イエローボックス倉庫。
死神レムはデスノートに「ヒソカ=モロウ」と書き込んだ。
「書いたぞ」
勝ったな。
死神レムは僕が具現化した死神。レムは人間の名前を知ることができる死神の眼を持っている。
そして、デスノート。これが僕のもうひとつの念能力。
ダメだ。まだ笑うな。こらえるんだ。し、しかし……書き終わって、40秒でヒソカは死ぬ。それまでは真実をバラしてはまずい。ヒソカのトランプ攻撃で、相撃ちということもまだありうる。
35秒……35秒で勝ちを宣言しよう!
デスノート原作とはちがうんだよ。魅上照じゃない。レムなんだ。死神レムに書かせたんだよ。デスノートに、名前を。
完全なる勝ち確。神による不可避の異能力。
この攻撃を回避するためには、デスノートという呪いを除念するしかないが、こんな数十秒で除念など不可能。
ヒソカ、おまえの死はもはや運命と化した。
運命から逃れる術はない。
「死神レム。あなたがキラの今の裁きをしていることはわかっています」
新人プロハンター。エル=ローライト。
おかしなひょっとこの仮面をかぶっている。
選挙編で、ヒソカに3点と評価されたザコハンター! おまえが何を言おうとヒソカの死という結果は揺らぎはしない。微塵もな。
そして、制約と誓約により、エルは僕を攻撃することができない。
「あぁ、そうだ。よくやった。レム。名前を書いてから、何秒?」
「35、36、37……」
「ヒソカ! エル! 僕の勝ちだ!」
「40!」
ドュックンッ!!!!!!
ヒソ力は目を見開いて、両手で胸を抑えた。
◆ ◆
足元まで伸びる栗色の長い髪。白い髪飾り。真珠色を基調とした薄紅色の桜の花びらを象ったシルエットのドレスを身につけている。
美しい。女神のようだ。
「私は創世神ステイシア」
この声は……。
そうだ。ステイシアの姿はソードアートオンラインの創世神ステイシアそのものだ。まるで、実写版アスナ。
「あなたにはハンターハンターの世界に転生してもらいます」
真っ白な異空間。目の前には女神。そうか。そういうことか。
ハンターハンターの世界はよく知っている。原作も暗黒大陸編の王位継承戦編の序盤まで読んでいる。
「どういうことだ?」
「そこで、あなたには奇術師ヒソカと戦ってもらいます」
ヒソカは作中最強という設定だが、実際はクソ雑魚。キメラアント編のパワーインフレに取り残された可哀想な存在。例えるなら、魔人ブウ編のフリーザのようなもの。
ただ、グリードアイランド編までは油断できない強敵だ。
どういうシチュエーションで戦うかによって、まるで意味が変わってくる。
「俺が考えた最強の念能力の転生特典がもらえて、ヒソカが使えるのが原作既出の能力だけなら、クソ楽勝なんだけどな」
「では、それで」
ん?
「いやいやいやいや……それじゃ、バトルにならないだろ」
「なぜです? ヒソカは作中最強ですよ?」
この女、何もわかってねェ。バンジーガムで、何ができるっていうんだよ? 相手にくっつけて、動きを鈍くするとか、速く動くとか、その程度だろ。
例えば、大火炎をあやつる能力者がいたら、ヒソカなんて瞬殺だろう。ヒソカに対抗する術はない。バンジーガムで、炎を防ぐことはできないからな。
「おそらく、それではあなたに勝ち目はないので……」
「今、なんつった?」
「あなたに勝ち目はありません」
女神の考えてることがまるでわからねェ。この条件なら、俺が負けることは絶対にない。圧勝だろう。
バンジーガムを倒す能力なんて、たくさん、ありすぎる。
例えば、デスノートだ。顔と名前さえ知っていれば倒すことができる最強異能力。これで勝ちじゃん。アスナ、バカすぎだろ。あとは暗殺特化の時を止める能力。これで勝ちじゃん。アスナ、アホすぎだろ。
「ひとつ、聞きたいんだけど」
「なんでしょう?」
「あんたは俺がヒソカに負けると思ってるように感じるんだが」
「はい」
「…………」
はい。アスナ、アホ確定きた!!
