全肯定しただけなのに   作:蓮太郎

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49.飛ばしていけ、全てを置いて

 

「パパ!お疲れ様です!」

 

「警備ですか。仕事に精が出ますね」

 

「いいえ、普通にサボってきました!」

 

「こいつ、降格した方が良いだろう」

 

 指定された試合会場へ移動途中、彼は廊下で待ち構えていた常世ヤオロズと『悪神ウェロボラウス』と合流した。

 

 常世ヤオロズは警備に当たっているはずだったが、しれっと部下に押し付け一回戦に臨む選手が通る廊下で開会式前から待っていたのだ。

 

 そんなときにトコトコと自分の足で歩いてきた『悪神ウェロボラウス』とかち合ってしまい、しれっと専用通路に侵入してきたことは咎めず気まずい雰囲気が流れていた。

 

 それが何分、何十分と続いてようやく彼が来たのだ。

 

 話す内容はそこそこあったかもしれないが、自称妻と自称娘という不審者極まりない名乗りと彼に対する共通の恋敵であるため、つんと話し合うことすら出来なかった。

 

「随分と仲良くなったみたいですね」

 

「このチビ一言も話さなくてパパが普段家でどうしてるか教えてくれないんですよ」

 

「ふん!我に何も話しかけてこなかったくせに責任転嫁か?」

 

「そういうチビだって私に何か話しかけようとして置きながら口を魚みたいにパクパクしてた癖に」

 

「ほーう?言ったな?もじもじしていたのは便所に行きたかったからであろう?何も言い出せないなんて恥ずかしいことを言えないもんなぁ?」

 

「ああん?」

 

「おう?」

 

 口を開けば一触即発、こんなところで喧嘩を始めたら会場が崩壊待ったなしだ。

 

 しかし、ここには彼が居る。愛を持って巨悪と悪になるはずだった怪物を射止めた男が居る。

 

「こらこら、仲良くしましょう。私たちは命を懸けて争うためでなく、手を取るために産まれたのですから」

 

「パパがそう言うなら…………」

 

「むむう…………」

 

 親愛なる父にそう言われてしまえば何も言えなくなってしまう黒の二人。

 

 互いに名乗る自称を交換したらぴったり当てはまると思われるのは間違いなのだろうか。

 

 例えそうだとしても、決して二人は認めないだろう。

 

「この小娘は置いといて、言われた通りに対戦カードを操作しておいたぞ!」

 

「えっ」

 

「流石です。ウェロはきっちりと仕事が出来て偉いですね」

 

「ふふん!それに比べて小娘、そういえば貴様は無職だったけなぁ?我によーく聞こえる声で言ってみよ。ん?」

 

「んぎ、ぎぎぎぎ、悪神がぁ…………!パパを誑かして悪の道に陥れようと…………!」

 

「モモ、これは私が直々に頼んだのです」

 

「絶対に殺し…………へ?」

 

「全国バトルカップは毎回のように事件が起こります。今回は初手さえ詰めてしまえばあとは普通の大会になるのですよ」

 

 殺意が一瞬で霧散し、ポカンとした顔を見せるヤオロズに『悪神ウェロボラウス』はにやけが止まらない。

 

 悪いことをしているのは当然として、まさか彼から仕込みをするとは思えなかったヤオロズは一瞬思考が停止する。

 

 そんなに様子を見ても、彼は常に微笑み優しくヤオロズを見つめていた。

 

「今回、警戒しなければならない枠が一つありましてね。外れたら一番いいのですが、万が一当たってしまうと他の参加者への負担になってしまうのですよ」

 

「…………いや、パパが損な役回りをとらなくても」

 

「私がしなければならない。直感がそう訴えているのですよ」

 

「ですが、だけど!」

 

「モモ、これは私の後始末と思ってください」

 

 後始末、彼の後始末は一体何のことなのか。

 

「『虚無』による歴史改変が起きた際、君は私に関する記憶をほとんど持っていかれています。そうせざるを得ないほどだったのですが、僅かでも君は覚えていてくれた」

 

 常世ヤオロズ、『精千融業(せいせんゆうごう)八百万ノかるま』は非常に特別な存在で合った。

 

 1人で千もの命をもち、思考を持つ通常の生命体では考えられない業の深さを持つ人工的に作られた黒のカードである。

 

