全肯定しただけなのに   作:蓮太郎

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55.こ、壊れて……!

 

「( ᐛ)パァ」

 

「……………マジか………マジか」

 

「なんだこの状況」

 

「聞いてくださいショウマ、ユウキとキボウが壊れました」

 

 少なくとも他人に見せてはいけない間抜けな顔になっている津久葉ユウキと頭を抱えてブツブツと何かを呟く神楽坂キボウ。

 

 そんな2人をユサユサと揺さぶったりつついたり、頬を引っ張ったりしても反応がないのを不思議がる『ボンバードラゴン』。

 

 そして試合終了後の労いにVIPの権利を行使して控え室に来たショウマ。

 

 何だこの状況としか言えない場に居合わせて言葉に詰まるが、何があったかをおとぼけドラゴンに聞かなければならない。

 

「…………何でこうなった?」

 

「ユウキの勝利で終わったのはいいですが、別の会場の録画が流れてからこうなりました」

 

「別の会場の録画?」

 

「あ、今流れてますよ」

 

 控え室に備え付けられているテレビである光景が流される。

 

 本来なら緘口令とか敷かれるのだが、有料放送で流れてしまってる上に何故か撮影を終えようにも機械の不調か終わらせることができず一部始終が入った場面。

 

 灰汁豪マサトが謎の少女と入れ代わり『虚無』のカードを操るシーン、それを完膚なきまでにボコボコにするいつものおじさん、『虚月海神ファレクサマーレ』の降臨、ウェロと呼ばれる褐色幼女の体を突き破り現れる『悪神ウェロボラウス』シーン。

 

 会場ごとに分かれてバトルしている為、バトル中の選手とそれを直接見ている観客達は気づかなかったのだ。

 

「( ᐛ)パァ」

 

「あ、そういうことか」

 

「どういうことですか」

 

「ユウキはおじさんと一緒にいたウェロちゃんが好きだったから、その正体がこんなのでヤバいやつと知って現実を受け入れられなくて壊れたんだ」

 

「ユウキ、そうなのですか?」

 

「( ᐛ)パァ」

 

「そうだと言ってます」

 

「言ってないよな?」

 

 ちゃんと翻訳が機能しているのかどうか怪しいところではあるが、少なくとも今日この後はしばらく使い物にならなさそうなユウキであった。

 

 少し前にブランクがあったとは言え覇者である姉を超えて凛々しい姿だったのだが…………

 

「それで、キボウさんはどうしてそうなって?」

 

「分かりませんが、ファレクサなんとかの名前をよく呟いてますよ」

 

「ファレクサ?機械?」

 

「アレです」

 

 そして『ボンバードラゴン』が再び指を刺すのはテレビの中に映る灰色の鯨。

 

 ショウマは名前を知らなかったが、キボウほどの人が頭を抱えるほどの因縁と何かがあるのだけはすぐに理解できた。

 

 『虚無』、都市伝説レベルで存在しているのか怪しい属性であった。つい、最近までは。

 

 活動が活発になってきた『教団』により明かされる新たな属性。それにより高まる不安はあったが、この土壇場で『虚無』の頭領に等しい存在が現れるとは。

 

 なお、既に敗北している模様。

 

「何だったんだろうな、あれは」

 

「私には分かりませんが、私とユウキなら勝てます」

 

「( ᐛ)パァ」

 

「現実を見てくれ、頼むから」

 

 ショウマの言葉は未だに壊れたままのユウキと何故か胸を張り無表情でドヤ顔の音を出す『ボンバードラゴン』に向けて言ったが、今は聞くような状態ではないだろう。

 

 もはや忠告を聞くような二人ではないためショウマは一端諦めた。

 

「キボウさん、そろそろ現実を見てください」

 

 そんな親友の姉であり()覇者の神楽坂キボウに声をかけてみる。

 

 流石に『ボンバードラゴン』にしつこく声を掛けられていた彼女はショウマが来たことにようやく気付く。

 

「あ、ああ、すまない。ユウキの友達だったな、うん」

 

「単刀直入に聞きます、なんですかあれは」

 

「……………………私が倒した奴の、筈だった」

 

 ぽつり、と漏れ出る声でキボウは言う。

 

「『虚月海神ファレクサマーレ』、私が知る中で最悪の存在。全てを『虚無』に還すことに何の躊躇いのないやばい神、簡単な説明だったらこれだけで済むわ」

 

「キボウさんがそれほどいう存在…………」

 

「私も奴と対面するまでいろいろな戦いはあったけど、あれだけは別格だった。仲間たちも消されて、倒すのにも滅茶苦茶力が必要だった。消えた皆を元に戻すのも代償が必要だったくらい」

 

 そう語るキボウの顔には怒りが込められていた。

 

