全肯定しただけなのに   作:蓮太郎

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一体誰の心の声なんでしょうかね(すっとぼけ)


30.空気を読んでくださいお願いします

 

 男と褐色幼女、管理局6番隊主席神宮寺ソノカが対峙する。

 

 ソノカは同僚であるゴウタロウから彼だけでなく褐色幼女の方も警戒しろと言われていた。

 

 事実、『八大天使 ザラキエル』の存在を見抜き、子供とは思えぬ不遜な対応。

 

 そして又聞きではあるが悪辣な表情を浮かべていたとされており真の黒幕ではないかと思えるほどに不気味だったという。

 

 彼自身は胡散臭さはあるものの人当たりは良くて誰に対しても丁寧な対応をしていた。

 

 管理局の6番隊主席である若い自分に対しても、だ。

 

 もし、彼ではなく褐色幼女の方が本当の悪であるならば戦わなければならない。

 

 悪は決して世に蔓延らせない。それが彼女の信条である。

 

「改めて問わせていただきます。貴方は何者ですか?」

 

「どこにでもいるプレイヤーですよ、ソノカさん」

 

「少なくとも貴方のような凄腕の無名は見たことありません」

 

「案外、そこかしこに居たりするかもしれませんよ?」

 

「…………仕方ありません」

 

 まともな話し合いをする気が無さそうな彼に対してデッキを取り出す。

 

「管理局として貴方のような不審な人物を見過ごすわけにはいきません。どうしても、というなら私とバトルして勝利を収めてください」

 

「なるほど、管理局らしい」

 

「おい、舐めてるのか?貴様如きが我らにかなうとでも?」

 

「やってから言うんです。先人は多いのですから」

 

 バレているとはいえ離れて様子を見ている管理局員に冷や汗が流れる。

 

 剣呑な空気に入ろうなど考えられない。あの間に入るなどできやしない。

 

 監視がある中で互いの運命をかけたバトルが始まる、この場にいる者はそう思っていた。

 

『ぶるんぶるーん!』『いえーい!』『ばくそー!』『どくそー!』『げきそー!』『ぼうそー!』『ぷっぷー!』『とばせとばせー!』『ぶんぶーん!』『トップをねらえー!』

 

 シャーッと軽快なモーター音と共に乱入してきたラジコンを除けば。

 

 薄汚れた車体、その上に括り付けられたコントローラー。そしてそれを操作する10匹の黄色い蛙。

 

 この場にいる皆の脳内に幼い声が響き、あまりにも場違いすぎるテンションで乱入してきた事に思考が止まる。

 

 すぐに回復したのはもちろん彼であり、その次に『悪神ウェロボラウス』が「またこいつらか」と半目になる。

 

 ソノカは目が点になっており、殺気立つ乱入であるなら即座に対応できたのだが、ここまで純粋に遊び気分で小動物が入ってくるケースは想定していなかった。

 

 そんなソノカの後ろから横を通り過ぎ、軽快なモーター音を鳴らしてラジコンが彼の近くまで走っていく。

 

 だが、素人はミスをする。

 

 道には何か落ちてる時がある。それがゴミか、小石か定かではないが気に留めないほどのものが常日頃落ちている。

 

 そう、ラジコンを操作している黄色い蛙ことオタマ達は小石が転がっている事に気づいていなかった。

 

『『『『『『『『『『

あっ

』』』』』』』』』』

 

 かっ、とタイヤが乗り上げて車体がぐらつき、しがみつくように操作しているコントローラーの操作を誤る。

 

『あわわ!』『ゆれるー!』『まがるー!』『おわー!』『操作がー!』『制御がー!』『スティックにもたれないでー!』『倒れるー!』『ひっぱれー!』『押せー!』

 

 制御を失ったラジコンは暴走しながらふらふらと走行する。

 

 だが小さな身体で出せる力ではコントローラーを大雑把にしか動かせず、その暴走を許してしまう。

 

 暴走しながら蛇行し、そこそこな速度で彼の足にぶつかる。

 

 ぶつかった事で停止はしたが、ぶつかった事実を受け止められていないのか、彼をじっと見上げている。

 

 

『『『『『『『『『『

事故だーーーーーーーーーーー!

