「んふーふふーん」
「おやおや、これは珍しいカードが…………購入を検討しましょう」
1人の男と褐色幼女が1人、仲良く並んでガラスケースに入っているカードを鑑賞している。
幼女の方は鑑賞よりも男と一緒にいることの方が重要そうだが。
彼らはこのカードショップによく出没する人間である。
なお、片方は人間ではない。
そして全国バトルカップの予選抽選日が近くなっている店内は何かとピリピリした空気となっている。
そんな空気でもマイペースな2人である。
どこまでも気楽に、自分は全国バトルカップに出るつもりがないと思い込んでいる彼、既に勝手に抽選予選に応募して裏工作を済ませてる『悪神ウェロボラウス』。
こうなった二人はもう精神的に無敵である。
「ウェロちゃん!…………とおっさん」
「おやおや、ユウキくんではないですか」
今日もいつもの信号機組がやってくる。
ただし、本来なら午後とはいえまだ学校の時間のはずである。
しかし彼は何故早い時間に彼らがいるか察した。
全国バトルカップが行われる時期が近づいてくると授業の時間が少なくなる。
なんやかんやでカードゲーム中心の世界、勉強が出来ずともバトルが強ければ何とかなったりする。
特にユウキ、ショウマ、カイトは彼らの小学校でも随一の強さを誇る。店舗大会に出たら優勝、準優勝する程に強いのだ。
強いて言うなら抽選運がやや悪いくらいだろう。
「何だ貴様か。随分と暇なことだな」
「ま、まあな!ウェロちゃんも全国バトルカップに出るのか?」
「我は出ない」
「そ、そっか…………」
「…………」
「…………」
「会話終わっちゃったよ、どうしようショウマ君」
「俺に聞かないでくれ…………」
恋する少年にどうしようもなく冷たいウェロもとい『悪神ウェロボラウス』。
本来ならば、もう少し余裕ある態度でユウキを弄ぶところではあるが最近は彼の外出が多いせいか若干機嫌を損ねている。
こうした簡単なお出かけでも、今は水を差されたくないのだ。
「今日もデッキ調整ですか、いいですね。ウェロ、彼等にもバトルについて教えてあげてください」
「むむ、何故我が」
「交流ですよ。誰がどのように、そしてどう強くなるか知りたくはありませんか?」
「我は最初から強い。学ぶ必要など…………」
「たとえ強者であろうとも学んでいくものです。私も今まさにその途上。強くなるという事は、誰かを教え、誰かから学ぶことです」
「むむむ、そこまで言うなら…………だが我のデッキはアレだぞ?今持ってるのはアレだぞ?」
「私のデッキを貸します。大丈夫、ウェロなら必ず使いこなせます」
そう言って彼は一つのデッキを取り出す。
現状は公的だけでなく野良でもバトルすることがほとんどない彼でも万が一の際にデッキは持っている。
それでも近所に出かけるくらいの短時間かつ単距離移動の際は忘れることもしばしばある。
『悪神ウェロボラウス』も彼ほどの強者が言うならと渋々ながら付き合うことにする。
「よっしゃ!あっちでやろうぜ!」
ある程度デッキは完成しているが研鑽を積む最中のユウキにとって願ってもない話だ。
僅かでも隙を詰めて大会を目指す。既に大会で功績を残しており店舗からの推薦を受けた一人だからこそある余裕だ。
そのことをこのカードショップに居る人間の殆どが知っているせいか、羨望や嫉妬の視線が見受けられるが気にすることは無い。
本格的な悪意の芽は、胡散臭く微笑みをたたえる大人が容易く受け流すのだから。
「…………僕たち邪魔しちゃいけないよね?」
「最近、あいつはどこか上の空だったからな。これで解決するなら邪魔しないほうがいい」
空気を読んだカイトとショウマもやや離れた席から二人のバトルを見守ることにしたようだ。
『悪神ウェロボラウス』も久々に遊んでやろうかとユウキと対面してデッキを机の上に置いた。
