「ハイランドって何」
全国バトルカップが終わり1週間経った。
巫女だった少女は『虚無』のカードをほぼ制限なく扱えるという特殊な事情ゆえに彼の家に住むようになった。
『悪神ウェロボラウス』はいい顔はしなかったが「あの小娘が住むより静かでマシ」とオブラートに翻訳した上で思う所があるような形で巫女だった少女が住むことを認めたのだ。
そして、ソファの上で横になっていたら突然上の発言をしたのである。
「おや、どうしましたか?」
「なんか2日ぶりに変なことを言い出しだぞあいつ」
「ハイランドって何」
「連呼し始めたぞこいつ」
表情筋が死んだような無表情で巫女だった少女は呟く。
ハイランド、目の前に居る自分を保護してくれた彼の本当の名前…………の名字らしきものである。
『英雄ハイランド・マン』、人間でありながら黒のカードというあからさまに異端である存在に疑問を持たない者は居ない。
それを探るべく、日夜何者かが彼らの家にやって来るがなんだかんだと追い返される。
一部は管理局に連行されていったり、バトルを押し通ろうとして準優勝の少年が通りかかってバトルでなぎ倒していったり、一部は消息不明に…………そもそも存在すら失っていたりする。
もう熟年夫婦のような雰囲気だけ出している『悪神ウェロボラウス』はともかく、新参者である巫女だった少女は何も知らないのだ。
虚無から帰ってきた日々の中で産まれた疑問はポンと口に出すよう訓練しているのだ。
「ハイランドって何」
「ふむ、丁度いいのでお勉強の時間にしましょう」
「えー、我とのイチャイチャはどうするのだ」
「振り返りとして一度認識しておくべきです」
「そうか?まあ、そうか…………」
『悪神ウェロボラウス』もある程度は納得していたものの、彼女自身も実はあまり『ハイランド』について詳しくはない。
それもそのはず、この世界に存在してる『ハイランド』は彼一人。後は野外に居たり別の次元で暗躍していたりと忙しい日々を送っているのだ。
「そうですね、まずハイランドという名ですが、これらは大抵種族を代表しているという意味で使われてます」
「つまり人間代表と言うことか?」
「厳密には違うんです。確かに私はハイランドではありますが、それぞれのハイランドには『役割』があるのですよ」
優しくウェロの頭を撫でながら彼は語る。
その目はどこか遠く、しかしまだ見た事もない誰かを思うような目であった。
「それが『英雄』という訳か」
「その通りです。世界を救うのはいつだって人間、そういった意図を込められた『役割』です」
「どちらかというと皮肉ではないか?まあ、それのおかげで我と出会えたんだがな!」
「なんで惚気るの?」
不快感を出しながら急に彼にデレデレし始めた『悪神ウェロボラウス』を白眼視する巫女だった少女。
若干のシリアス具合をぶち壊すのは何故なのか。
「人間以外に代表的な種族と言えばドラゴンですよね。居ますよ、ハイランドのドラゴン」
「どんなの?」
「『悪筆ハイランド・ドラゴン』です」
違う違う違う違う違う違う!『命運ハイランド・ドラゴン』!数多の運命を観測し見届ける永遠のドラゴン!
間違ってもクソ小説書いてるか担当を怒らせてそうな二つ名じゃないから!
「彼の書くシナリオはいつも妙に陰鬱としたものばかり。稀に他のハイランド族と会話する機会がありまして、試しに聞いてみたら酷い言われようでしたよ」
待って、それ知らない。
え、いつ接触したの?しかもフットワークと口が軽いの誰!?
エルフか?エルフの野郎か!?最近は姿を見ないと思ったら私の目をかいくぐってマンと接触してたの!?
いや、そもそも私のシナリオにマンが居ること自体がイレギュラーで諸々が破綻した原因であって!私は悪くないからな!?
「なんで、シナリオを描いてるの?ゲーム作る人…………いやドラゴン?」
「概ねその通りです。楽しいことが好きではあるのですが、感性が他の方々から大きくずれているのです」
「お前が悪筆というくらいだからな。とんでもないろくでなしだろう」
「ええ、その通りです」
「…………肯定するんだ」
「私も痛い目に合わされましたからね。私が悪くいってしまう数少ない者です」
こいつ、ここぞとばかりに好き勝手言いやがって…………
ふうぅ―――、落ち着いた。怒りは数秒我慢すれば何とかなる、アンガーマネジメントというものだ。
私が干渉するまでもない、消えたはずの男が現れたら因縁が付くと言うもの。
これからが大変なことになっていくだろう。
「ドラゴンはハイランドの中でもかなり下種な方ですが、他の方々は気さくですよ。ラビットは単体なら可愛らしいし、ホースも機嫌が良ければ背中に乗せてくれたりします」
だから、知らないうちに交流作ってるの何?私、知らないんだけど?
「出会う同族の殆どがドラゴンの悪口を言ってましたよ」
「その報告、我らにいるか?」
「出会った際の悪口として使ってあげてください」
舐めやがってこの野郎…………!
誰が鬱シナリオライターだ!私は、私わぁ!面白いと思ってシナリオを書いてるんですぅ!
ほらぁ!巫女だった少女がドン引きしてるじゃんかよぉ!
こいつ他人の事を悪く言う際はここまで言うんだって顔してるよぉ!
うう…………ぐすっ…………直接対決の時があったら覚えてろよぉ…………!
「まあ、ともかくハイランドは種族を代表する一種。私はその中で人を代表し降臨する一つの生命と言ったところです」
「ふーん…………」
「正直よく分らん」
「私もです。種族の数だけハイランドが存在するとはいえ、一つの種族に一人だけですからね。正直なところ、新参者である私が半世紀で5種と出会えただけで幸運な方です」
確かにそうだよぉ、私が出会ったハイランド族もそんなに多くないしぃ、嫌われてるって薄々わかってたけどぉ!
というか私と推定エルフとラビットとホース以外に誰がいるんだよ出会ったの!
知らないところからまた横槍入るじゃん…………ぐすん。
「…………じゃあ、なんで黒のカードなの?」
そう指差すは彼自身。
どう見ても人間であるのにキメラである黒のカードという一見すと意味不明な存在である。
『悪神ウェロボラウス』でさえ蛇と『唆した蛇』という概念的なキメラである故に無限の存在と化しているが、彼はそう言ったものはない。
数多にある誰かさんの噛み跡と、誰かさんが噛み付いて指輪みたいになった薬指の傷以外は普通の人間にしか見えないだろう。
『悪神ウェロボラウス』の頭を撫でながら、彼は巫女だった少女の方を向いて微笑んだ。
「秘密です」
「秘密」
巫女だった少女は諦めた。
よほど混み合った事情があるのは察して黙ってしまった。
とはいえ、かなり話す方になってきたため『虚無』の影響がある程度抜けきっていることに彼は満足していた。
まさに平和といった風景であろう、私の悪口で盛り上がっていたが。
だが、彼らには再び試練が訪れる。
ハイランドである限り、『英雄』である限りトラブルはつきものなのだから。
脚本家、泣かされるの巻。なお『ハイランド・ドラゴン』の性別は一切決めてないので声とかご想像にお任せします。
どうせ『ボンバードラゴン』みたいにカード化したら特別イラストで女体化するだろうし(本音)
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