全肯定しただけなのに   作:蓮太郎

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26.押し押せ

 

 ピンポーン、とインターホンが鳴る。

 

 一体誰の来訪か、彼は玄関へ足を運び扉を開ける。

 

「やあどうも今日はいい日だと思わないか!そういう日こそ我が商品をご紹介しよう!」

 

 僅かに開けた瞬間、手がガッと差し込まれ強制的に扉を開かせられ早口にねじ込まれる。

 

 超絶迷惑な押し売りとして現れたのはきっちりとスーツを着こんだ黒の長髪に糸目の女性。

 

 そして美人、雑誌に載るモデルのように美しく整った顔をしている。

 

 余計に胡散臭さが増しているのに彼女は気づいているのだろうか。

 

 それとも計算に入れて美人が押し売りしているのだろうか

 

「おやおや、少々強引ですね。話はここで聞かせてもらって構わないですか?」

 

「いいとも!ああ、自己紹介が遅れました。(ワタクシ)内夜(うちや)宝子(ほうこ)と申します。これからもごひいきにお願いしますね?」

 

「まだ何も購入していませんよ」

 

 互いに冗談を言い合いつつ宝子と名乗った女性は持ち込んだ鞄を開く。

 

「まずはこちら、『輝ける軌跡水晶』!見てください、この透明度。ここまで美しく採れる水晶は割と珍しくて運がいい客にしか出さないんですよ!それに、これを持っている人は何かと縁に恵まれやすくなって多くの人と繋がれる、とされています。あ、これは(ワタクシ)の実体験ですので効果は保証しますよ?」

 

 最初に提示してきた商品は円錐に磨かれた水晶であった。

 

 確かに透明度は高く、しかし詐欺に使われるようなガラスでもない純粋な水晶で出来たそれをほう、と彼は一つ声が出た。

 

 これほどの水晶は確かに滅多にお目にかかれないだろう。買うかどうかは別としてだが。

 

「まあまあ、これは少々飛ばし過ぎましたかね。返事は後で結構ですので、次の商品ですがこちらの壺です」

 

「おや、この模様は独特ですね」

 

「そうでしょう?何せ古代文明から技術を再現して作られた壺なのです!再現には少々苦労致しましたが、このとおり幾何学的模様と細部にまで敷き詰められた色彩!量産まで少々時間はかかりますが間違いなく初期から数えてシリアルナンバーもついてきます!いずれ、という前提がつきますが初期に作られた壺を購入できるチャンスですよ?」

 

「なるほど、確かに初期型を持っていれば後で価値があがるというもの。ちなみにですが誰が焼いたものですか?」

 

「職人のアルスくんです。優秀なしゅぞ…………人なんですよ!」

 

「なんと、彼の別作品を見て見たいものですね」

 

「ええ、そうでしょう?次はーーー」

 

 軽快に、どこか淡々としたセールストークを彼は飽きもせず聞き続ける。

 

 10を超える商品を広げながら説明したあたりでピタリとトークが止まり、内夜宝子は糸目かつ無言でありながら購入しろという圧を出す。

 

 無論、微々たるものでは彼は動かない。だが購入を検討しているのは間違いなかった。

 

「興味あるものといえば、壺と水晶ですね。あとは腕時計やネックレスも悪くない。ですがお高いんでしょう?」

 

「ええ、ええ!確かに高いといえば高いです。が!まとめて買っていただけるなら少し安くなりますよ?」

 

「おやおや、まとめ買い推奨ですか。そうですね…………」

 

 顎に手を当てて購入を検討する彼に対し、内夜宝子は勝利をほぼ確信していた。

 

 様々な思惑がある彼女にとって商品を多く配ることは優先事項であり、新たなる混沌(・・)を求めて行動する。

 

「前に貴女から買ったものは全て無くしたので丁度いいでしょう」

 

「……………………今なんと?」

 

「諸事情がありましてね、『混沌の使者ナイア・ト・ホティ』さん」

 

 内夜宝子、もといナイア・ト・ホティは美しい笑顔を貼り付けたまま硬直した。

 

「…………ちなみに、何故私がそのような者だと?」

 

「何度もお会いしたので」

 

「私との関係は?」

 

「何度もちょっかいをかけられてます」

 

「ふーーーーーーーーーーーーむ」

 

 『混沌の使者ナイア・ト・ホティ』は、簡潔に次からホティと呼ぶ、深く考え込む。

 

 何度も顔を合わせ、尚且つ正体を見破っているなら流石に他人に興味を持ちにくい彼女の記憶の片隅に残る。

 

 そしてホティの正体を知っている上で普通に接する、それどころか今はないにせよ彼女から商品が何かを理解していながら購入しているほど親しい間柄。

 

 何故覚えてないか?何故知らなかったか?そして最初(・・)にここを選んだのか?

 

「…………なるほど、そういうこと」

 

 そして納得した。

 

 混沌故にここまで相性の良さそうな人間を忘れるなど一つしかない。

 

「『虚無』にどっぷり浸かってましたか」

 

「世界を救うのに少々」

 

「あははっ、どうりで話してて楽しいと思いましたよ!混沌の友よ!」

 

「友ではありませんね」

 

「あれ、私の評価って思ったより低いですか?」

 

「どちらかと言えば下振れですね。4年前のバトルカップをお忘れですか?

 

「ああ、ああ!ヨグを呼ぼうとした時の!確かに阻止された記憶は…………確かに、誰が阻止したかを覚えてない!すっかり忘れてましたよ!」

 

「でしょうね」

 

 知らないようで知っている。混沌だって好き嫌いはあるし気の合う人物も居る。ただし、ホティは混沌の中でも最上位に居るため散々場を荒らし笑い続けたため嫌われているほうである。

 

「ほとんどの陣営から相当命を狙われているのに、毎回こうして自分の足で仕込みをするので本物か疑いましたよ」

 

 訂正、滅茶苦茶嫌われている。

 

「こう言うのは私が私の足で進めるのが筋というもの。あはっ、君も混沌に適正、いや混沌そのものに近いようだ!どうだい?私と組んで世界を面白くしないかい?」

 

 一つ一つがわざとらしく、演技のような喋り方で、しかし美しく見惚れる動作で彼に手を差し出す。

 

 凡人はともかく、たとえ聖人であろうとその手をとり混沌に取り込まれ、滑稽にホティと踊る事になるだろう。

 

「興味はあります、ただし…………」

 

 だが彼は違った。

 

「私の背中に張り付いている子が許せば、と条件がつきます」

 

 彼は正常な狂人だった。

 

 背中に張り付いている褐色肌の幼女、しかし人間に見えて頭から二本の角が生えている。

 

 張り付いている方法は、彼の背中をガッチリと掴み、内出血するほど力強く張り付いて簡単に剥がせそうにない。

 

 ちなみにホティが来た時点で張り付いていたため全部聞いている。

 

 愛する人が美女と会話し、誘われている一部始終を。

 

「貴様、我のモノに手を出そうトシタナァ?」

 

 

 ギチギチギチ、と首が曲がってはいけない方向に振り返りながら曲がり幼女と思えぬ表情でホティを睨みつける。

 

 殺気と憎悪が強く出ているそれを受けてホティは言った。

 

「これはこれは『悪神ウェロボラウス』!根暗偏屈のカスがよくもまあ旦那のようなものを捕まえるとは、世界がひっくり返りますな!」

 

 3秒後にキャットファイトが開始する。

 





悪い混沌があればいい混沌もある。

いい混沌はもちろん主人公。どちらにも転ぶのが『混沌の使者ナイア・ト・ホティ』。

では悪い混沌は誰だろう。

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