全肯定しただけなのに   作:蓮太郎

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54.もどかしっ!

 

「おやおや、皆さんもバトルは終わったのですか?」

 

 全国バトルカップ大会出場者の控え室。彼と『悪神ウェロボラウス』、そして『教団』の巫女だった少女がいる。

 

 つい先ほどまで対戦していた相手ではあるが、灰色の巫女服のまま泣きつかれたのか彼の膝の上で眠っている。

 

 膝枕をしてあげている巫女をよそに、その近くで滅茶苦茶怖い顔をしている角つき褐色幼女も居る。

 

 そんな角つき褐色幼女の正体は『悪神ウェロボラウス』、古より伝わりし悪の神である。

 

 『虚無』の神とぶつかり合っても存在が消えぬほどの力を持つ最強の一角である。

 

 ちなみに、ぶつかり合った筈の『虚無』の神こと『虚月海神ファレクサマーレ』はもう既に帰った。

 

 バトルが終わり、巫女が解放されてから彼を一瞥して『い く ね』とだけ残して何処かへと消えていった。

 

 その何処かは一体どこなのだろうか。ただ上空へ飛んでいくのを見た者は居るが、視認できる範囲から消えてからは存在も確認できていない。

 

 その先には本物の月があったとだけしか言えなかった。

 

 さて、そのような壮絶なバトル(一方的)があった後なのだが客が押し寄せる。

 

「どういうことか説明してもらおうか」

 

「おやおや、ミスターコンバット。いえ、ここは統也(とうや)カズトさんと言えばいいでしょうか」

 

「待ってくれ、本名をばらすな」

 

「みんなにバレてますよ」

 

「そんなことは無い。私はミスターコンバットだ」

 

「やめた方が良いぜ、みんな知ってるから」

 

「なん、だと……」

 

「何でそんな珍妙なマスクだけで誤魔化せると思ってるんですこいつ」

 

 自分の正体をあっさりばらされるだけでなく知られれていることにショックを隠せない統也カズトは地面に手を突いた。

 

 そんな馬鹿を呆れながら見るのは龍咲リョウと天下原ジョウタロウ。

 

 第1期、第2期、第4期主人公が揃うのは滅多にないことであった。

 

「なんだこいつら。我のイチャイチャタイムを邪魔する気か?」

 

「彼らは私に話がある、それだけですよ」

 

「ふん!我、これでも怒ってるからな!」

 

 先ほどから機嫌が悪い『悪神ウェロボラウス』はイラつきながらも何故か手を出してこない。

 

 チラチラと泣き腫れた顔で眠る巫女をチラチラとは見ているが、何故手を出さないのか分からないほど静かだった。いや、たまに彼の首筋に吸い付いているため安全とは言い難かった。

 

「『悪神ウェロボラウス』、だよな?その首を噛んでる奴は」

 

「ええ、そうです」

 

「…………どうやって」

 

「愛ですよ、リョウさん。この子のみならず黒のカードは基本的に愛が足りていない、故に愛を与えることにより互いの関係を良好にする秘訣です」

 

「それが出来たら苦労しないけど!?」

 

 ジョウタロウの抗議に彼は微笑むのみ。

 

 だって、実際やったら出来たんだからそう言い張るしかないのである。

 

 まさかの『悪神ウェロボラウス』を繰り出すだけでなく侍らせているなんて思うものか。試合前日のホテルであいさつ回りしていた男がここまで厄ネタの宝庫、面識が無いはずなのに一方的に知られているというのも明らかにおかしな話だというのに堂々としていられるのは何故なのか。

 

 ここにいるのはバトルから解放された巫女を除けば勝者のみ。

 

 圧倒的強者率を誇るこの部屋でも彼は一切動じていなかった。

 

「私のことは後々分かる事でしょう。それに、次の対戦相手は貴方ですね、ジョウタロウさん」

 

「え、俺?マジ?」

 

「トーナメントで勝ち抜いたのなら、間違いなく」

 

「…………ま、骨は拾ってやる」

 

「そこは倒せっていってよぉ!?」

 

 何故か冥福の方をリョウに祈られたジョウタロウは人生の先輩にも抗議をする。

 

「簡単には負けませんよ」

 

「そうだそうだ、小娘を倒せる実力を持ってたとかなんかと言ってても我らに敵うはずがないぞ」

 

「あ、なんかムカつくからぜってぇ倒してやる」

 

「その意気だ。多分、いや、間違いなく全力を尽くさないと倒せる相手じゃない」

 

「だな。しれっと後ろの天使もヤバそうだ」

 

 後ろの天使と言われて彼は振り向いた。

 

『……………………』

 

 そこには『虚無天使』が漂っていた。

 

 いつ出たのかは分からない。少なくとも彼に気配を悟られず現れたのは確かだ。

 

「こ、こいつ!いつの間に出てきた!?」

 

「黒のカードだけじゃなく『虚無』のカードまで扱える奴はそうそういない」

 

「おやおや、君も出てきたのですね」

 

 何をすることもなく、ただそこに居るだけ。表情も特になく、何故出現したのかすら不明である。

 

「ええい離れろ!我のだぞ!やはり貴様も狙っているのか!?」

 

 ばたばたと彼に肩車するような形で乗りながら近くを漂う『虚無天使』を追い払おうとする『悪神ウェロボラウス』。

 

 その様子はまるで駄々をこねる子供のよう。悪の神の威厳はどこへやら。

 

 まさかのほのぼのとした風景を見せている少年少女の姿をした存在にどこか毒気を抜かれたのか呆れたように客人は笑う。

 

「まあ、これだけは言っておくか」

 

「多分、あの感じだったら大丈夫だとは思うけどさ」

 

「形式上は言っておかなきゃいけないな」

 

 彼らは言う。

 

 全ては『虚無』によりなかった事にされ改変された歴史の上に彼らは立つ。

 

 だが、そこで忘れてはならないことはある。

 

 統也カズトは『悪魔王骸サタニクル』を。

 

 龍咲リョウは『暴竜帝ドラゴクロニクル』を。

 

 天下原ジョウタロウは『精千融業(せいせんゆうごう)八百万ノかるま』を。

 

 本来彼が倒したラスボス級の存在ばかりであるが、彼らも人間なりに犠牲を払えば倒せる猛者である。

 

「「「俺が勝つ!」」」

 

「いいえ、私が勝たせてもらいます」

 

 伊達に偽の歴史で主人公をこなしてきた者たちだ。一般以上のプレイヤーよりも遥かに強いのだから。

 

「ぎゃしゃるるるるるる!ふしゃああぁーっ!」

 

『……………………』

 

「……………………(びくっ)」

 

 寝てる巫女が起きそうなほど大声で『虚無天使』を威嚇し続ける『悪神ウェロボラウス』が本当に語り継がれ暗躍していた巨悪なのかと疑いながら、彼らは宣言するしかなかった。

 





現8番隊隊長「へーっくし!噂されてますねこれ」

8番隊員達「隊長、仕事」

この期に及んでもまだぶちまけない主人公の図。此度のやらかしで陽花理ヤマトが奔走して各所に色々と工作してたりするので後で本気で謝るべきだと思います。

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