第一回戦が終了した全国バトルカップは更なる熱気が高まっていく。
歴代で活躍してきた者たちが集まり、全員が迫力あるバトルを繰り広げていた。それ以外に理由はない。
明らかに色物枠があったとは言え、普通に勝ち残ってきており敗北したとは言えど他者が健闘を讃えるほどのバトルを見せた。
そんな彼らは今。
「ガツガツガツ!あ、貴様!我のバターチキンだぞ!」
「「「「「「「「「「
「こらこら、食事の場で走ってはいけませんよ」
豪華バイキング形式の食事会で一緒にご飯を食べていた。
「いやー、あんな戦い方あるんですね。ちっこいのが滅茶苦茶厄介だったはずなのによく対処できたっすね」
「効果自体は単純だからな。それに下手に刺激するよりも一掃してから攻めた方がいいと勘が言っていた」
「何なんですその勘は」
「カズトさんは言語化する能力が低いからな」
「だが、このアホは昔までは擬音でしか表現できていなかったが成長した方だ」
「馬鹿にしてるのか?いや、私はミスターコンバットだが」
「カズト、下手な変装はやめておけとアレほど言っただろう」
「だから!私は!ミスターコンバットだ!」
「あれが統也カズト…………あれが?」
誰もが知る有名人である統也カズトが理想よりも残念な男という事実に数名は面食らっているが、特に問題はない。
強いていうなら身長が小さい者たちが若干暴れてるくらいだろうか。
「もぐ…………もぐ…………」
「ゆっくりで構いません。料理は逃げないのですから」
「…………いっぱい」
「おやおや、あまり食べられませんでしたか。大丈夫、ゆっくりでいいので量を増やしていきましょう」
「むぐっ、我、お腹いっぱいになったぞ!」
そんな中、彼は巫女だった少女がもぐもぐとパンを齧るもすぐに食べられなくなり、それに『悪神ウェロボラウス』が張り合っているのを微笑みながら見ている。
『教団』の巫女だった少女は名前がない。彼とは違い失ったのではなく始めからつけられていない。食事も『虚無』の力で必要なく、カルト宗教に居た割には普通の常識と見識を持ち合わせていた。
よくよく考えると『普通』を知らなければ願いは叶えられない。基準がそれなりに分かっていなければ過小になってしまうからだ。
故に、人がどれほど食べられるかは知っていても自分がどれほど食べれるかは把握できていない。
何故なら祀られる側であり、願いを叶える側であったからだ。
なお、『悪神ウェロボラウス』も別に食事は必要ないし、家計のために一般家庭の子供程度に普段は押さえているが、食べたら食べたで無限の胃袋を持つ模様。
「その子が『虚無』の巫女だった子ね。何というか、普通じゃない?」
さらっと現れるのは子供を抱いた女性、神楽坂キボウである。
「ええ、普通の子ですよ。バトルが苦手で、お絵描きが好きな子供です」
「そう…………ただ振り回されていただけなのね」
「私も手が届く範囲でなら助けられますが、全てを救うというのは出来ません。今回はタイミングがあったから救うことができた、それだけですよ」
彼は語る。救える範囲は手の届く範囲と、しかし手が届くのであるなら救ってみせると。
「……………………」
「おやおや、怖くないですよ。彼女は確かに因縁はありましたが既に水に流した仲です」
「どういう仲なのよそれは」
余計に意味深なことしか喋らない彼に不満を漏らすが、それ以上は何も言えないキボウ。
何故なら既に他よりも先んじて話を聞いたからである。
「…………アレが『悪神ウェロボラウス』か?やはり見た目では判別がつかんな」
「悪の神サマが本性を隠すのは当然だと思うけどねぇ?君だって過去に色々あったから隠れて住んでるでしょ、白垣クン」
「貴様に言われたくないな、榊の姓を持つ男」
「ははは、まあ今は彼に首ったけみたいだし、これこそ触らぬ神になんとやらだ」
互いに素性が素性なだけに怪しい会話を会場の隅でしている貫禄ある2人を含め、注目の殆どは彼に集まっている。
