全肯定しただけなのに   作:蓮太郎

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67.

 

 落ちる、墜ちる、『悪神ウェロボラウス』が堕ちる。

 

 数多の蛇の集合体が解けるように落ちていき、無限の陥落を全員が目撃した。

 

 ラスボスにふさわしい断末魔を上げ、ボトボトと蛇たちが落ちていく。

 

 フィールドを埋めるのではないのかと言うほどの量が落ちてくるが、それらは地面に落ちると同時に黒い粒子となって消滅していく。

 

 少年は悪の神を討ち倒した。絆と縁が孤独の神を倒したのだ。

 

 ボロボロと解れるかのように分解されていく『悪神ウェロボラウス』。

 

 そして中核となる本体、角付き褐色幼女が露見してフィールドへと落ちる。

 

 悪神とはいえ見た目は幼女、そして初恋の人でもあった故にユウキはせめて受け止めるようにモンスターへ指示を出そうとした。

 

 だが、それすらも遅かった。

 

 既に、彼が空中へと跳躍し、優しく受け止めていたのだから。

 

 幼女姿の『悪神ウェロボラウス』も力尽きる寸前であり、既に身体の一部が半透明、または粒子として解けるように変え始めていた。

 

 そのまま、何故かゆっくりと重力にやや抗っているようにふわりとフィールドに彼は着地した。

 

「ウェロ…………」

 

 心配、悲しみ、今まで聞いた事がない二つの感情が込められた声で名前を呼ぶ。

 

 ぐったりと彼にお姫様抱っこされる『悪神ウェロボラウス』。

 

 その様子はまさに悲劇という絵になるほどであった。

 

 事実、『悪神ウェロボラウス』が倒され空を埋め尽くすほどの蛇が消えたため太陽の光が差し込み、彼らを照らす光となっている。

 

 儚げに抱かれる『悪神ウェロボラウス』はゆっくりと目を開く。

 

 今にも消えゆく、墓地に送られるため実際に一度死ぬ経験をするのは『悪神ウェロボラウス』にとって初めての経験であった。

 

 正直なところ、モンスターたる精霊達が何度も墓地送りという擬似的な死を経験して慣れているというのもあるが、よく耐えられているなとは思う。

 

「ウェロ、ありがとうございます。こんな私を…………」

 

 愛してくれて、と言おうとしたその時だった。

 

 がばっ、という擬音が合うように『悪神ウェロボラウス』が飛び起き、彼に顔を近づけた。

 

 そして口と口をつけるように…………

 

んぢゅっぱっ!じゅじゅ、んちゅっ、ぢゅるるっ!んばっ、ぢっ!ぞぞぞぞっ!

 

 うわきったねぇ。

 

 それはもう、公の場というのに物凄い汚い音を出しながら角付き褐色幼女とおっさんのディープキスをかますという痴態を見せつけられてどういう顔をすればいいのか。

 

 音は遮断したとはいえ20秒経ってもまだ続いている。

 

 いきなりの事で流石の彼も硬直しているのか一切の動きがなく、なすがままとなる。

 

 ちゅぽんっ、と『悪神ウェロボラウス』がようやく満足したのか彼を口付けから開放し、じっと彼の瞳を見つめた。

 

「愛してる」

 

 ポツリと独白のように彼女は呟いた。

 

「お前のことを愛してる」

 

 そして優しく、とても優しく抱きしめる。

 

「我のような嫌われ者を、捻くれ者を、根暗偏屈を愛してくれるお前が大好きだ」

 

 『悪神ウェロボラウス』は悪の神、それ故に善の者からは嫌われ、悪の者から知恵と力のみを求められた。

 

「暗い闇の中で我を引き摺り出したもの好きはお前くらいだ」

 

 純粋な友好を、友愛を、親愛を求めたのは1人の男だった。

 

 自身は倒されなくともライフを全て削り切られ、負け方としては想定していたモノであった故に諦めがついた。

 

 このままどうせ外へ出たとしても面倒なだけだし、碌な楽しみもない。

 

 暗い1人だけの世界で引きこもり、外の世界を眺めては破滅の囁きを送るくらいの日々がまた始まる。

 

 それくらいの感覚だったのに、彼は腕一本で何故か自身を引きずり出した。

 

「さあ、行ってこい」

 

 ゆっくりと、空気に溶けるように『悪神ウェロボラウス』の姿が消えていく。

 

「ククク、ハハハハハハハハ!あの小僧に誰が最強か教えてやれ!」

 

 粒子となり、彼の元へと消えていく。

 

 その高笑いは哄笑なのか、確信に満ちた笑いなのか。

 

 その答えを知るのは『悪神ウェロボラウス』が消えてからとなる。

 

 何故なら/『ハイランド・ドラゴン』、主導権を渡してもらいましょうか。

 

 え、まだ語り足りな/割と好き勝手言っていたようですが、ここからは私たちの時間です。

 

 ちょ/待ちません、出て行きなさい。

 

 …………追い出せたみたいですね。

 

 では、全ては勝利のために、君に捧げるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

『あのー、元8番隊さん?フィールドから降りて欲しいんですけど…………』

 

 無言、ただ無言で佇んでいる中で勇気ある司会が声をかけ、降りるように伝えました。

 

「…………ユウキ君、よく、よくウェロを倒せましたね」

 

『あれ、無視された!?』

 

 司会の言葉はいったん置いておき、ユウキ君の称賛をかかさずゆっくりと向き合います。

 

