「あーん、ぺろぺろ」
「どうですか?最近できた専門店のソフトクリームは」
「76点といったところだな。普通過ぎる」
ぺろぺろと購入した練乳バニラ味のソフトクリームを舐める褐色幼女と手をつなぐ彼。
普段と何ら変わらず、しいて言うなら全国バトルカップの一般枠抽選会が近くなっており、やや熱気が漂い始めていたりする。
参加するつもりはない彼と既に工作を終えて余裕綽々の『悪神ウェロボラウス』からしたら浮つきすぎと思えるくらいだった。
ちなみに、この日は午前中に1人で買い物をしていた彼は『ボンバードラゴン』の精霊をたまたま見つけて保護し、持ち主の家へ送り返したため雌の匂いがついたとか何とかで散々いじり倒されてからデートしている。
その『ボンバードラゴン』もいつもの3人と一緒にいたので本当に持ち主はユウキなのだという事を知ったりする。
「ここ最近は精霊が増えていないか?目障りになり始めてきたぞ」
「バトルの熱気が高まれば引き寄せられるものです。ウェロもそうだったでしょう?」
「台無しにしてやりたい方だがな」
悪い方に振り切ってる『悪神ウェロボラウス』は一切悪びれずに言った。
大切に築き上げたモノを後押しして全部失うのを嗤って見るのが好きな性質故に仕方ないだろう。
彼に出会ってからその様子はかなり鳴りを潜めてはいるが。
「ところで何故アレが『ボンバードラゴン』の精霊という事に気づいたのだ?」
「昔に彼女に似た精霊の伝手を使ったことがあるので。そういうウェロはどうして彼女の一族を知っていたのですか?」
「昔の悪巧みで邪魔されたからだ。わらわらと現れて鬱陶しかったぞ」
やっぱり悪い方面で存在感を発していたのであった。
どうあがいても悪神、周囲の敵は非常に多いので顔見知りはとても多い。一方的にとはいえ、神ゆえの記憶能力は非常に高く、本当にどうでもいい時と虚無に関わった件以外は覚えている。
非常に重要人物であった彼を忘れている時点であまり説得力はない。
「まあ今は気にすることは無い。次のところへ行くぞ!」
「おやおや、あわてんぼうさんですね」
そんな平和を享受していた時だった。
「誰か!そいつを止めて!」
誰かの叫び声、息を切らしながら走る男性。周囲の注目を浴びつつも何かを持って必死に逃げようとしてる形相。
そして手に握られているのは一枚のカード。
「どけっ!邪魔だ!」
通行人を弾くように走り抜ける男はだんだんと彼の方へと近づいてくる。
だが、彼は『悪神ウェロボラウス』が男にぶつからないように庇い、突っ込んできた男にぶつかった。
その衝撃は案外軽そうであり、一切のダメージがないよう力を拡散させたため男もそのまま逃げていく。
「待て!返して!私のカード!」
誰かが、少女が泣きながら叫ぶ。
どうやら持っていたレアカードを先程の男に奪われたらしく、男女という差、年齢という差によってあっという間に引き剥がされてしまったようだ。
既に息が切れてこれ以上走ろうと最高速度を遥かに下回るだろう。
もう追いつかない、そう諦め足を止めて啜り泣く。
「お嬢さん」
相手が悪かった。
「君が盗られたカードはこれですか?」
最後にぶつかった相手が彼であったことが。
ぶつかった一瞬の隙をついて緩んだ手を、盗んだ男からしれっと奪い返していたのだ。
「え、お、おじさん?」
「『春雷の妖精ヒビナリ』、いいカードです。序盤だけでなく終盤まで継続して戦える、次は盗まれないように気を付けるんですよ」
優しく微笑みながら、彼は少女に『春雷の妖精ヒビナリ』を差し出す。
一見、やさしいおじさんではあるが褐色幼女が凄く威嚇してるし胡散臭さがあるので涙が引っ込んでしまっていたので苦笑するしかない。
「大丈夫、安心してください。このカードを盗もうとしていた人は既に捕まっているでしょう」
一体何の根拠があるのか、周囲がそう思っていたのが伝わったのか、それとも反応を既に予測していたのか彼は振り向く。
「そうでしょう?神宮寺ソノカさん?」
その視線の先に管理局6番隊主席、神宮寺ソノカが何とも言えない顔をして立っていた。
こんなところに何故管理局の人間が居るのか?それも主席がどうして?
「お久しぶりです、どうでしたか?」
「…………ええ、もちろん確保しました。余計な手間をかけてしまい申し訳ありません」
「いえいえ、一市民として出来る事はするまでです」
その一市民が世界を救ったりしているわけだが、そんなことを隣に居る褐色幼女以外知る必要はない。
ぽかん、と少女の年齢ではよく分らないやり取りをされて惚けているのに彼が気づき、未だに受け取れていなかった。
「どうぞ、大切にしてあげてくださいね」
そっと少女の手に触れて『春雷の妖精ヒビナリ』を渡して去っていく。
まるでどこにでもいるようにしているが、ひっそりと監視を付けられている。
歩いて歩いて、そして人が少なくなる住宅街へ行っても視線は消えない。
そして手を繋いでる『悪神ウェロボラウス』がプルプルとストレスが溜まっていき、爆発する。
「うがー!何なのだ!貴様ら、4人だ!4人!わざわざ我のデートの見物か?ん?嫉妬か?聞いてるのか、天使諸共!」
だんだんと地団駄を踏み、背後に潜んでいる神宮寺ソノカとその相棒である『八大天使 ザラキエル』に苛立ちを放つ。
悪神だからこそ闇に潜み気配を隠すことは得意であるため黒のカード特有のオーラ等は出さなかったが『八大天使 ザラキエル』の存在を認知している事に神宮寺ソノカ以外の隠れている局員は動揺する。
ソノカだけ動揺していない理由は、3番隊主席である石和田ゴウタロウから話を聞いていたからである。
「やはり、その子は只者ではないのですね」
『気をつけろ。少なくともそこらにいる精霊とは比にならないぞ』
もはや隠そうともしない警戒心を出しながらソノカと『八大天使 ザラキエル』は敢えて姿を現す。
「こんにちは、また会いましたね」
「こいつらずっとストーカーしてるぞ、気持ち悪い」
「好きでこの任務についてるわけではないです」
「とはいえ、こうして姿を見せたということは…………真っ直ぐな君らしい」
まるで知っているかの物言い。ゴウタロウの報告通り彼は管理局について詳しく知っている。
黒のカードの件もそうだが8番隊の秘密も握っているなら監視をつけ見極めなければならない。
彼が一体何者か、不快そうに威嚇する褐色幼女は何か、この場にいるソノカ含む管理局6番隊が彼に何故既視感を感じるのか。
分からない、問いたださなければならない。
人間、未知に対して不安になるのは当たり前なのだ。
それに対応しようとするソノカに彼は何も思わない。むしろそれが当然であり仕事であると思ってすらいる。
強いていうなら力が入りすぎであるのが困ったところだ。生真面目故に深みに入ってしまう悪い癖を持つソノカを思い苦笑いする。
膠着、緊張した空気が漂う中、まさか第3陣営がこの後すぐに乱入してくるとは誰も、神ですら思わなかった。
6番隊主席「恐ろしく速い窃盗技術。私でなければ見逃してましたね」
6番天使『私が言わなければ見逃していただろう?』
そして乱入する第3陣営、一体なんの10話おきに出てくる謎生物なんだ…………?
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