前日のあいさつ回りも多少調べたら出る情報はともかく、彼ら彼女らの根幹に触れるような物言いをする意味深おじさんとなっていた彼は、敗退した人間以外からは警戒の対象になっていた。
『悪神ウェロボラウス』を懐柔し、『虚月海神ファレクサマーレ』を退かせた男。これだけでどれほど評価されるのか。
「『虚月海神ファレクサマーレ』については先ほどの通り二回目で、初戦は倒せたはいいものの結果として世界が消滅しましたからね。世界を再構築する代償に世界と皆さんから私の記録と『八大天使 ザオリエル』を失ってしまいましたし」
「「「「「「「「「「「
「『虚無』は凄いですね。悪い方に使われることが多いですが、やはり力は使う者によって正義にもなりますから。いやあ、懐かしい。私の記録が消えて7年、皆にしばらく平和な時間が流れてよかった」
「「「「「「「「「「「
「「「「「「「「「「
彼の発言に対する11人の総ツッコミに10匹の蛙が張り合うが何の意味も生産性もない事を記しておく。
先んじて聞いていたキボウは何とも言えない顔をして黙り、巫女だった少女は「そうかな?そうかも………」という疑問の顔をして、『悪神ウェロボラウス』は自分が悪そのものなのに先ほど世界を救ったため激しく頷いた。
「そうですね、まず何からはなすべきか。そうです、私が『悪魔王骸サタニクル』を倒した時の話をしましょう」
「おいおいおいおい、それ俺の話じゃ、ごほん!統也カズトの話ではないか!?」
「もうやめろよミスターコンバット、恥ずかしいだけだぞ」
「君は変わりませんね」
「待ってくれ、私のことを一方的にしっているのか?ちょっと、まさかお前」
「まずは『未成年メイド喫茶バトル事件』のことを」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ミスターコンバットが彼の胸倉をつかんで止めようとするが、ひらりひらりと躱してしまう。
明らかな黒歴史を握られていることを知ったミスターコンバットだけでなく、この場に居るオタマと巫女だった少女と『悪神ウェロボラウス』以外は一斉に顔を青ざめさせる。
自分が知らないところで黒歴史を握られている、そんな身近な人物を忘れていたことに。
いや、普通に恥ずかしい話を握られていることを知ってしまってビビっているだけかもしれない。
「おい、我の知らない話もあるのか?弱みを握っていいのか?」
「ええ、丁度いい。私について皆さんと話をすり合わせておきましょう」
きゅっと巫女だった少女が罪悪感で彼にしがみついているが、彼は優しく彼女の頭をなでてあげた。それに乗じて『悪神ウェロボラウス』も混ざろうとして巫女だった少女を押しのけようとしていた。
「私は既に名前を『虚無』へと捧げているので名前はありません。ですが、君達との思い出はしっかりとこの頭に残しています」
まだ全国バトルカップは始まったばかりだ。しかし、なんかもう全てが終わった後に話すような事を始めようとしている。
「私は元管理局8番隊主席、そして…………」
ここからは彼と『虚月海神ファレクサマーレ』しか知らない本当の歴史が語られる。
それをどう思ったのか、どう思うのかは受け取り手次第である。
だが、彼ら彼女らの中にある無数の思いのうちの一つだけ共通するものがあった。
どこかでこいつの息の根を止めて黒歴史の流出を防がないといけない。
半分冗談、半分本気で彼ら彼女らは思い、そして絶対に超える相手であることを認識した。
しっかりちゃっかり原作主人公勢とその他大勢の若気の至りをになってる模様。
ほら、ウェロがニッコニコで聞きたがってるよ。みんなの黒歴史を聞かせてあげようね(夜討ちの可能性大)
その点オタマは何もなくていいよね。というか常に無敵の人(?)だから無敵だよー
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