「よっ、ユウキ。元気にしてたか?」
その名は神楽坂キボウ、前回の全国バトルカップ優勝者である最強格なプレイヤーである。
そして、彼女は津久葉ユウキの姉でもある。
「姉ちゃん!久しぶり!」
「ちょっとは身長伸びたか?まだチビのままだな」
「まだ中学にもなってねえっての!これから伸びるって!」
「はいはい、分かった分かった。とりあえず声小さくして」
先にからかってきたのはキボウなのにうっ、と声を詰まらせるユウキ。
何故大きな声を出せないか?それはキボウの腕には赤子が抱かれていたからである。
「あらー、キボウちゃんおかえりなさい。体調崩してない?」
「最近は安定してる。ほらミライ、おばあちゃんだよ〜」
「おばあちゃんですよ〜」
「あう〜」
何故最近の彼女が表舞台に立っていなかったという理由、それが神楽坂ミライという存在である。
キボウの夫である神楽坂シンとの間に出来た子を産むために長期休養をとっていたのだ。
流石に全国バトルカップを制した女とはいえ妊娠出産を視野に入れた生活にバトルを頻繁に組み込むことはできない。
地味にかかるストレスやプレッシャーでお腹の子がダメになってしまえば本末転倒なのだから。
「ほらユウキ、ミライに挨拶して」
「こんにちはミライさん。私は『ボンバードラゴン』と申しまして以後よろしくお願いします」
「急に出てくるな?」
喋ろうとしたユウキを押し退け人間形態の『ボンバードラゴン』がずいっと現れる。
「ん?お前は、もしかして精霊か?」
「はい、私は『ボンバードラゴン』です。ユウキの相棒を務めさせてもらっています」
「うっひゃあ、これまた美人さんだ。いい思いしてんじゃないの~?」
「だ、誰がいい思いしてんだよ!?」
「あれ~?誰もユウキの事を言ってないけど~?母さんの事なんだけど~?」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ…………」
相変わらずキボウは口が上手い。ユウキとは年季が違うのだ。
「そ、そういや義兄ちゃんはどうしたんだよ」
「仕事よ仕事。全国バトルカップの運営に回っちゃってさ、私が参加するってのに参加しないなんてどういうことよ?」
「え、姉ちゃん出るの!?」
「当たり前よ。ミライも産まれた事だし、そろそろバトルしないと腕がなまっちゃうからな!」
バトル馬鹿ここに極まれり。
例え結婚しようと妊娠しようと子供が生まれようと、神楽坂キボウはライジング・イリュージョンが大好きなのだ。
伊達に全国バトルカップの優勝を経験していない。多くのプレイヤーとバトルして経験を積んだ彼女は世界規模から見ても最強議論に名が上がるほどの実力者なのだ。
全国バトルカップに出場するという姉にうげーっと嫌な顔を見せたユウキだったが、意を決して言う。
「たとえ姉ちゃんであっても手加減はいらないからな!」
「そう、でもユウキはまず予選突破からね。もしかして抽選予選で出ようとしてないよな?」
「あったり前だろ!店舗枠で予選に出ることになったからな!」
「そうです、カイトやショウマが僅差で出られないことに悔しがって抽選に祈ってましたよ」
「だけど…………アレが起きたからなぁ」
「ああ、アレね…………」
アレというのは倉庫爆破事件の事である。
謎の集団によって全国バトルカップの抽選予選に応募するハガキの殆どが焼失させられたとニュースで報じられているためこの地区では誰もが知っている話なのだ。
なにせ、自分達の管轄が襲われてしまい、予選へ出ることが絶望的になってしまったからである。
「そこはご愁傷様としか言えないわね。私は前回優勝者としてシード枠を貰ったから何も言えないけどさぁ」
「姉ちゃんってズバッと物言うから傷つけるだけだよ」
「あー、見て見てミライの叔父さんはお母さんいじめてくるんだよ~」
「姉ちゃん、それ情けないからやめた方が良いって義兄ちゃんに言われてたよな?」
非難するような目で見るユウキから視線を逸らし、我が子をあやすキボウ。
和やかな家族団らん(プラス1)だが、流石にそろそろツッコミを入れなければならない時が来た。
