全肯定しただけなのに   作:蓮太郎

47 / 70
47.本戦前夜

 

 波乱があった予選が終わり、プレイヤーたちは本戦に向けて休息をとったり研鑽を積んだりと様々な過ごし方をしていた。

 

 ゆっくりと、妙に静かに事件も起きず、ついに全国バトルカップ本戦前日まで時は経つ。

 

「姉ちゃん、やけに静かだな」

 

「しーっ、ミライがやっと寝たところなの。騒いで起こしたら殺すわよ」

 

「物騒だよ姉ちゃん」

 

 津久葉一家は家ではなく、とあるホテルにて団らんを過ごしていた。

 

 神楽坂グループという企業が所有する高級ホテルに滞在しているのはコネ…………ではなく本戦出場者全員にこのホテルの一室が与えられるのだ。

 

 流石にずっと入り浸れるわけではなく、本戦会場に近い場所をとっているだけで本戦が終わればそれまでの短期間な貸切である。

 

 神楽坂キボウも夫のツテでいい部屋を取ることもできたが、贔屓はいけないため自分から選手用の部屋で休んでいたのだ。

 

 親である以上、子供の世話をしなければならないので、なかなか寝てくれなかったミライをようやく寝かしつけたところに弟のユウキがやってきたという状況である。

 

「どうした、緊張して寝れない?」

 

「まあ、そう、だな…………」

 

 津久葉ユウキの実力は確かなものだ。店舗からの推薦で予選出場し、予選を勝ち抜き本戦へ進出している事からそれは間違いない事実である。

 

 まだ見ぬ強者とのバトルにワクワクする心はある。

 

 しかし、未知よりも身近なものほど恐れるというもの。

 

 子供でありながら最強を2人も知るユウキは本当に勝てるのかどうか不安だった。

 

 もしかしたら姉のキボウやいつもカードショップに現れては解説するウェロの保護者のおっさんのような強者がもっといるかもしれない。

 

「まー、最初はそんなもんよ。私だって最初から最強っ!て訳じゃなかったし」

 

「姉ちゃんも負けが込んだらしないのか?」

 

「うーん、よく考えたらあんまりなかったかも。いや、あった?昔のことはよく覚えてないなぁ」

 

「まだ若いだろ…………」

 

 勉強はあまりできなかった方ではあるが戦闘IQは高いキボウに呆れながらも納得はいくユウキ。

 

 本能で動くタイプな姉をどれだけ見てきたのかは知っている。

 

 それを抑止するように義兄や⬛︎◼︎◼️⬛︎⬛︎◼️◼︎が各所に挨拶回りや謝罪行脚したり…………

 

 誰だ今の、とユウキは首を傾げた。

 

「どうした?まだ緊張が抜けない?」

 

「いや、姉ちゃんって昔は誰とつるんでたんだっけ?」

 

「んー、まずケイちゃんでしょ?後はトウキチとナグラだけど」

 

「他に誰かいたっけ?」

 

「覚えてないなぁ、いや、なんだろう、何か引っ掛かる気がする」

 

 うーんと姉弟で頭をひねるが思い出せない。

 

 何か重要な事を忘れている気がする。過去のことを振り返ってみるかとキボウはあまりない記憶力を絞り出す。

 

「まあいいか」

 

 2秒で諦めた。

 

「ほら、そんな目で私を見るくらいならさっさと寝な。入場に手を込ませる奴がいて盛り上がるから無駄に長いんだよ」

 

 何度も本戦に出ていたキボウはそう語る。

 

 本戦はテレビで放送されるが、津久葉一家は毎回現地で観戦するためもちろんその事を知っている。

 

 普通に入場する者も居れば、ド派手に人を集めて演出する者も居る。

 

 そういった現場をよく見てきたので言いたいこともよく分る。

 

 ユウキも明日のためにデッキ調整はしっかりとしてきた。友の力を借り、万全と思いたいほどの力を付けた。

 

 たくさんバトルをしても、不安は消えない。

 

