『教団』、虚無の巫女と元管理局8番隊主席のバトルは静かに始まった。
まず、『虚無』デッキのコンセプトを説明しよう。
基本6色と白黒2色の法則から外れたタイプであり、互いの墓地を封印しながら戦うデッキである。
低コスト帯から高コスト帯まで共通して『場に存在する限り互いの墓地に効果を及ぼすカードを無効にする』というものを持ち、さらに『墓地のカードが存在しない時、この効果を使用できる』という特殊な書き方をされた文面を持つ。
本来、カードを使えば場に残るか墓地に行くことが大前提であるルールで、発動条件は非常に難しいと思うだろう。
それをサポートするのが『虚無至ル界』というカードである。
月を照らすために存在する何もない土地という滅多にないフィールド全体に効果を及ぼすものであり、『存在する限り墓地の枚数を0として扱う』ことを目的とした珍しいカードである。
しかもコストが低いため序盤に出されると後に『虚無』のカードの効果を使い放題になってしまう。
本来なら、それを阻止するか破壊して何とか盤面を取り戻そうとするプレイが必要になる。
なるはずだったのだが…………
「『指定宣告』を発動します。『虚無巨人ロゼ』はありますか?」
『ありえぬ』『何故持っていると』
「持っているのであるなら、それを捨ててください」
「……………………」
『どうして知っている』『我ら「虚無」は記憶には残らぬはず』
「おやおや、どうしてでしょうか?では、捨ててください」
月が照らす中、非常に容赦ない戦略を放たれ続けていた。
モンスターを出しては破壊され、詠唱しても返しには即リカバリー、手札に強力なカードを握っていても捨てられる。
カードパワーだけなら圧倒的に『虚無』の方が上である。
しかし、カードパワーだけの素人よりも百戦錬磨かつ圧倒的知識量を持つ彼には遠く及ばない。
それに加えて何度も、さらに言えば『虚月海神ファレクサマーレ』にも戦い勝ち抜いてきた彼が『虚無』関連のカードを知らない筈がない。
彼からしたら新規カードがある程度散見しているが、大本となる切り札、もしくは場を繋ぐカードは大して変わっていない。
故に読みやすく、何をしてくるかもわかりやすい。
そういった相手はとても対処しやすくて助かるのだ。と言いたいところだが、この世界は純色かつテーマごとに決まったカードばかり使用するため逆にやりやすすぎて大丈夫なのかと彼が思うくらいである。
「……………………」
『くっ』『何故、邪魔をする』
「その子が不快そうだからです」
「……………………」
『巫女に感情はない』『「虚無」に仕えるにあたって雑念は不要』
「おやおや、本当にそうでしょうか?ねぇ?」
「そうだぞー、何も考えてないからボコボコにされて無様を晒して笑い者になるんだぞー。いや、もう既に無様は晒してるな、そんなみっともない姿になっているからなぁ?」
月明かりが似合うくらいに悪い笑みを浮かべている『悪神ウェロボラウス』。褐色の肌に白い光がよく似合うと
彼に出会う前は割と感情なく、惰性で悪事を働いていた『悪神ウェロボラウス』。今は彼にくびったけであり無様な姿を見せないよう頑張る恋する乙女である。
本質こそ変わっていないが、熱意は間違いなく今までより存在する。野次りながら挑発する彼女を止められるものは誰も居ない。
着実に追い詰めていく。だが、逆転こそカードゲームの醍醐味であることを忘れてはならない。
『我が巫女のターン』『このカードは…………』
「……………………」
『征くぞ、巫女よ』『我らの神官を呼び出そうぞ』
「……………………召喚、『虚無神官ゼト』」
巫女が引いたカードを即座にフィールドへと置く。
灰色の肌をした女性がふわりと宙を浮きながら舞い降りる。一見、神秘的な光景であるが顔の部分は完全に『虚無』と化しており、水中に墨汁を落としたような不気味な模様をしている。
体格はれっきとした女性であり、薄い灰色のベールを纏って煽情的な姿ではあるとはいえ異様さを隠しきれていない。なんならベールの下も妙に肌面積が多い服を着ており、隠すつもりがあるのか疑わしい。
『登場時効果』『相手のデッキを10枚削る』
「おやおやおや、そういう方向性で来ましたか…………素晴らしい」
墓地を使えなくするのにデッキを破壊して使えないカードを増やす、これも正しい戦法と言えるだろう。
事実、先ほど説明した『虚無至ル界』と相性がよく、非常に都合がいいカードであった。
「これが君のカードですか。なるほど、君らしい」
『しかり』『我ら導く者』
「……………………」
「君に仕える者は妙に露出が多いのは、海をモチーフにしているせいでしょうか?」
『我が主神は海神なれば』『その地に合わせる姿は必然』
「なるほど、謎が解けました。通りで彼とも相性がある意味でよかったのですね」
「おい、我の前で奴の話をするでない」
「ええ、ですが…………」
彼は空を見る。
そこに月がある。
「彼の前で油断は出来ませんのでね」
彼らは、彼女らは気づいているのだろうか。既に主神が来ていることに。
会場の面々も気づいているのだろうか。通常のフィールドと既に違うことを。
「とりあえず私のターンですね。『崩落黙示録』を発動し自身のデッキの上から指定枚数を墓地へ送ってモンスターを全て破壊します」
『なっ』『我らの神官を』
「……………………」
「さあ、その後の効果を見せてください。既に、彼はそこまで来ていますよ」
彼の視線がやや上を向いていたことで、二人の信者はフィールドの上にある月の異常に気付いた。
ここまでやって気づいていない時点で相当アレなのだが、召喚する条件は整っている。
