全肯定しただけなのに   作:蓮太郎

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41.実際の現場

 

 燃え上がる倉庫、そこには大量のハガキが保管されていたが全てが焼失した。

 

 否、2枚だけは残っていた。

 

 1枚は何らかの力で守られている謎のハガキ。もう1枚は謎の物質でコーティングされていたため燃えなかったハガキ。

 

 共通しているのはどちらも子供が書いたような文字が記入されているという事だ。

 

 それらが発見されるまでもう少し時間がかかる。

 

 何故?

 

「何故邪魔をする。全ては『虚無』の為に」

 

「人の夢と希望を焼き払うことを容認できる奴がいるか!」

 

「全ては『虚無』の為に」

 

 『教団』と呼ばれる白装束で活動する謎の組織が襲撃を決め込んでいたからだ。

 

 既に締め切りが済んでしまっているため、新たに応募をするとなってもこの倉庫に誰の応募ハガキが収められていたのか把握できている人間はいない。

 

 だからと言って強行しようとなれば新たに混乱が起き、全国バトルカップそのものが延期になりかねない。

 

 この世界において大犯罪の一つになる事件だった。

 

「くっ!火を消せ!俺たちがこいつらを食い止める!」

 

「食い止めるは我々である。念入りに、端正に虚無へと還さん」

 

 警備員とたまたま近くにいたため駆けつけることが出来た管理局職員が倉庫から立ち上る炎の熱に当てられながらもバトルで拘束しようとする。

 

 存在を消せる『虚無』であっても流石に派手に動きすぎたせいで隠密行動が取れずバトルが始まろうとする。

 

 だが、不幸なのは誰なのか。

 

 襲撃が無いと緩んでいた警備員か、休日を台無しにされた管理局局員か、ハガキを燃やされてしまった市民たちか。

 

 襲撃しているはずが襲撃される『教団』か。

 

「貴様らか」

 

 とっ、とっ、と軽い足取り。

 

 しかし高速で飛んできたそれは少々の土煙と共に着地し、白装束へと目を向ける。

 

「貴様らがこれをやったのか」

 

 それは怒りだった。

 

「貴様らが消したのか」

 

 それは憎しみだった。

 

「貴様らが私とパパの時間を邪魔したのかぁぁっ!」

 

 それは私情だった。

 

 管理局8番隊主席、常世ヤオロズの乱入である。

 

 何故ここまで怒り狂っているのかは分からないが、8番隊はあまりいい話を聞かないという。

 

 曰く、はぐれ者の集まり、黒のカードを研究している唯一の部門、トップが不在であるため情緒が安定していないヤオロズが仕方なく就いている…………

 

 事実ではあるため否定はしない。

 

 ヤオロズ自身も情緒不安定で最近はバブってる時の方が多く、情けない姿を見せていることも自覚している。

 

 だが、今だけは違う。

 

 常にムラがあるという事は、良くも悪くも強さは変動する。

 

 そう、怒り心頭な今こそ彼女は間違いなく管理局最強なのだ。

 

「ひとまず、貴様らは拘束して尋問だ。裏で何しているかキリキリ吐いてもらう」

 

 どすどすと女性らしくない足音を出しながら白装束に近づいていく。

 

 白装束もまともにバトルする気はないのか、一凪の風を吹かせる。

 

 それは『虚無』を纏った風であった。認識を、存在を消すための恐ろしき風。

 

 普通の人間がその風を受けたら白装束を見失ってしまうだけでなく、自分が何者なのかすら失ってしまう。

 

 だが、ヤオロズはそんな普通の枠に当てはまらない。

 

「ふん、私が小細工でどうにかなるとでも?」

 

 見えぬ筈の『虚無』を片手で薙ぎ払った。

 

 『教団』からしてもあり得ない挙動を見せたヤオロズに驚愕し、パンパンと自身のデッキを右手、左手へと移動させながら剣呑なオーラを放つ。

 

 燃え盛る倉庫を背景に、ヤオロズは宣言する。

 

「管理局8番隊主席、常世ヤオロズ。貴様らをぶちのめす名だ、覚えておけ!」

 

