このタイトル、一体誰のセリフでしょうね?
この世界におけるカードの属性は火、水、風、土、光、闇の基本6属性で構成されている。
だが、この中に収まらない例外の属性が3つ存在している。
まずはご存知『黒』である。数多の生命が融合したような醜い容姿、稀に例外はあるもののどこか破綻した精神と大いなる力を持つ強大な属性。
第二に『八大天使』含む秩序の『白』。黒のカードと比べたら母数は圧倒的に劣るが、その分強力な力が多く、基本的に聖なる力と称される。
そして『虚無』、これがまた非常に厄介な性質を持つ。
創造の前に破壊あり、破壊があるからこそ創造される。この二面性を無視して全てを無に帰す力が『虚無』である。
その力を利用し世界を消滅させようと企む組織がいたり、虚無にて地平を制そうとする愚か者もいる。
「 今回は後者でした。『虚無』の力に大事な者を捧げようと、それ以上の物を得られないと理解できていなかったのでしょう」
「おい待てよ、こっちだって『虚無』の動向は調べてんだ。そう簡単に見落とす訳あるか!」
「あるんですよ、カナタさん。辛うじて把握できているだけで見落としは数多にあります」
「…………確かに、『虚無』の記録は残らないこともあります。だから8番隊主席の存在を忘れるなんて」
『それもそうだが、我々「八大天使」が一柱欠けていたと気付けていたか?』
『あらー、言われてみれば不自然ね。あの子に「八大天使」がついてないのは未熟だから…………と思い込んでいたわ』
黒のカードは割と見かけるほどの存在に対して『虚無』は滅多に姿を見せない。
否、姿を見せていても強力な現実改変能力を持つため見たとしても忘れているというのが実情。
それを正確に追えているのは非常に少なく、管理局の中でも彼や極々一部しか居ない。
それでも怪しいところではあるが。
「いいえ、あの子が未熟だからではありません。私の失態です」
『八大天使 スクルエル』の言葉に彼は返す。
そして、柔和な表情ではあるが緊張感のある雰囲気を、彼にしては珍しく一筋の汗が顔の横に伝う。
「私は、いえ、我々は失敗しました。『虚無』による一時的な世界消滅。その代償は私の名、記録、そして『八大天使 ザオリエル』。私が関わった歴史のほとんどが消失したことにより歴史改変も発生。全て、私が『虚月海神ファレクサマーレ』の討伐にのみ注視していたせいです」
これは、彼なりの懺悔である。
一柱の神と戦いながらも世界を一度救えなかった男が漏らす言葉である。
「…………本気で言ってるの?」
「もちろん、このような場で嘘はつきません」
「
「『虚無』の神、ええ、私も初めて出会いましたから」
瑪瑙マミの震えた声に彼は淡々と答える。
まさか、知らない脅威があったとは思いたくもなかっただろう。
彼らも分かってはいる、名も知らない恐ろしい存在が蔓延っていることを。
「世界が、消滅?おいおい、そんなファンタジックな奴がいるってか?」
「そうですよ、ソウマさん。世界には恐ろしい存在がいます」
「そもそも!ザオリエルって誰だよ!知らないぞ俺は!」
「『八大天使 ザラキエル』の兄弟ですよ。まあ、八大天使は全員兄弟姉妹のようなものですが」
寶ソウマの叫びは一柱の天使の思考を停止させるには十分だった。
「皆さんが今すぐ受け入れられるとは思っていません、前も、その前も非常に大変な思いをしましたから」
色々と思う所はあるだろう、言いたいことはあるだろう。
それでも彼は穏やかに言う。まるでいつもの事のように、皆が責任を背負わせないようにするために。
「ザラキエル、世界を再構成するために消えるのは私でした。十分に責められる理由になります」
『っ!…………だが、しかし!』
「相手の奇策に乗せられました。まさか私を排除する為だけに世界を捧げられるとは」
「「「「「『『『『『『
とんだ爆弾発言である、と言われてもなかなか分かりにくいだらう。
彼が最初の方で言うように『虚無』へ何かを捧げても、その何か以上のものが叶うことはない。
大事な人を捧げたとしても胸に穴が空いたような虚無感に襲われるし、金だろうと捧げても満足するような物を得られるわけでもない。
物質や概念を『虚無』に帰すためにそれ自体のエネルギーを使い、そこで虚無に使った余分なエネルギーが捧げた者に返還するというものであるから不等価交換なのである。
「つまり、おじさんはめっちゃ強いってこと!?」
「そうですよ、ミトさん。管理局の立て直しと教育を出来るくらいには」
「どうりでカードの知識が豊富な訳だ」
「おや、ゴウタロウさん。何か心当たりでも?」
「少し前に箱を開けてた動画が上がってた筈だ。マキコの技術も教えたのもお前だ」
「貴方にも、皆にも色々と教えました。いやぁ、懐かしい」
あまりにも深い所に関わっていたのに忘れている。それが思いの外、面々を抉ってくる。
それを朗らかな笑顔で言ってくるものだからたまったものではない。
『虚無』とはそれほど強力なのだ。ゴウタロウとほぼ同年代の神宮寺ソノカも同じようにバトルのいろはを教えてもらっていたかもしれないと頭を抱える。
妙に信頼できると思えていたのはこのせいか。疑問が解けたのはいいがなぜ忘れていたという罪悪感が伝う。
「…………事情は把握した。その報告書はどうした?」
ついに陽花里ヤマトが口を開く。
神経質な性格のように苛立ちが籠っている口調で彼に問う。
「一応は作っています。パソコンと印刷機があればいつでも」
「今から出して配りなさい。話すより話が早い」
「では、そうさせていただきます。少々お待ちください」
とても自然に、まるでいつもこのようなやり取りをしていたように彼は部屋から出る。
ヤマトとて彼のことを詳しくは思い出せない。
だが、何か抜けていたピースがきっちりとハマった。ヤマトにとって、ヤマトと管理局の中で足りていなかったものが戻ってきた。
圧倒的善性…………はともかくして他者と隔絶した力を持つ男の存在が戻ってきた。
『虚無』に捧げる不等価交換は代償が大きいが割に合わないのが基本である。
世界消失の一端を担ってしまった彼の存在、それは不等価とはいえ世界を捧げてでも彼を消せなかったという証拠に他ならない。
彼にとって『人間の親友』だったヤマトは彼が戻ってきたという選択に安堵したが、何か忘れている気がしてならなかった。
そう、彼は何度も世界を救った男。
常に世界崩壊レベルの話を引き寄せる、首を突っ込んでいる男という事を忘れていた。
『虚無』に関する報告書と『悪神ウェロボラウス』を侍らせている事実を突きつけられて青筋を立てるまでおよそ20分後の話である。
〜管理局におけるおおまかな彼の実績〜
・入職後に思ったより腐敗が進んでいた管理局上層部に陽花里ヤマトと共に改革。その際に暴走した秩序の白の神を殴り倒して正気を取り戻した。
・十数年に渡る部下への指導及び教育。
・黒のカード事件及びそれらに関わる神をしばき回す。
・違法実験の被害者救済。それに伴う黒のカードへのカウンセリング。これにより黒のカードに足りていなかった何かが愛なのだと気づき論文作成。
まあ、これは全て『虚無』により色々改変せざるを得なくなったんですけどね。
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