

 

 

 ◆  ◆

 

 

 

 地上251階、高さ991メートル。

 

 世界第4位の超高層タワーである天空闘技場は、それ自体が世界中から観光客を飲み込む、世界最大級の巨大複合エンターテインメント都市だった 。

 

 タワーの上層階に位置するVIP専用ホテルエリアのフロント。

 

 バッテラから手渡された、漆黒に輝くブラッククレジットカードを提示したリーノに、高級スーツの受付係は露骨に不審な視線を向けた。

 

 だらしない服装の少年が、国際ブランドの最高峰カードを差し出してきたのだ。しかし、機械に通した途端に信じられないほどの利用限度額が表示され、受付係の顔は一瞬で引きつった。

 

「あ、あの……お客様、こちらは一泊100万ジェニーの特級VIPスイートルームでございますが……?」

 

「うん。いいよ。ここで。しばらくここに泊まるから、よろしく」

 

 リーノは鼻を鳴らし、前世の引きこもりニート時代には絶対にできなかった「強者のムーブ」を完璧に気取ってみせた。

 

 フロントの空気が一変し、慌ただしくベルボーイたちが頭を下げ始める。

 

 案内されたスイートルームは、雲海を見下ろす2面ガラス張りの大空間だった。

 

 窓の外の青空には、天空闘技場を中心に、見下ろす形で、観光客を乗せたカラフルな気球がいくつもふわりふわりと飛び交い、この一大エンターテインメントシティを華やかに彩っている。

 

 まさに、絶景。

 

 

「うっひょおおお! マジで家賃タダの最高級ホテル生活が始まっちまったぜ! あの気球、超楽しそうじゃん。あとでちょっと乗ってみようかな……」

 

 

 部屋に入った途端、作っていた虚勢が霧散し、観光客気分のニートの本性が爆発する。

 

 高級な大理石のシャワールームで汗を流し、ふかふかの特大ベッドへとダイブしたリーノは、タブレット端末からルームサービスの最高級メニューを片っ端からタップして頼みまくった。

 

「これと、これと……あ、この一番高い肉料理も全部! なんだこれっていう上限のクレカなんだから、使わなきゃ損だしな!」

 

 やがてワゴンで運ばれてきた、一流シェフによる豪華な料理の数々。

 

 ベッドの上に皿を並べ、贅沢の極みを貪り食いながら、リーノの脳内にはかつてない全能感と傲慢さが満ち満ちていた。

 

 ふと、天空闘技場へ来る途中の、街のストリートの光景が頭をよぎる。

 

 この華やかな歓楽街の片隅には、天空闘技場の過酷な戦いに敗れ、夢を砕かれた格闘家たちの姿がそこかしこにあった。

 

 松葉杖をつき、腕にギプスをはめ、骨折のボロボロのカラダで、失意のままに街を去っていく敗北者たち。それを見つめていた時の感覚が、今の贅沢な空間の中で心地よい優越感へと変わっていく。

 

 

 ハッ、哀れなもんだぜ。

 

 あんなボロボロになって挫折するとか、マジでダサい。

 

 ……まぁ、俺は『絶対に』ああはならないけどな!

 

 

 外側に内包するオーラは世界最高の器(ギフテッド)だ。

 

 さらに『周』の応用で海を数百キロ爆泳できることも証明してしまった。

 

 

 バッテラは『G.Iプレイヤーのオーディションとして200階クラスで3勝しろ』なんて条件を出してきたけどさ……俺ほどのギフテッドなら、3勝どころか一瞬でフロアマスターにまで登り詰められるに決まってるだろ!

 

 プロの世界の厳しさも、念の戦闘IQの重要性も、今のリーノの頭にはまったく全然これっぽっちも入っていなかった。

 

 ハンター試験の失意など完全に過去のものとなり、ただ目の前の至れり尽くせりの環境に溺れていた。

 

「試合なんて楽勝っしょ。ま、とりあえず、バッテラの条件をクリアするまで、ここでダラダラと最高級引きこもりライフを満喫させてもらうとするか」

 

 完全に調子に乗り切ったリーノは、ワイングラスに注がれた高級ジュースを傾けながら、これから始まる闘技場での戦いを「ただのボーナスステージ」だと信じて疑わなかった。

 

 

 

◆  ◆

 

 

 

 翌日、リーノは一階の会場に降り立って、初戦を迎えていた。

 

「しっかし、すごい熱気だな。天空闘技場ドリームを掴むために、やってきたんだろうな」

 

 リーノの対戦相手は、柔道着を着崩した仮面の男だった。あやしいなぁ。

 

 んっ!? なんか、めちゃくちゃ怒ってる? そんな気がする。俺、なんかしたっけ!?

 

「……まぁ、さくさくっと、200階まで行きますか」

 

 

 

 ――リーノ選手 対 スカイウォーカー選手 ファイト!!

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