全肯定しただけなのに   作:蓮太郎

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62.未来へ続く夜

 

「ついにここまで来たんだな…………」

 

「ええ、ここまで来ましたよ」

 

 津久葉ユウキと『ボンバードラゴン』はホテルの屋上でたむろしていた。

 

 今日の準決勝を勝ち進み、明日はいよいよ決勝戦ということで気づけば有名人になっていた。

 

 無論、元々地元では非常に強いと言われていたユウキではあったが、全国レベルとなると色々なモノの桁が違う。

 

 『ライジングイリュージョン』の歴史で良くも悪くも様々な活躍をしてきた者たちが集う全国バトルカップの本戦へ出られただけでなく、その猛者たちに臆すことなくバトルをこなして勝ち進んだのだ。

 

 そこまで来たらバトルが強い子供ではない、将来有望な金の卵である。

 

 様々な企業からの勧誘、強さと金の匂いにつられる大人、強きを叩きのめそうとする命知らず、若い芽に唾つけようとする微妙に年齢の入った女…………

 

 親と優勝経験がある姉、そして友人らが明日の為に邪魔させまいと手を尽くしてくるが、向こうも手段を択ばずに近づいてくる。

 

 なので、侵入経路が空くらいしかないホテルの屋上に二人は避難してきたのだ。

 

「小さかったユウキがここまでビッグになるとは、私は嬉しいです」

 

「いつから俺のとこに居たんだよ、去年のパックで当てた時からだろ」

 

「私にとってユウキはいつまでも小さいです」

 

「身長か?身長自慢か?」

 

 ぺちぺちとユウキの頭を上から抑えるように叩く『ボンバードラゴン』。

 

 明らかな挑発ではあるが、あくまで親友として、戦友として心安らかに煽りあえる存在であるからこそ成り立っているのだ。

 

 事実、次に戦う相手はユウキが一度も勝ったことのない、敗北する姿を誰一人として見たことがない男である。

 

 過去こそ姉を通して聞いたが、明らかに自分どころか前回優勝者よりも経験豊富。

 

 勝てる見込みは…………

 

「ユウキ」

 

 決勝戦での自分の姿を想像していたユウキの頬を『ボンバードラゴン』がぷにっと押す。

 

「緊張しすぎです。えいえい、指ほぐしアタック」

 

 硬直したユウキの頬をぐにぐにと押し続ける。

 

 ちょっとしたいたずらのような行為であるが、完全に無表情であるため感情が読めない。

 

 思えばそうだ、言動や声色は非常に豊かであるはずなのに表情筋が完全に死んでいる。

 

 不思議な奴ではある、だが決して悪い奴ではない。

 

「やめろよ、思ったより爪が刺さってる」

 

「どうですか、参りましたか?」

 

「何がだよ。何の勝負だよ」

 

 度々奇行に走るドラゴンに困惑しながらも、なすがままに頬を弄られ続けられた。

 

 抵抗したところで追いかけられるだけなので何もしない。

 

 数分ほど弄られてようやく解放されたユウキ。そして無表情は全く変わらない『ボンバードラゴン』。

 

「少しは気がまぎれましたか?」

 

「…………最初からそのつもりだったのか?」

 

「はい、今までにないほど緊張していたので」

 

「そんなに分かりやすかったか?」

 

「どれだけ一緒に戦ってきたと思いますか?」

 

 無表情でありながらむふーと強めな鼻息を飛ばして胸を張る『ボンバードラゴン』であった。

 

 確かに、一切の勝ち目がないと言い切ってもいい相手がいる。

 

 どのような戦略で戦ってくるのか想像が付きにくい。

 

 バトルでの勝利条件は相手のライフが無くなる事とデッキ切れを起こさせること、カードの効果による特殊勝利が原則である。

 

 この三つの中からプレイヤーは1つを選んで勝利するのが基本。

 

 大抵はライフを無くすことが目的で、後者2つを選ぶ者は変わり者扱いである。

 

 あの男は三つの手段を全て丁寧に、精密に扱ってくる。

 

 その場のタイミングで戦法を180度変えてくることも予選で確認している。

 

 あの男の手札は魔法のように隠されており、何が飛び出すか分からないブラックボックスのような山札を切る。

 

「まあ、考えても仕方ないか!」

 

 なのでユウキは吹っ切れることにした。

 

「バトルは爆発です、全部吹き飛ばせば解決です」

 

「ぜっっっっっったいに対策されてるだろうけど、ぶっ飛ばせばいいもんな!」

 

「そうです、爆発は最高です。はい復唱」

 

「復唱はしないからな」

 

 チィッ!と無表情のまま大きな舌打ちで不服を示してくる馬鹿が居るが、気がまぎれたのは確かだ。

 

 勝負は戦略と時の運、その時になるまでどうなるかは分からないのだ。

 

 今更考えても仕方ない!