「様々な思いがあったでしょう。こうして、ここまでたどり着き、最強の座を争う場まで成り上がり、絆を育んだ結果が新たなるゾーンの開闢とカードの創造…………素晴らしい」

 

 本来なら降りなければならないフィールドに居座りながらも感動しているあたり、やはり変人と思われていることでしょう。

 

「おっさん…………その、変になったか?」

 

 奇行に対して本気で心配してくれるユウキ君ですが、全く心配ありません。

 

「先ほどのターンで、私は君のモンスターを全て疲労させるカード、もしくはすべて破壊するカードを引くつもりでした。しかし、引けたのはこのカード、戦闘で自分のモンスターが犠牲にならなければ使えないカードです」

 

 既にそのカードは机に置かれています。

 

 運命とは何とも皮肉です、それとも本来のシナリオというべきでしょうか。

 

 主人公はラスボスを倒す、どのような形であれ避けようのないドラマ。

 

 だからこそ、全国バトルカップという大舞台で『悪神ウェロボラウス』はどれほど抗おうと倒される運命と強制的に筋書きを書き換えられてしまった。

 

「…………待てよ、つまり俺がウェロちゃんを倒せるカードを出して、倒してしまったから」

 

「ええ、君がウェロを倒せるカードを創造したおかげで…………」

 

 かしゃり、と手に何か装着される音が静かな会場に響いた。

 

「私は無敵になる条件を達成しました」

 

 その手にはカードではなく、黒い籠手の様な装備が付けられていました。

 

 その間にも反対の手に、足に黒い鎧の様な装備が装着され、それでも言葉は止まらない。

 

「自分のモンスターが戦闘によって破壊された時、このカードは召喚することが出来る」

 

 会場の皆が、中継を見ている皆が見れるように設置されてある大きなモニターに盤面が映し出される。

 

 そこに映っていたのは1枚のカード、一体何のカードか皆が目を凝らしています。

 

 そして驚くでしょう。

 

 今回の全国バトルカップで3枚目の黒のカードが映っているのですから。

 

「黒の…………カード!」

 

 ユウキ君が指摘して全員に緊張が走ります。いえ、正確には真実を知らない人達のみですが。

 

「そして、召喚時に直前に戦闘破壊されたカードをこのカードの下に置き、そのパワーと打点を得ます」

 

 カシャン、と頭部以外の装備が装着し終えた音が鳴り、私の手に黒くツルッとしたヘルメットが出現する。

 

『何だ、お前は…………!?』

 

『どう見ても、気配も人間だろ!?何で黒のカードなんだ!?』

 

『ふふ、やっぱり君はそうでなくちゃ』

 

 『キング・ザ・ドラゴン(略)』と『超直上一線トッパ・ドラゴン』が人間としか認識できない私に疑問を吠えるように問いかけ、何も知らないはずなのに意味深に言う『八大天使 ホイミエル』がにこやかに呟く。

 

 他の『レジェンド・ザ・ヒーローズ』の面々であるモンスター達もポカンと口を開けて私を見ています。ちょっと抜けた表情もまた風情がありますね。

 

 では、そろそろ良いでしょう。

 

「皆さん、私は戻ってきました」

 

 一歩、また一歩と私はフィールドの中央へ進んでいく。

 

「かつて、世界を救う為に私の多くを捧げました。ですが、わたしは帰ってきました」

 

 『虚無』を経て私の存在が無かったことになったとしても、一時世界平和となったとしても、初戦のように世界に危機は訪れる。

 

 既に世界を53回救ったのです、そろそろ休みたい所ですがバリバリ働かないといけませんからね。

 

「人として名を失いました。しかし、私はもう一つの名を持っています」

 

 ヘルメットを装着し、正しく起動したことで甲高い機械音が数秒鳴りました。

 

 全ての装備を装着し終えました。これで私はモンスター()となりあの日、あの時に『八大天使 ザオリエル』の代わりに捧げる筈であった存在と成りました。

 

「では、改めて、やあ皆さん」

 

 両腕を広げ、私は私はついに名乗りを上げる。

 

「私の名は」

 

 

 

第67話

 

 

 

「『英雄ハイランド・マン』」

 

 

 





表BGM・The Rumble of Scientific Triumph(ボ卿戦BGM)

裏BGM・Burning my soul(仮面ライダービルドより)

追記、効果にミスがあった為少し修正しました。

『英雄ハイランド・マン』コスト∞、攻撃力10001、打点1
・このモンスターは自分のモンスターが戦闘で破壊された時のみ召喚することが出来る。この効果は置換されない。
・このカードの効果は自分の墓地にカードが存在しない、もしくは墓地のカード名が全て異なる場合、効果は無効にならず自身の効果でのみ攻撃力が変動する。
・このカードの召喚時、直前に戦闘で破壊されたモンスターを特殊装備としてこのカードの下に置く。このカードは特殊装備として装備されているモンスターの攻撃力と打点を得る。
・このカードはモンスター効果および詠唱によるコストとして利用することは出来ない。
・このカードがフィールドから離れる代わりに攻撃力を-10000することで留まる。
・このカードがフィールドに存在する限り自分はゲームに負けない。
・このカードがフィールドから離れた時、自分はゲームに敗北する。この効果に対して他のカードを使用することは出来ない。

裏ボス、満を辞して降臨。ようやくお披露目することが出来ました。

『悪神ウェロボラウス』との関係を考える最序盤から能力だけは固まっていた男の話です。これがやりたかったんじゃよ。

表BGMはともかく、裏BGMについては過去に熱血を押していたこと、今でも世界を救うために戦い続けていることが由来です。

君の愛がある限り、私は無敵です。

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