東方憑霊譚 作:ナマコ・ナマコ・ナマコ
忘れられた者たちの楽園、幻想郷。
外界と結界で隔離され、外と別の社会を作り上げている。
そして、外とは違う点が一つ。それは妖怪や霊などが当たり前の様に存在していること。
勿論、人間を喰う輩だって居るし、被害も出ている。
この他にも幻想郷特有であろう仕組みは存在してはいるが、人里で生きていくに連れてはあまり関係無い。
そんな限られた空間でも、人間は必死に生きる。
....人里にて、まだ朝日も昇りきっていない時間帯に、立ち並ぶ民家の一つから男が姿を現す。
その男は毎日畑仕事や大工の手伝いをしているにも関わらず、細身で華奢な身体をしていた。だが、よく見ると筋肉質で着痩せする体質のようだ。
「...ん〜.....いい朝だ。この太陽なら雨も降らないかな?」
男は背伸びをし、そう独り言を呟く。
と、隣の民家の扉が開き、中から50代程の男性が現れ、男を見るなり声をかけてくる。
「おぉ!鏡見くん!今日も早くて偉いねぇ!!」
「早起きは三文の徳、ですからね。それに皆さんの手伝いもしなければいけませんし」
そう鏡見と呼ばれた男が男性に向けて笑顔を向ける。
男性も笑顔を見せ、頑張れよと一言残し、仕事に向かっていった。
そして鏡見も自分のすべき事をするべく、仕事現場へと向かう。
後はなる様にして生活する。これが鏡見という男の毎日だった。
..だが、日常というのは突然、見る影も無くなることがある。
とある日の夜、鏡見は家に置いてある薪が少ない事に気づき、近くの山に足を運んでいた。
普段ならば、夜は外出を控えているが、明日の朝にも用事が入っているため、止むを得なかった。
月明かりすらも拒むような森林は酷く暗く、提灯の灯りだけが頼りだった。
一歩一歩、踏み外さない様に歩く途中、鏡見はふと違和感を覚えた。
「...あれ、この道...こんなに幅広かったっけ..」
毎日登っている訳ではない為、確信は得られないが、道幅が7人ほど通っても問題の無い広さをしていた。
だが、広いに越したことはないので、鏡見は足をとめなかったが、その足が地面を踏むことも無かった。
軽く驚いた声を出し、その穴に落ちる。幸いにも、そう深くは無かった。
「痛てて..なんでこんなとこに穴があんだよ...一体何が...」
と、鏡見は顔を上げ、言葉を失った。
目の前に広がるのは多くの骨、そして少しの腐った肉の塊だった。
見た感じでは人の骨などではなく、全て野生動物のようで、狼、猫、猿、更には烏や梟など、様々な骸がひしめきあうように存在していた。
「な...は..早く出ないと..」
鏡見は気が動転してしまっていた。きっと狐にでも化かされているのだと、そう思う程には錯乱していた。
落ちてきた穴の壁に指を差し込み、登ろうと試みる。
意外にも、強度のある土で、登ることに苦戦はしなかった。
穴の縁に手をかけ、這い上がろうとした瞬間、身体が穴の中へと引っ張られる感覚があった。
「あっ..!...ぶねぇ!!何だよ...おっ..も..」
何とか持ち堪えたが、段々と重みが増していく。初めは足を引っ張られる感覚だったが、段々と全身に何かが乗っかる様な感覚に襲われる。
だが、鏡見は穴の縁から手を離す事は無かった。
「行ける...!この程度の重み...気にする程じゃ..ねぇ..!」
下は骸の山、死と横並びの状態で限界まで腕に力を入れる。
背中に丸太一本丸々担いでいるかのような重みと共に、穴の中から這いずり出た。
有り得ないほど汗が吹き出し、腕も筋肉が張ったまま、呼吸も荒々しい、だが、生き延びたという実感で鏡見は一安心していた。
「..全く...こんな気色悪い気持ちをするんなら...来るんじゃなかった..」
もう薪の事などすっかり忘れてしまった鏡見は帰路に着く為、起き上がる。
「重っ...」
まだ、全身に襲いかかる重みはそのままだった。が、足は腕より筋力に自信がある為、千鳥足ながらも、下山するのだった。
