ヒソカ vs 悪魔の実編   作:マネ

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船上 × は × 戦場

 ザバン市の簡易医務室を飛び出した俺は、無様に涙を流しながら、あてもなく走っていた。行き着いた先は、おぼろげに覚えている潮の匂いが漂うザバン港。

 

 財布は空っぽ、身分証(ID)もない。世界のどこにも自分の居場所が存在しない『ゴースト』の冷酷な現実が、雨とともに俺の身体を冷やしていく。途方に暮れて岸壁にうずくまる俺の前に、一足の巨大な長靴が止まった。

 

「よぉ、ボウズ。ずいぶんと無様なツラだな。ここにいるってこたぁ、楽勝なハンター試験に落選でもしたのか?」

 

 見上げると、日焼けした顔に豪快な髭を蓄えた、あの船長――フック船長が腕を組んで立っていた。

 

 ザバン市へ来るときに俺を乗せてくれた、一本釣り漁船の頑固オヤジだ。

 

「うるせェな……俺は……」

 

「まぁいい、行くアテがねェなら大人しくオレの船に乗れや。飯が食いたきゃ、死ぬ気で働いてもらうぜ」

 

 

 

 

 ◆  ◆

 

 

 

 ――このクソガキの世話、貸しだぜ。じじい。

 

 ――ふぉっふぉっふぉっ。

 

 

 

 ◆  ◆

 

 

 

 ザバン港を出港した漁船の甲板は、文字通りの地獄だった。ハンター世界の大自然は、俺の想像を遥かに超えて荒れ狂っていた。

 

 行きとはえらい違いだ。まるで、ゴンたちが乗ったときのようだ。航路を変えたのか? これが本来のルート!?

 

「おい! グラス! 遊んでんじゃねェ! ロープを引け!」

 

 大シケの荒波が船体を容赦なく打ち付け、視界を真っ白に染める。あのSAOのブラッキーすら置き去りにする俺が原作のコマにすら描かれないモブキャラに、あごで使われるなんて、、、ふざけるな!

 

 足場を固定できず、甲板でカラダを揺らされ続けた俺は激しい船酔いで何度も胃液をぶちまけ、甲板を這い回るしかなかった。

 

 そんな俺の横を、念能力の「ね」の字も知らない、ただの一般人のはずの漁師たちが大声を掛け合いながら疾走していく。

 

 彼らは絶妙なチームワークと長年の経験だけで、荒狂う波を完全にコントロールし、大きなマグロを次々と一本釣りで引き揚げていくのだ。その手の分厚いマメ、日に焼けた強靭な背中、一瞬の油断も許さないプロの鋭い目。

 

 モブにすぎないのに、この世界に入り込んで、そのモブをみると全然ちがう。

 

 

 まるで、トップハンターだ。

 

 

 クソッ……俺は、こいつらをただの一般人(雑魚)だと見下して……。だけどこの人たちは、自分の人生を賭けて、このハンター世界のクソエグい現実と毎日戦ってんだ……!

 

 

 引きこもりだった俺は人が働いてるところをみたことがなかった。俺は社会人の圧倒的な凄さを目の前にして、自分の安っぽいプライドは完全に粉々に粉砕された。

 

 みんなが必死で頑張ってる中で、緩慢な動きをしている二人が目にとまる。

 

 どちらも高身長の男二人だ。一人はこの雨の中で、サングラスをかけている。長髪で、ちょこんとアゴヒゲがある。もうひとりは毒々しい赤頭のボウズで、メガネをかけている。

 

 みんなとちがって、動きがド素人だ。まわりから、めちゃくちゃ怒られている。二人とも、怒られて、毒づいていた。

 

「あぁ、アイツらか。アイツらは新人だよ。体力ありそうで、どうしても乗せてくれってうるさかったから、船長が乗せたんだよ」

 

 ふ~ん。俺はアゴヒゲグラサンとボウズメガネとあだ名をつけた。

 

 ちらちらと俺をみているような気がする。

 

「船長は困ってるやつをみると、見過ごせねェんだ。俺らもおまえみたい時期があったよ。くすぶってた時期も、ハンターになりたいと思ってた時期もな」

 

 ハンター。そうだ。ハンターをめざす人はこの世界に数えきれないほどいる。このおっさんがそうだとしても、何もふしぎじゃない。

 

「まずはこの船を乗りこなしてみせるって思ってたら、いつの間にか船員になってた」

 

 そういって彼は笑った。

 

「だけど、おまえはちがう。俺とはちがう。わかるぜ。俺も毎年、ハンター受験生をみてきてるから。おまえのその才能は本物だ。てか、おまえがいたから、行きの航路があんな静かな海を通ったんだぜ。おまえの才能をみたら、ハンター受験生の心が折れるって、船長は踏んだんだ。そして、その通りになった」

 

 そうだ。行きの航海で、この船に乗った受験生の心を俺は折った。覇気のようなオーラを飛ばして。原作で、ウイングがキルアをビビらせたように。ヒソカがゴンとキルアを200階で、立ち止まらせたように。

 

「俺はボーネス。よろしくな」

 

 ボーネスはゴツゴツとした手を差し出した。俺はその手を握る。

 

「おまえは船に残る器じゃない。グラス、おまえはこれからどこへ行くんだ?」

 

 これから、、、? 何も考えていなかった。どこだろう?

