「ほーーーーーーん?で?我を置いて?結果古巣に行って?匂い沢山つけて?で?」
「ひさしぶりにあの子達に会いましたからね。特にニーニェが全身を這い回ってくれたんですよ。可愛いですよね」
「我に土産の一つや二つは用意しているだろうな?1人で遊びに行ったわけではないだろうな?」
「モンスターマーブルチョコを5袋買ってきましたよ」
「我が言ってるのは黒のカードのことなんだがなぁ!?」
びったんびたんと床上で跳ねて留守番した見返りが少ないことに抗議する『悪神ウェロボラウス』を見て彼は苦笑いした。
大量の成り損ないと触れ合いしただけでなく、常世ヤオロズも沢山ヨシヨシしたので簡単に取れない匂いが彼についている。
それを上書きするために彼が帰宅した瞬間に全身を這いずり回る角付き褐色幼女という光景ができたのだが、それでも匂いを全て上書き出来なかった。
単に匂いが強かったのか、それとも『悪神ウェロボラウス』の上書き機能が弱かったのかは定かではない。
常世ヤオロズに聞かせたら「私くさいですか!?」と叫びそうだが。
「ほら、機嫌を直してください。管理局がお土産で売っているチョコは味も一品ですよ」
「そうやって我を物で釣ろうとしてる…………!」
「私を這い回った際に何回もマーキングとして噛み付いてたではありませんか」
「それはそれ!これはこれだ!」
しれっとやることをやっている『悪神ウェロボラウス』をなだめようとも我が道を征く神を止められる人間がいるだろうか。
特に、ごねにごねて駄々っ子と化した幼女を止められる大人がいるだろうか。
「特になんだ!モモとは誰だ!昔の女か!女に会いに行ったのか!?」
「過去に育てたことがある子です。大きなところは違って見えても君と似たような子ですよ」
「なぁにが似てるだ!しかも何だ?話を聞いてたらパパと呼ばれてるではないか!」
「血は繋がっていませんが、そう呼ばれています。そうなるとウェロは
「我、知らん奴の娘など得とうない…………」
ごろりんと転がりながらも一児の母になる事を拒む『悪神ウェロボラウス』。
「そもそも、我に生殖能力が無いから子供が可愛いとかどうとかは分からん。大抵クソガキだろう?」
しれっとカミングアウトしているが、子供を作れないということに彼は何の疑問を抱くことはない。
『悪神ウェロボラウス』は神である。そして人がいる限り尽きぬ悪意を糧とする事で無限を司る側面を持つ。
彼も多くの神や上位存在と触れ合っているが、大体が子供を作っていることが多かった。
彼の仮説ではあるが、世代交代や自身が完璧でない事を示す証拠ではないのか。
「リシアのとこなんて見てみろ、ドロドロだぞ?我が介入するでもなく身内で争ってるぞ?」
「ええ、私が介入していなければ危ないところでした」
「…………まあ、それは置いといて。我は神だが完璧でも無敵でもないが、我は我だけよ。余計な眷属を増やすつもりもない」
ゴロンゴロンと転がって、彼の足元にたどり着いた『悪神ウェロボラウス』はそう言い捨てた。
ちなみにリシアのとこというのは我々で言うギリシャ神話の枠に当たる所であり、大神の女癖が酷すぎて世界を巻き込みかけたと言う話があるのだが、それはまた別の機会に。
彼の足にまとわりつき始める『悪神ウェロボラウス』で身動きが取れなくなる彼は苦笑いするしかない。
まだ手にかけてある袋の中に仕舞われたマーブルチョコのお土産があるので、それを開封してしゃがみ、未だブツブツと文句を垂れ流す『悪神ウェロボラウス』の口の中に入れる。
もにゅもにゅとマーブルチョコだけでなく彼の指まで咥えた『悪神ウェロボラウス』が口を動かし、チョコと指を舐め続ける。
チョコがなくなっても指を舐めるのをやめない。むしろガリッと音をさせて彼の指を齧るまである。
新たな傷ができても大して気にしていない。
むしろ自然治癒以外で治そうとすると、じっとその様子をずっと横で眺め続けられるのだ。
マーキング、察しのいい人ならとっくの昔に理解しているだろうが自分のものと主張するための跡を消されるのは快くないものだろう。
常世ヤオロズも当然ながら噛み跡の意図には気づいていたが、あえて触れていなかった。
藪をつついて蛇を出す、それどころか悪神が出てくるかもしれない…………訳ではなく自分のような訳アリを何とかしているのではないかという推測からである。
良くも悪くも黒のカード、勘は鋭い。
それはそれとして彼が帰った後に、その誰かとイチャイチャしているのではないかと自室で悶々としていたりする。
「そろそろ晩御飯の時間ですが、何が食べたいですか?」
「特A級アブリガ産牛肉ステーキ」
「おやおやおや」
かなりの無茶振りである。完全に拗ねて無理難題を吹っかけ困らそうという魂胆が丸見えである。
腐っても悪神、不貞腐れても悪神。小さないたずらでも妙にクリアできるかできないかギリギリのラインを突いてくる。
とはいえ即座に入手できるようなものではない。そして簡単に機嫌を直してもらうにはそれ相応の物を捧げるしかない。
元来、神というのはそういうものだ。恐れ敬い触れるべからずの存在である。
だが、忘れてはならない。
「では、今からアブリガに行って取ってきますね」
「待て待て待て待て」
神の冗談か本気か分からない戯言を寸分違わず実行できる狂人がいる事を。
「大丈夫です、1日あれば戻ってきますよ」
「我が大丈夫じゃない。一日中放置する気か????」
「ウェロ、私は君を信じています」
「我の何をだ!?晩飯通り越して我に断食を強いるのか!?」
「君の願いであれば、私はどこにでも行けます」
「こ、こいつぅ…………!」
彼は『悪神ウェロボラウス』の機嫌を治すためなら法律を犯さない範囲でやれる事はやる。
つまり、割と本気で現地まで行って牛肉を仕入れようとしていた。
本気の善意のため『悪神ウェロボラウス』も強く出れない。何故なら本当に一日で海外まで飛んで行き目的のものを手に入れて持って帰って来れると分かっているからだ。
「うぐ、ぎぎぎぎ…………分かった!オムライスでいい!」
「おやおや、本当にいいのですか?」
「今日の留守番してた分よりもっと離れるのは嫌だ!もっと構えー!」
ぴょんと飛び上がり、彼の胴体に全身で抱きつき叫んだ。
特に最近は人間に変装して一緒にお出かけするようになってきていたせいで留守番が堪えるようになってきていたのだ。
『悪神ウェロボラウス』も拗ねた子供のようだと自覚しながらも彼に甘える。
「では、オムライスを一緒に作ってみましょうか。共同作業です」
「うむ!」
こうして彼が地雷解体を行なった一日が幕を閉じる。
明日からも忙しくなる事を予感しながら。
Q.どうやって海外までとりに行って一日で帰ってこれるの?
A.カードの効果を具現化させて不法入国してしれっと戻ってきます。よほどのものでない限り私は使えます、便利ですね。
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