ある日の昼下がり、ユウキ、カイト、ショウマはカードショップではなく公園でバトルを繰り広げていた。
たまにはいつもの場所以外でバトルをしよう、という気分転換を兼ねた行動だった。
最近は謎の少女ウェロとバトルすることが少々増えたが、それでも行き詰まっていることは確かなのだ。
偶には視点を変えて、いつものメンバーではあるが軽い気持ちでいつもよりも気楽なバトルになるはずだった。
『オタマ!』『オタマー』『オタマだよ』『オタマかも』『オタマだね』『オタマなの』『オタマだ!』『オタマなので』『オタマでっせ』『オタマっ!』
『『『『『『『『『『
ちょーん、と言う謎の効果音と謎の黄色い蛙が10匹、謎のポーズを添えてテーブル上に現れるまでは。
『あれ、おかしくない?』『いつもとパターンが違う?』『ズレた?ズレた?』『10話経ってないよね?』『もしかして間違えた?』『アニメの方は背景として出てたからかな?』『ミスったよこれ』『うわ、どうしよう』『おじさんに合わせる顔がないよ』『単純に10話ごとの出番が扱い辛かったんじゃないの?』
わちゃわちゃとテレパシーで包み隠さず意味不明な会話をする。
もはや、オタマと名乗る10匹の蛙以外どう介入すればいいか分からず困惑るだろう。
「えい、10匹同時押さえです」
『『『『『『『『『『
「何やってんだよ!?」
恐れ知らずのドラゴン娘が両手の指合計10本でオタマを押さえるまでは。
「ユウキ、しっとり柔らかですよ」
「だからってグニグニするなって!可哀想だろ!?」
「いえ、別にいいかなと思える相手だと思ったので」
「思うを2回使うほど曖昧ならやめておけよ!?」
指先でいじいじする感想を述べる『ボンバードラゴン』に対してツッコミを入れるユウキ。
彼女が動いたからこそ謎の空気が和らいだのだが、いまだに『ぐえーっ!』と言っている。
『あーん!あーん!』『ひどいやー!』『出るタイミング間違えただけなのにー!』『仕方ないよー!』『バトルカップ編で出しづらくなるからってー!』『指どけてー!』『動けなーい!』『非力なんだぞー!』『あーん!あーん!』
「そもそも蛙って時点であまり触らないほうが…………」
「…………なあ、あの色の蛙って」
「坊ちゃまの予想通りでしょう」
カイトの忠告と、しれっとショウマの横で守るように立つ金髪の男性。彼こそがショウマを守る精霊の『鉄壁のロイヤルガード』である。
「そうでしょうか?身を守るための体液なので案外清潔ですよ」
「『ボンバードラゴン』、貴女は軽率すぎます。黄色い蛙がこの国に存在する地域がほとんどないことは知っているでしょう」
「知りません、最強無敵のドラゴンなので」
「黄色は野生動物にとっての危険色です。特に、鮮やかな原生生物ほど毒を持っていることが多いのをご存じないですか?」
指を動かしていた『ボンバードラゴン』の動きがピタリと止まる。
ぎぎぎ、と油が切れかけた機械のように『鉄壁のロイヤルガード』から自身が指で敷いている小さな黄色い蛙に目を向ける。
先ほどまで泣いていたはずなのに、既に泣き止んでいた。
『バレちゃった』『見破られたー』『でも仕込みは終わったよ』『お前、もう終わりだよ』『僕たちの勝ちー』『やったー』『傲慢の罪を償え』『演技上手だったでしょー』『どやぁ』『えっへん』
「ユウキ、ハンカチか服を貸してください!」
「こっちくんな!拭く気だろ!?」
無表情で泣きながら走ってユウキを追いかけるという器用な芸当を見せながら追いかけっこが始まる。
あちゃーという顔をしたカイトと言わんこっちゃないと額に手を当てるショウマ。そしてどうしようもないと思っている『鉄壁のロイヤルガード』。
オタマ達はその様子をケラケラ笑いながら転がりつつ喜んでいる。
コメディ色強い光景だが、オタマ達が『猛毒殺両生類オタマ』であることを忘れてはならない。
「で、実際のところなに塗り込ませたんだ?」
『『『『『『『『『『
「何故か指先がピリピリしてますよユウキ!早く拭かせてください!」
「もう無理だって!解毒薬使わないと無理だって!」
「リドカインって、何?」
「麻酔の一種です。本当に水属性なのかこのカエルは」