「…………姉ちゃん窓の外に居る不審者って」
流石に耐え切れなくなったユウキが、庭を見通せる窓に張り付く紫髪の女性について言及する。
顔は美人、胸も豊満、紫の髪は腰まで長く一切の汚れがついていない。
だが窓に張り付いている。羨ましそうに津久葉一家を見続けている。
どう見ても不審者。しかし全員知っている者でもある。
「ごめん、ちょっとだけミライ預かってくれる?」
「いいわよ〜」
キボウは自分の母親に我が子を預け、玄関へと向かう。
そのまま外を経由して庭へと歩みを進め…………
「いい加減にしろ、このストーカー!」
「ぬんぐわぁぁぁぁん!」
全力で窓から不審者を引きはがした。
そこから連続で関節技を決めた後に(技は想像にお任せします)庭の土に沈めるように投げ飛ばした。
「だってぇ、しばらく戻ってこないって言ってたからぁ」
「だからって家族の前に姿を現すんじゃないっての!いい加減、節度を学べっての!」
「ああん、いけずぅ」
「女の身体になってても中身は男だって知ってるからな!」
土の上で寝そべる不審者に蹴りを何度も叩き込むキボウ。
一見するとカスみたいな行動だが、紫髪の不審者の正体は『邪賽竜ファンブリオ』という闇のドラゴンである。
紆余曲折あって最終的に友人関係になったのだが、思っている以上にキボウに脳を焼かれすぎて変態ストーカーじみた行為をするようになってしまったのだ。
「だってぇ、キボウが久しぶりにバトルするって言うから駆けつけたのにぃ!出産後の初バトルは私が貰いたいの!」
「キッッッッッショ!ユウキ、今すぐ私とバトルして!」
「俺を巻き込まないでくれ、頼むから」
「ユウキ、私、キボウのバトルに興味があります」
「ほら、ボンバーちゃんも言ってるから!早く!」
「キボウの弟!何もするなよ!お前、恋愛下手そうで何も出来なさそうな顔して出しゃばるな!」
「姉ちゃん、バトルだ」
「小僧ぉっ!?」
非常にしょうもない理由で神楽坂キボウの復帰戦が始まる。
ユウキもしばらくバトルを離れていた姉が弱くなったと思ったりはしない。
むしろ変に強くなっている可能性だってある。
おそらく自分は負けるだろう。だが、簡単に負けるつもりはないし隙を見せたら喉元に喰らいつく勢いで攻め切るつもりだ。
「いくぜ姉ちゃん!今日こそ俺が勝つ!」
「言っておくけど、予選に出れるからって手加減はしないからな!」
「「バトル!」」
「ぐえっ、わ、私を踏まないでぇ」
キボウは『邪賽竜ファンブリオ』を踏みつけたままバトルを開始する。
勝負は実力と時の運、どちらに勝負が転ぶかは分からない。
〜人物紹介〜
神楽坂キボウ(旧姓・津久葉)
前作主人公であり今作主人公の姉。
沢山の出会いと別れを繰り返して18で結婚、20で子宝に恵まれた。
この世界でも1人を除いて最強の1人であり、ブランクがあるように見えるがむしろ休息をとって強くなっている節がある。
男勝りな性格は残っているが、前はもっと男っぽい感じだったが流石に落ち着いた。
もちろんユウキとのバトルには勝ったが、ユウキの成長もしっかり感じられて決勝で待つと言う。
やっぱり娘のミライが一番可愛いし、夫も大好き。
『邪賽竜ファンブリオ』
かつてのライバル、今の変態的友人。
何かと腐れ縁でありキボウに殴り倒されるような毎日を過ごしている。
昔は子供であったキボウの事をガチで娶ろうとしていた邪悪な存在であったが、彼女とその仲間たちとのバトルを繰り返すうちに絆されていった。
結婚式に乱入して婚約者、現夫から奪おうとしたが敗北し、ガチ泣きしながら退散した。
それを最後に友人として接するように頑張っている。
なお、雄であるが恋愛感情は男女間しかないと言う思い込みで人間態は女性となっているが、それでも愛はなかなか止まらない。
ちなみに、結婚式乱入で最後の反省をして区切りがついたのは誰かが関わっているらしい。
謎の人物は彼女の結婚式を遠くから眺めて祝福していたようだ。
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