 そして『虚無』による歴史改変を受けてなお彼のことはうっすらと覚えている。

 

 だからこそ、もう。

 

「私はそれに応えなければいけないのですよ。ずっと待って居てくれた君が安心できるまで、私は戦わないといけない」

 

「それなら…………私が…………」

 

「『虚無』への耐性は私が上です。何せ、世界と天秤にかけられて勝ってしまいましたからね」

 

 上手く声が出せないヤオロズに、彼は近づいて優しく頭を撫でる。

 

 自分がいない間、苦労をかけた彼女に報いる。たとえそれが偶然の事故であろうとも、奇跡的に発生した事象であろうと。

 

 彼は『大人』である限り、子供を守るのだ。

 

「…………パパ、パパぁ」

 

「はい、私ですよ」

 

「もう、どこにもいかない?」

 

「ええ、必ず優勝して帰ってきます。『約束』です」

 

 彼の胸に顔を押し付け、ぐすぐすと感情が昂ってしまい涙を流すヤオロズ。今までヘラってきたりバブってきたりと情緒不安定なところはあってもガチ泣きする事はほとんどなかった。

 

 しばらく離れて居た親が帰ってきて、また危ないところに行くと聞かされた子供のように、ヤオロズは泣いた。

 

 言いたい事はたくさんある。だけど言葉が出ないもどかしさ。

 

 いつぶりだろうか、こうして甘えられるのは。

 

「我、不快也」

 

 まあ、その光景を眺めさせられ漢文みたいな短い声を上げる『悪神ウェロボラウス』に雰囲気はぶち壊される。

 

「ぐすっ、ちょっと黙って欲しいんだけど」

 

「ふん!何が涙頂戴だ、雌が昔の男に縋り付く光景は面白いが我が愛する者にやられると不快だ!」

 

「…………ふっ、これだから初心者は」

 

「あぁん!?」

 

 人としてプラスの感情が未熟な『悪神ウェロボラウス』を鼻で笑う事で涙は引っ込めることができた。

 

 口に出さないが、ほんのちょっぴりだけ彼に情けない姿を晒す時間を減らした『悪神ウェロボラウス』にヤオロズは感謝した。

 

「モモ、もうよろしいのですか?」

 

「はい、もう大丈夫!元気いっぱいです!」

 

「空元気だろう?」

 

「では、絶対に帰ってきてくださいね!」

 

「ええ、もちろん」

 

「おい貴様、我を無視か?」

 

「おやー?チビの声が聞こえたと思ったのに見えないなー?おーい、どこだー?」

 

 目の前にいるのに見えないふりをしながらヤオロズは彼らに背を向ける。

 

 背後で喚くライバルの声を聞き、表情を見せないようにやらと笑う。

 

 彼は『約束』してくれた。絶対に帰ってきてくれる。

 

 だって、彼が今まで『約束』を破った事は一度もないのだから

 

 

 

 

 

 

 

〜●〜●〜●〜●〜

 

 

 

 

 

 

「さあ、一回戦が始まります」

 

 彼は褐色幼女(角なしバージョン)を片手で抱えて出口、いや、入り口へ向かう。

 

 その先には初戦の相手となる眼鏡をかけた紫髪でインテリアヤクザ若頭という言葉が名実共に似合う灰汁豪マサトが待ち構えている、筈であった。

 

 『悪神ウェロボラウス』が彼の指示によって対戦のくじを操作したことによりわざと当てた相手である。

 

「うむ、全ての者どもに最強が誰か知らせるぞ!」

 

「ええ、君の愛がある限り、私は無敵です」

 

 互いを煽てる台詞を出し合いながら、彼は前へ進む。

 

 出口は眩い光で外が見えづらく、栄光か敗退かという厳しい道があるかすら分からない。

 

 だが、彼は進む。

 

 光を通り、広く、大量の観衆がバトルを眺めるスタジアムにゆっくりと歩みを進める。

 

 そして…………

 

「また会いましたね」

 

 彼のデッキを置くテーブルの向かいには、灰色の髪で白く巫女のような装いの子供が居た。

 





言葉は不要、常勝不敗が舞い戻る。

そしてしれっと『消えた』灰汁豪マサトに合掌を。

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