 だが乗り越えるしかない。何故なら強者が集う大会で絶対などないのだから。

 

「おやすみ、姉ちゃん、ミライちゃん」

 

「おやすみ、ぐっすり寝て明日ポカやらかすんじゃないぞー」

 

「分かってるって」

 

 ユウキはミライを起こさないように静かに扉から出る。

 

 店舗大会のようにそこそこ小さい規模で注目されるのはともかく、全国レベルで見られるのは初めての経験だった。

 

 負けられない、覚悟は決まり母と一緒に泊まっている部屋へと戻る。

 

「おや、ユウキくんではありませんか」

 

「むむむ、よりによって最後に貴様か」

 

 その途中、彼とウェロと廊下で出会うことになる。

 

「ウェロちゃん!とおっさん?ここの近くの部屋なのか?」

 

「少々挨拶回りに行っていただけです。今回の出場者は1人除いて顔見知りなので

 

 何か引っかかる言い方であったが、思ったよりも顔が広いんだなとユウキは思った。

 

 しかも全く緊張した感じを出しておらず、それどころかいつもの微笑みである。

 

 表情が変わったところを見たことがないなと思ったが、それよりもウェロの話である。

 

「う、ウェロちゃんも観戦するのか?」

 

「観戦?まあそうだな、すると言えばするだな」

 

「そうか!俺、頑張るよ!」

 

「そうか」

 

 それ以上の会話が続かなかった。

 

 肝心のウェロが若干イラつきを見せていることが一番の理由であり、これ以上の会話はあまりよくないんじゃないかという雰囲気をユウキは察することが出来た。

 

「ユウキ君、もうかなり夜遅くなっています。寝坊をしてはいけませんよ」

 

「分かってるっての!大事な時は母さんに起こしてもらってるからな!」

 

「子供っぽいダサさだな」

 

 ウェロからの鋭いツッコミが入ったが、実際目覚まし程度で起きれないのが実情である。

 

 最近は『ボンバードラゴン』が津久葉一家の居候としてユウキの部屋に寝泊まりすることとなったため爆発オチで起こされてはいる。

 

 流石に今回は家でなくホテルなので迷惑をかけないようきつく言われている。

 

「明日、君が戦う姿を想像するとワクワクします。どうか、決して諦めないよう願います」

 

「ああ、当然だ!俺は誰にも負けるつもりは無いからな!」

 

 嫌味として聞こえるが、彼なりの激励だとユウキは判断した。

 

 今まで負けた姿を見たことがない彼にとってユウキは些細な誤差なのかもしれない。事実、予選で一度敗北しているし、それまでもカイトのデッキを多少改造しただけで無限ループを作ったり、鋼マキコとのバトルであらゆる勝利方法(ライフ0、ハンデス、デッキデス、特殊勝利)を見せつけてきた男である。

 

 散々実力を見せつけられてきたが、負けるつもりは無い。

 

 だって一目ぼれした少女が居るのにかっこ悪い所を見せるわけにはいかないのだから。

 

「ウェロちゃん、おやすみ!俺、明日がんばるから」

 

「そうかそうか、せいぜい一戦で負けるような醜態はさらすでないぞ」

 

 さっさと負けろと言いたいところだが、どうせなら彼をぶつけて心を折りたいくらいのウェロの心情に気づいていないユウキは激励として受け取った。

 

 まあ、横に最強が居るのでそう思うだろう。

 

 不安の殆どが消えたユウキは意気揚々と部屋へと戻る。

 

「ウェロ、明日の本戦の組み合わせですが」

 

「あい、分かった。()と合わせろというのだろう?」

 

「ええ、初戦から不安要素を消しておきたいので」

 

 その後ろで何か悪だくみ(?)をしている2人に気づかずに。

 





なお、ちょっとだけ話に出た鋼マキコは予選落ちした模様。まあ仕方ないよね。

マキコ「何でですかー!?」

ニックロルト『カカカ!儂等もまだ途上よの!』

感想を頂けると励みになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。