次の日、鏡見は家の玄関で目が覚めた。
どうやら、帰宅した瞬間寝てしまったらしい。
「っと...まだ腕がいてぇな....昨日の事..現実だったのか...」
全身の重みは消えていたが、腕の筋肉痛が現実を知らしめてくる。
「ひとまず、こんな状態じゃ仕事出来ねぇな...休むか...」
仕事場に向かおうと扉を開けると、たまたま隣のおじさんが向かうタイミングだった為、伝言を渡す事にした。
「すいませーん。ちょっと、親方に今日は行けそうにないって伝えてくれません?埋め合わせはするんで...」
「鏡見君が休むだなんて珍しいなぁ...まぁ、親方も許してくれるだろう。元気になって戻ってこいよ!」
と、おじさんは笑顔で受けてくれた。
鏡見はおじさんを見送る時、信頼の大切さをしみじみと実感していた。
休みの連絡を入れて数時間後、鏡見は昨日の穴を確認する為、山へ向かっていた。
再び登っていて、昨日の違和感が正しかった事も確認していた。
道幅は3人が並んで埋まる程度で、とても広いとは言えない広さだった。
やはり夢だったのかと思いはするも、腕の筋肉痛が否定する。
結局、穴等は見つからず、山頂へと着いてしまった。
村の外れとはいえ、妖怪の少ない場所で怪現象が起きたとなると、それは専門家に頼んだ方がいい案件だが、いくら何でも信憑性が無さすぎる。
そんな事を考えつつ、昨日果たすべきだった薪の回収も済ませた。
そろそろ帰ろうと帰路の方角に向き直ると、そこにはとある少女がいた。
「全く、ここらで異変の反応があったのに、何も見つからないまま山頂に着いちゃったじゃない。勘も外れたかしら」
そう呟く紅白の巫女装束を来た少女が居た。
そして、鏡見はその少女を知っていた。
「れ...霊夢さん!?どうしてこんな所に?」
彼女はこの幻想郷を守る役目を果たす巫女であり、人里を直々に守っている一人である。
名前を博麗霊夢、人里では知らない者は居ない程大きな存在だった。
そんな霊夢は鏡見の声に反応し、半分睨む様に鏡見を見つめ、答える。
「どーしたもこーしたも無いわよ。ここで変な感じがしたから来てみたのよ。道中は特に何も無かったけど、どうやら当たりを引いたようね」
そう言うや否や、霊夢は何かが書かれた札を取り出し、鏡見に向けた。
「アンタ、どれだけの憑き物を連れてるのよ。敵意は無さそうだけど、ちゃちゃっと祓うわよ」
と、札を鏡見に向かって投げる。何も理解出来ない鏡見は咄嗟に腕を交差させ、身構える事しか出来なかったが、霊夢の放った札は弾かれるかのような音を出し、四散した。
「な...何をするんですか霊夢さん!い、いきなり札を人に!」
「ぴーぴーうるさいわね。あれは普通の人間なら害は無いわよ。アンタに憑いてるモノを祓おうとしただけなのに...無理ね、守護霊化してるわ。ねぇ、あんたって動物とか..植物とか、そういうを愛でるタイプの人?」
霊夢は持っていた札をしまいながら鏡見に問いかける。
「動物とか...植物..は、特に育てたことも無いし、愛でたことも無い...です..」
おどおどしながらも鏡見はそう答えた。
「そう..それじゃ、あんた強制連行ね。抵抗したら捩じ伏せるわよ」
と、鏡見の返答を待たずに霊夢は鏡見を抱え上げ、空へと飛び上がった。
鏡見はあんぐりと口を開け、上空に飛び上がった事に対し、少しの恐怖を覚えていた。
「あ、そういえば..あんたの名前は?」
その言葉で鏡見は正気を取り戻し、返答する。
「か...鏡見..夢..です...」
「鏡見夢...知らない名ね。尚更怪しくみえてきてしょうがないわ」
霊夢は震えてしがみついてくる鏡見を訝しげに見た後、溜息をついて神社へと向かうのだった。
長い事小説から離れていたので、復帰作という形で書かせて貰います。
まぁ...一話だけじゃ何とも言えないですよね..。早めに次の話を更新し続けていきたいと思います。