 無意識に腹をさすっているのは代償のせいなのか、それともストレスの話なのかは分からない。

 

 いつか超えると誓っていても、間違いなく強者である人間がここまでの感情をあらわにする存在が身近に居た。それも誰も気づくことが無く。

 

 いや、元8番隊主席という肩書を持ちだした名物おじさんは気づいていたようだった。

 

 備え付けのテレビに何度も流される映像を見返してみて、そう思った。

 

「じゃあ、結城さんはあの人と一緒に戦ったりしたんですか?」

 

「いや、記憶にない。というか昨日会ったのが初めて…………ん?」

 

 突然言葉を止めたキボウは、突然に現れた疑問を思い出す。

 

「私の未来を犠牲にしたのに、私のミライが居る…………?」

 

 女性として将来的には結婚し、子供を産み幸せな家庭を築くのは普通のこと。キボウだって昔はバトル馬鹿でも乙女であった。

 

 身近な人(超金持ち)と結婚してミライを産んで、確かに幸せな未来を掴んでいる。

 

 子宮を犠牲にして『虚月海神ファレクサマーレ』を倒し仲間を救い出したのに子供を産める。

 

「…………私の記憶が間違っている?」

 

 あり得なくはない。相手は『虚無』、歴史を消して改竄という離れ技を用いて敵を消すという行動を取れるイカれ集団なのだ。

 

「じゃあ、私は忘れて、記憶が変わっている?」

 

 歴戦の戦士は一つの違和感に気づけば行動する。

 

 かつて戦った相手が相手なだけに疑問を解消しなければ気が済まない。

 

 ここが一抹の夢なのか、それとも誰かの手により掴み取れた未来なのか。

 

「ごめん、ユウキ頼むね!」

 

 ショウマにそう言い残してキボウはダッシュで控え室から出て行った。

 

 問い詰めるのはあの男。『虚月海神ファレクサマーレ』の存在と効果を知っていた、全てを知っているはずの男。

 

 駆け出した足は止まらない。明日の希望を掴むために。

 

「( ᐛ)パァ」

 

「では、私はそろそろユウキを叩き起こしてみます」

 

 残されたショウマとユウキ、そして腕まくりする『ボンバードラゴン』。

 

 今から起こるのはただ一つ。それに気づいたショウマは逃げ出した。

 

「よいしょおっ!」

 

 どっがあああああああああんっ!

 

「ギャアアアアアアアーッ!?」

 

 爆発オチである。

 

 『ボンバードラゴン』の名に恥じぬ爆発でユウキごと爆破する、何でも困ったら爆発オチに頼る『ボンバードラゴン』であった。

 




Q.『虚月海神ファレクサマーレ』はどういう心境で巫女に力を貸してくれたんですか?

A.こんな感じです↓

虚月『ん?僕を倒したやつと信者が一緒にいるじゃん』

虚月『え?バトルするの?無理だよ?君如きで勝てないよ?』

虚月『あー、僕の召喚条件満たしてるし、一応僕の信者だから見捨てるわけにもいかないし力貸してやろ』

虚月『ヤバい信者が調子に乗り出した、でも悪神出てきた。終わったねこの信者』

虚月『え?盾増やしたからって攻撃するの?絶対返しで逆転されるよ?いいの?そっかぁ……』

虚月『知ってた』

虚月『まあまあ楽しめたし、無限の力も少し理解できたから帰ろっと。あ、久しぶりに会ったから帰りくらい一声かけておくか』

虚月『い く ね(やべ、久しぶりに人間と喋るからたどたどしくなっちゃった。雰囲気のまま帰っちゃえ!)』

『虚月海神ファレクサマーレ』
『虚無』のカード筆頭であり、この世界でも個で最上級の力を持つ神。
本神はめっちゃ人当たりが良く親しみやすいが力の根元がアレなだけにイカれ信者しか集まらず、しかし見捨てることもできないため力を貸している。
自分の力に頼る信者は哀れだと思い、しかし『虚無』を乗り越えるのは人間というのも知っている。だけども代償が割とでかいのどうにかなりませんか?ならない?そう…………
歴史が改竄される前に彼とバトルした時、信者が彼を世界から消して欲しいと願ったばかりに『世界を消滅させて世界から出した判定にする』という結果が生まれてしまった。
実は願いを叶える過程や結果はかなり大雑把であり、『虚月海神ファレクサマーレ』でも予想外なことが起こるケースがある。
それはそれとして『虚無』の力を行使しても存在消滅しないどころか、『虚無』の力を利用して『人間としての存在した記録』+αを代償に世界を再構築する人間は何なのか。不等価交換なのに何で成し遂げられたのかを主人公に興味を示す。
以後、月に移住して時々主人公の動向を見ている。

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