バトル漫画を、ハンターハンターを読んだことあんのかよ。この女は。
「なら、賭けをしようぜ」
「賭けですか?」
「俺はこれから、負けイベントと思われてるバトルに挑むんだぜ。何か、メリットがないとな」
「それはそうですね。ヒソカを倒したあと、あなたにハンターハンターの世界で、神のごとき能力を差し上げましょう」
「そんなものはいらねぇ。俺がヒソカに勝ったら、あんたには俺のいうことをなんでも聞いてもらう。それが俺がヒソカと戦ってやる条件だ」
アスナそっくりの創世神ステイシアは黙った。
そして、俺をじっとみてきた。
「いいでしょう」
「えっ!?」
「その前に、詳しい条件を決めましょう」
そうなるよな。俺が絶対勝てないような条件をここで付け加えるわけだ。そうはさせない。逆にこの女を追い詰めてやる。そして、俺の言うことをなんでも聞いてもらう。
「ヒソカと戦う前に、あなたがヒソカと戦うに値するか、試練を与えます」
きたきた。これだよ。ヒソカと戦えなければそもそも俺に勝ち目はない。メルエムを倒せとかな。
「ハンター試験合格か、天空闘技場の200階クラスでの1勝」
「んっ!? そんなんでいいのか?」
「この条件はかなり厳しいので、世界のどこかのバトルタイプの念能力者を倒すことでもいいです。これも厳しい条件ですが、ヒソカを倒すなら、この程度はこなしてもらわないと」
あの~、ブチ切れていいか?
さすがに俺を舐めすぎだろ。
「あなたからの条件はありますか?」
「まず、あんたの条件はこれで全部か?」
「一番大事な条件があります。ヒソカのドッキリテクスチャーに関する記憶を消させてもらいます」
クッソどうでもいい。ほんんんんんんんんんんんんんんとうに、クソどうでもいい。怒りさえ覚えるぜ。それがバトルにどう影響してくんだよ。この女、本当に、本ッ当にバカ過ぎんだろ。
ドッキリテクスチャーなんて、バトルで一番使えねェ能力なんだよ。ただのイタズラシールなんだよ。イタズラシールで、どうやって戦うっつーんだよ。説明してみろよ。原作でも、一度も実戦じゃ使ってねェだろうがよ。そんくらい使えねェ能力なんだよ。ドッキリテクスチャーなんて。
ドッキリシール、ぺったんこ!
あちゃ~、貼り付けられちゃったよぉ~~
まいったぁー
まいりましたぁー
あほかっ!!
アホの考えることはマジでわからん。
「ああ。いいよ」
「あと先の条件より、バンジーガムとドッキリテクスチャー以外の第3の能力をヒソカに使わせたら、あなたの勝ちとなります。もうひとつだけありました。大事な条件が」
ついに来たか。
「あなたが使える念能力はヒソカ戦までで使ったことがある能力だけです。バトルに使ったことのない能力をヒソカ戦でいきなり使うことはできません」
だから、マジで意味わからんって。この女の言ってる意味が本当にわからない。意味がない。それに意味がない。クソ、どうでもいいって。マジでマジで。
完全に、アタマに来た。俺を怒らせたいのか?
「俺があんたにする願いをはっきりさせておこう」
俺はソードアートオンライン、アリシゼーション編で、チュデルキンがアドミニストレータにした願い以上の要求をした。
ステイシアはゴミでもみるような冷たい目で、俺を見下してきた。
「いいでしょう」
これで確定した。
この女は本当に俺がヒソカに負けると確信している。
なぜ、そう思えるのか、ふしぎでしょうがない。
バンジーガムだぞ。キメラアント編で、インフレから置いていかれたあの雑魚専ヒソカに、ギフテッドのなんでもありの俺がバンジーガムなんていうクソザコゴム能力に負けるわけねェだろ。
「好きな異能力は与えるけれど、オーラ量は最弱とか、念能力の才能ないとかないよな?」
何かこの条件に落とし穴はないか?
「念能力の才能は最高の条件を与えましょう。そうでなければ意味がありません。最高の条件を与えられた戦士がヒソカと戦う。それがこのプロジェクトの意義ですから」
ステイシアに、アスナに、俺をはめようとする気はないのか?
本気で、アスナはヒソカの真価を、ヒソカ最強説を問おうとしているのか?