『侮るな』『我が主神が今、降臨する』
「どうぞ、降ろしてあげてください。彼はずっと、待っていましたよ」
『生意気な』『主神の力、とくと見よ!』
『虚無神官ゼト』が破壊され生贄になったことにより『虚無至ル界』に備わっていた月にひびが入る。
パキパキと音を立てながら、灰色の液体を流しながら、孵化するように優しく破れていく。
しかし、その中から現れるのは優しいものではない。
月の殻を破り、現れるは虚空を泳ぐ鯨。恒星ほどの大きさがあるのではないかと錯覚してしまうほどの巨体を持つ恐ろしき灰色たる『虚無』の神。
『虚月海神ファレクサマーレ』の降臨である。
周囲の空間が歪むほど『虚無』を纏い、フィールドを見下ろす。
『……………………』
「お久しぶりですね、とでも言っておきましょうか」
『……………………』
「ふぅん、ただデカいだけではないか。見掛け倒しだな」
『そこの小娘』『我らの主神を侮辱するか』
「ハッ、見限られてる癖に自分達のと言うか!いやぁ、愚か極まりない、そっちの小娘の方が身の程を弁えているぞ?」
「……………………」
『黙れ!貴様如き何を語る!』『恐れよ!我らの主神を!』
心が弱い人間なら一瞥されただけでも気を失うほどの『虚無』を浴びてなお、彼と褐色幼女は健在である。むしろ、挑発するくらい元気なまである。
「そうそう、一つだけ言わないといけないことがありました」
会場にいる観客達のほとんどが悲鳴を上げながら避難している。もちろん避難誘導に管理局の人間や運営スタッフが混じっている。
この避難誘導に歴代登場キャラが混じっているが関係ない話である。
それよりも。
「ザオリエルをよく引っ張り出してくれました。形だけでも、彼が残っていたことに感謝します」
「貴様が天使を消しきれなかったせいで我の妻の座が奪われるかもしれないんだぞ!責任取れ!」
「ウェロ、ザオリエルは男ですよ」
「穴があれば誰もが妻になれるんだぞ!」
「ちょっと意味が分かりませんね」
全く緊張感がない対面に『教団』信者たちは逆に困惑した。
『何故怯えぬ』『何故恐れぬ』
「その必要はないからですよ」
『主神は全てを虚無に還す』『全てを構築する』
「その力は万能ではないことを知っているからです」
『何故』『何故』
「ええい!疑問ばかりで考えることもやめた愚物が我らの手を煩わせるんじゃない!もういいだろう、我の出番よ!」
「ええ、君の出番です」
ひょいと抱かれていた状態から地面へ降り、トテトテとスタジアムへと走り出す。
本来ならホログラム技術を利用した大迫力バトルが繰り広げられるはずだが、互いの力によってカードの精霊や効果が実体化しているため結構ボロボロとなっている。
そんな中、褐色幼女が1人躍り出るのは危険極まりない行為としか言えない、筈であった。
「これで私の墓地に30枚、全てのカード名が異なるカードが揃ったのでコストを支払わず召喚できます」
褐色幼女が彼のフィールドに当たる場所の中央へ立つ。
「ウェロ、君の力を見せてください」
「うむ!我の力、見せてくれよう!」
ぺたりと彼は1枚のカードを置く。それと同時にみしっと褐色幼女の身体から何か軋むような音が鳴る。
「くくく…………さぁ、我ガ征クゾ。コノ我、『悪神ウェロボラウス』ガナァ!』
ばりり、皮膚が破ける音と共に大量の蛇が飛び出してくる。それも普通の蛇ではなく、身体の一部が腐った蛇が大量に、『無限』に飛び出してくる。
『クハハハハ!ケカカカカカカ!ギャハハッハハハハ!』
恐ろしく、品が無く、そして悪辣に高笑いする蛇の集合体が空中へ飛び出す。
動力は不明であるが『虚月海神ファレクサマーレ』とぶつかっても消滅しない無数無限の蛇が同じくスタジアム上空へ躍り出る。
『ば、かな』『な、んだと』
「『悪神ウェロボラウス』、私の切り札です」
「……………………」
流石の『教団』は『悪神ウェロボラウス』の名を知っていた。神に関わる者の間ではあまり語られることはなくとも要注意の神の名であるという認識はあるようだ。
腐った蛇の集合体というあまりにも醜い存在に、感情を封じ込められた筈の巫女ですら瞳に僅かな動揺が浮かぶ。
『ありえぬ、その名は』『語られぬ神であるはず』
「どうしました?顔色が悪いですよ」
『何者だ』『貴様、一体』
「ただのプレイヤーです。どこにでもいるような、ただ1人だけのプレイヤー」
空に『虚無』の鯨と『無限』の蛇が漂い、最悪の空気の中でも彼は腕を広げ微笑み続けていた。
「さあ、バトルを続けましょう」
バトルはまだ終わらない。世界を救う、その時まで。
主人公の人生って『誰ガ為ノ世界』や『Burning Burning Burning(ボカロ)』や『野火(崩壊スターレイル)』の曲が合うと思うんですよね(明かしてない設定含む個人的見解)
どれもいい曲(個人的感想)なので、ぜひ聴いてほしいです。
〜おまけ〜
『ライジングイリュージョン!』
『見よ、我らの主神を』『恐れよ、「虚無」の力を』
「…………召喚、『虚月海神ファレクサマーレ』
(登場演出と効果音)
「ギャハハハ!我は無限、尽きぬ悪意!サア、悪イことヲ始メルゾ!』
『我ガ名は「悪神ウェロボラウス」!』
(登場演出と効果音)
「『トレーディングカードバトル、「ライジングイリュージョン」好評発売中!』……」
「君の愛がある限り、私は無敵です(暗い画面に映る謎の光を纏う人間)」
〜嘘広告でした〜
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