』』』』』』』』』』

 

 

「これがやりたかっただけでは?」

 

 そして大きく口を開けてテレパシーで伝えてきた。

 

『暇だったもん』『遊びたい年頃ー』『定期的に出るのは変わらないし』『免許ないよ』『お腹すいたー!』『移動に便利だもーん』『保険おりるかな』『初心者マークつけておけばよかった』『訴訟されるかな?』

 

「邪魔だどけ」

 

 

『『『『『『『『『『

ぎゃーーーーー!

』』』』』』』』』』

 

 

 あまりにも舐め腐った態度に『悪神ウェロボラウス』がラジコンを蹴飛ばし、上に乗ってたオタマ達は全員地面へ放り投げられる。

 

『あーん!あーん!』『いじわるされたー!』『ひどいやー!』『訴訟だ訴訟!』『何この空気』『けんか?』『両成敗する?』『僕たちが悪いみたいじゃん!』『おじさんなにしてるのー?』『あ、天使だ』

 

 先ほどまで剣呑な空気から一変、ものすごく気まずくて微妙な空気に変わった。

 

 この状況でバトルするのか?と『悪神ウェロボラウス』が彼に目で訴える。

 

 もはやバトルするような雰囲気ではない。小さすぎる乱入者のせいで天使がいるのに天使が通った後のようになる。

 

「君達、道路で遊ぶのは危ないので公園で遊ぶんですよ」

 

『えー?』『ほんとー?』『おじさんとおねえさんは今から道路でカードゲームするつもりじゃん』『おうぼうだー』『大人の特権ってやつかな』

 

「おやおや、痛い所を突かれてしまいました」

 

 思わぬ反撃を受けた彼は微笑みながら言う。

 

 様々な手段として使われている『ライジングイリュージョン』ではあるが、元はただの遊戯であったはずなのだ。

 

 それなのに賭け事はもちろん、商談や名誉にもカードゲーム。果ては世界の命運をかけた戦いにすらカードゲーム。

 

 故に、初心を忘れているのではないか。

 

 実際に彼も遊びとしての『ライジングイリュージョン』は大好きである。それが運命のいたずらのせいで誰かや世界の命に関わってしまうだけで。

 

 なんやかんやと気を張り続けすぎていたのではないか?

 

 ここ最近で心安らいでバトルした回数は非常に少ない。いや、そもそも全体を通して訓練を除いたカジュアルなバトルの回数が実戦より少ない気がする。

 

 ああ、思ったよりも毒されていたのだと自嘲する。

 

「おいどうした?毒でも食らったか?」

 

 

『『『『『『『『『『

だいじょーぶー?

』』』』』』』』』』

 

 

 その様子を幼児(見た目のみを含む)に心配されてしまいいつもの微笑みに戻る。

 

「大丈夫ですよ。少し思うところがあっただけです」

 

「そうか、ならいい」

 

 2人の間はこれで通じる。何があろうと大丈夫と言われたら大丈夫なのだ。

 

 『悪神ウェロボラウス』の言葉は本当に大丈夫かって?そういう時の『悪神ウェロボラウス』は大丈夫と言わず上手くはぐらかす。

 

「どうしましょうか。一度お開きにして後日改めませんか?」

 

「えっ、えっ?」

 

『惑わされるな、煙に撒こうとしてるぞ』

 

 そんな彼の表情を見て思うところがあったのかオタマとのやり取りをぼーっと見ていたソノカは急に話をふられた事で焦りが出る。

 

「そういえば貴女は私の家を特定していましたね。何があろうと私は逃げも隠れもしません」

 

 両腕を広げ、降参というよりも堂々とした態度で彼は望んでいる。

 

 バトルになろうと彼は勝つ。そういう自信をナチュラルに持っており、それを為せるだけの実力もある。

 

 『八大天使 ザラキエル』もその圧を感じたのか、生真面目な相棒がよくやるように眉間に皺をよせる。

 

 ソノカが6番隊主席である実力者であり他局員も隠れているとはいえ、明らかな強者であると予想される男と黒幕の可能性が非常に高い褐色幼女、ついでに謎の蛙10匹。

 