 

 

「天空闘技場」

 

 

 俺は自然とそう答えていた。

 

 

「きたぞおおおおおおおおおっ!!」という声が聞こえた。

 

 

「休憩は終わりだ。行くぞ」

 

 

 

 ◆  ◆

 

 

 

 夜、嵐が少しだけ落ち着いた船内。俺が酔い止めを飲んでいると、フック船長がどかっと目の前に腰掛けた。

 

「グラス、お前にひとつ、アドバイスをしてやる」

 

「……アドバイス?」

 

 俺は不貞腐れたようにそっぽを向いた。フック船長は深くタバコを吸い込み、その煙を吐き出しながら言った。

 

「お前は、他人のあら捜しばかりしている。相手の弱点を探して、見下して、それを見つけて安心しようとしてるだろ」

 

 ギク、とした。心臓が跳ね上がった。図星だった。ヒソカは雑魚専だ。バンジーガムなんてただのゴムだと見下していた自分の内面を、完璧に見透かされていた。行きの航路のときの俺をしっかりとみていたんだ。

 

「相手の弱点を探すってのはな、本質的に『弱いもの』がすることだ。弱点を突いて、コソコソとジャイアントキリングを狙おうって発想。そんなもん、お前には1ミリも必要ねェんだよ」

 

 フック船長は俺の目を真っ直ぐに見据える。その眼光には、小細工なしで海と戦ってきた男の重みがあった。

 

「お前がやるべきなのは逆だ。――相手の『良いところ』を探せ。相手の圧倒的な強さ、美点、そこを徹底的に探して、見つけて、理解するんだ」

 

「相手の、良いところ……?」

 

「そうだ。相手を認め、リスペクトの念を持て。割れガラスを踏むような覚悟で相手の強さに向き合い、その上で、おまえ自身の力で真正面からねじ伏せる。それが、本物の男の戦い方だ。おまえにはそれだけの才能がある」

 

 フック船長の言葉が、驚くほど滑らかに俺の胸に染み込んでいく。

 

 相手を見下すのではない。相手の強さを認め、尊敬し、その上でねじ伏せる。

 

 それは、あの白い空間で、ブラッキーが言ってた『ヒソカを愛せ』という、あの意味不明だった言葉の真意に、繋がっているような気がした。

 

「甲板に出るか。そろそろ雲が晴れる頃合いだ」

 

 そういって、船長は船室を出る。俺も追いかける。

 

「おい! 船長……ひとつ、言い忘れてたことがあるんだ」

 

 俺は右手を強く握りしめ、少しだけ前を向いた。

 

「俺のファーストネームは、グラスじゃない。俺の故郷じゃ、ファミリーネームの後にファーストネームを呼ぶから」

 

 俺は自分のファーストネームを船長に改めて告白した。

 

「へぇ、そんな地域があるのか? ひっくり返すなんざ、ヘンテコだな」

 

 

 俺たちは甲板に出る。ボーネスもいた。フック船長が髭をなでながら笑う。俺もまた、小さく自嘲気味に微笑んだ。

 

 

「なら、これから、おまえのことはこう呼ぼう」

 

 

 俺は船長を、フック船長をじっとみつめた。

 

 

 

 

「リーノだ!」

 

 

 

 その瞬間、雲が割れて、満点の星空が広がってゆく。光が差し込む。船の、いや、俺の頭上に、、、。

 

 

 

 

「なっ? 晴れただろ?」

 

 フック船長はニカッと笑った。

 

「すげェ、、、」

 

「なんだ、リーノ? 星空なんてめずらしくも、なんともねェだろ?」

 

「初めてみた。こんな数の星。こんなに世界には星があったんだ」

 

 

 

 この世界に来て、俺は初めて、何かを手に入れたような気がした。

 

 

 借り物だった名前に、俺だけの愛称が付けられた。

 

 リーノ。それは俺だけの名前だ。

 

 

 

 その瞬間、昼間の大シケが可愛く見えるほどの、悍ましい質量を持った轟音が船底から響き渡った。

 

 

 ズウウウウウウウウウウウウウンッッッ!!!!

 

 

 海面を割って姿を現したのは、船体をも遥かに凌駕する狂ったサイズの巨大な怪魚だった。

 

 

「なんで、ここに!?」

 

 

 ボーネスが驚愕の表情をしている。

 

 

 

「海王類がいるんだ!?」




マネは強いキャラを作るのが苦手だ。だから、原作キャラに負けてしまう。作るのが苦手なら、物語を通して、強いキャラを作れば、その牙はヒソカに届くんじゃないだろうか?
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