前話の補足
世界を10のエネルギーとした場合の計算式。
世界(10)-虚無経由(3)<主人公
虚月「(世界を捧げて排除しろって言われたけど、世界を消すことで世界の外に出すことしかできなかった。なにこれ怖い)」
鋼マキコは黒のカード使いである。
『合金拳法ニックロルト』と出会い完全に増長する前に師匠にボコられて落ち着きを取り戻した少女である。
そんな彼女は今、管理局の元へやってきた。
叔父である石和田ゴウタロウに連れられて、マキコと同じく黒のカードを使うもの達が管理局にもいるという。
初めて聞いた時は流石に驚いた。しかし納得もできた。
黒のカードは相当専門的な知識を要する。そして使い手が居なければ心理だって分からないだろう。
そして、黒のカードに惑わされず真に使いこなせる人材が居ればやりやすいだろう。
こうして彼女は黒のカード使いの専門家の一人として管理局にやって来たのだが。
「隊長!石和田氏の姪が来てますよ!」
「大事な集まりあったんじゃないんですか!今、それやる必要ないでしょ!?」
「バブ……バブ……」
「ごめんねぇ。うちの隊長、定期的に褒めないと幼児退行しちゃうから…………」
「そ、そうですか」
目の前の光景を書くと、ゴウタロウに引けを取らない大男とウルフカットで分りやすくパンクな女性がなんか小さくて幼児退行している女の子を立ち直らせようと声をかけ、そんな混沌の中にやってきた困惑するマキコといつもの事と平然と言うおばちゃん。
8番隊の姿か…………?これが…………?
黒のカード使いが集まりやすいとは事前に聞いていた。
それに伴って個性豊かな面々だと言うことも何となく察してはいた。
ちょっと濃すぎる、これ。マキコはそう思った。
「えっと、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫ヨォ。ちょっとオンオフが激しいだけなの」
『…………あれが管理局の8番隊主席か』
「もっと褒めてぇ…………」
「ここ最近何もできてないからって拗ねるな!起きろ!」
「おかしいな、ここ最近は隊長の体調も悪いな。世間のあたりがキツくなってきたからかな?」
ウルフカットの女性がげしげしと赤子のように蹲る8番隊主席を蹴る。
尊厳も何もあったものじゃない。そう思いつつマキコは黒のカードである『合金拳法ニックロルト』を見た。
『あれは、何だ?人の形を保っているだけで、人ではない何かだぞ』
明らかに緊張した顔で、力ある者が警戒する表情である。
このような顔を最近見たことがあった。師匠である男にくっついていた褐色幼女が悪意ある笑みを浮かべた際にゴウタロウがしていた顔に似ている。
「あら?アンタ分かるのかい?そうだよ、過去に色々あってねぇ。ま、それはアタシらもそうなんだけどね」
「ここはそう言った事情をもつ人たちが集まりますからね。隊長!流石に挨拶しましょうって!」
大男が丸まっている8番隊主席を猫のように首元を持ち上げてマキコの前に持ってくる。
「…………赤ちゃんですバブ、たくさん褒めて」
「初対面なので無理です」
「せめて生きてるだけでも偉いと言っていただいたら幸いです」
「成人女性だから適当な声掛けでも気にしなくていいからね」
ぷらーん、と宙ぶらりんになっている8番隊主席。成人している割には小さく見える。
「小さいと思うでしょ?この発作が起きたらちっちゃくなるのよ!大きい時は外面は凛々しくカッコよくなるんだけど、ちょっと目を離した隙にこうなっちゃうのよねぇ」
「そ、そうなんですか」
『合金拳法ニックロルト』が言うような人外のようには見えない。いや、元の姿を知らないが縮む時点で既に人外ではある。
8番隊はこう言うのが集まっているのかと思い、他の3人を観察してみる。
身体に恵まれた男、ウルフカットで粗野な女、おばちゃん。
共通点はみな髪が黒いということくらいしかマキコには分からない。
「ったく、隊長がこんなのだからあたしたちは舐められてるってのに」
「まあまあ、そろそろマキコさんにも自己紹介するべきですよ」
未だにぶら下がっている8番隊主席の存在を一時的にスルーするように大男が言い始める。
「まずは自分から、和内カズユキっす」
「あたしもいる?…………まあ、しばらく使い走りにはするからいいか。
「おばちゃんは牧村ヨーコ、息子もいるんだけど、紹介はまた後にするわ。最初は雰囲気に慣れて欲しいからネェ」
「そしてこれが隊長、ほら、隊長!シャキッとする!」
ぶらぶらと揺らされてもちぱちぱと指をしゃぶったままの8番隊主席。
流石に信じられないような目で見るマキコ、
本当にこんな部署が黒のカードを扱っているのだろうか?