 勝てるかどうかと言われたら不明である。最悪の場合、小さな蛙が1匹ごとにデッキを持ってる可能性だってある。

 

 そうなれば12連戦という地獄のような戦いが始まってしまう。

 

「どうでしょうか、明日にでも管理局に出向いて事情聴取を受ける、でもいいですよ」

 

 妥協案、なんだかもう情報量が多くなりすぎて仕切り直しにしようとしてきたのだ。

 

 そう提案した彼の足元で蛙たちがひっくり返ったラジコンを直そうとしており、褐色幼女は「面倒なことするんだな」と言った顔をしていた。

 

 なんだか気が滅入ってしまったし、やはり何故か彼の言葉は信用はできる

 

「…………分かりました。その案を飲みましょう」

 

『ソノカ、騙されるな。あれも黒のカード使いとみていいだろう。簡単に嘘を吐くようなやつらだ』

 

 

『『『『『『『『『『

僕たち嘘つかないもーん

』』』』』』』』』』

 

 

「嘘つけ貴様ら」

 

 黒のカードの扱いであるオタマは声を揃えてテレパシーで伝えてくる。

 

 どこまでも気の抜けた幼い声に『悪神ウェロボラウス』がツッコミを入れるが、ふんっと顔を背けている。

 

「明日の午後1時に来てください、その時間帯に来なければ強制的に家宅捜索させていただきます」

 

「おやおや、朝早くではいけませんか?」

 

「午前中は力が出ません」

 

『ソノカ…………はぁ』

 

朝が弱いところも変わりませんか

 

 自分のことを知っているような口ぶり、本当に管理局に在籍していた可能性がソノカの中で強くなる。

 

 8番隊、黒のカードに深く関わる部隊の事を知っているとなれば管理局でも深い地位にいたはずなのだ。

 

 なのに知らない?記録にもない?

 

「ではまた明日。しっかりご飯を食べてから話をしましょう」

 

 

『『『『『『『『『『

ばいばーい!

』』』』』』』』』』

 

 

「君達も、また会いましょう」

 

「我はもう会いたくないがな」

 

『また会うもん』『じゃーねー』『さよならー』『またねー』『また10話後にくるよー』『えへへー』『バトルカップで会おうねー』『空気は読まないからな』『しゅっぱーつ!』『ぶんぶーん!』

 

 オタマはそう言い残して元に戻したラジコンを動かして走り去っていく。

 

 今度はモーターから怪しい音が聞こえているが、近いうちにまた事故を起こすだろう。

 

「何故奴らはああも元気なのだ?」

 

「元気なことはいい事です。ソノカさん、約束はきちんと守ります」

 

「…………私に余計な手間をかけさせないでください」

 

「ええ、もちろん。『約束を破った事は一度しかありませんので』」

 

『不安を煽るな』

 

 不機嫌になっている『悪神ウェロボラウス』を抱き、不安だけ煽って彼は去る。

 

『…………やはり引っかかる』

 

「私もです。彼が何者か明日に分かればいいのですが」

 

『監視はつけてるんだろうな?』

 

「私の部隊ではなく2番隊が既にあの人の家の周辺で張っています」

 

 何か行動を起こすのか、できたら起こさないでほしい。そう思いつつも明日に訪れる混沌を予想しつつ彼女達も本来の任務である街の治安を守るためのパトロールに戻る。

 

 無条件で信用できる何かを知るために、苦渋を飲むつもりで、覚悟をした。

 

 そして、まさか予想だにしない混沌が訪れるなんて思いもせずに。

 




『大変だよねー』『役所勤めはねー』『パパみたいに自由にならないもんねー』『ママはどこだろ?』『ぷっぷー』『世界平和は大事だもんねー』『思ったよりこの世界って危機があるのかな?』『せちがらいねー』『あれ?変な音がする』『パパとママに会いたーい!』

ぷすんっ!(モーターが壊れる音)

『『『『『『『『『『
あっ

』』』』』』』』』』


なお、このラジコンはゴミ捨て場から拾ったものである。みんなも危険運転はしないようにね。

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