「くっ…………参りました」
「対戦ありがとうございました。いやー、強いねマキコさん」
『お主こそ強かった。ただ力で押すかと思えば手の込んだ仕掛けで儂をすり抜けるとは』
「黒のカードは皆、何らかのギミックは持ってますからね。下手に触れない方が吉、というかニックロルトさんは報告を聞いてたとはいえどう見ても武人だし正々堂々くるかと思ってましたので」
「私もまだまだ精進しなくては…………!」
和内カズユキは人狼と鬼の融合した姿から人間に戻りつつ感想戦を始める。
鋼マキコも彼と戦い、実際の8番隊の力を感じ取ることができた。
とても強い、確かに生半可な黒のカードでは彼に勝つことはできないだろう。
「カズユキ、またプレミしたよね?2ターン前の詠唱さ、あれ打つ必要あった?相手どう見ても殴るデッキだったから必要なかったじゃん」
「まだマキコさんは発展途上だし、保険として打ったんです。まあ、結局ドローして逆転されかけたけど…………」
「だーかーらー、そういった弱気なところがダメってんでしょうが!攻めて行けば強い所を慎重にやっちゃってさぁ!デカいのは体格だけで気は小さいって?」
「プレイは堅実に行くべきです。たとえ誰が相手であろうと僅かな油断が命取りになるんです。俺たちはそれを教えて行かなければいけないんですよ?」
「はー、これだから小心者は!バトルは大胆不敵に、相手を怖気させるくらいしなよ!」
なんか喧嘩が始まった。犬も食わぬような話ではあるが、二人は真面目にバトルの良し悪しを話し合っているのだが、徐々に互いの語彙が強くなってきている、気がする。
「気にしなくていいわヨォ。あの子たちはいつもあんなんだからさ!」
「そ、そうなんですか」
『仲がいいのだな』
喧嘩するほど仲がいいとはまさにこのこと。上半身裸のままとは言えカズユキとツカサが仲良く言い合っているところを邪魔する隙が無い。
いつまで続くんだろうと思っていたその時だった。
「…………ぁぶ、あー」
「え、今の声は一体?」
どこからか聞こえた動物のような声。だが、どこか人間のような気もしてならない。
かといって周囲を見渡しても何も見当たらず、それらしい気配もあまり感じられない。
『下だ、マキコ』
ニックロルトの言葉に下を向いてみる。
その足元に、正確には牧野ヨーコに纏わりついている『ナニカ』が発していた声と分かった。
それは、平べったかった。
しかしもぞもぞと動く蒼い肌に不規則に動く5本ほどある触手。目の焦点も若干あってない『ナニカ』が居た。
「あらまあ!あんたいつの間に抜け出してきたの!?全く困った子だネェ」
全く謎の生物をヨーコは、愛おしく、抱きかかえる。
一体何の生物なのだろうか。見たことのない生物、カードの精霊にしては力が弱く、そして全く統一性もなく見たこともない姿。
「あーら、どうしようかしら。これ明かすのも、ネェ?」
赤子をあやすように謎の生物を抱いて揺れるヨーコは何らかの迷いを見せている。
「うん、ダメね。これはアタシらの秘密。正式に局員として認められてからネ!」
「そ、そうですか」
『さっきからそれしか言っておらんな』
実際、深い秘密を知れる立場にはないマキコである。だからこそ曖昧な返事しかできず、それを分かっていてなお『合金拳法ニックロルト』もツッコミを入れる。
カズユキとツカサの喧嘩は何故か意気消沈した石和田ゴウタロウがマキコを迎えに来るまで続くのであった。
〜●〜●〜●〜●〜
「で、隊長!そろそろ機嫌直してくださいよ!」
「もう会議とかとっくに終わってるんでしょ?もうさ、このまま放置して飲みに行こうよ」
「いいわネェ!でも、この子を置いていけないわよ?」
「ぅあー。めぃうー」
「バブバブ…………」
「どっちのことですかね?」
ぱたぱたとヨーコの腕で跳ねる謎の生物とばぶばぶと元の姿に戻らない8番隊主席。
全員が帰ろうにも謎の生物及び8番隊主席が指定の場所に戻らなければ帰れない。
