全肯定しただけなのに   作:蓮太郎

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〜前話感想を見て〜
刀語が10年前?嘘だ、僕を騙そうとしている……


53話 ただ救うだけ

 

「ウェロ、効果を」

 

『キヒヒヒ、消シ飛ベェ!』

 

 彼が『悪神ウェロボラウス』に登場時の効果を発動するよう促す。

 

「『悪神ウェロボラウス』の効果は『このカード以外のフィールド上に存在するカードを全て手札に戻し、お互いのプレイヤーの手札と墓地を全てデッキに戻してシャッフル』します」

 

『何だと!?』『だが、我らの主神は』

 

「パワーが0である限り離れない、でしたね」

 

『何故』『知って』

 

「お忘れですか?私は彼とバトルしたことがあります、効果を忘れることもありません」

 

『何故だ!』『「虚無」相手に何故!』

 

『簡単ナ事ヨ、貴様ラハ見クビリ過ギタノダ!ケケケケ、イヒヒヒヒ!』

 

 上空に浮かんでいた腐った蛇の群体が降り注ぐ。

 

 互いの場を荒らしつくし、しれっと『虚月海神ファレクサマーレ』にも噛みついたりしているが『虚月海神ファレクサマーレ』はびくともしていない。

 

 代わりに、互いの場はそれぞれ一枚だけのみ。手札もなくなり墓地もない。なんなら『虚無至ル界』すらデッキへと還している。

 

 これが『悪神ウェロボラウス』の恐ろしい効果。自分以外を全て帰らせてデッキトップで勝負せざるを得ない状況を作る鬼畜極まりない所業。

 

 モンスターが登場したターン、速攻がない限りそのターンに攻撃できないため彼のターンはここで終わる。

 

 しかし、巫女の方は『虚月海神ファレクサマーレ』以外残っていない上に手札すらない。

 

 この回最初のドローで何かを引かなければ負けてしまう。彼を相手にしていたら嫌でも感じ取れる相手の運命力の高さ、ここで何か引けるのだろうか?

 

『我らの』『ターン!』

 

「……………………」

 

 巫女はカードを引く。とにかく攻撃してライフを削る。もしくは『悪神ウェロボラウス』を倒すしか他はない。

 

「…………『虚無巨人ロゼ』を召喚」

 

『最低限の盾が来た』『我らが神官につなぎ、主神を呼ぶ生贄』

 

「…………『虚月海神ファレクサマーレ』で攻撃」

 

『「虚無」へ還れ』『悪しき神よ!』

 

 巫女の言葉により『虚無』の神が動く。

 

 月から産まれたような巨体が彼に向けて動き始める。

 

 『虚無』の力を抜きにしても巨大すぎる身体は質量だけでも即死しそうな押しつぶしを行ってくる。

 

「ウェロ」

 

 彼はただその一言だけで『悪神ウェロボラウス』をぶつけた。

 

 無へと還す存在と無限を生み出す存在が今、衝突する。

 

『主神は戦う相手の力を0にする』『いくら悪神とて……なんだと?』

 

「『悪神ウェロボラウス』は他のカードの効果を受けません。よって、ウェロは破壊されず、また0よりも攻撃力が大きいため戦闘に勝ちます」

 

『フンッ!手ゴタエガ無イ奴ダ!』

 

 バチィン!と派手な音を立てて『虚月海神ファレクサマーレ』の攻撃を弾き飛ばす。

 

 オオオン、と不気味な音が鳴るが、彼は全く気にしていない。それどころか2柱の神がぶつかり合う場面を見てすらいない。

 

 それはなぜか?

