全肯定しただけなのに   作:蓮太郎

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④ 熱さこそ押し切る強さ

 

「おっさん、大会出たのは一回だけだろ?他はずっと見てるだけだし、バトルしてみたいんだ!」

 

 キラキラと目を輝かせて彼を見る赤髪の少年、ユウキはこの店の大会常連であり、最近全国大会に出場することが決まった将来有望な少年である。

 

 もちろん彼もユウキをしっかり認知しており、恐らく主人公ではないかとマークしている。

 

 この世界、髪の毛がかなりカラフルなのだが意外なことに赤髪が少ない。そして赤髪の人物はバトルに強かったら何らかの高い立場にいることが多いのだ。

 

「おやおや、私はあまりバトルは興味無いのですが」

 

「えー?でも勿体無いだろ?強いってのはみんな知ってるんだからさ!」

 

「困りましたね、今日はデッキを持って来ていないんですよ」

 

『嘘つけ、我のと自分のを持ち込んどる癖に』

 

 そう、レアカード目当てに襲われることもしばしばあるためデッキは必ず持つことが当然の世界なのだ。

 

 だから体良く断るための文言であり、そこまで気が乗ってないと暗に伝える手段である。

 

「俺とか友達が持ってるデッキ貸すからさ、大丈夫だって!」

 

 ただ、あえて空気を読まない熱血には効かない。

 

「お友達のカードを勝手に出すのはいけませんね」

 

「大丈夫、おっさんはどんなデッキにもいい事言ってくれるってみんな言ってるぞ!事前に大丈夫って言われてるからさ!」

 

「おや、逃げ道を塞いできますね。素晴らしい、大人のやり方を何処かで覚えたのですね」

 

「へへっ、姉ちゃんに教えてもらったんだ!」

 

 鼻を擦りながら自慢げに話しているユウキ少年。割と外堀から埋める姉が居るのだなと新たな情報を得た。

 

 恋愛とか怖そうだなと思いつつ、顎に手を当ててうーんと考える。

 

 先程から胸ポケットがざわついている。堪忍袋がだんだんと膨らんできて緒が切れるまで時間がない。

 

『フシャー!許さん、ガキが我の時間を奪いよって…………!』

 

「すいません、バトルを外から見るのはいいのですが、バトルをするとなればこの方が不機嫌になるんですよ」

 

 見せびらかすようにトントンと耳につけている小型のイヤホンのようなものを叩いて誰かと常に会話しているように思わせる。

 

 独り言の多い彼が周囲に怪しまれず『悪神ウェロボラウス』と会話するための工作である。

 

 イヤホンには小さくツー、ツー、と電話が切れた音が常に流れており、何らかのアクシデントで外れた際は通話相手が驚いた、もしくは恥ずかしがって切ったという設定に持ち込むのだ。

 

「うーん、だったら実況すればいいんじゃないか?」

 

「そう言うことではなく、嫉妬深いのですよ」

 

「よく分からないな、だったらここに来ておっさんと居ればいいんじゃないか?」

 

 純粋な目で彼を見つめるユウキくん。彼の事情を全く知らない故の正当な質問。

 

 そもそも出てこられない理由がないと考えているのか?プライバシーなど知ったことかと言わんばかりの少年に彼は情操教育が必要ではないかと思い始めた。

 

「ユウキくーん!早いよ!」

 

「あのおじさんがいるなんてまだ…………本当に居る!?」

 

「おやおや、カイト君にショウマ君ですか。彼らがデッキを貸してくれると言った友人ですか?」

 

「おう!なあ、大丈夫だよな!」

 

「ば、僕は別にいいけど」

 

「気になるのは気になるし、構わない」

 

「おや、乗り気ですか。ふむ…………仕方ありませんね」

 

 別に自身の手の内を明かす訳でもないし、プレイングだけ見たら満足するだろう。

 

『キェエー!ふるグシャァーーー!』

 

 荒ぶる同居人をどうにか胸に手を当てて抑えながらスッと子供達から差し出されたデッキを眺める。

 

 借りるデッキ故に大事にしなければならない。片手で机の上に乗せ、1枚1枚丁寧にデッキのカードを彼は見る。

 

 デッキ構築を知らなければ、戦う方すら出来ないのだから。

 

「なるほど、防御に秀でた光デッキとひたすらに手札を稼ぐ水デッキ…………分かりました、水デッキをお借りしましょう」

 

「えっ」

 

「あれ、マジで?」

 

「おや、何か問題でも?」

 

「だ、だって僕のデッキは…………」

 

「今までまともに勝てたことがない、そうでしょう?」

 

 私が選んだ水のデッキ、気まずそうにしている持ち主はカイト君です。

 

 眼鏡をかけた水色の髪をしたいかにも気弱そうな少年、賢そうな雰囲気はあるのでこれからの伸び代は大きいと彼は見ている。

 

 だが、経験が圧倒的に少ない。その表れとしてデッキ内容がドローにしか目がいっておらず打点が後半になるにつれて足りなくなる現象が発生してしまう構築になっている。

 

「安心してください。このデッキは数枚のカードを入れ替えさせていただいたら十分に戦えるポテンシャルを秘めています」

 

「い、入れ替え?」

 

「でもおっさん、デッキは持っていないって言ってたよな?カードあるのかよ」

 

「おやおや、お忘れですか?ここがどこかと言うことを」

 

 そう言って彼は背を向けて歩き出す。

 

 その行き先は綺麗に輝くカードが並んだショーケース。つまり、やる事は一つ。

 

「すいません、これとあれと、他にとあるカードを探しているのですが」

 

 大人買いである。

 

「…………ずっけえ、金でカードを買ったらどんなデッキも簡単に変えられるだろ」

 

 ユウキが少し非難じみた声で呟く。

 

「いいえ、こんなにポテンシャルを秘めたデッキはそうそうお目にかかれません。手札破壊を受けてもすぐにリカバリー出来るデッキであり、手札に関係するカードを投入すれば十分に実践に使えるようになります。クレジットカードで」

 

 カードを購入しつつ彼は言った。

 

「カイト君、君のデッキに足りないものを見せてあげましょう」

 

 そう言って3枚のカードをデッキから抜き取り、カイトに渡して彼は続ける。

 

「君のデッキは、とても素晴らしい素質があります」

 

 そして購入したカードをデッキの中に入れ、椅子に座った。

 

「ではユウキ君、お望み通りお相手しましょう。今の私は、少し強いですよ?」

 

「上等だ!バトル!」

 

『潰せ!完膚なきまで叩き潰してすり潰して打てる手を全て叩き落としてイ⚪︎ポにして2度とバトルしようなど思わせないようにしろ!』

 

過激な悪神がいつ暴れ出すか分からない恐怖を抱えながら、一つの戦いが始まった。

 




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