互いにデッキを慣れた手つきでシャッフルし、カードを引く。
「小僧、負けてもべそをかくなよ?」
「こっちの台詞!」
「安心しろ、今日の我は手加減せざるを得ないからなぁ!」
「「バトル!」」
かくして、現主人公と数多に暗躍した裏ボスがどちらも完成せぬまま戯れとしてぶつかり合う。
〜●〜●〜●〜●〜
「いっけえ!『ボンバードラゴン』で攻撃!」
「我に撃てる手はない。ちっ、くだらないところでカウンターを打つべきではなかったか」
「よっしゃあ!俺の勝ちぃ!」
バトルの結果はユウキの勝利で終わった。
『悪神ウェロボラウス』は彼と同じく一種につき一枚しか入れていないハイランダー構築を巧みに使いこなしユウキを追い込んでいった。
彼と違う点は妨害を重点的に、なおかつ陰湿に使用していたという事。
悪い意味で人が嫌がることを進んでするのが彼女の流儀。そこそこ的確にユウキの展開を妨げていた。
しかし、流石にリソースを序盤に使いすぎたせいか後半になると若干デッキの息切れが見えてきており、肝心な時に『ボンバードラゴン』を通さざるを得なくなってしまったのだ。
そこから大爆発してして大量展開。その後の攻撃を止めきれず敗北してしまった。
「どこら辺で妨害を我慢すればよかったか…………下手にモンスターを温存するより囮にするべきだったか?」
「ええ、あの時は手札を温存しておくべきでした。しかし、『ボンバードラゴン』は完全に運任せのカードでもありましたので下振れを考えた際は使用して間違いはありませんでしたよ」
「久しぶりに上手く爆発してくれたぜ。でも珍しいよな、肝心な時ほど爆発してくれるんだよ」
「おやおや、愛されてますね」
彼は『ボンバードラゴン』が精霊としてユウキのカードに宿っていることを知っている。
精霊は気まぐれに力を貸してくれることが多い。特に、使い手を気に入っている精霊ほど肝心な時に効果を十分発揮してくれるのだ。
なので逆説的に考えたら『悪神ウェロボラウス』とのバトルは肝心な時に分類されているということ。
ユウキだけでなくカイトやショウマも気づいていないのだろう。だが、カードに宿る上位精霊は完璧な擬態をしていても本能で気づいてしまっているのだろう。
かといって彼はそれをどうこうするつもりもない。
むしろ最近は特に危機も少ない(無いとは言っていない)ので多少の訓練は要るのではないだろうかと密かに考えている。
「じゃあさ、俺の方はどうしたらよかった?」
「はんっ、どこからも突っ込み過ぎだろうとしか言えん。こいつが考えたデッキだぞ?我はこの方法を好むだけで本来ならもっとポテンシャルがあるはずだ。どういった観点も必要だろうて」
「そうか、たしかにオッサンは滅茶苦茶強いし何してくるか分からないからな!」
「…………そういう奴ほど邪魔になるんだがなぁ」
「何か言ったか?」
「ふん!だが我もこういったデッキを完全に使いこなせるようにならんとな…………」
そう言って『悪神ウェロボラウス』はちらりと彼を見た。
彼が作ったデッキ、偽装とはいえ『悪神ウェロボラウス』の為に組んでくれたもの。
当然ながら完全に使いこなすには最高に難しい。
もっと簡単で使いやすいデッキだって作れたはずなのに、敢えてこのデッキを渡してきた。
つまり、信じている。『悪神ウェロボラウス』なら必ず使いこなしてくれると信じているのだ。
微笑み温かな目で眺める彼の期待に応えるべく『悪神ウェロボラウス』は研鑽を積もうとする。
1人の男が一柱の神を動かした瞬間、何度も何度も行われている瞬間である。
その彼の心は常にヒヤヒヤであったりする。
主人公「この調子で仲良くしてほしいですね」
悪神「どうかませ犬にしてやろうか(シャカパチ)」
勇気「もっと仲良くしたいな」
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