 

 知っているからだ、『虚月海神ファレクサマーレ』の能力を。

 

 信頼しているからだ、『悪神ウェロボラウス』の力を。

 

「…………ターンエンド」

 

『倒せぬか』『しぶとい神が』

 

『ハッ!シブトイノハどちらダロウナァ?ワザワザ負け犬ノ神ヲ呼ンデオキナガラ通用セヌト知レバ喚キ散ラカス、貴様モ苦労スルヨナァ?』

 

 明らかな挑発、『悪神ウェロボラウス』も悪故に信奉されることが多く、性質上あまり知られないとはいえ良くも悪くも人が集まりやすいタイプの神である。

 

 故に、天才気取りの無能が混じることも多く情けない姿をよーく見ることがあった。

 

 そんな既視感を持ちながら『悪神ウェロボラウス』は巫女の後ろに居る亡霊たちを見る。

 

 やはり、憐れむよりも道化としか思えないほど面白い。

 

「では、私のターンですね」

 

『いくら貴様でも』『条件は同じ』

 

 帰ってきたターンに彼はデッキからカードを一枚引く。洗練されてなお自然な動作で一瞥する。

 

『デッキから引けるのは一枚』『巨人を倒しても次に現れるは神か…………』

 

 とすっ

 

『…………え』『…………は』

 

 何かが刺さる音が信者の声を遮った。

 

 音が鳴った方を見ると、『虚無巨人ロゼ』の胸に一本の灰色のオーラを纏った槍が刺さっている。

 

 そして彼の盤面を見る。

 

「『虚無天使』、効果はご存じですよね?」

 

 彼はカードを盤面に置いただけ。そしてモンスターを召喚して登場時効果を使用しただけ。

 

 その効果は『登場した時に相手の場にあるカードを一枚墓地に送り、このカードが存在する限り墓地に送ったカードと同名カードは効果を使えない』。

 

 灰色の肌をした妙に露出が多い天使が放つ槍は、巫女にとって致命的な状況を作り出したのだ。

 

『ばか、な』『それは、我らの…』

 

「おやおやおやおや、私が使ってはいけませんか?」

 

『何故だ!何故貴様が「虚無」を!?』『いつ、いつそれを!?』

 

「この天使の元になったのは私のかつての相棒でしてね、少し前に世界が『虚月海神ファレクサマーレ』に消された際に最後の犠牲になったんです。ご存じありませんでしたか?彼に、聞いていませんでしたか?」

 

 空を見上げ、漂う灰色の鯨を見つめる彼に一部の者を除いて絶句した。

 

 世界が消滅?天使の犠牲?そして、何故それを知っているのか?

 

 『教団』ですら伝わっていない『虚無』の情報が見ず知らずの男から出てくるのはあまりにも異質。

 

 故に、信者達は彼に感情を抱いてしまった。

 

「おやおや、何をそんなに怯えているのですか?」

 

 カウンターを打てる手札はない。最後の頼みの綱であった『虚無巨人ロゼ』が完全に無力化さた。『虚月海神ファレクサマーレ』も先に攻撃をしてしまっているため防御に回ることもできない。

 

 つまり、今。

 

『ギャハハハハハハハ!恐レタカ!我ノ攻撃ヲ止メラレヌトイウ事実ニ!』

 

 『悪神ウェロボラウス』が嘲笑い突きつけてきた現実に、信者達は恐怖した。

 

 適切、的確、まさにそうとしか言えないほど必要なカードを引く彼の運命力に完全敗北していたのだ。

 

「では、そろそろいいでしょうか」

 

 もう彼は一つ指示するだけで全てが終わるという状況で、ボロボロになったフィールドに足を踏み入れる。

 

 『虚無天使』の槍によって『虚無巨人ロゼ』が塵となり消えていく中、悠々と彼は対戦相手、巫女に近づいていく。

 

「さて、どうしましょうか。このまま終わりでも私は構いません。ですが、私は君に選択肢を与える権利があります」

 

 まるで悪役のような台詞で彼は巫女の眼を見つめる。

 

「今ここでウェロに攻撃されて両親と共に倒れるか、両親と離れて私のところへ来るか」

 

 二つの選択肢を巫女に語り掛け、しかしどこか独り言のようにも見えた。

 

 それは、巫女の眼に光がないからなのか。彼女の意思すら『虚無』になってしまっているからなのか。

 

『き、さま』『な、にを』

 

