ヒソカ vs 悪魔の実編   作:マネ

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リーノ vs アシュラ①開戦

 挑戦者通路を歩いている時から、もう歓声は壁を揺らしていた。

 

 俺を見に来ている。そこは間違いない。

 

 でも、それは俺が強いと認められているからじゃない。

 

 190階で神脚のリールベルトをぶちのめした、あの衝撃をもう一度見たい。それが客の期待だ。

 

 200階のデビュー戦なんて、本来なら洗礼の場だ。才能ある若者が取り返しの付かない大怪我をして、絶望する。そんな最悪のショー。それを見たがる客もいるだろう。

 

 ただ、今日はそれだけじゃない。

 

 俺は心源流だ。念が使えることは、もう知られている。だから客も迷っているんだろう。天空闘技場の申し子は本物なのか。それとも、ここで化けの皮が剥がれるのか。

 

 相手は無敗のアシュラ。フロアマスター級とまで言われる男だ。

 

 ここで俺が本物かどうかは、嫌でもはっきりする。

 

 そして俺にとっても、ここまで本気の念能力バトルは初めてだった。

 

 ツバサ戦も、アカザル戦もあった。けど、あれとは違う。あれはまだ、どこかで誤魔化しが利いた。

 

 今回は違う。

 

 歓声が一段と大きくなった。

 

 通路を抜けた先で、会場の照明が目に刺さる。眩しい。客席から降ってくる歓声もすごくて、耳がおかしくなりそうだった。何を言っているのかなんて、もうわからない。ただ歓声だけがある。

 

 俺がリングに上がると、熱気がまた一段膨れ上がった。

 

 昨日、寝っ転がっていた石板のリングだ。

 

 なのに今日は、まるで別の場所みたいだった。

 

 俺はそのまま、向こうの入場口を見つめる。

 

 こっちを品定めするつもりなら、こっちだって見てやる。

 

 天空闘技場が俺にアシュラをぶつけてきたのも、たぶん計算なんだろう。

 

 申し子だなんだと持ち上げるなら、本来はザコを当てて圧勝させて、スター街道を走らせるはずだ。アシュラみたいに。

 

 なのに、そうしなかった。

 

 たった三勝で200階クラスに上げて、デビュー戦でアシュラをぶつける。

 

 ここが一番客を呼べる。ここが一番金になる。そう計算したのかもしれない。

 

 その時、向こうの入場口がぱっと明るくなった。

 

 なんだ、と思う間もなく、女のダンサーたちがぞろぞろ出てきた。

 

 炎を思わせる、やたら派手な衣装だ。

 

 なんだこれ。

 

 200階って、こんなのあるのかよ。

 

 ていうか、アシュラの自腹か?

 

 そんなくだらないことを考えた次の瞬間、ダンサーたちの間を突っ切るようにして、アシュラが現れた。

 

 歓声が爆発する。

 

 さっきまでとは比べものにならない。

 

 アシュラはその歓声を浴びながら、当然みたいな顔でリングへ向かってくる。

 

 若きスター。

 

 そう呼ばれる理由が、少しだけわかった気がした。

 

 同時に、ますます腹が立った。

 

「さあ始まります! 200階注目の一戦! 天空闘技場の申し子、海王殺しリーノのデビュー戦だァーッ!!」

 

 天空闘技場200階。

 

 石板リングを囲む観客席から、割れんばかりの歓声が降ってくる。

 

「対するは三戦三勝無敗! 200階で勝ち続ける炎の魔術師アシュラァ!! さらにさらに、この一戦、とある絶世の美少女をめぐる因縁の戦いであるとかないとかーっ! まことしやかに囁かれておりますっ! 謎の美少女をめぐる男の戦いだァーーッ!!」

 

「なんだよ、それ! そんなん、ねぇよ!」

 

 リーノが吐き捨てると、客席がどっと沸いた。

 

 ふざけた実況だ。

 

 もしかして、あのアシュラの公衆の面前でのビスケへの告白が原因か!?

