全肯定しただけなのに   作:蓮太郎

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31.月が見ている

 

 夜、人々は寝静まり月明かりが優しく照らす。

 

 それでも働くものは働いたり、悪事を働く者は蠢いたり、そしてただ月を見上げている。

 

 何もない、気持ちもない、心は無くせ、そう教え込まれたから虚無になる。

 

「…………」

 

 見上げた月は常に照らしてくれる。

 

 そこに物質があるなら、明るい月は見てくれる。

 

「……………………」

 

 しかし、そこには何の感情も湧かない。その子供にとってなんの安らぎにも、慰めにもならないのだから。

 

 何も考えるな、何も感じるな、何も触れるな、何も喋るな。

 

 物心ついたときからそうだった。

 

 自分自身は巫女である。何の巫女か?興味もない、持つ必要もないと言われている。

 

 全てに無関心であれ、さすれば神の依り代となる。

 

 何も関心を湧かないように細工され、『教団』以外誰にも気づかれないように気配を消されて虚無となる。

 

 どこに出歩いても誰も気にせず、誰に何をしようと気にされない。

 

 虚無から承った力を誰かに使ったこともあった。

 

 虚無の力を向けられた者は消える。誰もかれもから忘れ去られて、そのことを覚えているのは『教団』の一部のみ。

 

 無論、巫女もその中に含まれる。

 

「………………………………」

 

 月を見つめる。ただ太陽に照らされて小さく地球の周りを漂う月だ。

 

『巫女、寝る時間です』

 

 灰色の人形が話しかけてくる。それに対しても子供はぼーっとしているだけで何の返事もしない。

 

 それがいいのか灰色の人形は子供を抱えて寝室へ連れて行く。

 

 人を捨てた灰色の人形が実の親だったとしても、何も感じる事はない。

 

 だが、子供には一つだけ引っ掛かりがあった。

 

「…………………………………………」

 

 あの時、二度も話しかけてくれたおじさんは何故自分を認識できていたのか。

 

 布団の上で横になり、自然と目を閉じるまで虚無に浸るはずの思考はそのことだけを考えていた。

 

 そして、また新しく虚しい一日が終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

〜●〜●〜●〜●〜

 

 

 

 

 

「師匠は元気にしてるでしょうか?」

 

『まだ一週間と経ってないぞ。心配しすぎだ』

 

「そうでしょうか?かなり目をつけられてると思いますが…………」

 

『言ってしまうが、たかが人間で奴をどうこうしようというのが無理というものよ』

 

 鋼マキコは軟禁状態である。

 

 理由は明白、隣にいる黒のカードである『合金拳法ニックロルト』の所有者だからである。

 

 叔父である石和田ゴウタロウに勝利したのはいいが、別に彼の身柄をどうこうするわけでもなく、どうすればいいか逆に聞いてくるのでゴウタロウもどうしようか頭を抱え、事情を秘匿したまま軟禁することに至った。

 

 マキコからの文句はない。むしろ法律で禁止はされている黒のカードを扱っているため逮捕されていないだけマシなのだ。

 

 それに加えて黒のカードである『合金拳法ニックロルト』が非常に理性的であり、一部は強行的に捕獲しようとした管理局員を拳でなく言葉で打ち負かしたのが大きい。

 

 まさか『黒のカード』に諭されるとは思いもしなかっただろう。

 

 しかも割と協力的な態度であるため軟禁で済んでいるのだ。

 

『ふむ、そろそろ寝る時間ではないか?子供は寝て育つものだ』

 

「もうだいぶん身長も伸びましたし、夜通しの修行もいいかなと」

 

『馬鹿者め、15にもなってない少女が夜更かしなどしてると肌が荒れるぞ』

 

「お爺さんに肌のことは言われたくない!そもそもニックロルトも年齢はあまり変わらないでしょう!」

 

『カカカッ!修羅場を潜った経験の差よ!』

 

 ぷんすかと怒るが老人っぽい見た目でありながら実年齢は大したことがないニックロルトに簡単にあしらわれる。

 