 

「うし、それじゃ最終調整するか」

 

「ついにやるんですね」

 

「姉ちゃんやおじさん達にカードを託されたからな」

 

 どこかでぐさりと言葉のナイフが刺さった気がするが、持ち出していた使いそうなカードと戦ってきた相手達から託されたカードを取り出す。

 

 『超直情一線トッパ・ドラゴン』、『キング・ザ・ドラゴン~龍頂点王装束~』、『陽冥海皇リヴァイア・サン』、『希望戦士ライトレイ・ヴァルキュリア』、そして『八大天使 ホイミエル』。

 

 『八大天使 ホイミエル』に関しては割と知らない人が突然現れて渡されたのでどのような経緯であの男と関係があるのかは全くもって分からないが、とにかく使うために構築を考える。

 

 無論、余分な所が何か考えないといけないし、新しいコンボが生み出される新発見も多々あるため非常に頭を悩ませる。

 

「ユウキ、このカードはどうでしょうか?」

 

「えーっと?あ、そうか。ここを中継してこっちにつなげるのか!」

 

「そこまで考えていませんでした」

 

「おい。だけど要求値も低いし、割とありだな」

 

 ああでもない、こうでもない、こうしようと悩んでいる時間こそプレイヤーとし幸福の時間だろう。

 

 後に待っているアドレナリンを爆発させるようなバトルがくると想像して口角を上げる。

 

 勝てる勝てないじゃない、勝つのだ。

 

「これでどうだ?」

 

「大爆発できそうです。大展開して相手を驚かしましょう」

 

「展開してもウェロちゃんが出てきたら終わりじゃない?」

 

「その時はこれを犠牲にして…………今なんと?」

 

「ウェロちゃんが出てきたらやばいでしょ?」

 

「……………………ええ、まあ、そうですね」

 

 一応だが『悪神ウェロボラウス』の正体は全国に知れ渡っている。

 

 一回戦はともかく、二回戦目は無料放送されているため天下原ジョウタロウを辱めた姿を思いっきり映しているのだ。

 

 明らかな悪役であり分かりあえるか分からない存在であるはずなのに未だに惚れている様子を見ている。

 

 そんな雰囲気を感じ取った『ボンバードラゴン』は無表情ながらじとーっと視線を向ける。

 

「じとーっ」

 

「何だよ、変な声出して」

 

「ユウキはまだアレに惚れ込んでいるんですか?」

 

「うっ」

 

「見た目ですか?見た目だけで判断するタイプですか?」

 

 『ボンバードラゴン』が咎めるようにいうと目を泳がしてどう答えようかと悩み始めている姿を見て心の中でため息が出る。

 

 脳破壊を経由して記憶を失ったのかと思った『ボンバードラゴン』であったが、一度ユウキが壊れた際に爆破で直したのは『ボンバードラゴン』である。

 

「もしや、私の爆破で頭が…………今直しますからね」

 

「物を直す方の漢字使ったか?おい、待ってくれ明日は決勝なんだやめろやめろやめろ!」

 

 未だに悪神に恋慕し続けている相棒を直すべく追いかけっこが始まる。

 

 幸いなのは既にデッキが完成していることか。

 

 ドタバタと夜の屋上を走り回る2人だが、屋上はフェンスはあるものの外からの撮影までは防げない。

 

 なので別のビルから2人を撮影しようとしている輩に向けて謎の光が降り注いだりビームが飛んできたりしたりしているが、どこかの過保護ドラゴンや天使達が動いているだけに過ぎない。

 

 明日は決勝戦、2人の夜は絆と共に深まっていく…………

 

 





K・T・D「あのガキ、我の娘に手を出したりしないよな?」

突破「まあまあ、若気の至りみたいなのも悪くないと思うよ?」

天使「青春してるね」

戦少女「ふしだらなことだけしないよう見ておかないと、キボウに叱られますよ」

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