ここまで重症の8番隊主席は滅多に見ないため、対処法が思いつかないのだ。
「『タカシ』も『保育所』に戻らないといけないんだけどネェ」
「ヨーコさん困らせちゃダメでしょ。ほら、さっさと立つの」
「ひんっ、虐めないで…………」
「あーもー、俺が部屋に置いてきますよ」
カズユキが8番達主席を持ち上げようとしたその時だった。
「…………待って、何か近づいてきてる」
「…………この音、『保育所』の子達?」
黒のカードとなった2人の優れた聴覚は、廊下から大量の何かが来ていることを感知した。
牧野ヨーコが抱き抱えている謎の生物、それはかつて人間だった者、悪意ある言い方をすれば『成り損ない』である。
黒のカードを人為的に作るには精霊を使ったキメラを作るという悪魔のような発想をした誰かが行った実験の被害者である。
その成り立ちとして、黒のカードは本来自然発生である程度の知能と理性が保証されるのだが、精霊同士のみで強制的に融合すると理性を失い暴走してしまうのだ。
そこをどう制御しようと考えた結果、人間を混ぜるという外道極まりない手段をとった。
とってしまったのだ。
その研究の為に何十人、何百人と誘拐されては資源として消耗されて多大な苦痛を負わせていった。
カズユキとツカサは運が良かった。人の形に戻り、人として喋り、人として生きていけるのだから。
それに対して『成り損ない』はその真逆。人の形を失い、言葉を喋れず、1人で生きていけない。
ヨーコの胸で抱かれている『タカシ』のように。
故にあまり人に懐くことがない『成り損ない』が集団で近づいてきている。
誰かの足音と共に、呟きと共にこちらへ向かってくる。
「警戒、必要ね」
「いつでもバトル出来るわヨ」
ツカサとヨーコは己のデッキを取り出し侵入者と思う相手に備える。
カズユキは8番隊主席を抱えて万が一のために黒のカードとしての姿を取り逃走できるよう備える。
そして、扉が開かれる。
「サヨコ、キミエ、ニーニェ、シンタロウ、ケンゴ…………」
彼は、名前を言っていた。
身にまとわりつき、足元を這う『成り損ない』を踏まないように歩き続ける。
「ヨウジ、セレン、タカシ、そして」
彼はカズユキが抱える8番隊主席に視線を向けた。
「おいで、
その言葉を聞いた途端、8番隊主席がロケットのようにすっぽ抜けて彼の胸元へ飛び込む。
重力とかどうなっているのかと思うくらいの勢いで、彼の胸にぶつかった。
かなりの勢いがあったが、彼は少し揺れるだけで倒れず優しく受け止める。
「バブ…………褒めて…………」
「ええ、私がいない間、本当に、本当に頑張りました。大変だったでしょう、急にいなくなった私の代わりを務めてくださりありがとうございます」
縮んで赤ちゃんのようになっている彼女を優しく撫でる彼に、3人は見覚えがあった。
「あ、アンタ、まさか…………」
彼らも、彼女らも彼の存在を忘れている。
しかし、ある姿だけは決して忘れていない。
傷ついた皆の為に、彼が晒した『英雄』の姿を。
「ただいま、皆さん。私が戻りました」
元8番隊主席、一時帰還する。
『成り損ない』
ぶっちゃけメイドインアビスのなれ果てみたいな存在。
黒のカードを人為的に作ろうとして最初から失敗しないわけないよねっていうことで割と初期から設定はあった。
多種多様で人間性を失い、黒のカードとして扱うことすらできない命として欠陥を持つ生物。
カズユキやツカサ、現8番隊主席のような成功作といるが、失敗した数の方が圧倒的に多く、かつては彼の主導のもと保護されていた。
その際の『英雄の姿』とは一体?
なお、彼らをこうした科学者も黒のカードと化したが、しめやかに爆裂四散した。珍しく慈悲はない。
あと『悪神ウェロボラウス』は一切関わっていない。
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