 少女1人の怒りなど精霊界の猛者に比べたら大したことは無い。

 

 ただのじゃれつきであり、それはマキコも分かっているため本気では怒っていない。

 

『あの男のことを考えても埒は明かん。あの幼子が何者であろうと、儂らに如何することもできん』

 

「そこがモヤモヤするんだって!」

 

『だから考えても仕方ないというとるだろうが』

 

 心配事を秘めながらも夜は更けていく。

 

 軟禁されているとはいえ外が見える窓がある。

 

 そこから月明かりが優しく照らしこんでいた。

 

 

 

 

 

 

〜●〜●〜●〜●〜

 

 

 

 

 

 生物には睡眠が必要である。

 

 明日のために早く寝る、明日までにしなければならないことの為にあえて起きておく、遊びたいから寝ない…………

 

 夜の扱いはひとそれぞれだが、彼にとって夜は基本的に睡眠をとる時間である。

 

 かつて労働にいそしんでいた時は寝る間も惜しんでバトルし続けたものだが、それでも眠い時は眠く、睡眠はとても大事だと実感している。

 

 流石の彼でも2泊3日の世界10ヶ所世界の危機弾丸ツアーは堪えたと語る。

 

 一睡もせず重要拠点を叩いて即座に次の目的地へと国単位で移動するとなれば、後半の記憶はそこそこあやふやらしい。

 

 故に、彼が安らかに眠れるアイテムはしっかりとそろえられている。

 

 柔らかなベッド、暖かい布団、丁度いい硬さの枕。

 

「ぬっ」

 

 そして『悪神ウェロボラウス』。

 

 彼が眠っている布団からひょこりと顔を出した。

 

「よしよし、今日もぐっすりと眠っているな」

 

 角付き褐色幼女の姿ではあるが、神であるため睡眠は不必要である。

 

 では何故、彼と同じ布団で同衾しているのか?

 

「ぐふふ、今日も寝顔を独り占めだな…………」

 

 こういうことである。

 

 割と何にしても起きない彼に引っ付いては体を触ったり揉んだり、噛んだりして独占している。

 

 同棲しているという事の利点はこれである。それに『悪神ウェロボラウス』は気配を消すことが非常に上手であるため簡単に起こさないという点もある。

 

「はふはふ、これよこれ、雄を楽しむのはこうでなくては」

 

 布団の中をもぞもぞと這いまわり、触ったり舐めたりしてセクハラばかりしている。

 

 腕の肉を甘噛みしながら『悪神ウェロボラウス』は今後について考える。

 

「既に全国バトルカップへの応募は済ませた…………後はどうやって確実に当選するか」

 

 彼は全く出る気はないが、『悪神ウェロボラウス』は住所だけ記入して彼を出場させようと抽選枠で応募している。

 

 当然ながら、腕に覚えが少しでもある人間はこの大会に応募している。

 

 何故なら予選に出れるだけでもプロモカードが貰え、それだけでも実績になるからである。

 

 たったそれだけと思われがちだが就職に有利になる輝かしい経歴になるのだ。

 

 たとえ主婦であろうと子供であろうと一生自慢できる話題を得られるチャンスを掴もうとするのは当然だろう。

 

「多ければ減らせばいいのだ。ケケケ、我が出した応募ハガキだけが残っていればなぁ…………」

 

 ニチャアと子供がしてはいけない悪い顔が月明かりに照らされる。

 

 カーテンから僅かに漏れた光も、悪い顔をしていればそれなりに映えると言うもの。

 

 元が整っているからとか言ってはいけない。それを言えば全て台無しなのだから。

 

 一日が終わる。一日が始まる。月が沈み、太陽が昇る。

 

 そして、月は何も語らない。どのようなことがあっても、語る口がないのだから。

 

 しかし忘れてはならない。

 

 月は平等に見ているのだと。

 





主人公「( ˘ω˘)スヤァ」

悪神「ぐへへ、好き放題だ」

月?『(うわ、スケベしてる)』

台本っぽくすると性別が分からなくなるの不思議だよね。

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