 前前作事実上のラスボスだった女(・・・・・・・・・・・・・・・)、『精千融業(せいせんゆうごう)八百万ノかるま』が正義の使徒となり白装束の前へと立ちふさがる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜●〜●〜●〜●〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「他愛のない、所詮は賊の集まり」

 

 勝負は圧倒的だった。

 

 本来なら違法とされている黒のカードを公的に扱えるというだけでも十分なアドバンテージであるが、それを更に巧みに操る手腕は誰もが舌を巻くほどであった。

 

 そして何よりも一切力に飲まれていないその精神力。

 

 彼女自身が黒のカードということもあるが、一切の慢心なく適切に『虚無』の属性を持つ異端なるカードを処理していった。

 

 全て初見のカードとなっている(・・・・・)筈なのに、これから起こることを予測していたヤオロズの手腕が優れていたということである。

 

 これが毎回出来たらなぁ、と彼がいたら思うだろう。

 

「さて、これから楽しい楽しい尋問が待ってますよ。じっくり、あの時何があったか教えて…………」

 

 何故かドス黒いオーラを出しながら倒れた白装束を拾い上げようと手を伸ばした瞬間、白装束の体が崩れはじめた。

 

「『虚無』よ…………我らに安寧を…………」

 

「世界に『虚無』を…………」

 

「ちょ、待て!まだ消えるな!聞きたい事がまだあるんですよ!?」

 

 ヤオロズの叫び虚しく白装束は『虚無』へと消える。

 

 その行先が一切保証されていないというのに、彼らは喜んで消えるのだ。

 

「…………うがーっ!ムカつくムカつくムカつく!何満足そうに消えてる!何がどうして消えることにこだわる!」

 

 だからこそヤオロズは最大限まで腹が立つ。

 

 本来の自分を失い、生きる屍と同じような存在になり下がって生きていたあの頃。一筋の光が彼女を導き人に戻した。

 

 無論、全員にそんな奇跡がある筈がない。最後は悲しい結末になる事が多いかもしれない。

 

 だが、他人を害して自分が消えて満足なんて、必死に生きるヤオロズにとって耐え難い侮蔑であった。

 

「はぁ、もういい」

 

 感情に一区切りつけたヤオロズは未だに燃え盛る倉庫を見る。

 

 彼女が戦っている間も消火活動は続けられていたが未だに消えていなかったのだ。

 

「とりあえず、今は消火です。ほら、ぼーっとしてないで動く!」

 

 ヤオロズと『教団』のバトルに魅入っていた観衆、警備員と管理局員、そして駆けつけた消防隊に喝を入れる。

 

「いや、私を見てないで火を消す!仕事しろ!」

 

 今までのナイーブな時期な彼女を見ていたらお前がいうなと言いたいだろうが、今だけは正論だった。

 

 しかし残念なことにカードゲームが中心の世界はよほど命にかかわらなければバトルを見るのが当然なのだ。

 

「ああもう、パパだったらどうするんだろう、とりあえずそれ貸して!」

 

 突っ立ったままの消防隊から消火ホースをひったくって無断で放水を始めるヤオロズ。

 

「もしかしたらここにパパの応募ハガキがあるかもしれないのにぃ!」

 

 どこまでも私情で動いていたが、忘れていた事が一つある。

 

 彼には『悪神ウェロボラウス』が憑いている(誤字ではない)。

 

 悪どい事をする神が対策をしているどころか実は最初に他のハガキを燃やそうとしていたと知れば激怒して決闘を挑みにかかっていただろう。

 

 そんなこともつゆ知らず、ヤオロズは我に返った消防隊や管理局員と共に消火活動を続けるのであった。

 





『教団』
彼が言うには『虚月海神ファレクサマーレ』という神を主に崇拝し、世界を無に帰す事を目的とする厄介集団。その先に幸せがあると信じてやまない『虚無』な今を持つ集団でもある。
平気で他人を巻き込んだりする癖に、無駄に痕跡を消すのが上手くて対応が難しかったと愚痴をこぼす。無駄にしつこく、『虚無』が存在する限り何度でも立ち上がる。不屈の精神ですね。
なお、『虚月海神ファレクサマーレ』は前作のラスボスでありボンバードラゴン使いの姉が仲間や女性として大切な臓器を失いながら打ち倒し鎮めるのが原作だったのだが…………?


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