FAIRY TAIL~風の巫女と異邦人~ 作:匿名希望者
無名である為に化猫の宿に貼られた依頼クエストは簡単なクエストが大半。元々、無名なので難しいクエストなど化猫の宿には回ってこない。若干、12歳にして魔道士として化猫の宿へ所属するカズマは忙しなく聞こえてくる衣服を生産する音や人の行き来をBGMにギルドの片隅で肘を突きながら退屈そうにイスへ座って、手元にある雑誌を熟読していた。
「やっぱ良いよな。ミラ・ジェーン」
魔法専門誌――週刊ソーサラーのページをパラパラと捲っていたカズマはあるページで手を止める。そこには健康的な水着姿で輝く笑顔を振り撒いているモデル――ミラ・ジェーンのグラビア特集が組まれていた。大きく実った二つの果実にカズマの視線は釘づけだ。
「むう、また始まった」
「いや、そう拗ねるなよ、ウェンディ。今は小さいかもしれないけどウェンディだって成長すればおっぱいくらい大きくなるって。他人に揉まれた方が大きくなるって言うから俺がおっぱいを揉んでやろうか?」
「その噂を流しているのはアンタ自身でしょうが!」
「ったく、冗談なんだから、シャルルもマジになるなよ」
「アンタの場合、止めなかったら止めなかったで本当にやるでしょうが……」
「そりゃあ、おっぱいに貴賤は無いからな。ウェンディのようなロリおっぱいでも、ミラ・ジェーンのような爆乳おっぱいでも、おっぱいはおっぱいだからな。俺は貧乳に始まり、巨乳まで全てのおっぱいを守備範囲に収めたおっぱいマスターだぜ!」
カズマと寄り添うようにイスへ座っていたウェンディは鼻の下を伸ばしてだらしない表情を浮かべているカズマの表情に憮然とした態度を見せる。そんなウェンディに苦笑しつつ、両手の指をワキワキと動かしているカズマ。手を伸ばせば触れられるような位置に腰掛けていたウェンディに魔の手を伸ばした所、思いっきり頭を叩かれた。頭を叩かれた衝撃を受けてカズマは不服そうにつぶやく。カズマの魔の手からウェンディを守ったのは猫でありながら人間の言葉を話すシャルルだ。
カズマが妙なことを言って、シャルルがカズマへ苦言を呈す。今まで何度も目撃してきた光景に苦笑しながら、ウェンディは心の中で小さく溜息を吐く。その溜息の原因は化猫の宿において一人しかいない同い年の魔導士にして、仕事上の
ウェンディとカズマの出会いはある意味で運命的なモノだった。まだ、シャルルと出会ってすらいない約七年前。前日から雨が降り続いていたあの日、ウェンディはよく判らない必要性に駆られて周辺の森を散策していた。広大な森の中で迷子になっていたのか、瀕死の状態で気絶していたカズマは妙な必要性に駆られて森を散策したウェンディと遭遇することで一命を取り留めた。
当時のカズマは子供にしては妙に礼儀正しく。同時に錯乱状態でもあった。ウェンディによって担ぎ込まれた化猫の宿が魔導士ギルドだと知ったカズマは皆が使っている魔法を見て、ポカンと口を大きく開いていた。
少しの間、茫然としていたカズマは自分の中で折り合いを着けて、自身の身の上を語った。
カズマはニホンと呼ばれる異世界から来たこと。ニホンに魔法は存在しない代わりに機械が生活の基盤になっていること。自分の部屋で寝ていたらいつのまにかこの世界へ来たこと。16歳ぐらいだった元の身体から若返って5歳くらいになっていること。他にも色々なことを語って現実逃避していた。
しかし、現実から目を逸らした所で何も始まらない。自棄になり、生きる意志を失っていたカズマはギルドマスターであるローバウルに説得され、魔法を教わり、魔導士として化猫の宿で働きながらニホンへ帰る方法を探すことになった。
この時にこの世界の文字どころか、常識すら知らないカズマに根気良く物事を教えたのがウェンディであり、それからは化猫の宿においてカズマとウェンディは二人で一人のような扱いを受けている。最初の頃は自称16歳であるカズマは5歳のウェンディと一緒にされると眉間に皺を寄せて嫌がった。だが、その内カズマも気にしなくなってきて、今では二人でいることが“当たり前”になっている。
ウェンディの不満はその流れていく月日の中でカズマの性格が急激に変化したことだ。もっと判り易く言えば、子供っぽく、エッチになったことだ。出会った当初に比べて性格の劣化が激しい。それにはカズマが気付いていないだけで魂が肉体に合わせた精神構造に変化していたりと色々理由があるのだが、本人が気付いていないのにウェンディがソレを知る由もない。
不服そうな態度のウェンディに苦笑いしているカズマ。当然のように寄り添っている二人のことをローバウルは微笑ましく見ているが勿論、本人達はそのことに気付いていない。
いい加減に恨めしそうに視線を送るウェンディと小言が多いシャルルに耐えきれなくなったカズマはバツの悪い表情を浮かべて、名残惜しそうにミラ・ジェーンのグラビア特集から目を離す。次の瞬間、ビリビリと紙を破る音がカズマの耳に届いた。
「ちょ、おまっ、なにやってんの、ウェンディ!」
「もうカズマなんて知らないんだから!」
カズマの顔が驚愕に染まる。頬を膨らませたウェンディの手には細々と破られたミラ・ジェーンのグラビア特集が握られていた。ウェンディが破いた紙は風に乗ってギルドの外へ飛んで行ってしまう。慌てて追いかけようとしたカズマはウェンディの風によって紙が外へ飛んで行ったことを確認すると両手と両膝を地面につけて絶望している。ウェンディは絶望しているカズマとは対照的に
(なんなのかしら、この三文芝居?)
二人のやり取りを第三者として眺めていたシャルルは呆れながら内心で呟き、溜息を吐く。
「そんな事より早く仕事に行くわよ」
「分かったよ……」
「うん」
地面に跪くカズマの頭をもう一度叩き、掲示板へ促すシャルル。まだ少し不服そうに頬を膨らませているカズマとウェンディはシャルルに続いて掲示板の前まで移動する。
「とは言っても、ほとんどの仕事は村の手伝いなんだよな~」
掲示板に掲示されているクエストのほとんどは村の手伝いに関することであり、他の村や町に行くようなクエストはまだ若く実力もそれほどでしかないカズマ達が引き受けるには少し荷が重い。
「お、これなんてどうだ?」
そんな中、色々とクエストを物色していたカズマは一つのクエストを発見するとウェンディとシャルルへ見せる。
「キリカ村の祭りの手伝い……ね。まあ、これくらいならいいんじゃない?」
「でも、これ条件付きだよね?」
クエストの内容に目を通したシャルルはその難易度を確認して、ウェンディが補足する。ウェンディの言葉通り、このクエストには引き受ける為の条件が記載されていた。その内容とは『年若い少女必須』との事だ。
「いやいや、ここで子供って言ったら俺とウェンディしかいないだろ。マスターもそろそろ歳だよな~」
「そんな事、言っちゃだめだよ。カズマ」
勿論、そんなローバウルの意図に気付いていないカズマはマスターにも困ったぜ、と知った顔を浮かべてクエストを受けに行き、ウェンディも苦笑しつつそれに付き添う。
「…………」
一人、ローバウルの意図に気付いているシャルルは全く気付く様子の無い二人に呆れつつ、ローバウルへ視線を送る。
「まったく、私がいないとダメなんだから」
無言で静かに頷くローバウルからの返事にシャルルは一人溜息を吐いた。