あけましておめでとうございます。本年も作品を楽しんでいってください。
「ぬっ」
すっ、と布団から顔を出す角付き褐色養女が現れた。
彼女の名は『悪神ウェロボラウス』、れっきとした神である。
「ふへへ、今日も堪能してやろう」
そしてむっつりスケベでもあった。
夜な夜な彼と同衾しては体をまさぐったり舐めたりしている割と最低なやつである。
なお、対象となっている彼は寝ている間はよほどのことがない限り目覚めないので好き放題にされている。
むしろ『悪神ウェロボラウス』の気が済むのならと放置している節まである。
明日は大事な決勝戦というのに眠らなくていいのかと文句を言いたくなるが、残念ながら彼女は睡眠が必要ではないタイプの神であるため無駄である。
今宵も気が済むまで堪能してツヤツヤになってから明日に挑もうとしていた。
しかし、今日は違う。厳密には昨日からではあるが。
「…………ぬ」
布団からひょこりと顔を出すもう一つの影、巫女だった少女である。
昨日はベッドに1人で寝ていたのだが、今日は何故か彼と『悪神ウェロボラウス』の寝るベッドに潜入していたのだ。
「おい、何故ここにいる」
自分が感知できていなかったことに驚きはなくとも一転して不機嫌そうな声で問いただす『悪神ウェロボラウス』。
『虚無』の力は油断していたとはいえ神にすら影響を与えるのだ。
彼を挟んでにらみ合いが始まるが、全くもって不毛であることを察した『悪神ウェロボラウス』はふうとため息をついた。
なお、その手はずっと彼を触り続けている。
かの悪名高い神様でも実物は俗物なんだなとゴミを見るような虚無の目で見つめ続けられてなお手は止まらない。
「貴様が娘ポジに収まろうと我が妻であることは変わらないからな」
「…………(呆れた目をしている)」
「何だ、言いたいことでもあるのか?」
「……………………神様ってみんなこんな感じなの?」
「そんなものだぞ」
窓の外の月明かりがチカチカと光っていて抗議している気がするが、そのことに2人は全く気づいていない。
「そもそもだな、神とは自由奔放で人間如きを守るだの言うものではない。むしろ、信者の為にあくせく働いている方が異常なのだ」
「…………そうなの?」
「なのに!どいつもこいつも人の目ばかり気にしよって。恥を知れ恥を」
隣で寝ている人間に媚びまくっているカスの悪神が何か言っているが、こいつこそ恥知らずでないかと思ったりしている。
巫女だった少女、感情の大部分を取り戻してから非常に毒があるような性格になっているのは気のせいだろうか?
それとも周囲がかなりダメよりな大人しかいなかったのが悪いのか。
どちらもあるかもしれないし、最初からその素質があったのかもしれない。
それを知るのは最初から見ていた月だけである。
「貴様も大人になればわかる。人間、欲望のままに生きてた方が楽だとな」
「……ダメな大人」
「だからこそ堕とすのが楽しいのだよ。悪い子を利用して本当の悪い大人に良いように使うように、使う方と思っている馬鹿を唆して堕としてしくじるのを見て楽しむのだ」
「かーす」
「語彙力どうした?」
反論も面倒になったのか適当な罵倒で済ませようとしているが、流石に悪神としてちょっとプライドが傷ついた。
とはいえ『悪神ウェロボラウス』の懐は深い。特に、彼と一緒に横になっている時は特に深い。
下手に引きはがさない限りは機嫌がいいままだ。
「ふふん、明日も我が活躍するのだ。我が突破されることはあるまい」
「…………でも、負けたんでしょ?」
「あぁん?」
「…………この人に、負けたんでしょ?」
そう、巫女だった少女が気になっていること。
何故、『悪神ウェロボラウス』が彼に懐いて付き従っているのか。
『虚月海神ファラクサマーレ』とぶつかり合える神性を持つ『悪神ウェロボラウス』が何のイベントも無しに着いてくることはない。
『虚月海神ファレクサマーレ』も信仰があってこそ現れてくれただけで、願いを叶える行為自体も相当気まぐれでもあるのだ。
それほどの神をべったりくっつくようになるには少なくとも一度はぶちのめさなければならない。
悪の神を名乗っている以上、秩序の存在である彼とぶつかり合わないはずがない。
「ふーーーーーむ、まあ確かに負けた。我が出たのはいいが我を無視してライフを削られたからな」
「…………認めるんだ」
「認めざるを得ないだろう?手札も場も墓地も全て排除され坊主めくりの勝負を押し付けておいて負けたのだからな」
『悪神ウェロボラウス』の無限の攻撃力と打点に目が行きがちだが、効果が一切効かない事と1ターンの猶予をくれる代わりに1枚しか実質使えない状況に押し込む強さは普通に異常である。
そんな不利な状況で彼はカード1枚から耐えぬき、勝利をもぎ取っている。
「相性が悪かった訳ではない。あの時の我は使い捨てとはいえデッキのカードは全て黒のカードだったからな」
「…………ずるい」
「『虚無』を使っている貴様がいうか」
黒のカードであるなら1枚だけでもひっくり返すことは可能だろう。
だが、あくまで『悪神ウェロボラウス』を超えられる、もしくは守り切れるかどうかというのは別である。
「元から黒のカードを研究していた奴だ。
「…………アレ?」
「おっと、これはあまり喋るべきではなかったな」
ぐふふと気色悪い笑い方と悪い笑みで誤魔化すが、一つだけ分かったことがある。
『悪神ウェロボラウス』以外にも切り札がある。
その切り札は『悪神ウェロボラウス』にすら想定外と言わしており、単騎でも耐え切れるような切り札が。
そうなると一つ矛盾が出る。
彼の切り札は『悪神ウェロボラウス』と公言しているのに、他の切り札を隠し持っているということになる。
そうなればこの嫉妬深い悪の神が反発すると思われる。
正直なところ、巫女だった少女を問題なく受け入れているのも気になる部分ではあるが…………
「……………………」
巫女だった少女はあえて黙った。
自分から地雷を踏んでしまう恐怖と『悪神ウェロボラウス』からの評価が気になって聞けなかったのだ。
出汁に使われている程度なら普通に我慢できる。『虚無』を押し付けられた前と比べたら遥かにマシなのだ。
「何だその顔は?我がベラベラと貴様に喋っていることか?」
しかし、くどいが悪の神である。
余り表情に出ていなくとも人の思考をしていればある程度の事は
「貴様も分かるだろう、こいつが救いたいと思ったから救われている。それだけの話よ」
「……………………」
「我もずっと引きようがないと思っていた運命から引き摺り出されたのだ。貴様にシンパシーを感じてない訳ではない」
それだけを言ったら巫女だった少女に背を向け、しかし彼にピッタリと背中をくっつけて黙った。
シンパシー、無意味で虚無で何もなかった人生に光を与えてくれたこと。
この神様も自分が悪であることに何か思うことがあったのだろうか?
巫女だった少女もそれ以上は考えることをやめた。
だって明日は決勝戦、悪戯に騒ぎ立てて彼を起こすのも忍びないのだから。
月は見ている。彼らがゆっくり眠れるように。
モブ不審者「はあはあ、この壁を登って部屋から侵入できたら神のカードをこの手に…………!」
月『虚無光線』
「」
既に何人も消えてる模様。
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