「今なら引き返すことが出来ます。バトルから離れて、君が好きなお絵かき、今まで体験できなかった『普通』を手に入れることもできます」

 

 ゆっくりと、彼は巫女の前まで手を差し伸べた。

 

 諭すような言い方であり、とても優しい声色だった。

 

 明らかに危機に乗じて懐柔しようとしてくるとは思っていなかった信者は動揺した。

 

 巫女は長い年月をかけて『虚月海神ファレクサマーレ』を呼び出すために育てた触媒、今失えば今後いつ同じような才能を持つ者が現れるか分からない。

 

 信者が犠牲になってでも代えがたい『モノ』なのだ。

 

『巫女よ、惑わされるな!』『巫女の身さえあれば何度でも』

 

「………………………………」

 

 巫女は黙っていた。しかし、その瞳は間違いなく揺れていた。

 

 彼は黙って手を差し出したまま動かない。返事があるまで動きそうにもない。

 

「……………………いい、の?」

 

『巫女!?』『何故!?』

 

 ぽつりと出た言葉に信者は驚愕する。

 

 心を無にした、感情を無にした筈の巫女が必要時以外に喋ることはあってはならない。

 

 しかし、これほど感情が揺さぶられているのは『教団』にとって間違いなくイレギュラーな事であった。

 

「……………………わるいこと、した」

 

「ええ、大丈夫です」

 

「………………いっぱい、けした」

 

「私が君の後ろ盾になります」

 

「…………ころ、したと、おなじ」

 

「誰にも君を責めるような真似はさせません」

 

「……でも、ぼ、ぼくに、は、な、なにもない」

 

「もっと楽しいことがこの世にはたくさんあります。君の生き方は、一つではない」

 

 優しく、微笑みながら彼は語りかける。

 

「さあ、どうかこちらへ」

 

 ゆっくりと、机の前のギリギリまで近づいて唆す。

 

「…………………………………………う」

 

『巫女よ!だめだ!』『惑わされるな!』

 

「…………うああ、ああああっ!」

 

 だん、と小さな体で机を踏んづけ、その衝撃でデッキを蹴散らしながら巫女は彼の胸に飛び込む。

 

 背後の信者のなれ果ては引き止めようと手を伸ばす。だが感情が大きく揺れたことにより精神的な繋がりが絶たれ、存在が揺らぐ。

 

 必死に手を伸ばすその先には彼に抱かれる巫女がいる。

 

 巫女を抱きしめる彼は、信者をしっかりと見つめていた。

 

「ウェロ」

 

 その一言だけで十分だった。

 

『気ハ済ンダカ?』

 

 ギョロリと飛びつこうとする信者の間に蛇の大群が割り込み睨みつける。

 

『残念ダッタナァ?貴様ラハ不要ナノダヨ、我ニモ、貴様ラガ崇メル神ニモナァ』

 

『ケタケタケタ!』『ゲヒヒヒヒ!』『キャキャキャキャキャ!』『ヒヒヒヒヒヒ!』『ゲラゲラゲラ!』『アーッハハハハハ!』

 

 全ての蛇が笑っている。嘲るように笑っている。

 

 すでに手が届かなくなった信者を目一杯侮辱して『悪神ウェロボラウス』は告げた。

 

『デハ死ネ』

 

 ダァン!と蛇の集合体が叩きつけられる。

 

 彼と巫女は既に机から離れ、彼の持ち場へと戻り背を向けていた。

 

 そして何度も叩きつける音が観衆がほとんどいなくなったスタジアムに響き渡る。

 

 『悪神ウェロボラウス』のパワーは無限、そして打点も無限。

 

 つまり決まった時点で勝利である。

 

「さあ、これでまた世界が救われましたね」

 

 『悪神ウェロボラウス』の勝利の高笑いが響く中、彼は未だに宙に浮く『虚月海神ファレクサマーレ』を見てそう言った。

 





⭐︎完⭐︎全⭐︎勝⭐︎利⭐︎

なおこの試合による影響は考慮しないものとする。

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