「お久しぶりですパパ!私、
「おめでとうございます。調子が戻ってきたということですね」
隊長と呼ばれていた女、常世ヤオロズが先程の痴態を忘れたかのようにビシッと彼に向けて敬礼をとる。
常世ヤオロズ、8番隊主席にして管理局最強と噂される存在である。
ただし、その実力は非常にムラがあり、最高と最低の差が非常に激しいため正確な実力を一人を除いて把握できていない。
その正体は元人間の黒のカード、過去の違法な研究にて融合実験を受けた被害者の一人である。
それもただの被害者ではない。カズユキやツカサよりも精霊との融合適性が高く、故に多くの精霊を融合させられた。
その数、およそ千。
盛りすぎかと思いがちだが、精霊にも格というものは存在する。
低コスト帯は高コスト帯に比べたら弱い傾向にある。黒のカードや強みを発揮するために条件を揃えなければならないカードを除いて価値は反比例している。
まず最初に幾つかの大物の精霊を彼女に融合させられる。それでもまだ融合できる余裕があった為、最高傑作になることを確信しながら次々と精霊を注ぎ込んでいく。
大物は数が少ないので中級を次々と融合させていく。それでもまだまだ融合できそうだったが素材が底をついたので仕方なく下級を。
その下級すら融合してもまだいけそうだったので一度封印して素材を再度集めて融合。
それを繰り返す精神もおかしいが、一重に彼女の類まれなる才能が運んでしまった不幸である。
数多の精霊と1人の人間の意思が統合しきれるはずもなく、精神崩壊した彼女を研究者たちは都合のいい駒のように扱った。
そこでなんやかんやあって救出された一人で一番重症だったのが彼女である。
人格が崩壊した彼女を管理局で預かり、育てて今に至る。
「パパがここにいるということは、管理局に戻られるのですか!」
とても期待した目で彼を見つめるヤオロズだが、微笑みながらも彼は首を横に振る。
「今の私は顔を出しただけで、まだ戻れるかどうかは未定なのです」
「そうでしょう!パパが帰ってきてくれるなら私も…………なんでふ?」
「事情があるのですよ、
絶対に戻ってくると思っていた彼が戻ってこないと言った。
そう思い込んで話していたのだが何かを聞き間違えたのかと思考が一瞬停止したヤオロズは気が抜ける声が出てしまう。
「…………そ、そうですよね。パパは強いしかっこいいし強いしやること沢山あるしで忙しいもん。仕方ないもん」
病む、ヘラるという単語はこの事か。事を理解したヤオロズは先程の勢いが消え失せしゅんとした表情で徐々に小さくなっていく。
そして呪文のように自分に言い聞かせる言葉をブツブツと呟き続けて不気味な雰囲気を纏い始めた。
忘れているかもしれないが、ここには和内カズユキと甲浦ツカサ、牧野ヨーコと成り損ない達が居る。
とはいえ割と日常的に見られていたようで、彼の登場という衝撃は残っているものの『またか』というめんどくさそうな目を向けられていた。
成り損ないは知ってか知らずか呻き声のような音を上げながらヤオロズの足元に集まっていた。
慰めるというよりは遊んで欲しいとせがんでいるように見えるが。
「おやおや、すぐにまた会えるという訳ではありませんが時折顔を出しますよ」
「でも毎回じゃないし、毎日じゃないし…………」
「『悪神ウェロボラウス』も一緒に来ますよ」
「余計にヤダー!」
しれっとビッグネームが飛び出してくるが、ヤオロズは当然のごとく受け入れていた。
何故なら発狂して人間性すら失った自分を深い底から人の心を作り出してくれた恩人なのだ。
そういった奇跡の10や20は起こす人なのだ。
「って、そうじゃない!隊長、恐らくあれっすよ。今回の会議の議題!この人の事じゃないですか!?」
「あらまぁ!確かに『保育所』の子たちが懐いてるネェ。この子たちがこうなるってのなら納得ヨ」
「ええ、一番隊主席から七番隊主席まで揃っていましたよ」
「なぁんで私を呼んでくれなかったんですかぁ!?」
「幼児退行してたからだよ!」
悲痛な叫びに後ろ回し蹴りと共に答えるツカサ。