「それでも、ヒソカが勝つと?」
「それはわかりません。ただ、あなたには無理です」
さすがに、ピキるぜ。
この女は何も理解していない。ヒソカは誰がどうみても雑魚なんだよ。百式観音にどうやって勝つっつーんだよ。メルエムにどうやって勝つっつーんだよ。ゴンさんにどうやって勝つっつーんだよ。
応用力が効くバンジーガムをどんなにこねくりまわしたところで、物理的に、無理なんだよ。不可能なんだよ。
俺はネットで、ヒソカのバンジーガムについて、調べまくったことがある。バンジーガムじゃ、最強は無理だ。ネットのどこにも、バンジーガムの可能性を示唆したものはなかった。
なんてったって、ただのゴムだからな。
バンジーガムにはこんな使い方がある。これならメルエムを倒せる。ネテロを倒せる。ゴンさんを倒せる。そんなものは皆無だった。
この条件で、俺が負ける可能性はゼロだ。
アスナは俺を舐めてるのか? 念能力を自由にカスタマイズできるって言うんなら、最強の能力を作ってやるよ。
俺が考えた最強の念能力で、ヒソカを完膚なきまでに叩きのめしてやるよ。
ヒソカの無様な姿をみせつけてやる。この女に。
―― ヒソカとのバトル条件 ――
ヒソカが使える念能力の発はバンジーガムとドッキリテクスチャーのみ
ドッキリテクスチャーに関する記憶は消される
第3の能力を使ったら、その時点で、ヒソカの敗北とみなす
ヒソカと戦う前に、使い手を選んで、前哨戦をこなし、勝利しなければならない。前哨戦は何回しても構わない
ヒソカ戦で使える念能力はその中のどれか1回の前哨戦に使った能力のみ。発以外の基本能力は除く
念能力はギフテッドで、自分で考えた能力が与えられる
念能力の才能は最強クラスに設定する
ヒソカとのバトルはタイマン。ただし、自分の念能力で操作した人間、作った人形などは除く
ヒソカに挑戦できるのはゴンがハンター試験を受ける時期以降。転生時期は任意で決められる
「さぁ、あなたの念能力を決めてください。時間制限はありません。ゆっくり考えてください」
さて、どんな能力にしようか。
そうだ! さっき思いついたデスノートなんて、どうだろう!? ヒソカの顔と名前があれば瞬殺することができる。最強最悪の念能力。
「ノートに、殺したい相手の顔を思い浮かべながら、名前を書くと、相手が40秒で死ぬ能力。いわゆるデスノート。これにするぜ」
ステイシアの表情に驚きの色が混じる。
「なんだよ? ダメとかなしだぜ?」
「デスノートは禁止です」
「は?」
何を言ってんだ? このクソ女は。禁止もクソもないだろ。俺の好きな能力にしていいんだろうがよ!
「さっきと言ってることが違うだろ!」
「いいえ」
◆ ◆
奇術師ヒソ力が横たわっている。
「夜神月! あなたがキラです」とエル=ローライト。
「あぁ、そうだよ」
「自白しましたね」
「あぁ」
勝った! 僕はヒソカに勝ったんだ! 完全勝利だ!
そして、エル! おまえはもう無力だ。無力なんだよ!
「ふはははははははははは……そうだ。僕がキラだ。いいか。僕はキラ。そして、この新世界の神だ。たった今、神となったんだああああああああああああああああああああああ!!」
ヒュー――――っと風が吹き抜けていった。
「くっきゅっきゅ◆」
「!?」
転がってるヒソ力から、その声が聞こえてきたように思う。
「くっきゅっきゅ♣」
ヒソ力がゆらりとカラダを揺らしながら、立ち上がる。
「なん……だと……!?」
ありえない。なぜ、生きてる!?
魅上じゃないんだぞ! レムなんだぞ! デスノートのすり替えなんて不可能だ。僕の念能力が発動していない!? いや、それこそ、ありえないぞ。
デスノートを回避することなんて、できないはずだ。物理的に、不可能なはずだ。
「何をした!? 何をしたんだ!? ヒソカアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「さて、どうしてでしょう♣」
レムが裏切った!? いや、それはありえない。レムは僕が具現化した死神。僕の念能力そのもの。裏切りは100%ない。僕が操作されている。いや、制約と誓約で、ヒソカとのバトルはタイマンに限定されることから、それもありえない。
「今、デスノートで、ボクを殺すことはできない♠」
「これはありえない。絶対にありえない。ありえないことなんだ!」
「冥土の土産に覚えときな……奇術師に不可能はないの♣ 無駄な努力ご苦労様❤」
デスノートではヒソカは殺せない? 一体全体、何がどうなってやがるんだ!?
「バンジーガム♠」
ヒソ力のバンジーガムが僕の顔を覆う。
「んげこ」
息ができない。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。
「キミに生かす価値はない★」
レム! ヒソカを攻撃しろ!!
レムがヒソ力に襲いかかる。が、その手はヒソ力の眼前で止まる。レムのカラダが崩れて、砂に変わっていく。
灰の中、デスノートだけが残る。
死神の制約と誓約か!! 運命に逆らって、人の寿命を伸ばそうとすると、死に至る。こんなところで……。
「あなたは神ではない。あなたはただの人殺しです。そして、このノートは史上最悪の大量殺戮兵器です」
エルがデスノートを手に取り、燃やす。
…………何が何だか、わからない…………。
◆ ◆
「デスノートは検証中です。いえ、たった今、検証が済んだようですね。被験者死亡」
「マジ……かよ……」
確かに、原作のヒソカは頭が良かった。頭脳戦に持ち込んだら、分が悪いかもな。
まぁいいじゃないか。パワーで押し切ればいいだけの話なんだから。
結果は……変わらない。
変わらないんだ。
ちょっとは楽しませてくれそうじゃないか。ファーストラウンド、秒殺KOじゃつまらないしな。
なぜデスノートが効かなかったのか? 神を欺いた方法とは?
写輪眼を使って読めば推理の必要もありません