 振り返ると、観客席のビスケが謎に美少女モードに入っていた。

 ざわつく客席を見て、余計に腹が立つ。

 

 だが、そのざわめきの向こうで、アシュラは真顔のままだった。

 

「ヒソカの前座に過ぎない貴様ごときに、ビスケットさんは渡せない」

 

「あ?」

 

 低い声が、リーノの喉から漏れた。

 

 客席は一瞬静まり、次の瞬間にはさらに大きく沸き返る。

 

「出たァーーッ!! やはり因縁は本物かァーーッ!!」

「謎の美少女をめぐる戦い、開戦寸前だァーーッ!!」

 

 うるせえ。

 そんなんじゃねェ。

 

 引っかかったのは、ビスケットさんでも、渡せないでもない。

 

 前座。

 

 来週アシュラはヒソカと戦う。

 だから、俺はその前の肩慣らしの相手。

 アシュラは最初から、そういう目で見ている。

 

 胸の奥で、何かがぶちりと切れた。

 

 リーノは拳を握る。

 

「その言葉、この拳で後悔させてやるよ」

 

 アシュラが笑う。

 

「始めッ!!」

 

 開始の声と同時に、アシュラの身体が炎へ変わった。

 

 石板のリングの上に、ぶわりと熱が広がる。

 揺れる陽炎の向こうで、アシュラが笑っていた。

 

 殴っても意味はない。

 蹴ってもすり抜ける。

 炎化を解かせるか、炎そのものを利用するか。どちらにせよ、まず越えなければならないのは、あの眼帯に隠された左目だった。

 

 天照の一発目をどう外させるか。

 

 そこだけは、何度も頭の中で反芻してきた。

 左目にオーラが集まる。そこが合図。

 撃たれてからでは遅い。集束の瞬間に動くしかない。

 

 わかっている。

 わかっているのに、アシュラはその上から叩き潰しにくる。

 

「ほら、どうした」

 

 爆音が弾けた。

 

 念弾。

 足元の石板が砕け、破片が跳ね上がる。リーノは身をひねってかわし、そのまま横へ流れた。

 

 間髪入れず、二発目。

 さらに三発目。四発目。

 

 速い。

 

 しかも、ばら撒いているようでいて、全部が逃げ道を削ってくる。

 前に出れば爆ぜる。横へ流れれば、その先を潰される。距離を取ろうとしても、次の着地点に先回りされる。

 

 ただの連射じゃない。

 動きを読んで、リングそのものを檻に変えている。

 

 舌打ちする間もなく、さらに一発。

 

 いきなり石板が弾けた。念弾が当たっていないのに。

 

 いや、違う。

 

 見えなかったんだ。

 

 爆ぜたのは、何もないはずの石板だった。

 その瞬間、リーノの背筋が粟立つ。

 

 隠――!

 

 視認できない念弾が混ざっていた。

 見えている弾だけ追っていたら、避け切れるはずがない。

 

 初見だったら、読み負けていた。

 

 これが200階クラスデビューのアドバンテージだ。

 

 アシュラは最初から、見える弾と見えない弾を織り交ぜていた。

 派手にばら撒いているように見せながら、本命だけを隠し、回避の判断そのものを狂わせる。

 

 強い。

 

 その事実が、苛立つほどよくわかった。

 

 次の一発が、着地の先で炸裂した。

 足場が吹き飛ぶ。

 

 まずい。

 

 リングの上には、もう安全な場所がない。

 視認できる弾だけでも手一杯なのに、その間に見えない一発を差し込まれたら終わる。

 

 と、普通は考える。

 

 リーノは反射的に跳んだ。

 

 上へ。

 

 その瞬間、アシュラの口元がゆっくり歪んだ。

 

 誘われた。いや、誘われてやったんだよ。

 

 リング上で追い立て、最後は空中へ逃がす。

 

 空中。

 そこにはもう踏み場はない。

 回避のしようがない。

 

 

 

 あぁ、アシュラ――

 おまえが欲しかったのは、この形だろ?

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