全肯定しただけなのに   作:蓮太郎

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⑨ 燃え上がれ、大会

 

 店舗大会、月数回あるとはいえカードゲームが中心の世界では大いに盛り上がるイベントである。

 

 己の実力を測る機会であったり、最強への道を歩んだり、優勝賞品を売るために参加したりと参加理由は多くある。

 

 なお、参加費は普通に高い。現実の10倍くらい高い。

 

 だからこそ優勝賞品が高騰するのだ。

 

 優勝賞品は基本的に既出カードのイラスト違いだが、光っていたり超絶美麗なイラストだったりと弱いカードでも数十万の取引がされる程であり、汎用カードやエース級のモンスターカードは100万円を超えることはザラである。

 

 よって、貴重品を扱うカードショップは慎重になりながら参加者を募り、公正な抽選を行わなければならない。

 

 その労力は途轍もないが、参加者や観客が落としていく金も馬鹿にならないので必ず開催する。

 

「おやおや、今日もにぎやかですね」

 

 もちろん彼は参加しない。過去に一度だけ参加した経歴はあっても、基本的には観客のスタイルなのだ。

 

 むしろ頼まれたら解説してくれるくらいなので彼の近くにいた方が試合の流れが分かりやすい風潮まで出来ている。

 

 おかしい、名前が一切不明なのに妙に人気があるキャラクターになりつつある。

 

 醸し出す善人のような雰囲気が決め手なのか、それとも認識阻害のような何かが働いているのか。

 

「あ、おっさん!大会に出るのか?」

 

「おやおや、ユウキ君じゃありませんか。私は今回も観客として見させていただきます」

 

「ちぇ、俺は抽選待ちだぜ。今回は当たるかな」

 

 いつもの赤髪の少年も大会に居た。

 

 強さも年齢に似合わず相当強い。いつものショップ内でも一二を争うレベルであり、他のメンバーに負ける時は体調が悪い時くらいなのだ。

 

 むしろ体調が悪い時に来るなと言いたいが、ユウキはバトル馬鹿なので無茶してでもカードショップに来るのだ。

 

「抽選ばかりは運ですからね。当たり外れは常にありますよ」

 

「でもさぁ、前の時もその前も外したんだぜ!今回こそは大会に出てやる!」

 

 この意気込みで大会に参加できたら優勝できるであろうユウキ少年だが、リアルラックに関してはその時の状況で変わるので参加できるかは全く分からない。

 

 彼も特に介入もしないので、何百といる参加者から運でもぎ取るしかないのだ。

 

「他の皆はどうしました?」

 

「気になるカードがあるから探しに行くってショーケースのとこ。あいつらも大会に出られたらいいけど…………」

 

 友人も抽選に参加しているらしく気遣う様子を見せるユウキだが、もし彼らだけ参加できて自分だけ参加できない状況もありうる。

 

 それでも彼は激励の言葉を送るだろう。

 

「ずっと気になっていたんだけどさ、何でおっさんは大会とかに出ないんだ?あれだけ強かったら何処でもやっていけそうと思うけど」

 

 ユウキの純粋な疑問。バトルが強ければ強いほど有名な大会に参加して賞金を稼ぐのが主流であり、参加賞だけでもそれなりの大金が動くため強いプレイヤーは店舗よりも大きな大会に向けて動くことが多い。

 

 たまに店舗大会で小遣い稼ぎのついでに修行をするプロプレイヤーもいるくらいだ。

 

 たった一度だけとはいえ参加した大会で対戦相手全員に完封勝利を決め、尚且つカードの造詣が深い彼が大きな大会に出ない理由が分からないのだ。

 

 不労所得があろうと人々は自然にバトルを求める。そういう世界なのだ。

 

 雑談しつつ時間を潰していたら、とうとう抽選の時間になる。

 

『えー、テステス。只今より店舗大会参加者の抽選を行いまーす」

 

 この時、会場は静まり返る。

 

 ある者は祈り、ある者は額から汗を流して黙り込み、そしてある者は必ず自分が当選するという出所不明な自信を見せる。

 

 沈黙が会場を包み込み、まるで爆弾が爆発する寸前のような緊張感が漂う。

 

『これから番号を読み上げられた人が当選した方でーす。当選された方は前に来てナンバーを受け取ってくださーい』

 

 そして店員からマイクを通じて番号がどんどん呼ばれていく。

 

 番号が呼ばれた瞬間、歓喜の声、絶叫、絶望の悲鳴が次々と上がっていく。

 

 ユウキは「まだまだ始まったばっかりだ…………!」と祈っている。

 

 このようなユウキですら祈りに頼るほど店舗大会の抽選は甘くないのだ。

 

 もし、ここに『悪神ウェロボラウス』が居たら人々の絶望をつまみにして嗤って楽しんでいただろう。

 

 彼はそういう風に育って欲しくないので、あえてこのようないろんな意味で熱がこもる場所に連れてこない。

 

 家で留守番している分、後で癇癪を浴びる方がこの場で余計なアクションを起こされるよりマシなのだ。

 

 次々に、無慈悲に店員に番号を呼ばれて一喜一憂する会場。

 

 まだ大会が始まってすらないのにこの盛り上がり様、本戦が始まったらさらに盛り上がるのだから手に負えない。

 

 故に、毎回警備員を増やしたりして事態を見守らせるため本当に金がかかるのだ。

 

 彼が通うカードショップはそこそこ規模があるとはいえ、もっと大きな規模のカードショップも存在するため、一回大会を開くためにどれだけの金額が動くことやら。

 

「頼む頼む頼む…………今回は抽選当たってくれ…………!」

 

 主人公のように熱いユウキですらこの様に必死の形相になっている。

 

 抽選費も高いが、外れたら外れたで抽選費分のシングルカード引換券に交換してくれるので大した損害ではないとはいえショックは大きい。

 

 次々と当選した番号が読み上げられていき、とうとう最後の1人にまで来てしまった。

 

 なお、この少し前にカイトとショウマの番号が呼ばれたらしくナンバーを取りに行っている姿が見えた。

 

 まだユウキだけ当たっていないので、完全な神頼みで両手を握りしめ祈っていた。

 

『最後でーす。621番。これで終わりでーす。最後に呼ばれた方はナンバーをとりに来てくださーい』

 

 ユウキ少年が膝から崩れ落ちた。

 

 彼が握っている端末に映し出されている番号は777番、ラッキーセブンの筈なのに外すという珍事が起きてしまった。

 

「おやおや、どうやら抽選に外れてしまったようですね。こういうこともあります、次の機会に抽選に当たると信じましょう」

 

 項垂れているユウキに彼は励ましの言葉をかける。

 

 全ては時の運、バトルも運が絡むため重要でないところで不幸にあって大事な所で運を発揮すると思えばいい。

 

 抽選を外して物凄く嘆いてユウキと同じように崩れ落ちる人間も多々いる。

 

 それだけ熱狂するカードゲームなのだと何回見ても思ってしまう、彼だった。

 

 なお、この大会は無限エクストラターンを取る戦法でカイトが優勝した。

 

 一体誰の影響なのか、真実は限られた人のみが知る。

 





主人公「今私の事を思い浮かべましたか?心外ですね」

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