なお、割と全力で蹴ったにも関わらずびくともしていないあたりヤオロズの頑丈さが窺える。
むしろ蹴った方であるツカサが足を痛めたのか、ケンケンと片足で飛び上がっている。
「あーもー最悪!これからお守りもしなきゃいけないのが増えるし隊長はもっとめんどくさくなるし!どうなるのよあたし達!」
「そう言ってェ、あの子が戻ってきた事に文句一つも言ってないじゃないの」
「う、うるさい!」
文句を垂れるが彼については何一つ言及していない。
むしろヨーコの指摘によって顔を赤くして黙り込んでしまったため、彼が戻ってきて嬉しいということは間違い無いだろう。
「よしよし、会議は毎回何が議題に上がるか分かりませんからね。次からちゃんと出ましょう」
「えへ、えへへ…………」
「犬よりダメになってますよ」
「カズユキ、君もどうですか?」
「お、俺は遠慮しておきますよ」
「おやおや、大人になりましたね。昔はあれほど好きだったというのに」
「ヨーコさん!俺怖いっすこの人!全部把握されてますよ!」
「仕方ないと思うわヨ。だって…………」
えへえへとされるがままに撫でられる常世ヤオロズとその周囲にいる成り損ない達。
それを愛おしそうに微笑み、皆を懐かしく暖かな目で見つめる彼。
「おばちゃんの勘だけどネェ、ここが初めて立った時から居る人だもの」
知っているけど知らない人が自分の事を知っていたら本能的な恐怖はあるものの、確かに欠けていた人物であることも理解していた。
8番隊は黒のカードすら使用する混成部隊。それ故に他の部隊から白い目で見られたり良くないことを考えたりすることだってある。
それに心無い言葉もかけられることもあり、組織内でも浮いた存在になっていた。
はっきり言って、皆の心もバラバラになりつつあった。
喧嘩も頻度は多くなり、同じ隊員同士でも口を利かないことも多くなっていた。
次第に8番隊の数は減っていき、ここに居る彼らを含めて他の部隊と比べても人数は半分以下になっていた。
いずれ解散か、黒のカードになってしまった自分達は、子供たちはどうなってしまうのかと言い知れぬ不安を抱えながら解決策を見つけられず鬱屈とした日々を過ごしていた。
だが、光が戻ってきた。
全てを導いてくれた人、多くの苦難はあれど彼が戻ってきさえすれば再び立ち上がれる。
「今日はもう既に遅くなってしまったので、私が『虚無』の案件に関わり何があったか皆さんに伝えておきますね」
それはそれとして再び地雷を踏んづけて解体にいそしみ、8番隊の面々を撃沈させる彼であった。
~人物紹介~
常世ヤオロズ
現8番隊主席、そして融合実験における最大の被害者。
1000近くの精霊を融合させられて自我が崩壊し、黒幕の言いなりになっていたが主人公の手によって解放。
その後、管理局へ連れてこられるが実験材料としか見られておらず、何なら処分するべきという声が多かった。
しかし、主人公の一声でそれらの意見を押さえ、彼女の育成に努めることとなる。
黒のカードとしての名は『
多くの生物をごっちゃに混ぜて吐き出したような嫌悪感漂うものであったが、人間になれるまで非常に長い時間をリハビリに費やした。
そのため、心を作ってくれた主人公をパパと親しみを込めて呼ぶ。
全てにおいて主人公が彼女を構成したと言って過言ではないので滅茶苦茶懐いているどころの話ではない。
そして、主人公は彼女を『モモ』と呼ぶが、彼女自身の名前は当時の管理局で偉い人がつけた名前であり、可愛げが欲しいといった主人公が八百万から『百』の部分を取り『モモ』と呼んだためである。
この呼び方を主人公以外に許していない。
その心は未だに情緒不安定であり、実力は非常に高いのだがムラが大きすぎて全力を出せない。
ようやくこの作品のメンヘラタグを回収できる人物の登場である。
なお、主人公が『虚無』により記録と記憶が消し飛んだ不在の事を聞いた彼女は泡を吹いて倒れた。
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