黒のカードです、と正直に言わないあたりオタマはちゃっかりしているだろう。
見た目は黄色、毒持ちだと大抵水属性か闇属性に分類されるのだが、まさか黒とは簡単に思うまい。
「それで、わざわざ我々に姿を見せたと言う事は何かあるのでしょう?とっとと要件を述べなさい」
あからさまな警戒を見せる『鉄壁のロイヤルガード』。後ろでまだ暴れてる『ボンバードラゴン』とユウキは無視である。
『目的ー?』『えっとねー、えっとねー』『暇だったー』『たいした事ないよー』『多分辻褄合わせ』『それはそれとしてー』『お腹すいたー!』『爆走したーい!』『それでねー』『まとめるとー』
『『『『『『『『『『
要するにタカリである。
「…………そこらの虫でいいんじゃないか?」
『やだー!』『虫はもう飽きたー!』『ご飯が食べたーい!』『白米がいいー!』『あったかいごはんー!』『冷たいコンビニ飯はもうやだー!』『手作りがいいー!』『ハンバーグ食べたーい!』『オムライス食べたーい!』『パパのご飯食べたーい!』
テレパシーからは割と切実な願いが込められているように感じた。
ただ、全く描写が無かったがオタマ達は悲鳴を上げる時以外は口を開けておらず、言葉も全てテレパシーで伝えてきている。
何だったらオタマという名前の癖に成体であるにも関わらず一度もケロケロと鳴いたこともない。
そしてテレパシーは発信する当人で声の調子を好きに変えることもできる。
結論、既に胡散臭い。
「あれ、コンビニのご飯って君たち買えるの?」
ふとカイトが先ほどの発言に引っかかった事を口にした。
オタマ達は蛙、テレパシーを送れてもコンビニ弁当を買えるようには見えない。
そして飯をたかっている時点でお金もあるようには見えない。
さらに証拠としてカイトがそれを口にした瞬間に目を逸らして黙り込んだ。
「さては貴様ら、盗んだな?」
『気づかない方が悪いもん』『お腹すいてたもん』『気配消すのは得意だもん』
「精霊でも最低限のルールがあるだろうが!」
『『『『『『『『『『
デッキ挿入枚数制限を無視して入れられる存在の説得力が違う。
『鉄壁のロイヤルガード』が怒鳴ってもどこ吹く風、一切合切気にしていない。
それでも埒が開かないと思ったのかオタマ達はどこからかカードの束、デッキを4匹がかりで取り出して机に叩きつける。
『だったらこの世界らしくバトルだー!』『わがまま通すには一番!』『簡単に負けると思うなよー!』『僕たちはしつこいぞー!』『全国バトルカップにも出るんだからー!』『勝ったらご飯もらうんだからー!』『お前ん家いくからなー!』『晩御飯おじゃましてやるー!』『家に寄生させろー!』『本当に帰省したいよー!』
かなり堂々と勝負を申し出てくるオタマ達に嫌な顔をしながら『鉄壁のロイヤルガード』はショウマを見た。
「…………挑まれた以上はバトルするべきだと思う。何より、相手が毒蛙となったら」
「後腐れがないように始末、ですか。致し方ありません」
ショウマもデッキを机に改めて置いた。
デッキシャッフルし、互いに最初の手札を引く。
「じゃあ、とりあえずご飯をかけてということでいい?」
「構わない」
『『『『『『『『『『
審判はカイト、しれっと賭ける物を軽いものに変えるというファインプレーをかましながらショウマとオタマ達に合意を取る。
バトルを挑まれたら受けざるを得ない、何と普遍な世界なのだろうか。
「『『『『『『『『『『
『まず僕達のターン、僕達を出すよー』
そしてポンと出された『猛毒殺両生類オタマ』、つまり黒のカード。
「あ」
「え?」
『どやっ』
フィールドで胸を張る小さな蛙が黒のカードバレしたがバトルは止まる事はない。
「ユウキ!後生です!治療を!」
「多分大丈夫だろ!?あいつら放置してバトル始めちゃったよ!?」
「ユウキっ、ユウキー!」
その後ろでまだ暴れ続ける少年と無表情号泣ドラゴン娘を添えて。
『『『『『『『『『『
ここまで読んでくれたという事は許してくれたということですね、許された…………!
まあオタマ達はこのバトルに敗北するけどね。
『『『『『『『『『『
感想を頂けると励みになります。
『『『『『『『『『『