そんな疑念がマキコの頭によぎったのを察したのか、ぺいとぬいぐるみを投げ捨てるようにカズユキが8番隊主席をソファーへと放り投げる。
「隊長は今はあんなんですけど、俺らもしっかりプロなんで。ここは一回バトルで示してもいいですか?」
何故か服を脱ぎながら言った。
正直なところ服を脱いだところで実力が変わるかどうかは定かではない。ただし、気持ちの持ちようで強くなる変態は一定数いる。
だが、カズユキはその類の変態ではなかった。
「いやあ、変に思われるんですけどね。服を脱ぐのは自分のためなのは間違いないですけど、勿体無いんですよ」
そう言いつつ、いつの間にか用意されていた机にデッキを置く。
これも歓迎会の一種、この世界は何処の職場でも新人とバトルすることは当たり前とされていたりする。
それに則りここでもするのだとマキコは思い、同じようにデッキを置く。
そこでカズユキに起こっている異変にようやく気づく。
「こういうのは『事情持ち』にしかしないんですけどね、そこの黒のカードの精霊が憑いてるってなら話は別です」
身体が大きくなっている。メキメキと筋肉が膨張し、人の肌に獣の体毛が生え始めている。
「これ、服破けちゃうんですよね。それに見た目もワイルドになるし、毛がたくさん付くし」
そして、その姿が完成する。
マキコが見上げるほどの大きさ、顔も人ではなく狼のように、しかも額には1本の角が生えている。
よく見たら毛が生えていない部分も肌色から赤く染まった皮膚になっている。
明らかに人ではない、むしろ感じるオーラは隣にいる『合金拳法ニックロルト』と同じ気配。
『やはりか、人間でありながら黒のカードにされた人間…………!』
「そう言うこと。そして、ようこそ、このような特殊な事情を持つ
優しそうな人間体から一変、獰猛な笑みを見せるカズユキ。
それでもマキコは笑っていた。
「上等!対戦よろしくお願いします!」
まだ強くなれる。黒のカードを使いこなせるだけでなく師匠のように技術の高みに至る道を歩める。
「「バトル!」」
この世界は、何事もバトル中心なのだ。
「また始まったよ、バトル馬鹿のバトル」
「いいじゃないの!カズくんも最近はバトルできてなかったんだから、少しは発散させなきゃネ!」
「バブバブ…………」
それを外野で見る女性3人。今更ながら、8番隊主席も一応は女性である。
褒め足りない症候群を患っている8番隊主席は欠けた誰かが戻るまでしばらくこの状態だろう。
〜人物紹介(8番隊主席除く8番隊幹部編)〜
和内カズユキ
8番隊の幹部枠。そして黒のカード使い。
幼い頃にとある事件で精霊との融合実験素材にされてしまい人狼と鬼のキメラ『混合伝承ウルフーガ』となってしまう。
その後、ある人物に救出されて管理局で匿われ育てられた。
ある人物は…………黒い装備の…………?
甲浦ツカサ
同じく8番隊の幹部枠。黒のカード使い。
カズユキと同じく精霊との融合実験素材にされて黒のカードになってしまう。
発見されるまで多少の時間があったため人間不信が根底に残っており、精霊にすら不信感を持つ。
だが、ある人物がいなければ、ここまでコミュニケーションを取れるようにならなかっただろう。
その人物は…………黒い服の…………?
牧村ヨーコ
40代後半の女性。自他共に認めるおばちゃん。元々の髪色は違うが黒く染めている。
過去に起きた黒のカード関連の事件の被害者であり、紆余曲折あって管理局に就職した。
面倒見が良く、先述した2人のような事件の被害者の面倒を見ることも多々ある。
息子が管理局にいると言うが…………?
少なくともある程度忘れられた誰かのことではないようだ。
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